第187話 お祭りの店舗巡り
「しあわせがおとずれますよーに~」
パンパンと手を叩き、俺はクッキーに祈りを込めた。
「これでいい?」
「はい。ありがとうございます!」
「完璧でございます!」
「?」
何が完璧なのか判らないが、とりあえず追加のクッキーを持って来てくれた王子宮の料理人さんに頼まれて、クッキーに祈りと願いを込めておいた。
幸せといっても、ささやかなものだけれど。
クッキーを食べて元気が出るようになればいいね~みたいな感じかな?
「気分の問題ですが、リオンさんに願いを込めて頂くと、そうなるような気がするんですよね」
「美味しくなれと念じられると、それだけで本当に美味しくなっておりますから」
「そうなの?」
よく判らんが、料理人さんがそう言うならそうなのだろう。
隠し味は愛情だからかな?
「もぐもぐきゅんだろうな」
「あの呪文っすか……」
「妖精語かもしれん」
三人でコソコソ話してるけど聞こえてるからな。
でも念じたり言葉に出すのは必要なのだ。
マイナスな言葉はダメだけどね。あくまでもポジティブでなければならない。
嫌な予感がしてそれを口に出すとたまに実際に起こったりするし。予言現象と俺は名付けているのだが、無意識でもソレが発生しちゃうことがあるんだよね。
偶然かも知れないけれど、予見なのか予知なのかよく当たる。しかも悪いこと程よく当たるのだから質が悪い。
だからなるべく恨み辛みは口にしたりしないように心掛けているのだ。
交代要員さんに屋台販売の引継ぎをし終え。飛竜の孵化まで時間があるので、それまでに出店しているブースや屋台の見学をすることにした。
お向かいさんのサロンブースへ、アマンダ姉さんとチェリッシュを迎えに行く。
ちらりとブースを覗くと、そこでは女性たちがくつろぎながらカタログのような物を見て話し込んでいる様子が伺えた。
「ではこの部分に、クリスタルを散りばめましょう」
「奥様にはこちらのエメラルドがお似合いですわ」
「細工のデザインも、こちらの見本よりお選びできます」
「この世でたった一つの素晴らしい物になるでしょうね」
「お嬢様のお好きな色に致しましょう」
ここってヘアアイロンやドライヤーの実演を兼ねた販売をしている筈なのだが。
お客さんはみんな、何故かドライヤーやヘアアイロンのデコレーションの注文をしているようだった。
「……」
「ああやって、値段が吊り上げられていくんだな」
「そりゃ高価になる訳だぜ」
「使えればいいもんなのに、何であんなことやってんすかね?」
テオの言葉に俺もこくりと頷いた。
俺の世界でもアホみたいな値段の時計や携帯等様々な商品がある。
ブランド品というだけでなく、純金仕様で宝石をちりばめたりして、特別にカスタマイズされた代物だ。しかし本体機能にはそれほどの差はない。機能のカスタマイズなら俺にも判るんだけどね。
デコレーションのカスタマイズには意味を見出せないので、いつもなんで無駄なことをと思っていたのだが……。
「アレを見て羨ましいと思う者がいるからだろう」
「俺は羨ましくねぇっす」
「俺もだ」
「おれもー」
「こういうのは付加価値だからな。他者との差別化や、顧客の購買意欲の向上として必要なのだろう」
「ふ~ん?」
ディエゴ曰く。みんなが持っていても、見た目が特別仕様であればそれだけ箔が付くということらしい。
そうして魔道具はどんどん高価になっていくのだろう。どうりでやたらとゴテゴテしていると思ったよ。
これぞ正しくお値段《《異常》》だね。
「あら。アンタたち何変な顔してるのよ?」
アマンダ姉さんが俺たちに気付いて声をかけてきた。
「ねぇねぇ、このヘアアイロンのデザイン(見本品)、素敵だと思わない?」
懐かしのデコ電のようなヘアアイロン(なのかどうか判らない)を持ち。にっこり笑って同意を求めてくるチェリッシュに、俺たちはカクカクと頷いた。
