王都攻防戦
「報告します。王都東側にセバスティン殿の率いる部隊が到着いたしました。いつでも攻略にかかれるとの仰せです」
「分かりました。今から攻め込みますので、セバスティンも続くようにと伝えてください」
「ハッ! 直ちに伝えて参ります!」
王都を目の前にして3日目。ついに攻略する日が来たわね。
ここで華々しく勝利を飾れば、ミュールレイクことミルクがアレクシス女王として君臨する事になるわ。
「アイリさんと出会ってから、あっという間にここまで来ましたね。本当に感謝しておりますわ」
日時にして10日もかからずにだから、異例のスピードよ。
自分で言うのもなんだけど、私の動きとミルクの予知スキルが合わさった結果ね。
「そうは言っても、私としては仲間のために行動してるだけなんですけれどね」
「それでもです。私にとってアイリさんは勝利の女神。感謝してもしきれません」
「そ~よそ~よ、感謝しなさ――おぅえ!」
「セリーヌは何もしてないでしょ」
「わ、わがっだがらアイリ、ぐびがらでをはなじで……」
ったくもう。すぐ調子に乗るんだから。
「それでは参りましょう。――皆の者、我々には勝利の女神がついています。彼女がいる限り敗北はあり得ません。今こそ王都に巣くう不届き者から民を解放するのです。全軍――突撃ーーーっ!」
「「「おおおっ!」」」
長槍を手にした先兵が南門に向けて突撃し、その後ろから弓隊と魔術隊も続く。
更に後ろから私たちも前進していき、だだっ広い平原から徐々に王都へと肉薄する。
一方の王都はというと、今頃になってから慌てふためいた様子で門を閉じ、防壁の上に守備兵が集結を始めた。
「ダッさ! アイツら今になってから慌ててるよ。そんなだからブサメンなのよね~」
挙げ句セリーヌにもバカにされるしまつよ。
こっちの存在は3日も前からバレていたはずなのに、いったい何をやっていたやら……。
「アイリさん、城門の破壊をお願いできますか?」
「別にいいですけど、今の状態なら直に突破できるのでは?」
「どうやら急いだ方がよさそうなのです。宮廷魔術師のヘルザードが、壊滅的な大魔法を門に向けて放つ未来が見えましたので」
ヘルザードは王都に残る二大派閥の片割れの総大将よ。
ソイツが大魔法を?
「何で今になって? さっさと放ってれば、二大派閥の片割れであるリードヴィッヒを倒してるはずよ」
「そこまでは分かりません。ですが――」
一呼吸置いたミルクが、非常に気になる事を述べてきた。
「まるで何かに乗っ取られたかのようにも見えます」
何かに乗っ取られた――ねぇ。まるでこちらの動きを妨害するかの如くね。
未来告知というスキルを持ってるミルクが言うんだから、ヘルザードが勝ち残るのは確実だし、さっさと城内に突入させよう。
「じゃあパパッとやっちゃいますか――フレイムキャノン!」
ドゴォォォン!
「おおっ、我らの女神が突破口を開いてくださったぞ!」
「今だ、突撃ーーーっ!」
「「「おおっ!」」」
これでよし。
士気も上がったし城内になだれ込むのも時間の問題でしょ。
「お見事です、アイリさん」
「さっきから思ってたけど、アイリを例えるなら女神じゃなくて邪神――おぅえ!」
セリーヌはさっきから一言多いのよ。
「それでミルク様、ヘルザードの様子はどうですか?」
「大魔法は回避されました。ですが城内に立て籠るつもりのようで、まだ安心はできません」
「そう……」
だけど気になるわね。
あんまりやりたくはない手法だけど、ホークに暗殺させようかな?
