公爵のお膝元
「よし、通っていいぞ」
「ありがとう御座います」
「ありあり~♪」
門番に軽く会釈すると、セリーヌと共に中へと入っていく。
やって来たのはクリストファー公爵が治める大都市テッドモールで、目的はもちろん――
「それで、どうやって公爵を倒――おぅえ!」
「声が大きいってば。怪しまれたら面倒な事になるんだから、堂々と話しちゃダメ。それにちゃんと考えてあるから大丈夫よ」
「む、むむっぐぐるぐぐもふむふぅ!(わ、わがっだがらグビをはなじでぇ!)」
セリーヌの口と、ついでに首を絞めつつ人通りの少ない場所へと移動する。
ここへ来た目的は、クリストファー公爵の首――と言いたいところだけど、予想では既に死んでいると思われるので、公爵に成り代わってるやつの討伐よ。
「あ"~ぐるじがった。……で、どこへ向かってるわけ? 見た感じどんどんボロっちぃ場所に進んでるみたいだけれど」
「裏情報に詳しいやつのところよ」
「いかにも治安が悪そうな場所に?」
「そ。情報屋っていうのは大抵闇ギルドと繋がってるの。言わば表向きの顔ってやつね。ソイツらなら公爵に関する情報を持っててもおかしくないわ」
この辺りの知識は、5000年前に傘下にしていた闇ギルドから得たものよ。
現にカゲマルもそうだったしね。
「わざわざお金を出してまで仕入れるの? そんなことしなくても、アイリなら正面から殴り込んじゃえば――」
「そうも行かないのよ。領主が死んだとバレたら街中がパニックになる。だから今の公爵はニセモノだって触れ回り、倒してもいいという大義名分を獲たいってわけ」
そうすればラムシートから派兵して、堂々とここを占領できる。
「それにお金も払うつもりもないからね」
「……やっぱり力ずく?」
「もちろん」
どうせ闇ギルドの懐に入るだけなんだし、脅して吐かせれば良いだけよ。
「よぉよぉお嬢ちゃんたち、こんな場所に女2人たぁ無用心だぜ?」
「ヘヘッ、俺たちが安全な場所まで案内してやるよ」
「遠慮さいらねぇで? フヒヒヒ!」
ボロ家の建ち並ぶ入り込んだ場所で、イヤらしい目をした男3人に囲まれた。
ちょうどいいからコイツらに聞いてみよう。
「アンタら――」
「あ"~~もう最悪~~! どうしてゴロツキってイケメンがいないんだろ。どうせならもっとカッコいい男にナンパされないな~」
違う、そうじゃない!
「んだとゴルァ!」
「俺たちがブサメンだとでも言いたいんか、ああ!?」
「チョロくて悪い、チョロ悪オヤジってなぁオラたちの事だで!」
いや、知らないし……。
そもそも誇れる呼ばれ方なのかと問い詰めたい。
「うるさいなぁ、まとめて眠っちゃえ!」
シュィーーーン!
バタバタバタッ!
「これでオッケー♪」
「うん上出来――って」
「ちっがーーーう! せっかく情報屋の居場所を聞き出そうと思ったのにぃ!」
「そんなの、いつもみたいに叩き起こせばいいじゃない」
「……まるで暴力女みたいな扱いね?」
「違った?」
「全然違うっての――ナーブプラス!」
バスバスバスッ!
「――ったく失礼しちゃうわね!」
ゲシッ!
「アンギャァァァァァァ!」
「うるさいなぁ、ちょっと頭を蹴っただけじゃない」
「いやいや、そのナーブプラスって確か痛みが10倍になるやつじゃ……」
「フンッ!」
ゲシゲシッ!
「ホンギョレェェェェェェ!」
「アビバビバァァァァァァ!」
「ったく、どいつもこいつも、ちょっと蹴っただけで悲鳴あげちゃって……」
「わ、わかった、わかったから。アイリは暴力女なんかじゃないから。訂正するから落ち着いて!」
「…………」
「やっぱりそうよね!」ニコッ!
「その笑顔は怖いからマジでやめて」
ほんの冗談のつもりだったのに、マジに怖がられてしまった。
普段から真面目だとこういう時に損よね。
「じゃ、お遊びはここまでにして……」
「(遊びには見えなかったんだけどな~)」
ガシッ!
「ヒィ!?」
「情報屋の場所を教えなさい。素直に話さないと――」
「こ、この街にはいねぇ」
「……こんな大都市なのに?」
「ほほほ、本当だ! 闇ギルドも存在しちゃいたが1ヶ月くらい前から公爵が本腰上げやがって、軒並み刈り尽くされちまったのさ」
ふ~ん、公爵がねぇ。
大抵の貴族は闇ギルドとは関わらないか積極的に関わるかの二極化と言われてる。
なのにわざわざ刈り尽くすなんて、余程知られたくない情報でも掴まれたかな?
それかDPに変換されたとか?
