ジェルゾンビ
「曲者め、かかれぇぇぇ!」
「「「うおぉぉぉ!」」」
「は~い、ちょっと眠っててね~っと」
シュィーーーン!
バタバタバタバタッ!
「いたゾ、あそこダ!」
「「「オオォォォ!」」」
「ったくしつこいわね――スプラッシュファイヤーボール!」
ドドドドドン!
前の敵をセリーヌが眠らせ、後の奴らを私が燃やす。
邸の事を露呈させたくないようで、応接室から飛び出してからというもの、どこからともなくゾンビ共が湧いてくる始末よ。
「あ~らら。その人たちってば燃やしてよかったの?」
「ゾンビだったから燃やしたのよ。生身なら殺さないから」
生きてるヤツも混ざってるので、そういう連中は気絶させるまでに留めておく。
無理やり契約させられてるはずだから、ここのボスを倒せば契約は破棄されるわ。
「それよりほら、また正面から来てるわよ」
「あ~、来てるけどまたハズレかぁ……スリープシェイブ」
いやいや、ハズレって何よハズレって……。
こんな時にまでイチイチ顔をチェックするなっての。
「それで、どこに行けばいい?」
「公爵の居るところよ。走りながら教えるからそのまま走って」
「は~い」
尚も現れるゾンビを撃破し、左に右にと通路を移動してしく。
何度か階段を登り、瘴気が漂う部屋が見えてきた。
「奥の部屋から瘴気を感じる。そこに公爵のニセモノがいるはずよ」
「オッケー。あの部屋に入れば――あ、また何か出てきた!」
グニュグニュグニュ……
「またゾンビか……」
「ここかラ先へハ進ませン! マスターの敵ハ我らが討ツ!」
床から湧き出たゾンビ共が整列し、こちらの行く手を阻む。
「今度のはゼリー状かぁ。でもタイプじゃないや」
「なら焼き尽くしても問題ないわね――フレイムキャノン!」
ズドン――――ドゴォォォン!
立ちはだかったゾンビ共を炎の砲弾で消し飛ばす。
砲弾は奥の部屋にも届き、扉の向こう側が少しだけ伺える。
「アイリ、何かが窓から出ていったよ?」
「ええ!?」
まさかボスのくせに逃げるつもり!?
「追うわよ!」
「はいは~い!」
部屋に突入して窓の外へと身を乗り出す。
ちょうど真下は中庭になっていて、水路で区切られた花壇がキレイに並んでいた。
けれどボスとおぼしき輩は見当たらない。
「瘴気が拡散してて居場所が掴めない。セリーヌはどう?」
「う~ん……ここから飛び降りたのは確かよ。確かスライムっぽい感じのやつだったから、水路に紛れてるのかも」
スライムっぽいやつか……なら!
「水路を塞き止めちゃえ! ――サンドストーム!」
ズザザザザァァァァァァ!
水を巻き上げたうえで、砂で水路を埋めつくしてやったわ。
これならどうよ?
「ホワァァァァァァ!?」
グチャッ!
あ、あれ? 太ったオッサンが空から降ってきたと思ったら、地面に激突して飛び散ったんだけど……。
「砂嵐で水ごと巻き上げちゃったからじゃない? 水と一体化してたとか」
「あ~、そういう事」
ズ……ズズズズ……
あ、飛び散った液体が一ヶ所の集まりだして、太ったオッサンが形成されていく。
死んだと思ったらそうでもないらしい。
今のうちに鑑定しておこう。
名前:ジェルゾンビ 性別:男
年齢:??? 種族:アンデッド
備考:Dランクの魔物。殺害したクリストファー公爵の身体を使い、本人に成り済ましていたゾンビ。
とあるダンジョンマスターの眷族である。
やっぱりダンジョンマスターか。
暗躍されるとやっかいだし、放置するのは危険ね。
「クソゥ……ふざけた真似をしやがって、もう許さんぞ!」
「フン。逃げたくせに強気じゃない」
「逃げたわけではない。戦略的撤退だ!」
「それを逃亡っていうのよ」
「チッ、口の減らないやつめ。これでも食らえぃ!」
ブシューーーッ!
