第202話 偽ブランドの噂
「ごめんくださーい」
アマル様に呼ばれて魔動船のターミナルへとやって来た。
そこでは沢山の荷物が運び込まれていて、大勢の人が積み荷を持ち運んでいる。
以前は年に数回程度の飛行だったのが、今や一月に一~二度ほど、周辺の国限定だけど輸送船として運航していた。
アントネストで『移転鏡』を入手してワープ飛行が可能となり、ナベリウスを避けて運航できるようになったのも大きい。
ジボールは西側の大陸までなら海と空両方の客船が出てるし、セレブや冒険者にも人気の沿岸国である。そこまで魔動船で輸送して後はよろしく~と自国生産品を各地に送り出せばいいのだ。
それに今はジボールのカカオやコーヒー豆等を仕入れて、商品化することに力を入れているしね。方々に手を出すよりも、まずは近場の地固め中といったところだ。
観光大国であるジボールでは、セレブたちの間で徐々にサヘールの乳製品や美味しいチョコレートは人気が出始めている。
そのお陰でサヘールと正式に契約した(アラバマ殿下の厳しい衛生管理と指導を受けた)農家のみなさんは、随分と生活が楽になったみたいで良かった良かった。
これからも品質の向上を目指して頑張ってね!
ここまで巨大な魔動船を運航できるのは魔晶石産出国のサヘールだけではあるが、長距離でなければ他の国にも魔動船はある。
だからなのか、今やアントネストでドロップする『移転鏡』の正しい活用法の情報が公開されたことで、空前絶後の魔動船ブームが巻き起こっていた。
ただし魔動船を所有できる人は限られている。この国だって、王族であるアマル様が管理運航しているだけだし。そもそも飛竜がいるしね。
価格が高すぎるので簡単に所有できない上に『移転鏡』のドロップ率がしょっぱいので、魔動船の大量受注には至っていない。
そもそも魔動船を作れる技術者自体が少ないからだ。(サヘールのドワーフ職人さんはマイペースだからね)
魔動船自体、俺の世界の豪華客船や高額な戦闘機と似たような価格帯だからという理由もある。
維持費も高いし修理も簡単に出来ないとあり、増産して軍事運用するにはアントネストの三種の神器全てを所有しないと難しそうだ。
しかもワープ操行が可能で自動操縦が出来て自動修復機能付きのアイテムがあっても、動かすために消費する魔晶石の量が尋常ではないという欠点もある。戦争の道具として所有するにしても、宇宙船規模のお値段になること間違いなしだ。
そんな金銭的余裕があれば、野蛮な武力行為なんてしなくても経済戦争で十分勝てるだろう。
まぁ、魔動船を軍事利用するようなことがあったら、グレムリンみたいな妖精さんが悪戯して壊すかもね~。あはははは!
ところで呼び出されたのは良いんだけど、何の用事があるのだろうか?
辺りをキョロキョロ見渡すと、どの箱にも見慣れたマークが焼き入れられていた。
「ねぇねぇ、コロポックル印がいっぱいあるよー!」
それを見たチェリッシュが嬉しそうに指をさす。
「このマークも、随分と見慣れちゃったわねぇ」
謎のデザイナーによって生み出された、様々な商品ラベルデザインが増えている。
その全てが俺をモデルにした影絵の様なコロポックルマークだ。
ぱっと見で誰でも内容物が判りやすいのが特徴だけど、ほんと誰がデザインしてんだろう。天才か?
「バホメールのデザインも増えてんな」
「一押しって感じっすね!」
ギガンやテオの言うように、美味しいバホメール乳製品を、高級品として売り出すことになったんだよね。
ただパッケージデザインがバホメールだけでなく、コロポックルも一緒なのだ。
関係ないのに何でお前がココに居る。その姿形は俺を模しているし一言モノ申したいが、突っ込むのも疲れるから好きなようにさせてるけどさ。
「や~ん、可愛い~!」
「こういうのって、コレクション心も擽るわよねぇ」
「揃えて並べたくなっちゃうもんね! 見て見て可愛いでしょ~って!」
「シンプルでお洒落なのに、可愛いさも持ち合わせた素敵なデザインよね」
「持ってるだけでセンスがあるって思われそうだもんね!」
ふ~ん、そんなもんかねぇ。俺にはよく判んないけど。
お気に入りのモノは確かに並べたくはなるけどさ。
『ブランド品を持つことで、様々な心理が働くことは確かです。自己肯定感の向上、ステータスや所属意識の欲求などが上げられます。さらには所有することで満足感を得られ、ブランドが持つイメージや価値観への共感などが、ブランド選択に影響を与えていると考えられます』
へぇ~。安心と信頼だけじゃないんだねぇ。
しっかし、ホットサンドメーカーとキャリュフ商品から始まったコロポックルブランドだけど、こうして増え続けていくことに複雑な心境になるね。
「コロポックルも妖精とはいえ、ブラウニーじゃないから別にいいのか?」
「……」
ディエゴがそう呟きながら、俺を見て確認するのは止めろ下さい。気にするところはそこじゃないし。
そもそも俺は妖精ではない。
美味しい物が好きでちょっと童顔な成人男性である。
日本人に多くみられる身体的特徴として幼形成熟っぽいのは仕方がないのだ。
否定も肯定もしていないために誤解され続けているけど、それは生存戦略であってどこからもお叱りを受けていないからスルーしているだけで。
問題があればきっと本物の妖精さんや精霊様から罰を受けるかもしれないが、特に害はないからか今のところ見逃されているだけって感じかな?
