未来視令嬢
ボルディール王国の内乱突入から1ヶ月と半月。
我こそはという野心家が現れては消え、大まかな勢力が固定されつつあった。
当初その内の一つであった勢力で、権力争いに負け両親を失った公爵令嬢ミュールレイクが山奥の別荘にて霧隠れしている――のだが……
「んん~~ん、今日も良い天気。すっかり秋という感じなのに、ポカポカしてて気持ちいいです」
危機感もなく窓際で延び運動をしているのが公爵令嬢ミュールレイクであり、栗色のロングヘアーを風で靡かせ、外の景色を眺めていた。
コンコン!
「失礼しますぞミルク様。朝食の用意が整いまして御座います」
入室してきたのは側近と護衛を兼任している初老の男で、両親を失ったミュールレイクと少数の私兵を連れて、この邸へと避難してきたのである。
「ありがとう爺や。せっかくですが、朝食は戴けそうにありませんわ」
「しかしミルク様、食事はしっかり取っていただかないと、今後の活動にも影響が出て参りますぞ? 内乱によりお父上とお母上がお亡くなりになられたのは痛み入りますが、ミルク様が健在であられる以上、当家はまだまだ戦えるのです!」
鼻息を荒くしながら力説する爺や。
彼は両親の不幸によりミュールレイクが食欲を無くしていると思ったのだ。
しかし当のミュールレイクは頭を振って否定し……
「いえ、そうではありません。もうすぐお客様が来る光景が見えたのです」
「……はぁ、また未来視で御座いますか」
先ほどから危機感が感じられない理由の一つが、爺やの言う未来視である。
実はこの令嬢、未来告知という特殊スキルを持っており、これにより誰かが訪ねてくる事を知ったのだ。
「ミルク様のスキルを疑うわけではありませぬが、その来客とやらが味方である保証はありませぬぞ?」
「でもでも、とってもお得な情報を持ってきてくださるのですよ? なんでも城塞都市ラムシートが無償で手に入るとか」
「…………はい?」
タダで城が手に入ると聞き、目を点にして棒立ちする爺や。
未来告知によると、今なら城塞を統治している者はいないため、戦わずして入城できるという朗報が舞い込むらしい。
ならば朝食くらいは後回しにしても構わないと、ミュールレイクは思ったのである。
「お言葉ですが、些かスキルに頼りすぎですぞ? その者がミルク様を騙そうとしている可能性も――いえ、そもそも簡単に城が手に入るなど、戯言以外の何物でも御座いませぬ!」
「でもでも、このスキルがあったからこそ邸に着くまで敵と遭遇しなかったのですよ~?」
「そ、それはそうかもしれませんぬが……」
実際に何度か敵とニアミスしているのだが、どのルートを通ると遭遇するかを予知し、それを避けることができたのだ。
「それに~、爺やが階段から落ちると言い当てましたのに、無視して転げ落ちたではありませんか」
「それはミルク様が幼少の頃の話ではありませぬか! あの時はまだ信じていなかったゆえに――」
「では今なら信じてくださると?」
「うむむむむ……」
事実ミュールレイクの予知はよく当たる――というよりも、外れたことはないと言った方がいいだろう。
つまり100%的中するのだが、未来を簡単に変えてしまえる能力に頼りすぎるのを、爺やとしては心配しているのだ。
「……コホン。とにかく、素知らぬ相手なら警戒するに越したことは御座いません。ささ、早く地下へ――」
「でもでも、もう間もなく来るみたい」
「なんと! もうじき来るのであれば、ここで迎え撃つしか――」
「待って爺や! そっちの窓際は危な――」
ゴツン!
「「いったぁぁぁぁぁぁい(ぞぃ)!」」
外を警戒しようとした矢先、空から突っ込んできた少女――アイリと激突してしまった。
「だから言いましたのに……」
これもスキルで見たのと同じ未来である。
シュタ!
