第203話 太古の魔動船
アマル様の用は「見せたいものがある」ということで、外交や貿易品の相談でないことに安心した。
先程のターミナルから奥に進んで行くと、魔動船の格納庫がある。
キョロキョロと内部を見渡すと、埼玉の通称『地下神殿』と呼ばれている、洪水を防ぐ施設みたいな作りで面白い。
実際に魔動船は巨大な水路に浮かんでいるし。頑丈に作るとしたらこういう構造になるのだろう。
そこには俺たちの乗ってきた巨大魔動船の他に、中型から小型の魔動船までがいくつかあり、整備士さんであろうドワーフさんたちが、真剣な眼差しで点検をしている姿があった。
「ここは、王家の墓と呼ばれていた場所なのです」
「へ?」
「まぁ、実際に調べてみれば格納庫だった訳ですがね」
「そうなんだ」
なのでそのまま魔動船の格納庫として利用しているという話だった。
それにしても。最初の頃に比べてアマル様が、俺への態度や口調が柔らかく丁寧になっているんだよなー。
王族に丁寧に接されるのは申し訳ないのだが、「リオン様は恩人ですから」という訳の判らん理由で態度が変わったみたいなんだよね。そういう変化は往々にしてあるのでもう諦めているけど。
子供扱いよりはマシだけど、少々座りが悪いのが玉に瑕だ。
「そして更にこの奥に、太古の船らしき遺物があるのです。以前お話ししたことがあったと思いますが、覚えていらっしゃいますか?」
「そういえば」
あったねー。魔動船のモデルになった、大昔の船が埋まってるとかなんとか。
もしかしてそれを見学させてくれるのかな?
「我々サヘール人の祖先ではない、更に太古の先住民の施設のような場所ですが、未だ何に使われていたのかは謎のまま……といったところですね」
「ふ~ん」
「研究者によると、格納庫を中心としたこのサヘールの都市の基盤自体が巨大な建造物かもしれないそうです。とはいえ、砂漠に浮かぶ島の様な山を建造物と仮定するには規模が大きすぎですよね?」
「ふむ……?」
アマル様の説明を聞いていると、何となく巨大な天空を漂う島が浮かんだ。
子供の頃にアニメで見た天空の城のようなイメージだね。
サヘールの天空都市は、王族が住むだけの浮き城よりも規模が大きいけど。
それが何らかの理由で砂漠に着地して、やがて山のような砂漠に浮かぶ島のような都市に変化した――――という仮説を立てているってことか。
真実か否かはともかく、確かにロマンはある。
案内に従って奥へ進み、長い階段を下りていく。ピラミッドの内部構造っぽいなと思っていると、正しく大回廊とも呼ぶべき場所へ辿り着いた。
「こちらがリオン様に見せたかった、太古の船です」
そう言って指し示されたのは、箱舟というよりはまるで―――――。
「うちゅうせん?」
アニメで見るような、見たことがあるような、宇宙船の様な船だった。
「うちゅうせんとは?」
「……なんでもない」
この世界の魔動船は箱舟っぽい作りでメカメカしくなかっただけに、これは意外過ぎだろう。ロケットタイプというより、未確認飛行物体っぽいけど。
言われてみれば確かに箱舟だし、船のような形なんだけどね。
魔動船のモデルにされた船が宇宙船みたいだなんて予想もしていなかった。
とはいえこれは俺の知識というか、元の世界でも想像上の乗り物である。
『マスターたちの作った合金と同じ金属で作られておりますね』
チタンとかアルミニウム合金みたいなものか。
確かに宇宙船の素材はそれらの金属で作られている。
でもこれを宇宙船と仮定するにはちょっと難しいな。
かと言って形から見ても飛行機や戦闘機でもなさそうだ。
錆び難いとはいえ、チタンやアルミニウムも錆びる。だからこの船のような乗り物も大分錆びてボロボロだ。
しかも遺物である乗り物は一隻だけでなく、巨大な箱舟を中心として小型の船もそこかしこに散らばっている。
大回廊の内部が仄かな灯りに照らされて、深海の様な雰囲気なのもあるだろう。
まるで海底に沈んだ難破船のように。
静かに朽ち果てるのを待っているかのようだ。
みんなも大回廊の内部にある船らしき乗り物を見て唖然としていた。
自由に見ても良いと言われたので、遠慮なく見学をさせてもらう。