『ホーク、城内に忍び込んで総大将を倒してくれる?』
『あ~すまんアイリはん。結界が強力で城には入れへん』
変ねぇ、私が城に召喚された時は結界なんてなかったけど。
それに国王が謁見の間で発動させた結界なんて、ショボすぎて話にならなかったくらいなのに。
「ハッ!? いけません!」
「ミ、ミルク様?」
ハッとなったミルクが目を見開いて叫んだ。
「アイリさん、急いで兵を――いえ、王都にいる全員を避難させてください! このままでは多くの民が犠牲に!」
「落ち着いてミルク! 何が起こるのか説明して」
「は、はい。城に召喚された魔物が大暴れするのです。とても強大で、城の兵たちではとても対抗できません」
城に籠ったヘルザードが召喚すると考えるのが妥当ね。
でもって召喚したはいいけれど、魔物を制御できないと。
「東側からも侵入してるし、今から退却命令を出せば現場が混乱するわ。私が乗り込んで倒してくるから、ミルク様はここで待機しててください」
「だ、大丈夫なのですか? とても不可解な事に、暴れだす魔物の姿や形が一切浮かんでこないのです。なのに被害が出ているところだけが鮮明に浮かんできて、これまでこのような事はなかったのに……」
ミルクの未来視を掻い潜る魔物……。間違いなく普通じゃないわ。
やっぱり私が行くしかない。
「大丈夫。私は簡単には死にませんから。ミルク様はここで吉報を待っててください」
「はい!」
「セリーヌはミルク様をお願い。並の魔物なら問題ないでしょ?」
「まっかせて!」
ミルクの護衛をセリーヌに任せ、私は単身で王都に入る。
崩壊した門を飛び越え、王都の中央にあるご立派な城に向けて飛行を続け、やがて城の上空にたどり着くと、城の中から物騒な騒音が聴こえてきた。
ドズン! ドズゥゥゥン! ガガガガガ!
城の中で何かが暴れているのは確実で、凄まじい音と震動が辺りに響く。
「に、逃げろーーーっ!」
「バケモノだ、目に見えないバケモノが襲ってくるぞーーーっ!」
「戦ってる場合じゃねぇ! 早く城から逃げるんだ!」
ミルクの放った先兵たちが唖然とする中、城に詰めていた兵たちが我先にと逃走していく。
目に見えないバケモノ? 不可視な魔物がいるっていうの?
ドゴォン!
「Gyaoooooo!」
城のてっぺんが吹き飛び、正体不明の咆哮が轟く。
目に見えない魔物の正体はドラゴン系で間違いなさそうね。
「ななな、なんだいったい? 何が起こってやがるんだ!?」
「分からん。だが目に見えないバケモノものだと言っていたぞ?」
「見ろよおい、城のあちこちが崩れてやがる。早く逃げねぇと、俺たちまでやられるぞ!」
何かがおかしいと感じ取り、ミルクの軍も引き上げていく。
これで多少暴れても人的被害は出ないわね。
「アイリはーーーん!」
「ホーク! 無事だったのね!」
城の近くからホークが浮上してきた。
「マズイでアイリはん。ワイの鷹の目をもってしても、敵の姿が見えんのや!」
「やっぱり……」
ヘルザードのヤツ、とんでもない魔物を召喚してくれたわね……。
「ホークは一旦下がって」
「せ、せやかてアイリはん一人じゃ――」
「私よりアンタの方が弱いんだから、無茶したら取り返しがつかないわよ? いざとなったら逃げるから、言う通りにしなさい」
「ほ、ほな任せたでぇ……」
言い付け通りに、ホークはフラフラと撤退していく。
死んだ眷族は二度と復活しないんだもの、Bランクのホークは少々危険なのよ。
相手は正体不明なんだし、SSSランクのアンジェラを呼ばなきゃ。
『アンジェラ、今すぐ来れる!?』
『無論じゃ。すぐにでも駆けつけてくれよう』
これでよし。後はアンジェラが来るまで見張っておかな――
ゴォォォ!
「え――ブレス?」
ボォォォゥ!
