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誘われしダンジョンマスター・未来紀行  作者: 北のシロクマ
第6章:プラーガ帝国のダンマス
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挙兵!

「――という事があったんだ」

「ほへ~、やっぱりアイリちゃんは行動力があるなぁ」


 リップコールという街に降り立ったあたしとセレンさんは、この街を拠点としているダンマスのグラップさんと遭遇した後、元領主の邸にて説明を受けた。

 思った通り上空からみた惨状をやらかしたのはアイリちゃんで、領主の奴隷にされていたグラップさんを救出すると、他の街へと向かったらしい。


「アイリちゃんは~、どちらに向かったのでしょ~?」

「すまない、そこまでは聞いてなかった。だがギアⅢを開発した研究機関を潰すと言っていたし、帝都に向かえば会えるのではないか? 皇帝のお膝元に本部があるだろうしな」


 帝都かぁ……。


(帝国の全戦力が相手になりましょう)


 あの日最後に聞いた台詞が忘れられない。

 このまま帝都に行けば間違いなくシュノーゼさんを殺す事になりそう。

 だけどアイリちゃんなら助けられるかも……そう思うと、このまま向かうのは躊躇(ためら)われる。

 やっぱりアイリちゃんと合流するのが無難かな。

 

「ところで~、後ろの子供たちは~、貴方のお子様で~?」


 そういえば気になってたんだよね。多数の子供たちが後ろの方で遊んでるのが。

 そっか、グラップさんのお子様――


「いやいやいやいや、あいや待たれぃ! 種族がバラバラでザッと20人はいるのに何故そう思える!?」

「俗に言う~、ヤリチン野郎かと~♪」

「違う、断じて違う! そもそも俺には婚約者が――」



「――居たんだ。そう、居たんだよ……」


 あ、あれ? なぜか膝を抱えて落ち込んでる。


「過去形という事は~、ズバリ言うと~、フラれてしま――」

「グハッ!」


 あ、胸を押さえて倒れちゃった。

 それを見た子供たちが、笑いながら手を合わせて拝んでるし。

 もしかして意味が分かってる?


「だ、大丈夫ですか、グラップさん?」

「すまない、大丈夫だ。俺は解放軍の司令官。こしきの事で動揺しては、()婚約者に笑われてしまう。何かと高笑いが多くて常にマウントを取ってくる女だったしな」


 自分で()とか言ってるくらいだし、折り合いがついたらしい。

 あと余計なお世話だろうけれど、そんな人とは別れて正解なんじゃないかな。


「それでグラップさん。後ろの子たちはどうしたの?」

「おっと、忘れるところだった。この子たちは違法奴隷らしくてな、孤児院がならず者に襲撃されて奴隷商に売られたんだとさ」


 それは酷い! ならず者が近くにいれば今すぐ叩きのめしてやるのに!


「ちなみにだが奴隷商はアイリが始末したし、ならず者も奴隷商の手先だったらしい。すでに生きてはいないから安心しろ」


 それはよかった。


「寧ろ問題なのは、この子たちの引き取り先の方だ」

「どうしてですか?」

「聞いて驚け、かの有名な帝国の研究機関が引き取り先だったんだ。恐らくは何らかの実験体にされるところだったんだろう」

「研究機関……」

 

 ダラスさんの眷属のクインっていう子が送られたところだ。


「俺としても見過ごせないのでな、明日にでも遠征に出ようと考えている。どうだろう、キミたちさえ良ければ共に向かわないか?」

「はい、行きます! あたしも研究機関を潰したいので!」

「ありがたい。俺一人では司令もクソもなく寂しかったんだ……」


 それが本音ですか……。


「では明日に備えて~、お休みしましょ~♪」

「むぉ? 急に睡魔が――」

「ちょ、セレンさん! それ子守唄――」


 突如歌いだしたセレンさんにより、あたしを含む全員が強制的に眠らされた。



★★★★★



 リップコールの街を落としてから10日後。

 プラーガ帝国の中央にある帝都にも陥落の報せが届き、城内の謁見の間にて懇意にしている貴族たちが集められていた。

 理由はもちろんダンジョンマスターが反旗を(ひるがえ)した事についてであり、それに対して何らかの(めい)が下されるのだろうと誰しもが思う。


「皆のもの、静粛に。ラーズヴォルト陛下の御成りである」


 皇帝の側近が声をあげると談笑していた貴族たちはピタリと口をつぐみ、低身で若々しい金髪の皇帝――ラーズヴォルトが堂々と現れ、玉座へと腰を落ち着かせた。

 端から見ればどこにでも居そうな貴族の少年なれど、決して侮ってはならない。

 何故なら彼は兄二人と姉1人――更には妹までもを罠に掛け、皇帝の座を奪い取った切れ者なのだ。

 そんな現皇帝が貴族の面々を確認し、重々しく口を開いた。


「さて、本日集めたのは他でもない。皆も知っている通り、リップコール陥落に関してだ」


 これに関しては既に伝わっていたので、今さら驚く者はいない。


「大変信じがたい事なのだが、リップコールを落とした者はダンジョンマスターである事が判明した」


 流石にどよめきが起こる。

 各街には帝国の誇るギアⅢが配備されいるため、それを撃破したのはダンジョンマスターであるとも言えるのだ。

 そのため貴族の一人が堪らず声を上げてしまう。


「お言葉ですが陛下、ギアⅢがダンマス相手に敗北したという報せは上がっておりませぬ。情報伝達の不備という可能性は……」


 この言葉に数人の貴族も相槌を打つ。

 陥落させたのは闇ギルドで、領主が脅されたためだと言われれば、まだ納得できるというものだ。

 しかしラーズヴォルトは(かぶり)を振り、真っ向から否定する。


「残念だがそれはない。居合わせた者たちが口を揃え、ダンマス感知の水晶が反応したと言っているのだ。直後に街は陥落し、配備されていたギアⅢからの応答はなく、挙げ句に領主も行方不明ときた。何より居合わせた連中が血相変えて帝都に押し寄せてきたのだ。件のダンマスが落としたと見て間違いないだろう」

