第201話 アルケミストの知恵
土いじりは楽しい。
子供の頃は主に虫取りがメインだったけど。
そうして大人になった俺だが、相も変わらずザックザックと土を掘っている。
「ミミズ、はっけ~ん」
「みみず? ああ、ワームか」
「ミミズだよ」
「そうだったな……」
やる気なさそうに、土を掘っている振りをしているディエゴが頷いた。
どうもこの世界では、よく判らない虫は全部ワーム呼ばわりするようだ。名前のない虫のなんと多いことか。(だから勝手に名付けてやろう)
だがそんなことはどうでもいい。
ミミズは土壌改良や生態系の維持にとても重要な益虫である。だから見た目で嫌わないでほしい。
取りあえず、土いじりに飽きてサボり始めた(いつものこと)ディエゴには、他の仕事をさせた方がいいね。
お兄ちゃんには、シルバやノワルが掘り起こしたミミズの回収に向かわせよう。
カーバンクルにも頼みたいけど、あの子たちはミミズを食べちゃうから手伝わせられないんだよね~。フェネックの本能の方が勝ってうっかり食べるっぽい。
ミミズが土壌に増えないのは、主に餌を求めるフェネック&カーバンクルの所為のようだしな。
仕方がないので、女性除く男連中でミミズを掘り起こしているのである。
『サヘールのミミズは環境のせいか、熱や乾燥に強くかなり丈夫なようですね。しかもマスターの世界のシマミミズやドバミミズの十~三十倍ものゴミを分解する能力を持っております』
おお~、それはとても優秀だね! 流石異世界のミミズ!
他にもSiryiに詳しく鑑定をして貰えば、思ったより飼いやすい種類だった。
砂漠地帯なのでミミズの生息区域は限られているけれど、それは増やせばいいだけのことだ。なので掘って掘って、じゃんじゃん増やそう。
サボテン栄養剤だけでは完全に土壌は蘇らない。ある程度は解消されるけれど。
広大な農地に栄養剤を撒き続けるのも至難の業だし。
サボテンだって魔物とは言え限りあるサヘールの資源の一つである。他の活用法もあるので栄養剤ばかりには出来ない。
そうして根本的な問題の解決に至ってないことに気付いた俺は、環境に優しくゴミ処理も出来るミミズを利用したミミズコンポストを作っている最中なのである。
要するにゴミサーみたいなもんだね。
俺がこの国に来て最初に考えていた、国家主導で始める砂漠緑地化プロジェクトのために、実験中ってところかな?
何かやらなきゃいけないことの一つだったように思うし。
雨が降ったお陰かその所為なのか。土壌に沸いて出たミミズを発見して、爺さんが堆肥作りにミミズコンポストを作っていたのを思い出した。(俺はそこからミミズを時々拝借して釣り餌にしたりヤゴの餌にしていた悪い孫である)
その時ピコーンと閃いたのだ。
そしてゴミの処理問題もある程度解消するし、環境にもとても優しいのでミミズコンポストを提案してみたところ――――即採用された。
だがちょっとは疑え。俺の世界での日本人は、現地の人に物凄く怪しまれてたぞ。
実際の変化を目にしないとよく判らんことをしているようなものだからだが。
でもなんか最近、俺の提案することにみんな反対しないから逆に怖い。
普通はもうちょっと議論したり、反対意見が出たり否定されるモノじゃないか?
でもまぁ、生ゴミ問題はどこの国でも頭の痛い悩みである。ただ燃やせばいいというモノでもなく、燃やすにも設備なんかにもお金がかかるし大変なのだ。
俺の場合は『ディエゴファイヤー(主に調理の時に使用する)』で済むけど。
とはいえまだプラスチックゴミとかのない世界なので、悪臭を放ち虫が集るというレベルに納まっていた。それでも環境に悪いんだけどね。
暑い国特有のハエや蚊の量は尋常ではない。水は不衛生になるし屋台の食べ物も怖くて食べられないという事態に陥る。疫病の媒介もするから厄介なんだよな。
当然俺はそれらの対策をして屋台販売をしているけどね!
