第176話 俺流のわからせ方
『気が合わないけど仕事のできる人間』と『気は合うけど仕事の出来ない人間』どちらと一緒に仕事がしたいかという究極の選択的な質問をされたことがある。
当然俺は前者なのだが、大抵は後者を選ぶ傾向にあるそうだ。少なくとも周りはそうだった。
気の合う仕事の出来る人間の方が絶対に良いけどね。
まぁこの気の合う相手とは、自分に対してであって他人がどう見るかは定かではないのだが。
でも職場には仕事をしに来ているので、お友達作りをしたいんじゃない。
気の合う合わない云々以前に仕事が出来なきゃならないので、そういう質問自体がナンセンスである。
もしかして気の合わない俺に対する遠回しの嫌味だったのだろうか?
アラバマ殿下の場合は、一見すると捻くれているからとっつきにくいけど、仕事ができる上司である。でも付き合ってみれば性格は良い方なんだよな。性根が良いと言えばいいのかな?
努力家だし、周りをよく見てるし、自分も率先して仕事をするので頼もしいのだ。しかも筋が通ってて信念があるから付いて行きたくなっちゃうんだよね~。
お仕事がしたい人間はついて行きたいだろうが、したくない人間にとっては厄介な上司なのかもしれないけれど。
そして拾ってきた家なき子は仕事ができない子であった。
まだ性格についてはよく判らないけれど。長い目で見守ってやろう。
「それちがう」
雑草を抜いて欲しいと頼んだところ、苗を抜こうとしたので如意麺棒でその手を突いて止めさせる。
草なら何でも引っこ抜けばいいと思っているのかな?
雑草はコレだよって教えたはずだよね?
「まだはやい」
収穫を頼めばまだ熟していない小さい実をもぎろうとしたので、如意麺棒で突いてその手を止めさせた。
こういうのを収穫してねって、見本は見せたはずなのだが?
「……わかるわけない」
「しらないだけだからね」
根気よく教え続けていればできるようになるかもしれないが、先は長そうだな。
どうやったら興味を持って覚えてくれるかな~?
なんてことを考えていたら、家なき子は背中を丸めて自虐的に笑い始めた。
「……どうせボクはゴミクズだからね……ヒヒッ」
「そんなことはいってないよ?」
「本当は心の中でそう思ってるんだろう?」
「……やれやれ」
これって本人のやる気の問題なのかな?
アラバマ殿下とは違う方向のひねくれ方をしている気がする。捻くれているというか卑屈なのかもしれないが。
不満や不安を口に出してくれるだけまだ良い方だけどね。
何も言わずにある日突然姿を消して、理由を聞けば溜まっていた鬱憤を吐き散らかしてキレる方が質が悪いしなー。
「はいこれ」
「……なにこれ」
「ほんねがわかるよ」
手元に戻って来たにゃんリンガルを家なき子に渡す。
俺の言葉限定で本音を翻訳してくれるように改良しておいた。
通訳がいないと会話が不便なんだよな。
「かすだけだからねー」
一々訂正するのも面倒なので、短い言葉でも相手の気持ちが判ればいいだろう。
この画面に文字が出てくるから、読めば意味が判るよと教えてみた。
「……気持ちの判る魔道具なのか?」
「ほんねかな?」
俺は相手の本音とかどうでも良いけどね。
どうせその場限りのお付き合いじゃないか。一々気にしてたらやってられないよ。
社交辞令はあくまでも表面上使うだけで、本音ではないしね。
また今度の今度がやってこないようなモノである。
「君はどうでもいいと思っているのか?」
「うん」
だって別に友達になりたい訳じゃないもん。
畑仕事の労働力として連れてきただけである。
「ボクに近付いてきたのは、利用するためじゃないのか?」
「りようはする」
畑仕事の労働力として。なので現在は仕事を教えている最中なのである。
「ゴミにできるわけない」
「それはわからない」
ゴミにも使える部分がある。
実際に捨てられていたサボテンの針も、立派な串になったのだ。
何事も物は考えようで、必要ないと思えばそうだけど、ある日突然それが必要になる時が来るかもしれない。
爺さんが勿体ないからってお菓子の缶や包装紙や紙袋を「いつか使うかもしれん」と言ってしまいっ放しにすることがよくあった。
でもそれが使われる時ってほぼやってこないんだけどさ。そういう物って、何故かいらないと思って捨てた後に必要になるんだよね。不思議だね。
だから俺も今はいらないと思っても、何かしら取っておくクセが付いた。
お陰でサボテンの棘も、それが溶けた油も取っておいたら役に立ったのである。
「何を言っているのかよく判らないが、思っていたより本音が長い……」
「そう?」
まぁその魔道具はそういう物だからね。
「ゴミでもクソだよ、ボクは……」
「ひりょうになるかもね」
うんこも堆肥になるよ。
「ボ、ボクを肥料扱いするのか!?」
「そうなるといいねー」
そうして畑の栄養となり、立派な野菜が育てばいいのだ。うんこも本望であろう。
ただしうんこになるよりも先に、育てる側の人間になればいいんじゃないかな?
