イケメンの誘惑
「報告します。クリストファー公爵のご子息アルドロン様が面会を求めて参りました」
「クリストファー公爵の……」
名前を聞いて渋い顔を見せる爺や。
「爺やの知ってる人?」
「うむ。此度の内乱では大勢力の一角とも言える公爵家ですな。その息子が手勢を率いて現れたとあれば、隙を見て城塞を奪おうと企んでるのは明白……」
「なるほどね」
「――ついでに言うがアイリ殿、それがしの事はセバスティンと呼んでいただきたい」
「それは失礼」
この人セバスティンって名前なんだ……。
「でもでも、アルドロン様は20代前半のイケメンらしいですよ? ぜひ会ってみたいわ」
「「……はぁ?」」
奇しくも爺やとハモってしまった。
いやもう会う理由が不純すぎて……。
「イケメンか~、あたしも会ってみたいな~」
そういやセリーヌも面食いだったわ……。
「オッホン! とにかくですな、直に会うのは危険です。まずはそれがしが面会致しましょうぞ」
「あら~残念」
「私もセバスティンに賛成よ。そもそもミルク様の予知ではどうなってるの?」
「それがですね、断片的にしか分からないんですが、なぜか脂汗を流してるアルドロン様が見えるんです」
鑑定スキルで何かを看破したってとこかな?
「何やらアイリ様に追及されて狼狽えているところが見えます。アルドロン様の正体がどうとか。ともあれ、アイリさんがいれば問題なさそうですよ?」
「し、しかしですな、これ以上アイリ殿の世話になるわけには――」
「そんな物欲しそうな目で見なくても、最後まで手助けするわよ」
私としても、ボルディールの国内をまとめてくれないと困るわけだし。
「かたじけない。この恩はいつか必ず!」
「アレクシス家が再興した時は楽しみにしてるわ」
私が同伴で面会することになり、護衛二人を伴ったアルドロンと応接室にて顔を合わせることに。
軽く自己紹介を済ませ、歯が命と言わんばかりに前歯を光らせたアルドロンがにこやかに切り出してきた。
「しかし驚きましたよ。あのギラードを退けて城塞を奪い取るなんてね。予定では奴の様子を窺って戦略を組み立てようと思ったのだけれど、ミュールレイク殿となら共に手を取るという選択もできる」
「あら~、ありがとう御座います。わたくしとしてもアルドロン様のようなイケメンに申し込まれては、断る術を持ち合わせておりませんわ」
そこは持ち合わせてほしい。ほら、爺やもため息ついてるじゃない。
もしかしてだけど、ミルクってば見た目で善悪を判してるんじゃないでしょうね?
したり顔のアルドロンもムカつくし、ここはキチンと言っとかなきゃ。
「ハハッ、お世辞でも嬉しく思いますよ」
「そうよね。魔物がイケメンだとか、冗談にも程があるわ」
「「「……え?」」」
時が止まったかのように、視線が私へと集中する。
鑑定スキルではゾンビアルドロンってバッチリ出てるんだもの、魔物じゃないなら何なのかって話よ。
護衛二人もスケルトンだったし、もう完全に真っ黒ね。
「い、いったい何の話を……」
「惚けても無駄よ。アンタからは魔物の臭いしかしないわ」
「は……はは……そ、それは多分、ここに来る途中で魔物の群と遭遇したからですよ」
苦しい言い訳が始まったわ。
「魔物の群にねぇ……」
「ええ。大量に返り血を浴びましたので、そのせいでしょう」
「その割には血の臭いがしないけど?」
「う……」
はい、墓穴掘りました~。
名探偵アイリの反撃開始。
「鎧にもそれらしい血痕はないし、むしろ新調したばかりって感じの真新しい鎧よね」
「ぐ……」
「しかもお店で購入したとは思えないほど左右が均等な作りよ。まるで錬金術で作り上げたか、もしくは――」
「ダンジョンで召喚したアイテム――とかね」
「なっ!?」
のけ反るほど驚くってことは、どうやらビンゴらしい。
つまり、コイツの背後にいるのはダンジョンマスターよ。
「アルドロン殿、お主まさか!?」
「……フッ、バレてしまっては仕方ない。友好関係を結んで利用するつもりだったが、強行手段を取ることにしよう!」
アルドロンが剣を抜くと、後ろのスケルトンも同時に動く。
けれど――
「遅い!」
バキィン!
「ぐぁっ!?」
ミルクに斬りかかったアルドロンを剣ごと弾き、スケルトン2体を透かさず斬り伏せる。
尚も起き上がろうとするアルドロンに剣を突き付けジ・エンドよ。
「お見事です、アイリ殿! さぁアルドロン、おとなしくしてもらうぞ!」
「く……」
悔しげな表情を見せるイケメン(仮)を爺やが拘束していく。
「む~~、せっかくのイケメンでしたのに勿体ない……」
「面食いもほどほどにね。じゃないと取り返しのつかない事に――」
「こ、これは奇っ怪な!」
「……セバスティン?」
爺の声につられて振り向く。
そこにはドロドロと溶けていくアルドロンの姿が!
「か、体が……溶けて……いく……」
「突然このような有り様なったのです! これはいったい……」
「召喚主による口封じよ」
ダンジョンマスターは召喚した魔物や眷族の視点に移すことができる。
つまりアルドロンの現状を見て、口封じを選択したってことに。
「どうやらアンタは見捨てられたようね」
「そ……んな……」
ほどなくして泥の塊になると、光の粒となり消えていく。
「はぁ……命短きイケメンでしたわ……」
「そんなこと言ってると、そのうち詐欺に引っ掛かるわよ?」
「でもでも、わたくしには未来告知があるんだもの、簡単には騙されないわ」
アルドロンを前にして、目をハートマークにしていた人の台詞がこちらです。
いくら強力なスキルがあったって、こんなの不安になるっての。
「……オッホン! とにかくですな、これでクリストファー公爵とは完全に敵対したと言えますな」
「でもアルドロンはゾンビだったし、その公爵も殺されてる可能性が高いわよ?」
「し、しかし、クリストファー公爵も大勢力を維持している強者ですぞ? そう簡単に殺されたりは――」
「大勢力だったギラードでさえ死んでるくらいよ? こっそり暗殺されてても不思議じゃないわ」
「むぅ……」
私の予想では九分九厘殺されてるわね。
わざわざ生かしておいて命令するより、成り代わった方がやり易いもの。
「そのクリストファーとやらは私が調査するわ。その間にミルク様は勢力拡大を進めて」
「はい、頑張ってやってみます。まずは兵士の中にイケメンがいないかを調べて――」
「「それは後回しです!」」
またまた爺やと被った。
というかこの人、イケメンなら身分差すら気にしないのね……。
セリーヌだってここまで重症じゃ――
「あーーーっ、イケメンはっけーーーん! 待て待て~♪」
訂正。どっちも重症だわ……。
「……コホン。ではアイリ殿、クリストファー公爵の件はお任せしますぞ」
「分かったわ。セバスティンもミルク様をお願いね?」
「勿論だとも!」
さてさて、今度のダンマスはどんな奴なんだろ。