「キャッ!」
空中から炎のブレスを吐きかけられた。
障壁が間に合ったからよかったものの、下手したら大火傷よ。
「Guuuuuu」
「!」
すぐ近くで唸り声が! まさか空まで飛べるっていうの!?
「GyaoGyaooo!」
ガッ!
「ガフッ!」
今度は真上から殴りつけられ地上へと急降下を始める。
思った以上に強い衝撃により意識を失いそうになるも辛うじて保ち、地上スレスレで急停止をかけ衝突を避けた。
「――っぶな……」
せめて魔力でも感じ取れればいいのに、おかしな事に魔力も生命反応も感じられない。
これだとどこから攻撃されるか分かったもんじゃないわ。
「待たせたな主よ。無事でなによりじゃ」
「俺もいますぜ姉御!」
ここで頼もしい眷族の登場よ。
アンジェラの探知波動なら居場所は丸分かりに――
「ところで主よ、いったい何と戦っておったのじゃ?」
「何――って、目に見えないドラゴンみたいなのが近くにいるのよ! よく探して!」
「で、ですが姉御、俺には何も感じられやせんぜ?」
「いや、だから生命反応すら感じない未知の魔物が――」
「そうは言うてものぅ、探知波動には何も引っ掛からないのじゃが……」
「……え?」
そんなバカな!
実際に私はブレスを食らったし殴りつけられもしたし、何もいないわけがない。
まさか探知波動すら掻い潜る魔物!?
「…………」キョロキョロ
……おかしい。さっきまで耳障りだった咆哮がパタリと止んだ。
しかも襲ってくる様子もない? これはいったい…………あ!
「二人とも、城壁の上よ!」
たびたび現れる金髪仮面少女が静かに私を見下ろしていた。
タイミング的にコイツが関わってなきゃ絶対におかしいわ!
「姉御、俺には何も見えないんですが……」
「妾もそうじゃな。特に生命体の反応はないぞ?」
「ええ!?」
ま、まさか二人には見えない!?
――ってあの少女、またどこかに転移した!
「よく分かりやせんが、姉御が無事だったし善しとしやしょうや」
「そうじゃのう。ほれ、ホークも来ておるぞ」
「ホーク!」
そうよ、ホークなら私と一緒に目に見えない魔物と遭遇したはずよ。
「アイリはん、無事でなによ――うおっと!」
「そんな事よりホーク、アンタは目に見えない魔物に会ったでしょ? 会ったわよね?」
思わずホークへと掴みかかり、ガクガクと揺らしながら問い詰める。
しかし……
「ほへ? なんのこっちゃ?」
「ついさっきよ鳥頭! 目に見えないドラゴンみたいなのが城で暴れてたじゃない!」
「よう分からんのやが、ワイは城の様子を見てこい言われて見に行ったんやで?」
「……誰に?」
「もちアイリはんや」
私が? いや、そんな事は一言も言ってない。
けれどホークが冗談を言ってるようにも見えない。
「なんやもう忘れたんか。ヘルザードとかいうのが暴走して城から兵が逃げ出したのを一緒に見たやろ? せやから味方の兵を一時的に下がらせて、ワイが様子を見に行ったんやで?」
これは……歴史が改変されてる?
いや、そうとしか思えない。
「なんでもミュールレイクっちゅう令嬢はんが、城でヘルザードが暴れ出して膨大な被害が出る言うたとアイリはんから聞いたんやで?」
いや、ミュールレイクはそんな事を言ってはいなかった。
やはり改変されてるとみて間違いないわ。
「ま、ヘルザードはワイがブッ倒したし、これにて一件落着や」
「んだよ、いいとこ持っていきやがって……」
「たまには良いのではないか? ヘタレなホークが活躍するのも」
「誰がヘタレでドアホやねん!?」
「ドアホとは言っておらぬがな」
とりあえず収まったのは間違いないか。
けれど金髪仮面少女。歴史を改変したのはやっぱりあの少女なの?
だとしたら何が目的なんだろ……。