「……できるのか?」
「おぼえればねー」
知らないことを知るのは楽しいよ。ただし興味のあることに限るが。
「興味などないし、覚えられる気もしない」
「それはしかたがないねー」
だが働かなければ食べられない。だって食べさせてやらないからね。
よって興味がなくとも身体が求めることもある。
なので俺流のわからせ方として、トウモロコシを家なき子の口に突っ込んでやることにした。
「たべて」
「この野菜は生で食すものではないだろう? 君はアホなのか?」
「たべれるよ」
お手本として俺はトウモロコシを齧ってやった。
あんまぁ~い! ゴールドラッシュは蒸しても焼いても美味しいけど、生で食べるとその素材の良さが判るよね! まるでフルーツレベルの糖度だ。
もぎたて新鮮だからこそ出来る贅沢でもある。
「そ、そんなに美味いのか?」
「うん」
おやつ時なので丁度良いから食べなさい。
ちゃんと働けば他のおやつも用意してあげよう。
「……。クソッ……――――っ!?」
しばらく悩んだ家なき子は、意を決してトウモロコシにかぶりついた。
「……あ、甘い」
「だよねー」
「美味い……」
「よかったねー」
知らないことを知るというのはこういうことだよ。
だから良かったねと言うと、何故かまた家なき子は涙を流して膝を抱えて俯いた。
情緒不安定なのかな?
どうにもネガティブ思考に陥りやすいようである。
こういう時は考え事をせず、リラックスするのが一番良いんだけどねー。
息の詰まる環境に居続けるとこうなるらしいし。
「こ、こういうのは、だ、だれも、ボクに……教えてはくれない……」
「それはそう」
知ろうとしなければ誰も何も教えてはくれないものだ。
知りたくないことはお節介にも教えてくれるけどね。意地が悪いよね。
「や、やりたくない……ことしかない……」
「おれもそうだよー」
なので出来ることから始めるのだ。
「出来ることが、な、なにも……わからない」
「ごはんはたべれるよね?」
俺は爺さんに「嫌いな野菜もアレルギーじゃないなら食べられるようになれ」とよく言われたものだ。
それで美味しくなければ美味しくすればいいじゃないという考えの元に、料理をするようになったんだよな。
自分で作った野菜を自分で料理すればとても美味しく感じるものである。
苦労した結果が実を結ぶってこういうことを言うんだろうね。
だが未だに納豆は食べられないけど。努力しようにも匂いがダメだからなー。
これ以上大人になってもきっと無理だろう。
「………ゴミがクソを生み出すぐらいしかできないじゃないか」
「おいしくたべれたらえらいよ」
まずはそれからだ。
なれない労働でもその対価が「美味しいご飯」であればやる気になるものだ。
目標のための手段としてなら嫌な仕事も出来ることってあるじゃないか。
そうやって人は自分の気持ちと折り合いをつけて仕事をするのである。
まぁ、メンタルをやられて身体を壊すような仕事は続けるべきじゃないけどね。
家なき子もボロボロになる前に逃げ出せてよかったじゃないか。
「……おいしく、食べられるのか?」
「おいしくなかった?」
「……いや。美味かった」
「ならよかったね」
「……うん」
そうして家なき子は、珍しく素直に頷いた。
詳しい話というか、聞いてもいない事情を語るのにとりあえず耳を貸したところ。
家なき子はずーっと、食べ物の味のしない生活を続けていたらしい。
比喩ではなく、実際に味覚障害を起こしてたようなんだよね。
だから俺の渡したすき焼き串を食べて、味がしたから泣いたみたい。
お腹が空いて倒れていたのも、食べても味がしないから摂食障害に至ったからのようだ。
そうしてすき焼き串の味がしたとはいえ、勘違いかも知れないと訝しんでいたところ。トウモロコシも美味しかったから更にまた泣いたという訳である。
まぁ、食べ物の味がするようになったんならいいんじゃないかな?
いきなり固形物を食べてお腹が壊れなきゃいいけど、俺の作った食中りの薬はあるから大丈夫だろう。
この手の薬はみんな元気だから使いどころがなくて困ってたんだよね。
複雑な家庭環境と職場環境のようだが、どうにかしてやろうと思うほど親切ではない俺にとっては家なき子はただの労働力である。
美味しいご飯を提供する代わりに働いてくれればそれでいいのだ。
本人もご飯の美味しさを久しぶりに味わえたんだからWin-winだよねー。
お腹が壊れても怪しくないお薬があるので安心して食べればいいよ。
「だからちがう」
また収穫できそうにもない実をもぎろうとしたので如意麺棒でつついた。
物覚えの悪さだけはどうにかしなきゃならないけれども。
これは身をもって覚えさせるべく、青くて渋い野菜を直接口に突っ込んでやるべきかな?
お祭り屋台のための食材を収穫するべく、新たに手に入れた労働力を短期間とはいえ雇うのだから荒療治も必要であろう。
もしここで仕事を覚えてくれれば、再就職先の面倒も見れるかもだし。
「はい、あ~ん」
「あ?」
赤くなっていないプチトマトをもいでくれやがったので、そのお礼に口に突っ込んでやった。
「うぐっ!?」
吐き出せないように如意麺棒で口に蓋をする。ほんとこの魔道具って便利だね。
自在に形状が変化するから面白いや。
「な、なにをするっ! 酸っぱくて苦いじゃないか! それにさっきから使っている棒は何だ!? 形状が変化するなんておかしくないか!? そもそもそれは棒なのか!?」
飲み込んだのを確認して、蓋を外してやると文句が出た。
こういう時だけ、何か妙に饒舌なんだよなー。
だがその質問に俺は答える気はない。
「だからそれ、ちがうっていった」
頭が覚えないなら、身体で覚えればいいのだ。
これが俺流のわからせである。
今後も同じような失敗をするなら、その口に放り込んでやるので覚悟せよ。
味が判るようになったおかげで、身をもって知ることになるからね!




