王都進行
「ミュールレイク様バンザーイ! アレクシス家バンザーイ!」
あれから5日後のお昼ごろ。ミルクが兵を率いてテッドモールへとやって来た。
この街はクリストファー公爵が治めていたところを、カオルというダンマスによって侵食されつつあった街よ。
侵食していたアンデッドは全て倒したし、カオル亡き後のダンジョンはアンジェラが攻略したしで、この街は安心安全。
「す、凄い歓迎ですね。まだ何もしていないはずですが……」
住民と兵士により熱烈な歓迎を受けたミルクが、門の前でオロオロと戸惑っている。
実は歓迎されてる理由には私が関わっていて、「アンデッドを討伐したのはテッドモールを救えというミルク様の命令」って事にしたわけよ。
そりゃもう皆さん揃ってミルクを崇拝するってもんでしょ。
「ミルク様は充分成し遂げてますよ。私とのコネが最大の功績だもの」
「そうなのですか? でしたらもっと調子に乗ってもよろしいのでしょうか」
「調子に乗ったらダメでしょ……」
そもそも調子に乗る必要がどこにあるというのだろうか。
ただでさえ面食いという面倒くさい一面があるんだから、おとなしくしててもらいたい。
「あ、ミルクミルク~、この街の冒険者ギルトにイケメンのギルマスが居るらしいよ~?」
「そ、それは本当ですか!? 是非ともご挨拶に伺わねば!」
「こっちこっち~」
「お待ちになって、セリーヌさん!」
セリーヌに誘導され、深夜0時を迎えそうなシンデレラの如く疾走するミルク。
この二人の面食いはとどまる所を知らない。
「はぁ……。せめてせバスティンが居れば暴走しないで済むんだけどね」
残念ながらバスティンは城塞の守備のため離れられない。
あっちはあっちで派兵を進めてて王都に迫る勢いらしいし、この調子なら丸く収まるのも時間の問題と言えるかもね。
『……で、王都の様子はどう?』
『ほいほい、こちらリポーターのホークやで。王都上空は晴天の青空って感じに――』
『天気予報はどうでもいいから、敵勢力の動きを教えなさいよ』
『冗談やて。こっちじゃいまだに二大派閥が衝突しとるな。お陰で街の奴らは徐々に逃げ出しとるし、そのうち誰も居らへんようになるとちゃうん?』
二大派閥とは、ブタ国王を倒したリードヴィッヒという近衛が次の国王だと主張する派閥と、それに異を唱えるヘルザードという宮廷魔術師の派閥よ。
まだ争いが続いてるなら好都合ね。潰しあってる間に一気に攻め込んじゃえば楽勝かな?
でも一方で油断ならない勢力も存在する。
『こちらペサデロ。ゼノン教団がギラード派だった貴族の取り込みを強化している。このまま放置すると更に強大化すると思われる』
今までおとなしかったゼノン教という宗教団体が、活発な動きを見せているらしい。
『厄介な事になりそう?』
『大丈夫。そう思って既に壊滅させてある』
『そう。なら安心――』
ん? 壊滅?
