第198話 サプライズの準備
「お。来たようじゃな」
シエラ王女様が空を見上げ、それにつられてみんなが視線を上げる。
晴れ渡る蒼空には、輝く巨大な黄金の飛竜が飛んでいた。
今現在。
民衆に開放されていない場所で俺たちは待機させられていた。
ここは飛竜の発着場みたいなところで、主に飛行訓練に使われているそうだ。
「待たせたな」
重力を感じさせない見事な着陸で、砂塵を巻き上げることなく黄金の竜が舞い降りてくる。
その黄金の飛竜に乗っていたのは、カシム王子様だった。
これがカシム王子様の飛竜か~とボーっと眺めていると、その飛竜からぺこりとお辞儀をされた。
そうして伝わる厄介な『伝音』。
『ソナタノオカゲデ コウシテフタタビ ワガアルジトトモニ トブコトガデキルヨウニナッタ。カンシャシテオル』
長い間引き籠っていたカシム王子様の飛竜から、感謝の『伝音』が送られる。
それに対して俺もちょっとだけ頷いて返答した。
子供の竜だけでなく、成竜にも話し掛けられるようになってしまった。
やっぱそうなるよねー。
「なんじゃ? カシムのヌーラ(輝き)がお辞儀をしておるぞ?」
「そうだねー」
「しかもお主にではないか?」
「そうなのかな~?」
「こ奴はプライドが高く、カシム以外には歯牙にもかけぬような奴じゃぞ」
「へぇ~」
シエラ王女様が不思議そうに、だが瞳を輝かせて俺に話しかけてくる。
でも俺はそれらを適当にかわした。
どうやらシエラ王女様が今回の儀式に俺を招待したのも、飛竜と契約させようと企んでたっぽいんだよね。
風属性じゃないのにそんな事が出来るもんかと思ったんだけど、何故か俺ならできると思い込んでいたらしい。迷惑な話だ。
結果的にはどの生まれたての飛竜も俺を美味しい食べ物を作る存在として認識しただけで、主人とは思ってなかったんだけどね!
例えるならば遊んでくれる人と、ご飯の入ったお皿、そして群れの中で一番偉い人とで区別している気がする。
俺はご飯をくれる人ではなく、ご飯の入ったお皿のような存在だよ!
「お兄様、無事にラクシュ様のご両親をお連れできましたのね!」
到着したカシム王子様と黄金の飛竜へと駆け寄って、ファティナ王女様が声をかけた。
「ああ、農地の方は信用できる部下に任せてきた」
「こちらも首尾は上々ですわ!」
嬉しそうにお兄ちゃんに話しかけているファティナ王女様だけど、何の首尾だよ。
『物事を上手く進めていると言った意味で――――』
あのねSiryi、そんなことは判ってるって。
ポンコツ扱いしたせいで必死に挽回しようとしているようだけど、そんな反応は逆効果だぞ。
俺が欲しいのはそういう返しじゃないんだって。
『人の心というものは複雑怪奇ですね……。もっと学習いたします』
そうしてくれるとありがたい――――いや、程ほどでいいや。
気が利きすぎて余計なことまでやるアレクサみたいになったら困るし。
鑑定虫メガネであるSiryiだけど、こうして人と会話の出来る魔道具のことを、インテリジェンス・アーティファクトというらしい。
ファンタジーに出てくるしゃべる武器みたいなもんだね。
意志を持った知性ある魔道具として例を挙げるならば、白雪姫に出てくる魔法の鏡みたいなものだろうか?
まだこの世界ではAIのように人工的にプログラミングされた道具はないが、妖精が悪戯目的で作った魔道具の中に稀に存在しているとかなんとか。
その内俺の世界のように、この世界でもアシスタントAIみたいな魔道具を、人間が作る時代がやってきそうだけどねー。
インテリジェンス・アーティファクトとはいえ、Siryiは二束三文で売られていた鑑定虫メガネなわけで。俺に情報を伝える手段で話しかけてくるようになっただけなので、そこまで大したアーティファクトじゃなかろう。
アレクサの様なAIに酷似しているし、その学習能力が高いことは認めるけど。
だがSiryiはスマホの下位互換みたいな存在なので、そういう意味でなら俺の世界じゃありふれた存在だった。
最初は話しかけられてちょっと驚いたけど、今じゃもう慣れっ子だしね。
『ところでマスター。たまに思い浮かべている「アレクサ」さんという方は、どういった方なのでしょうか? 記憶のデータを読もうにも、ロックされているようで詳しくは調べられないのですが……』
そこに興味を持つのは止めろ。
間違ってもアイツみたいになられては困るのだ。最近ちょっと似てきたし。
『そうなのですか? ですが、そう言われれば余計に気になります。その方を識ることが出来れば、私ももっと進化できそうなのですが―――』
そんなことを識る必要はない。アイツの真似をすると、鑑定虫メガネという本分を忘れることになるからね!
