閑話:仕切り屋ニュートン
アイリに続いてミラクルまでもが留守にして一週間。
レジェンダ喫茶の人気は衰えず、今日も店内は大盛況――なのだが、ここ最近ははいつもと違っていた。
「シュガー、12番テーブルのメニューだ」
「ありがとです。持ってくですです」
「レイ、追加メニューのメ○コールだ」
「あいよ~」
「シェーラ、接客時間がオーバーしている。それ以上は追加料金だぞ?」
「あ~ゴメン! ――という訳でお客さん、延長料金は――」
「おいユーリア、そのメニューは3番テーブルだ」
「あれ、そうだっけ?」
「いい加減覚えてくれ……。それからリーゼ、お前はそろそろ休憩だろう? ムムと交代してくれ」
「よっしゃ休けーーーぃ!」
ご覧の通り、喫茶店を仕切っているのはキートン氏の身体を乗っ取ったダミーコアのニュートンである。
なぜ彼が居るのかというと、先日ひょっこり顔を出したかと思ったら、生活費が無ないので働かせてほしいと言ってきたのだ。
若々しく割りとイケメンな部類に入るため、女性客を見込んだエレインは即座に採用。
早くも看板息子として定着しつつあるのだった。
「看板息子は宜しいのですが、なぜ彼が仕切っているのです? 挙げ句わたくしにまで指図するのは少々納得がいきませんわ」
休憩室から店内を覗いていたレミットがぼやく。
自分が仕切るならまだしも、ポッと出の新参者に命令されては面白くないというものだ。
「でも効率的な動きだよ? ムム達じゃ逆立ちしてもああは成れないと思うなぁ」
「その通りです。最初こそ雑用として使えればと思ってましたが、これは思わぬ拾い物です」
レミットとは対称的に、ムムとエレインは好意的に見ていた。
指示を出しながらも自分の仕事をテキパキとこなすニュートンは、もはや必要不可欠な人材である。
「フン、このくらいでデカイ面をされても困りますわ。指示を出すくらいなら――」
「でも大変だよ? レイは素直に聞かないしユーリは頻繁に注目を間違えるしで、思うようにいかないんだからさ~。なんだったらニュートンと代わってみれば?」
「……それは遠慮しておきますわ。わたくしには似合いませんもの」
「あ~はいはい、そういう事にしますかね~」
面白くないとは思いつつもニュートンと同じ役割はできないと、レミットも認めているのだった。
「そうそう、お陰で私たちも楽に動けるわ――ってことで、ムム、交代」
「もうそんな時間かぁ。しゃ~ない、行ってくるよ~」
リーゼと入れ代わりにムムが店内へと戻った。
「それにしてもあのレイが素直なのは妙ですわね。何か裏でもあるのではと疑いたくなりますわ」
何気ないレミットの一言だったが、それに反応したリーゼが目を輝かせて忍び寄る。
「むっふっふぅ♪ 気になる? 気になっちゃう? どうしてレイが素直なのって♪」
「な、何ですの? 急に鼻息を荒くして」
「荒くもなるわよ。だってレイってばニュートンに対してラヴなんだも~ん♪」
「「はぃぃぃ!?」」
これには某イ○ミ先生のようにシェーーーのポーズで驚くエレインとレミット。
レイといえばレジェンダ喫茶では一番粗暴であり、異性に興味がなさげな女として知られているのだ。彼女を知ってる者ならば、あのレイがと驚愕するのは当たり前である。
「そ、それは本当なのですか? スッピンで人前に出るのすら躊躇わないあのレイが……」
「信じられません。ベロンベロンに酔っ払って二日酔いの多いあのレイが……」
「マジもマジマジ! だってほら、レイったらあ~んなにアタフタしてるじゃな~い♪」
リーゼと共に半開きの扉からソォ~っと顔を覗かせると、ぎこちない動きでニュートンに話しかけるレイの姿が。
そう、話しかけるだけで壊れかけの自動人形のような動きなので、一目で異常だと分かるくらいだ。
「フ、フン。男なんかに現を抜かして恥ずかしい娘ですわ。わたくしだってその気になれば――」
「「その気になれば?」」
「そ……そ……そんなことはいいのです! わたくしなんかより、今はレイでしょう? あんなに頬を赤らめて、まるで恋する乙女ではありませんか!」
「だからそう言ってんじゃん……」
「レミット様、落ち着いてくださいませ」
なぜか袖を噛んで悔しがるレミットと、呆れるリーゼとエレイン。
そんな3人を他所にレイとニュートンは親密な関係に!!