だが駆除対策の虫よけスプレーでも追い付かない。庶民の間では衛生観念が根付いていないからだ。下層に行けば行くほどそれを実感する。
そこで俺は考えた。生ゴミをただ捨てるだけではなく、堆肥にしてしまえばいいのだと。この国の文化レベルに合わせてだけどね。
「しっかしコイツが、そんな役割を果たしてるなんて不思議だぜ」
実験開始から数日が経った頃、コンポストの中にあるミミズを掴んでギガンが首を傾げた。
うむ。森の中で嗅ぐ腐葉土の香りと一緒だ。いや、それよりもっとフルーティかもしれん。鑑定結果も良好と出た。
土にバホメールヨーグルトを混ぜたのが発酵を促進させたのかな?
俺の知るミミズコンポストよりも、生ゴミの分解処理も速いような気がする。
サヘールのミミズは、ちゃんと飼育すればそれに応えてくれるようだ。
「でもリオリオの言う事っすからね。間違いないっすよ!」
俺のやる事に対しては、ほぼ肯定的なテオである。とはいえ否定されたら哀しくなるのでそのままでいてください。
「だが最初の頃より、やけに大きくなっていないか?」
「そうだねー」
眉間にしわを寄せ、怪訝な表情でディエゴが呟く。確かに掘り起こした当初はこの半分以下の大きさだった。
『エサが豊富で栄養価も高いので、かなり太ってきておりますね。それで分解速度も上がったのでしょう。特に大きさに問題はありません。栄養が足りず動きも鈍かったのが、大きくなって活発になっているだけです』
「なるほど」
今までは痩せた土の中で暮らしてたからねぇ。
過酷な環境で今までずっと頑張って生き延びていたのだろう。
環境が改善され、美味しいエサを食べられるようになり、見違えるほどにぷくぷくしているミミズを見て俺はホッコリ微笑んだ。
うむうむ。この堆肥で更に栄養価の高い野菜が育つであろう。
久しぶりに錬金術師らしいことをやっているような気もするぞ。
普通の錬金術師のことはよく判らんが。
生ゴミを再び美味しい野菜に変換させていると考えれば、これも立派な錬金術であろう。そういうことにしておく。
やり方さえ解って間違えなければ、誰でも出来ることだけどねー。
という訳で、ここまでやれば十分だろう。
結果をまとめて注意点などを書き記し、ミミズコンポストの作り方をアラバマ殿下に渡す。農家のみなさんへ伝えてね~。
でもみんなちゃんと言う事を聞いてくれるかな?
アラバマ殿下が命令すればやってくれそうだけど。
嫌がられると困るなぁと、心配してそう口にすると。
呆れたように溜息を吐かれた。
「貴様の提案であるならば、皆疑うこともせずむしろ喜んで協力するぞ」
「なんで?」
「昔から言われている『アルケミストの知恵』というのはそういうものだ」
「どういういみ?」
「人生のサインに気付いて従い、変化を畏れないことを意味する。所謂教訓のようなものだが……。実際にこれだけ変化しておれば誰も疑わんわ」
もちろん良い意味でだがと、アラバマ殿下はコホンと一つ咳をしながら言った。
なんか照れてる?
「それもどうかとおもうけどね」
「良い意味での変化であれば、俺様だとて反対もしかりもせん」
「そう?」
「ラクシュの両親にも伝えておく。あれらも貴様には感謝しておったからな。喜んで協力してくれるであろう」
「ありがとねー」
さり気なく惚気られたけど、賢い俺はそこを突っ込まずに感謝だけを口にした。
どうやらラクシュさんのご両親とも関係は良好のようで安心したよ。
あんまり俺たちが二人の関係を揶揄わないせいか、却って惚気るようなことを口にするようになったアラバマ殿下である。
突っ込んで欲しいのか欲しくないのか、本当に面倒臭い性格してるよね!
まぁそんなことはどうでもいい。
そうしてミミズコンポスト堆肥はアラバマ殿下に丸投げして、俺は次の作業に取り掛かることにした。
次なる相手はアマル様である。
貿易と外交担当だけど、なんか俺に出来ることってあったかな~?