ふざけてゲーム画面のウインドウを出したりするし、本来の役割を既に忘れかけている時があるから気を付けて欲しいところである。
「この度は皆様のお陰で、こうして娘に会うことができるようになりました」
俺が脳内でSiryiと話し込んでいると、飛竜で連れて来られていた人たちがシエラ王女様たちと話していた。
おっと。ラクシュさんのご両親に挨拶もせず、ぼーっとしていてはいけない。
恐縮しながら王族の方々に挨拶を交わすご両親に、俺も慌てて駆け寄る。
「おお、貴方様がスプリンクラーを開発された、アルケミスト様ですね!」
「ううん。それはこっち」
そう言って俺はディエゴを差した。
アイデアは俺でも、実際に作ったのはディエゴだからね。
なんか俺が手掛けると妙なことになるので、表に出せる魔道具類の多くは魔道具師のドワーフさんやディエゴに作ってもらっている。
多分余計なことを考えながら作るからなんだろうけれど。それでSiryiがあんな感じになっちゃったわけで。
それに俺にしか作れない仕様になるので商品化できないのだ。
念には念を込めてというが、俺の場合は念じるとろくなことがないんだよなー。
特に魔道具類に関して、想定外の機能が追加されてしまうのである。
「では、この方が魔道具師様なのですね!」
「いや。俺は魔道具師ではなく、魔法使いだ」
「え?」
「まぁ、アイデアはリオンだが」
「へ?」
「つくったのはおれじゃないよ」
「はい?」
ややこしくてゴメン。
俺もディエゴもただの趣味で魔道具を作って遊んでいるだけなんだ。
本業は夫々違うんだよね。冒険者パーティのお食事係でアルケミストと、魔法使いで召喚士が俺たちの本業です。
「まぁ、詳しい説明は後でも良い。急がねば時間が無くなってしまうのじゃ!」
「そうだね」
「では、移動致しましょう」
「は、はい!」
そんなこんなで困惑しているラクシュさんのご両親を、こっそりととある場所へと案内するべく俺たちは動き出した。
ラクシュさんの実家がちょっと遠い農地だからと、孵化の儀式の観覧を断念していたのだけれど、カシム王子様が気を利かせて連れてきてくれたんだよね。それに飛竜でなら往復で小一時間ほどらしいので、話を聞いてすぐさま飛んで行ってくれた。
付添人がアラバマ殿下だったのも、来られなかったご両親の代わりだったみたい。
「でも本当に、私たちの娘が女王竜と感応したのでしょうか?」
「今でも信じられないのですが……」
我が子の将来を案じて送り出したとはいえ、長年パートナーに選ばれることなく、今年で最後だと思っていたのだそうだ。
なのにいきなり女王の卵と感応したと聞かされて、夢なのではないかと疑っているらしかった。
「その目で確かめてみるが良い。お主らの娘が、飛竜の女王を射止めたその姿をな」
その前にもっと驚くことがあるんだけどね。
ラクシュさんのご両親には、新たな竜騎士となった者たちのお祝いがあるからと呼び出している。
まぁ所謂、竜騎士としての叙任式なんだけど。
そこで飛竜により選ばれたパートナーは、正式に騎士爵を貰い受けることになっている。特に女王竜の騎士となった者には『グランドマスター』という称号が与えられるのだ。
これは侯爵や公爵より強い権力を持つ階級である。騎士爵だけなら男爵より低い階級だけど、この国の『グランドマスター』は最高位の称号なんだってさ。
それだけ女王竜のマスターは、高い地位にあるということなのだ。
歴代の女王竜のマスターは、サヘールの王子や王女――――またはその伴侶候補が慣例で選ばれることが多かった。
だからある意味候補になるだけで栄誉だし、女王竜に選ばれずとも王族の伴侶の候補ってことだからね。よって今まで身分的に申し分のない者が選ばれていたし、候補者たちも了承済みだった。
とはいえあくまで婚約者候補であって、正式に決まっていない曖昧な立場である――――と言った話を前提に、今回のサプライズが仕組まれたのである。
「だいじょうぶかなぁ……?」
「まぁ、なるようになるだろう」
サプライズとはいえ、ただのドッキリのような気がする計画だからなぁ。
お互い思い合っているのは周りから見て明らかだそうなので。
二人が醸し出す雰囲気で、俺も何となくそんな気がしただけで確かめた訳ではないけれど。
願わくば一生の思い出になる、素敵なサプライズになりますように。
俺も出来るだけポジティブな気持ちで、祝福された奇跡が起こりますようにと願わずにはいられないのだった。