「お陰でこの街じゃ派手に暴れられねぇってんで、俺たちみたいな小者しかいねぇのさ」
さすがチョロ悪オヤジども。
臨機応変に適応するのもチョロかったわね。
「じゃあアンタらでいいわ。クリストファー公爵について何か知ってる事はない?」
「わ、悪ぃがさっき話した通りでよ、俺たちゃ関わらないようにしてんのさ」
「知ってる事と言や、他の貴族とも交流が少ないってことくらいだ」
どうやら有益な情報は獲られそうにないわね。
仕方ない。直接乗り込んで――
「あ! そういやよ、冒険者ギルドの依頼に住み込みで働ける給仕ってのが上がってたぜ?」
「給仕? わざわざ募集をかけてるの?」
「理由は知らねぇが募集はしてるな。たびたび行方不明者が出るって噂が流れてて、みんな気味悪がって受けねぇらしいが」
行方不明者か。
よし、依頼を受けて潜り込んでみよう。
「公爵の邸はどこ?」
「その通路から表通りに出てまっすぐ西に行けば見えてくるぜ」
「うん、ありがと。もし嘘だったら――」
「それだけは絶対にねぇ! あんな激痛は二度とゴメンだ!」
邸の場所くらいでそれもそうかと納得し、チョロ悪オヤジ共は解放してやった。
私とセリーヌは冒険者ギルドで依頼を引き受け、クリストファーの邸へと向かうことに。
もちろん受けたのは給仕の仕事で、一際目立つ豪勢な邸へと足を運ぶ。
「おお、新しい給仕か。ついてこい」
「お願いします」
「しま~す♪」
門を通され人気の感じない広々とした庭を左右に眺め、遥か先に見える邸へと向かう。
もっと警備が厳重でもよさそうなのに、邸へ入るまでに目の前の門番1人しか見かけない。
セリーヌも不審に思ったのか、小声で私に耳打ちしてきた。
「な~んか人が少ないよね? 警備費用をケチってるのかな?」
「まさか。貴族は見栄を張る生き物よ。目に見えてケチケチするなんて、他の貴族から笑われるわ」
「じゃあ何で少ないと思う?」
「見栄を張る必要がなくなった――もしくは警備の必要がない――そんなとこでしょ」
「ええ? よく分かんないんだけど……」
ま、答えは目の前にあるんだけどね。
名前:グランス 性別:男
年齢:概念なし 種族:ゾンビ
備考:元はクリストファー公爵の邸で門番をしていたが、何者かにより殺害されゾンビとして使役させられている。
はい。これが鑑定結果よ。
随分と侵食が進んでるみたいで、邸の中だと生きてる人はいないのかも。
「この部屋で待っていろ。すぐに執事がやってくる」
そう一方的に告げると、ゾンビ門番は戻っていった。
応接室に残された私たちは、執事とやらが来るのを待つことに。
「邸の中も静かすぎじゃない? 本当に貴族のお邸なの?」
「正確には元貴族でしょ」
「元――って、じゃあやっぱり――」
プシュ~~~!
突然壁や天井から白い気体が噴出されてきた。
この成分は……
名称:熟睡霧
備考:身体に付着すると急激な睡魔に襲われ、やがて深い眠りについてしまう。
「何コレ?」
「相手を眠らせる霧よ。私たちには効果ないけれど」
セイレーンのセリーヌには効かないし、ミルドの加護がある私にも当然無効よ。
ギィィ……
「「ん?」」
「お前たち、速やかに運び出――」
数名の兵士と一緒に執事が入室してきた。
私たちの顔を見るや、仰天して後ずさる。
「な、なな、なんで眠っておらんのだ!?」
「なんでって、効かなかったからに決まってるじゃない」
「まったくよね。どうせなら渋めのイケメン執事を寄越せっての」
だから違うっちゅうに!
「フン、ならば仕方ない。貴様らは殺してから使役するとしよう――かかれ!」
「「オオォォ!」」
ザシュザシュ!
「……はぇ?」
瞬時に斬り伏せた2人を見て、執事の爺さんが硬直した。
「な、なな、ななななな……」
「バカね、私たちをその辺の冒険者と一緒にしないでくれる?」
チャキ!
「ヒッ!? ままま待ってくれ! お主らが強いのは分かった。だが仕方なかったのだ。こうするしか――奴の言いなりになるしか、生きる道は残されてはおらん」
名前:セバスジョン 性別:男
年齢:概念なし 種族:人間
備考:とあるダンジョンマスターによって絶対服従を誓わされた執事。
命令に背くと命が危ない。
てっきり全員死んでるものだと思ったのに、生きてる人もいたのね。
「……奴って誰?」
「名前は知らないが、恐ろしい女だ。ある日の夜、突如としてアンデッドと共に侵入してきたかと思うと、瞬く間に邸を占拠してしまった。それから今までずっと言いなりに動き、街の連中を少しずつアンデッドに変えている」
裏側から支配するつもりね。
得意分野はアンデッドで、女のダンジョンマスターか。
「行方不明者がいるっていうのも?」
「左様。私と同じように死ぬまでコキ使われるか、すでにアンデッドへと身を落としているかのどちらかだろう。あの女さえ来なければ、クリストファー様がボルディールをまとめていたはずな――――ガハッ!」
「「!?」」
いきなり血を吐いてもがきだすセバスジョン。
やはり口封じ……
「――――」
「うっわぁ……なんか死んだっぽい」
最後には白目を向いたまま動かなくなった。
「もう少し情報が欲しかったけれど、やむを得ない。詳しくは公爵本人から聞きましょ」