しかも既に調べ尽くされているので、今はもう誰も興味はない遺物なんだそうで。時代が時代なら、入場料を払って見学させるような遺跡なのに勿体ない。
とはいえこの世界では遺跡はダンジョン化されていることが多いので、歴史的価値とかそういう概念は薄っすらとしかないようだ。
なので朽ちた船だけが残っている状態だった。
「やはり興味がおありで?」
「うん。おもしろいね」
こうして興味を持って見学しているのは俺だけで、他のみんなはそうでもなさそうなのがちょっと残念だけどね。
ちらっと様子を窺えばギガンは暇そうにしているし、テオは「ダンジョン化しないんすかねぇ」とか言ってるし。それを聞いたアマンダ姉さんやチェリッシュが「物騒なこと言わないで!」と怒っている。
ディエゴなんて「船の形のゴーレムにはどう対処すれば……」なんて呟いていた。
ピラミッドのような内部構造に、大回廊に格納されている巨大宇宙船のような乗り物なんてロマンしかないのにな。
俺の世界のピラミッドも、実は上に突き出た部分よりももっと下に、何かがあるらしいって話だったし。
砂漠に建造したというより、砂漠に埋まっている説があるんだっけ?
『砂漠化が進むにつれて埋まって行ったと言われていますね』
そうそう。たしかそんなのを見た気がする。
Siryiの鑑定でも、そういうのが判るかな?
『私は見える範囲でしか鑑定できません。歴史においては、マスターの知識を交えた仮説や概要のみでの判定になります』
そっか。まぁ、鑑定で何もかもが判っても面白くはないもんな。
『ですが判ることはあります』
何が判ったの?
『この大回廊にある船は、既に滅んだ時代の遺物であることです』
まぁそりゃそうだろうね。俺でも判るぞそれぐらい。
『ただし修繕すれば再び乗り物として機能する可能性が高いです』
へ―――――――――――――え?
『とはいえ、あの小型の船ぐらいですね。他の遺物は朽ち果てすぎて最早修繕は不可能でしょう。恐らくここが発見されてから、外部の空気に触れたことで腐食が進んでしまったことが原因のようです。ただし素材さえあれば、元の姿に修繕できる可能性はあります』
素材があれば修繕できるの?
『水晶型格納庫に格納すれば可能ですね。自動修復するための素材は必要になりますが』
そうだったそうだった。
後で調べた結果、あの水晶玉に入れると壊れたモノを自動修復してくれるけど、素材がないと修復されないんだよな。
破片の一部が見つからないと水晶玉に入れても完全修復できないし、失った部分は戻らない。欠けた状態で形を整えるのだ。
要するにネジの外れた状態で修復するから、結局は壊れるということである。
錆びて壊れたものも新品にしてくれるのではなく、素材を入れると同じように作り替えてくれるってだけ――――とはいえ、それでも十分にすごいんだけどね。
『問題はどのような素材が必要かですが、鑑定によればマスターの持っている素材で大部分は修復可能ということですね』
大部分はってことは、足りない素材もあるかもしれないってことかぁ。
錆びた部分は俺の持っている合金で修復できるかもしれないが、内部構造の素材が何かってことまでは判らないってことだな?
『そういうことです。ただし水晶型格納庫に収納してみれば、必要な素材は表示されると思います。入れてみては如何ですか?』
そんな簡単に言うな。
流石にこの歴史的な遺物をもらえる訳ないだろ!
確かに水晶型格納庫に収納して確認してみたい気持ちに駆られるけれど!
気軽に「これちょーだい」とか「じっけんしてみたいな~?」とか言えるわけがない。
『マスターが頼めば叶うのでは?』
無茶言うな。
流石に厚かましすぎるだろ!
なんてことをSiryi相手に言い合っていると、アマル様が背後から声をかけてきた。
「随分と真剣にご覧になってますね」
「あーうん……」
他のみんなよりは興味があるからね。
Siryiの所為で他の興味も湧いちゃったけど。
「それでは、お一つ如何ですか?」
「――――へ?」
なんてこともないように。
アマル様がにこりと笑って、飾ってある商品を売り込むような発言をした。




