晩餐会
「お、おい……なんだよ?こりゃあ──」
「……」
ヴォロスとリュネシスの表情が、冬の木枯らしにさらされた子どものように固まっていた。
長らく夕食を待たされた戦士たちに、ようやく訪れた晩餐の時──だが、〝幻夢城〟のダイニングホールにて彼らを迎えたのは、椅子にどっかりと腰掛けながらドヤ顔を決めるひとりの少女であった。
「全部あたしが作ったんだよ。感謝してよね」
人差し指で鼻の下をこすりながら誇らしげに微笑んでいるのは、言うまでもなく、ルスタリア王女ルナである。
しかし、その前に置かれた料理の山は──黒く炭化したパン、濁った色合いのスープ、命を吸い取られたかのように色彩を失った野菜の数々。
それら危険な光景は、戦士たちの胃袋に危機感という警笛を確実に鳴らし始めていた。
ルナの正面に座らされたヴォロスが、少女に聞こえぬよう冷や汗を浮かべながらリュネシスに耳打ちする。
「なあ……このパン、どう見ても石炭じゃねえか?スープもなんかヤバい匂いしてんだけど……よお、リュネシス。ここは大将として、おまえ先に食ってみろよ」
「食えるか……てゆうか、これはもはや食べ物じゃなくて毒物だろ?」
「だよなぁ」
不安と諦念をひそひそと交わし合うふたりに、アカーシャが少し怒ったように窘める。
「ふたりとも、さっきから何をブツブツ言ってるの?せっかくあの子が、がんばって作ってくれたんじゃない」
食前の礼を端的にすませると、アカーシャは優雅な仕草で平然と料理を口に運んで──。
「うっ」
その彼女ですら、思わず表情を凍りつかせてしまった。
「アカ姉、おいしい?」
すべてを打ち消す純真な声が投げかけられる。
でも、アカーシャの貌をじっとうかがうルナの瞳には、期待だけでなく心配の色も入り混じっていた。
「え、ええ……とっても……おいしいわよ?」
アカーシャは口元を上品に手で抑えてはいるが、哀れにも涙目になっている。
どんなに不本意であろうが、自分をアカ姉と呼んで慕ってくれる可愛らしい少女を傷つけることなど、律儀な魔女には到底できることではなかったのだ。
一方ライガルは表情を崩さず、ただ無言で黙々と食べ続けている。武道で鍛え抜かれた精神力で、意識を〝無〟へと沈めているのだ。
ベテルギウスはたびたび咳き込みながら、ごまかすようにちびりちびりと食べ物を口に運ぶ。
そんな中で、何事にも要領よく立ち回るディーネだけは、あらかじめ安全そうな部分だけをより分けて、飄々と食事を続けていた。
「みんな、すまない。少し用事を思い出した」
味覚に最も敏感なリュネシスが、できるだけ波風をたてぬよう真っ先に席を立つ。
「ああ、リュネシス……さっきの話なんですが……」
便乗するようにベテルギウスも、無理やり話題をでっち上げてその後を追った。
「お、おい!おまえら何逃げてんだよ!!」
叫んで立ち上がろうとしたヴォロスの首を、しかし逃がすまじとルナが達人の早業で締め上げる。
「こらーっ!うまいこと言って、あんたまで逃げる気でしょ!?」
「違うって!おれは逃げるあいつらを追いかけようとしただけだ!!」
「嘘つけコノヤロー!こうなったら、あんただけは意地でも食わしてやるからね!!世界一の美少女戦士が作ってあげた料理を、なんだと思ってんのよ!!」
「だ、誰が世界一だよ……痛てててて!」
言い返そうとする大男の首に素早く両足を絡ませると、少女はそのまま全体重を乗せて体を勢いよく、すとんと後ろに落とした。
「お、おいおいルナ!おまえガキのくせに、どこでこんな器用な寝技覚えたんだ!?」
おてんば姫に技を極められたヴォロスの絶叫が、夜のしじまに木霊する。
──あいつ、なんだか嬉しそうだな。
少女に痛めつけながらも明らかに喜悦を含んだ友の叫びを耳にしながら、リュネシスはふと、そんなことを思った。
それは久しぶりに訪れた、彼ららしい憩いの一幕──。
人知れず過酷な戦いを繰り広げている戦士たちにとって、その日は笑いの絶えない夜になっていた。
エテルネルをご覧いただきありがとうございます。
もし、本作を《気に入った》あるいは《続きが気になる》と思っていただけたならブックマーク登録か、できれば小説下にある「☆☆☆☆☆」から評価していただけると、とてもありがたいです。
皆様の応援をいただいて始めて、本作を最後まで書き上げる原動力になるからです。
レビューなどいただけると、きっとうれしくて泣いてしまうと思います。
どうかよろしくお願い申し上げます。