ここで下手なことを言えば営業妨害になるからだ。
「やべー。キラキラ輝く武器にしか見えねぇ」
「下手な鈍器よりも《《キョウキ》》に見えるっす」
「言い得て妙だな」
でもコレが可愛いとかきれいだとか思うのが、女性ならではの感覚なのだろう。
そうして俺たちは「どうぞごゆっくり~」「またあとでな~」と声をかけてサロンブースを出た。
「俺らにゃ一生かかっても理解できねぇ感覚だな」
「はげしくどうい」
「取りあえず褒めとけばいいんすかね?」
「無難な反応をしとくべきだな」
ブースに併設された休憩場所には、淑女たちの同伴者であろう紳士たちが疲れたような表情でお茶を飲んでいた。
「アマンダたちは置いといて、俺らだけで屋台を見て回るか……」
「そうっすね」
「うん」
「時間がかかりそうだしな」
一緒に歩けばきっとあちこちで停止を余儀なくされるだろうしね。
「取りあえずリオンが関わったブースは、他にもあるんだろう?」
「たぶん?」
サロン以外にもあるっちゃある。
取り合えずシュテルさんに渡された店舗マップを見て確認しよう。
「チョコレートと先程のサロン以外だと、入浴関係の商品もあったな」
「バスソルトとかの入浴剤っすか?」
「ああ、それだ」
俺もすっかり忘れているものも多いけれど。
そうして他の方にお願いして販売している商品のラインナップを眺める。というか、既に俺の手を離れているので記憶が怪しいモノが多かった。
「なんか色々やってたんだなぁ」
「そうだね」
実はアラバマ殿下が他の貴族と話をして、サヘールの名産品の商売をあちこちに持ち掛けたそうだ。
塩の販売を手掛けている貴族にはバスソルト等の入浴剤を、酒造関係の貴族には青茶を使ったカクテルやお酒の販売等、専門分野毎に分けて特許使用を促した。
殿下が独占しても不平や不満が溜まるだろうと考えた末、貴族間で対立するリスクを無くすことにしたらしい。特許のライセンス料さえ入れば面倒なコトはしなくて済むしね。なのでお互いウィンウィンである。
ただし乳製品とチョコレート関連はアラバマ殿下の独占販売だけれど。バホメールのミルクを使った商品は、現状アラバマ殿下に敵う者がいないからだ。
ただし青茶の粉末やカーバンクル作成の塩、サボテンの魔物等の原材料を加工をするのがアラバマ殿下の役割であり、それらを使った商品を作って販売するのが他の貴族って訳である。
そうして作られた商品の販売や宣伝は各々に任せることにしたそうだ。
「いやぁ~、今年は例年以上に、様々な商品が開発され販売されているそうですな。今現在宿泊しているホテルで使用したサンプル商品が、妻や娘に好評でしてね。早速私もここへ来たのですよ」
「おや、貴公もですか。しかも渡されたカタログによれば、実に興味深い商品があちこちにあるそうだが、もうご覧になられましたかな?」
そう言いながら紳士は小冊子を捲りながら指をさした。
そんな会話を皮切りに、疲れ切っていた紳士たちはカタログを手に持ち集まった。
「おお。どうやら今回は女性向けの魔道具が中心かと思っておりましたが、意外な商品もあるそうですぞ?」
「もしや、この育毛剤というものに興味があおりでは?」
「そちらもですか?」
「やはりそこに注目しますよね。私は発毛剤の方なんですが、実は父方の家系が怪しいので、いずれ必要になりそうな気がしましてな。しかし中々に値段が良いので、少々迷っておるのですよ……」
確かにちょっと怪しい薄毛っぽい髪を撫で、紳士は少し眉をしかめた。
まぁ、確かに作ったと言えば作ったよ。育毛剤と発毛剤。
この国の人たちって、女性だけでなく男性も毛髪に異様に拘っているからね。
美しさは髪の毛から始まると言っても過言ではない。色白は七難隠すということわざがあるけれど、この国では美しい髪は全てを魅了するみたいなことわざがある。
要するに髪が美しければそれ以外多少難があっても気にならないって意味らしい。