「よっと。――あれ? アイリは…………爺さんと一緒に転がって何してんの?」
室内に着地するのと同時に人化したセリーヌが、床で悶えているアイリを発見した。
「貴女のお友達とわたくしの爺やが出会い頭に……」
「あ~なるほど。ゴッツンコしたんだ」
「あたたたたた……。アンタら、見てないで手を貸しなさいよ……」
★★★★★
「――って感じでして」
「まぁ凄い。城塞都市ラムシートを攻略してしまったのですね~」
自己紹介を済ませ、これまでの経緯を簡単に説明した。
捕らわれた仲間を助けるために城塞を落としたこと、そこを根城にしていたギラードっていうなんちゃって皇帝を倒したことを。
ちなみに聖徳とミラクルはアイリーンに送っといた。一緒だと危ないしね。
「でわでわ、今現在ラムシートを治めている者はいないのですね?」
「そういう事です。無傷で城塞都市に入れますので、動くなら今のうちかと」
「分かりました。ではさっそく――」
「お待ちくだされミルク様ぁ!」
あいや待たれぃ――って感じに、爺やが割って入ってきた。
「いくらなんでも話が上手く行き過ぎですぞ? このような戯言に耳を傾けるなど、断じて反対に御座りまする!」
「でもでも~」
「それにですぞ? 如何にしてここに潜伏していると分かったのかも謎ですし、何ゆえミルク様を後継者として選ばれたのかも不明に御座りまする。そして何よりタダで城をくれてやるなど、こんなご都合主義がどこにあると!」
ごめん、ここにあるんだわ。
「じゃあ証明するからついて来て」
「ぬぉ? いったいどこへ――」
爺さんの手を引いて城塞まで一発転移。
その目で確かめれば……
シュン!
シュタ!
「ミルク様、急いで支度をお整えくだされ。今ならラムシートが無償で手に入りますぞ!」
「まぁ! やはり正しかったのですね」
ご覧の通りよ。
やっぱり現実を突き付けるのが効果的だったらしく、多くの兵士が白旗持って振っている姿に目を丸くしていたわね。
★★★★★
「――ってなわけで、今日からこの城塞都市はミュールレイク様が治めるから。心から感謝して忠誠を誓うように」
「「「ミュールレイク様バンザーイ! バンザイったらバンザーイ!」」」
下に集めている兵士に向かい、城塞の上から拡声器で告げてやった。
私(魔物)からの呪縛が解けると知り、兵士たちは大喜びよ。
「見てくだされミルク様。これで当アレクシス家は安泰ですぞ!」
「ええ、凄い声援ですものね~」
散々魔物で脅しておいたからね。
私から普通の公爵令嬢に渡ると思えば、涙を流して喜んでいる連中の気持ちも分からなくはない。
「しかしアイリ殿、何ゆえここをお譲りになられたのか、お聞かせ願いたいのだが……」
「ああ、それね。この城塞を落とした理由はさっき話した通りで、ここを占領するのが目的じゃないからよ。それにミルク様はアレクシス家の後継者でしょ? 贔屓するのは当然よ」
5000年前はアレクシス王国という大国だったし、その国の王族とは個人的に親しかったのもある。
どうせなら私情を挟んじゃえと思い、ミルクを支援することにしたのよ。
「なるほど、由緒正しきアレクシス家なら間違いはないと考えたのですな。うむうむ、ならば納得できるというものですぞ」
「でしょ?」
「ですがどのようにして我らの居場所を? 部下が外部の者と接触していた事実は御座らぬし、敵が知っていた可能性も皆無では――」
「それなんだけれど……」
ガサガサ!
「むむ? この地図は……」
「城主が居たらしい部屋から見つかった地図よ。あちこちが丸で囲ってあるでしょ?」
あのギラードとかいう中途半端な皇帝から見て、敵勢力とおぼしき場所に丸印がつけられてるのよ。
ご丁寧にアレクシスと書かれてるし、コレを見た以上ここに行くしかないと思ったわ。
「なんと! ギラードめ、我らを泳がせていたのか……」
「そういう事。でも良かったじゃない、ギラードの集めた兵と城塞が手に入って」
「それについては誠に感謝致しますぞ。お陰でアレクシス王国という名を再び歴史に刻むことができそうですからな!」
それは私にとってもありがたいわ。
友好関係だったアレクシス王国が再び誕生するのは、ちょっとした感動を覚える。
「あ、怪しい軍勢をはっけ~ん。アイリ、南西から軍隊が迫ってるわよ?」
「え? もう攻めてきたの!?」
人化を解いて旋回していたセリーヌが敵軍を捕捉したらしい。
さては逃げた兵がチクりやがったわね?
「ご心配には及びませぬぞ? この城塞は簡単には落ちませぬゆえ、必ずや護り通して見せましょうぞ!」
「ええ。せっかくの好機ですもの、みすみす逃したりはしませんわ」
爺やもミルクもやる気らしい。
でもちょっとだけ心配だし、もう少し様子を見てることにしよう。