――なる事はなく、来る日も来る日も進展が見られない日が続いた。
そうなると見てる側がイライラしてくるもので、レイ以外の女性従業員が閉店後の店内に残り、意見交換を行うことに。
「あ"~~~も~ぅ見てられない! 何やってんのよレイのやつ!」
「まったくです! 見てる側の気にもなりやがれですです!」
「確かにイラッとくるよね~。もっとこう、ガツーンとかましたれって思うんだけど」
「リア充爆発なさい!(3人とも落ち着きなさい。他人のやることに口を出すべきではありませんわ)」
早くも不満をブチまけるのは、リーゼ、シュガー、ムム、レミットの4人だ。
「落ち着いてください4人とも。特にレミット様は本音と建前が逆になっております」
「そうは言いましてもエレイン、このままでは埒が明きませんわ。とっとと破局して――じゃなくって……コホン。さっさとくっついてしまえば気にしなくてすむのです」
割とハッキリ本音の見えるレミットは置いとくとして、いつまでも変化がないのはもどかしい。
ならばと手をポンッと叩いたのは、失笑を買う女――ユーリアだ。
「ならこうしましょうよ。あたしたちが恋のキューピットになって、あの二人をくっつけるんです」
「でもさ、それって余計なお世話じゃない? もしも上手くいかなかったらレイのやつブチキレるよ?」
「でもシェーラちゃん、このままだとレイさんストレスでハゲてしまうかもしれないんですよ? そうなったら可哀想じゃないですか」
いや、ハゲないだろ……といつ視線をみんなから向けられつつも、尚もユーリアはヒートアップする。
「それにニュートンさんあの見た目ですし、女性客には人気があるんですよ? このままだと何処かの女性客にかすめ取られてレイさん大発狂! その女性客に闇討ちを仕掛けて投獄される――なんて事だってあり得るんです! あの人は追い詰められると暴力に訴えるのは想像つくじゃありませんか!」
「「「……確かに」」」
可能性は否定できない――いや、むしろ鮮明に想像できてしまうと一同は思った。
「これは由々しき事態です。我がレジェンダ喫茶から犯罪者を生み出しかねません」
「エレインの言う通りですわ。何とかしてレイの暴走を止めなければ!」
「でもどうするです? 止まれと言ってもブッ壊れた馬車の如く突進するような女ですですよ?」
「完全に腫れ物みたいな扱いだよね。さすがに僕もレイに同情するよ……」
「……zzz」
すっかりユーリアに誘導されてしまい、レイ=危険人物に仕上がったところで、ユーリアがわざとらしく咳払いを行い……
「……コホン! 聞いてください皆さん。あたしに良い考えがあります!」
「「「!」」」
その台詞に一同が注目する。
「こうなったら最後の手段です。ニュートンさんをレイさんの生活空間に押し込んでしまいましょう!」
「「「……え?」」」
何故か最後の手段に打って出るというユーリア。
しかも内容はゴッチャになった洗濯物の中に漂白剤をブチ込むような行為であり、言葉だけならまったく問題ないかのようにも見える。
だが一つの空間に二人だけにするのは、ぶっちゃけどうなっても知らんぞ的な意味合いが強く、これノクターン案件じゃないかと作者をも揺るがす中、渦中のニュートンが店に戻って来たのだった。
ガチャ!
「すまないが忘れ物をした。台所洗剤が切らしてて――」
「ナイスなタイミング! ニュートンさん、こっち来てください!」
「お、おいおい……」
訳も分からずユーリアに手を引かれるニュートン。
行き先はもちろん……
「さぁどうぞ!」
バタン!
「……んあ? なんだユーリア、戻って来た……の……か……」
「――ンンンギャァァァァァァ! なななななんでニュートンがここに!?」
下着姿で寝転がり、雑誌を読んでいたレイが飛び上がる。
だが顔をトマトにしているレイを他所に、ニュートンはワナワナと震えだし……
「な、な、な……」
「何なんだこの部屋は! まるでゴミ邸じゃないか!」
「う……」
マズイ! ――とレイが思うも時すでに遅しで、脱ぎ散らかした服や食い散らかしたジャンクフードの袋がニュートンの目に触れてしまう。
ああ残念。これでニュートンは幻滅か――と思われたが……
「これほど掃除のしがいがある部屋は見たことがない! なぜもっと早くに教えてくれなかったのだ!」
なんと、別の意味でキレ出したのだ。
そして皆が思い出す。そういえばコイツ、掃除マニアだったなぁと。
「これから毎日ボクがこの部屋を掃除する! 文句は言わせないぞ?」
「え……は……はい」
「ではさっそく清掃だ。ほらレイ、ボサッとしてないで手伝いたまえ。キミの部屋なのだろう?」
「う、うん……」
よく分からないが、掃除を始めた2人を生暖かく見つめる一同。
これで良かったのか? いや、レイが笑顔なのだから良いのではないか。
後は2人でやってもらおうと、扉をソッと閉じるのであった。
ユーリア「そういえばレイさん、下着姿で清掃を……」
リーゼ「本人が気付いてないならいいんじゃない?」