『ちょっと待って。何が壊滅したって?』
『ゼノン教団』
『……………………なぜ?』
『ムカついたからやった』
ホワット? 何故そこでムカつくに繋がるのかが分からない。
『ゴメン。よく分かんないから、順を追って説明して?』
『教団に侵入。教祖が女性信者を食い物にしている事実を掴む。胸糞悪い。ブッ飛ばす。被害にあった女性信者の口から教祖の悪評が漏れる。教祖が半殺しに合う。もう教団としてなりたたない。以上』
あ~~、つまり女性の敵だったからボコったと。
これは分からなくもないし、大目に見よう。
『半殺しにされた教祖はどうしてるの?』
『その辺の道端で物乞いをしている。家具も衣類も財産も全て没収して放り出したから、その日の生活すら苦労すると思われる』
『そ、そうなんだ……』
絵に描いたような転落人生ね。
自業自得だから放っておこう。
『主よ、ディーケンス公爵なのじゃが――』
そうそう、ゼノン教とは別に油断ならないもう一つの勢力がここよ。
何しろ王都を挟んで西側を領地にしているから、ソイツを倒すには王都を攻略する必要がある。
『ついに動き出した?』
『いや、妾が邸に侵入したところで見つかってしもうてな、やむ無く応戦しとったのじゃがモフモフが暴走してもうてな――』
あ~はいはい、何人か殺しちゃったから大騒ぎになったと。
それだと侵入させた意味がないんだけどなぁ……。
『こうなりゃ本丸を討ち取ってやるぜと意気込んでの、ディーケンス公爵を半殺しにしてもうたのじゃ』
……凄いデジャヴを感じる。
ついさっきも半殺しになったヤツが居たかのように。
『お陰で後始末が大変で――』
『ふざけんなアンジェラ! 元はと言えば、お前が衛兵を挑発したからじゃねぇか! 火ぃ吹いて邸を焼いた上に死にたくなければ全力を出せなんて言や、誰だって捨て身でかかって来らぁ!』
『フン、邸が燃えたくらいで取り乱す連中など所詮その程度じゃ。それに公爵を半殺しにしたのはモフモフよ、お主であろう?』
『う……そ、そりゃお前、邸が燃えたら逃げちまうだろうし、多少は痛め付ける必要があるだろう……』
何となく分かった。
アンジェラに触発されて、モフモフまでついつい力を出しすぎてしまったと。
『……で、半殺しになった哀れな公爵はどうしてるの?』
『公爵か? 地位も名誉もくれてやるから命だけは助けてほしいと悲願してるぞぃ? なんだったら娘もくれてやると言うとったが、モフモフは拒否しとったな。妾が貰っても意味がないし、どうしたものかのぅ』
どうしたものかは私の台詞よ……。
これじゃあ正体不明の二人にボコられたって事になるじゃない。
『なら公爵に伝えておいて。地位も名誉もいらないから、おとなしくミュールレイク様に従うようにって』
『分かりやしたぜ!』
『うむ、承知したぞぃ』
よく分からないうちに敵は王都を残すのみとなっていた。
今ならさっさと動くべきかもしれないと考え、冒険者ギルドで油を売っていたミルクとセリーヌを回収し、王都に向けて進軍させる事に。
「何だか順調過ぎて怖いくらいですね。つい最近までコソコソと人目を忍んでいたのが嘘のようです」
進軍する多数の兵を前にして、乗馬しているミルクがどこか遠い目をしながら呟く。
私としては、見た目によらず手綱を握っている姿が様になっているのに驚いたわ。
セリーヌと私は乗馬が苦手――というか殆ど経験がないため、ミルクの近くを低空飛行している状態よ。
「ところでさ~、ミュールレイクって今回の内乱で両親を亡くしてるんだよね? 寂しくない?」
「セリーヌ、そんなド直球に……」
「いえ、いいんですよアイリさん。実のところ両親はあまり好きではありませんでしたので」
これは意外だった。
人の良さそうなミルクだけに、例え嫌いでも表面は取り繕うと思ったんだけど。
「伯爵だった父は、いかにしてアレクシス家を王家として復権させるかを優先し、民の事はまるで眼中にありませんでした。母も同じ考えだったようで、民の声に耳を傾けてる様子はまるでなし。これでは復権したところで、ろくな国にはならないだろうと……」
その言葉だけでもボルディール王国のブタ国王を思い出す。アレは王妃も王女も救いようのないクズだった。
それを考えればミルクはまともね。この人なら国を託してもいいと思えるわ。
「せめてイケメンを最優先に救済し、当家の給仕として採用すべきです! もちろん他の民も救いはしますが、イケメンこそ絶対正義なのです! お二人もそう思いますよね!?」
「そ~だそ~だ、あたしにもイケメン彼氏を寄越せ~!」
セバスティンにキッチリと教育させる事にしよう……。