サヘール人は髪の美しさに性的興奮を覚えるんだからさもありなん。
なのでみんな照り付ける太陽から頭を保護するために布を被っているんだけど、蒸れるし頭皮や髪の環境に良くないんだよね。
髪のお手入れも大事だけど、頭皮も大切にしなきゃねってことで。
最初はヘアトニックを作ろうと、この国にある素材を利用してサボテンの液と青茶の粉とミント系の草を混ぜたらそれらしいものが出来た。
こちらは安価で作れる上に育毛効果もあるとSiryiの鑑定で判明したのだが―――更に遊び半分でそこにローヤルゼリーを混ぜて作ったら発毛剤が出来たのである。
この国の不毛地帯を抱えている人を探して実験したので安心して欲しい。天パより毛根が死滅している人の方が多いんだよねこの国の人って。
環境的に頭皮がやられちゃうんだから仕方がないんだけれど。
とはいえ発毛剤の効果は抜群で、使用回数たった一回で不毛の荒れ地に希望の若葉が生えたのである。
問題は個人差と効果の持続時間だけど、毛が生えたんだからそれはそれでいいじゃないということで。噂を聞きつけた農作物の育たない荒れ地を有している方々から、何が何でも商品化しろと圧がかかったのは言うまでもない。
心配な副作用もない魔物由来成分(ここでは天然由来ぐらいの信用がある)であり、Siryiの鑑定でも発毛促進効果があると判定が出たので販売にこぎつけたわけだ。
冗談っぽく『あちらの世界で発表すれば、ノーベル賞ものですよ』なんてSiryiは言っていたけれど。
でも魔物のエキス満載だから、あっちの世界じゃ作れないよ。
サヘールの土地で育った青茶の花も必要不可欠だし。この土地ならではの商品であることは間違いないので、他では作ることが出来そうもないのだ。
しかし育毛剤は安価でも、発毛剤は高価である。
何せ死滅した毛根を復活させるには、アントネストのクマバチ産ローヤルゼリーが欠かせないのだ。しかも他の化粧品にも使用しているだけに、一個がバカみたいな値段になってしまった。
それでも買おうという猛者がいるのだから、驚くしかないんだけど。
50グラムの発毛剤に、百万円出すとか正気の沙汰じゃないよねぇ。効果はあるけど、俺なら潔く禿げる方を選ぶ――――かもしれない。今のところは。
だから常に育毛剤で予防しておくことをお勧めする。毛根が死滅するとお高い発毛剤が必要になるからね。
「とはいえ、妻の買い物には時間がかかりますからな―――」
「この後は化粧品の店舗を回る予定でして―――」
「チョコレートの方は予約を入れてますが――――」
「私は妻に付き合っておりますが、息子に任せておりますのでどのようなものを手に入れてくるか今から楽しみです」
「いいですねぇ。私は娘ですので、そういう訳にはいかないのですよ」
「お互い大変ですな~……」
「いや全く……」
なんて会話が背後の休憩所から聞こえてきた。
どれだけ待たされているのだろうか。女性の買い物に付き合うのも大変だね。ご苦労様である。
そんな紳士たちの会話を聞いていたギガンが、俺たちを見て申し訳なさそうに口を開いた。
「なぁ、俺もその育毛剤ってのに興味あんだけど、付き合ってくれねぇ?」
「いいっすよ」
「発毛じゃなくていいのか?」
「まだ毛根は死滅してねぇよ! 予防だ予防!」
ギガンは既に俺のローヤルゼリー実験に付き合ってくれているので、頭髪については心配しなくても良いと思うのだが。
まぁ、本人が行きたいのなら付き合ってあげよう。
「別にギガンさん禿げてないっすけどね?」
「だから、予防だつってんだろ!」
「既に実験台にされているのに気付いてないのか……」
「何の実験台だよっ!?」
なんてことをワイワイ言い合いながら辿り着いた育毛&発毛剤販売店にて。
店先に怪しい集団が屯っていた。
ほっかむり星人軍団かな? そう思ってしまうほどに、みんな頭から足先まですっぽりと布を被っていた。