「「「…………」」」


 それを聞いた貴族たちは思わず絶句する。

 ダンジョンマスターとはオークションで出される珍獣という認識であり、飼い犬に手を噛まれた――いや、首から上を食い千切られたに等しい。


「目撃者の話では俺と同じくらいの年の娘だと言うが、だとすると末恐ろしい存在だ」


 末恐ろしい――と言いつつも、口の端を吊り上げるラーズヴォルトの表情を見て、貴族の一人が尋ねる。


「へ、陛下、その……何か策がお有りで?」

「なぁに、消耗したのはたかが8体。ならば倍以上の戦力をぶつければいい」


 数年前までは1体だけでも貴重すぎる戦力だったギアⅢだが、近年ようやく量産体制が整ってきた。

 今では各街に必ず5体以上は配備されており、かき集めればあっという間に倍以上だ。


「それに8体ものギアⅢを相手にしたのだ、相手のダンマスも消耗は避けられまい」


 自信満々のラーズヴォルトに、貴族たちからもなるほどという声が上がる。

 魔物で言うところのCランク相当8体を相手にして無事なはずがない。


 ――と、考える彼らだが、それは普通のダンマスに言える事であり、街を落としたアイリ(本人)が例外中の例外だとは微塵も思ってはいないだろう。 


「いやはやしかし、手際よくギアⅢの量産に着手するなど、陛下がいらっしゃれば帝国は安泰で御座いますなぁ」

(しか)り。例えダンマスが牙を剥いたとて、陛下には敵いますまい」


 次々と送られる称賛の声。

 気を良くしたラーズヴォルトが側近に命ずると、いそいそとその場を後にする。

 何が行われるのかと貴族たちが首を傾げる中、下がった側近が薄汚いローブを羽織った怪しげな男を伴い戻ってきた。


「陛下、その者はいったい……」

「皆にも紹介しておこうと思ってな。ギアⅢの量産に貢献してくれた第一人者の錬金術師――マギールだ」


 第一人者と言われ、マギールへと注目が集まる。

 瓶底メガネをかけ白黒の髪をボサボサにした初老寸前の男のようで、見た目の印象はよろしくない。

 だがそんな見た目もどこ吹く風と、マギールは耳障りな声をあげた。


「い~ひっひっひっ! ご紹介に預かりましたマギールと申しますぞぃ。以後宜しくお願いしますぞぃ」

「してマギールよ、何やら報告があるそうだな?」

「その調理――っと失礼、その通ぉり! 何を隠そうギアⅢの改良に成功したのですぞぃ!」

「「「おおっ!」」」


 この発言により貴族から歓声があがる。

 強力なギアⅢが更に強化されたのだ。誰しもが手放しで称賛を送るのも当然であろう。


「ほぅ、朗報ではないか」

「はいぃ。僕チンの錬金は世界一ぃぃ! 改良に改良を重ねた結果――」


 やや勿体つけるように間を空け、謁見の間の正面扉を指し――



「――こんなんなっちゃった♪」


 指し会わせたかのように扉が開け放たれ、獅子獣人の男が入ってくる。

 これには貴族のみならずラーズヴォルトまでもが眉を潜めた。


「マギールよ、俺の目にはありふれた獣人にしか見えんのだが?」

「見た目だけならそうでしょうな。が、しかぁ~し! これは世を忍ぶ仮の姿。しかしてその実態は!」


 マギールのハイテンションと共に、獣人の全身が赤く光る。

 するとどうだろう。軽装だった獣人の体に見覚えのある黒塗りのアーマーが装着され、更には全長3メートルほどまで巨大化したではないか!


「どうです? 移動は獣人形態で行い、いざ戦闘ではドレスアーーーップして戦えるのです。これまでのギアⅢよりは格段と柔軟性が増したと言えるでしょうなぁ」


 これにより皆が揃って掌を返す。


「いやはやこれは凄い!」

「これまでの常識が覆るぞ……」


 ラーズヴォルトも同様で、早くも他国に送り込もうかと画策し始めたところで自分に待ったをかけた。

 邪魔なネズミが国内を彷徨(うろつ)いているではないかと。


「うむ。大義であった。これからも忠義を尽くすように」

「もちのろんで御座います」

「よし、ではサポートをつけよう。ダンマスである()()と協力し、国内を荒らし回るネズミを狩り尽くすのだ」


 ラーズヴォルトが側近に命じると、今度は銀髪の女性を伴い戻ってきたではないか。


「命令だ。あらゆる戦力を駆使し、リップコールの街を解放するのだ。多少の破壊は大目に見よう、向こうが誰に対して牙を剥いたか思い知らせてやれ。頼んだぞ――」



「――シュノーゼよ」

「……お任せください。必ずやご期待に応えてみせましょう」


これにて第6章は終わりです。

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