俺を妖精だと信じ込んでいるのはスプリガンのメンバーだけだし、他の人から見れば害のないそこら辺に居る子供と変わんないしね。
そうして俺たちがアマル様を探しながら、ターミナル内に積み上げられている商品を見ていると。
「どうですかコロポックル印の商品は。今やちょっとした贅沢品として広まっておりまして、徐々に他国でもその名が知れ渡っているのですよ!」
「貴族御用達ほど高くなく、頑張れば手が出せる贅沢品という位置付けです」
「高過ぎず安過ぎずという中間にある品ですから、貴族や庶民にも売れるのです」
「貴族でしたら普段使いでお買い上げいただけますし、庶民であれば特別なご褒美や贈り物といったところで大人気なのですよ!」
聞き慣れたような、久しぶりのような声が聞こえた。
シュテルさんと護衛のランドルさん&ギルベルトさんだ。
商人らしく店頭に並んだ商品をお勧めしているような口調だけど、ここは貨物船のターミナルみたいな場所だぞ――――と思っていたところ、どうやらシュテルさんたちがターミナルに居るのは、自分たちが仕入れた商品の確認のためらしい。
遊んでいるかと思いきや、商人としての仕事もちゃんとしてたんだね。
「それに知ってますかリオン君! コロポックル印の偽物が出回り始めた時に耳にしたのですが。なんと! そのコロポックルの絵が抜け出て、夜な夜な持ち主の周りを取り囲んで悪夢を見せるという噂があるのですよ!」
「なにそれこわい……」
魔動船のターミナル内にシュテルさんたちがいたのはいいんだけど。急にホラー話をし始めて俺をビビらせるのは如何なものか。
「我々が耳にしたのは、コロポックルの絵が微妙に変化しているというものでしたよ」
「口元が邪悪に吊り上がり、ボガードに変化して抜け出るとかですね」
そっちも十分怖いんですが!
みんなが俺を見て「え?」みたいな顔をしてるけどヤメロ。こっち見んな。
やってないし、やれもしないから!
とはいえどうせ『パレイドリア現象』とか『シミュラクラ現象』みたいなもんなのだろうけど。意味のない物に意味を見出したり、壁のシミや木目が人の顔に見えたりとかそういうヤツだ。
どうせ『幽霊の正体見たり枯れ尾花』に決まっている。そうであって欲しい。
「じゃぁ、その偽商品ってどうなってるの?」
「本物も同じ扱いされたら困るっすよ!」
テオやチェリッシュの心配も判る。本物が偽物のせいで風評被害に遭うとしたら大変だもんな。バイトテロレベルの株価暴落事案じゃないか。
もしやライバル商品を出している人が、わざと流している悪い噂なのでは?
なんてことを考えていると、どうやらそうでもないらしい。
「残念ながらそれら偽商品は、お客様から苦情が出てほぼ回収されたそうです。元々偽物ですから、商品の質も悪うございましたから当然の結果ですね。私も本物を扱う矜持にかけて偽物は購入しませんでしたが、不思議現象に遭遇できるのであれば一つぐらい持っておけばよかったです!」
「ガラクタ集めより質が悪いのでお止めください」
「安物買いの銭失いですよ」
ランドルさんもギルベルトさんも、相変わらず主人に対して辛辣だな。
まぁ、これぐらいでないと付き合ってられないのだろうけど。
「それら偽商品を魔塔が買い占めたという噂も耳にしましたよ。ということは、あながち噂も嘘ではないのかもしれないじゃないですか!」
「ボガードとはいえ妖精の一種ですので、研究対象なのでは?」
「それにボガードですからね。嫌がるどころか喜ぶ相手に悪戯はしないんじゃないですか?」
ランドルさんたちの言うように、悪戯目的だったらそうだろうね。
魔塔の人たちが手にした途端、面白みを失ってスンってなってそうだ。
「本物はそのような現象は起こりませんのでご安心ください」
「あ、アマルさま」
ホラーのような噂話をしているところに、目的の人物であるアマル様が現れた。
上品でゆったりとした佇まいは、見る人を落ち着かせる効果がある。
「皆さま、この度は御足労頂きありがとうございます」
「どういたしましてー」
丁寧に挨拶されてこちらもぺこりと頭を下げた。
外交や貿易関係の相談じゃないと良いのだけど(知識がないので役に立たない)、時間がある時に来てねと言われてやってきた訳だが。
果たして何の用なのだろうか?