見るからに毒ですって感じの液体を飛ばしてきた。
けれど低速だから回避は余裕ね。
「よっと。食らえと言われて素直に食らうバカはいないわよ――テャ!」
ズバッ!
窓から飛び降りるのと同時に、ジェルゾンビを真っ二つに――
「フハハハ! 甘いぞ小娘ぇ。俺の身体は見ての通りにジェル状だ。斬られたところで痛くも痒くもないわ!」
斬ったはずの胴体が徐々に復元していく。
物理がダメなら――
「じゃあこれでどう? フレイムウォール!」
「何!?」
炎の壁で取り囲んでやったわ。
「ググ……ァアアアッ! 焼ける、焼けるぅぅぅっ!」
全身を引きずって脱出を試みるも、炎の壁がそれを阻む。
もがくことしかできず、徐々に身体が縮んでいく。
「さっすがアイリ、Dランク程度じゃ相手にならないよね!」
「ア、アイリだと? 貴様があのアイリだと……いう……のか」
「どれを指すのか知らないけれど、アイリなのは間違いないわ」
「く、くそぅ……マスター、お許しを……」
最後は蒸発するように消えていった。
「あ~しまった! 裏にいるダンマスの情報を聞き出してなかった!」
「クリストファー公爵ってのも死んでたんだよね? つまりはお手上げ――っと」
あ~めんどくさ。
こうなったら地道に探すしかないか。
「おーい、君たちーーっ!」
邸にいた兵士たちがぞろぞろと走ってきた。
その後ろに続いている冒険者風の人たちも含め、ジェルゾンビを倒したから呪縛から解放されたみたい。
「君たちがあのアンデッドを倒してくれたんだね、お陰で助かったよ」
「もう一生このままかと思ったぜ……」
これにて一件落着――とはならないわね。
なぜなら……
「しっかしこれから大変だな。後継者争いが続いてるってのに、その一角であるクリストファー様がお亡くなりになられたんだから」
「こりゃ他の貴族様に保護を求めるしかないよな?」
「でも素直に聞いてくれるかしら? 公爵の一族は皆殺しにされたんでしょう?」
「それな。最悪は冒険者ギルドに頼んで、間に入ってもらうしか……」
こんな感じよ。
あ、まてよ? これって都合がいいかも!
「あの~、その事なんですが、私はアレクシス家とコネがありますんで、頼んでみましょうか?」
「アレクシス家と? でもなぁ……」
「確かアレクシス家の当主は、ギラード元帥の反乱で討ち死にしたんだろ? 没落手前の貴族様じゃ、とても……」
あ、そっか。一気に盛り返した事は世間に知られていないんだった。
「それなんだけど、ご息女のミュールレイク様がギラード元帥を撃破して、城塞都市に入ったみたいよ?」
「「「ええっ!?」」」
「今さらだけど、私たちはミュールレイク様に言われてクリストファー公爵の様子を見に来たのよ。結果的には来てよかったわね」
とはいえ直ぐには信用できないのか、コソコソと話し合いが行われ始めた。
「どう思う?」
「どうって言われてもな……」
「こればっかりはこの目で見ないと」
う~ん、今一って感じね。
それなら……
「別にいいのよ? 無理に従えとは言わないし。ただね、城塞都市をほぼ無傷で手に入れたほどだから、一番勢いのある勢力だと言えるわね。いずれここにも来るだろうし、そうなったら戦う事になるわ。せっかく助かったんだから、素直に従って戦いを回避した方がいいんじゃない?」
少し不安を煽ってみた。
これでどうよ?
「そ、そうだよな、せっかく助かったのに内乱で死にましたじゃ意味がねぇ」
「ああ。つまらねぇ死に方はゴメンだぜ」
「俺たち冒険者としても巻き添えは勘弁だしな」
「そうそう。相手は魔物だけで充分よ」
よし、うまくいった。
後はミルクに報告し派兵してもらえば――
「たたた、大変だ貴族様ーーーっ! 南の森から大量のアンデッドが押し寄せてくるぞーーーっ!」
「「「アンデッド!?」」」
「そうだ、ゾンビ以外にもスケルトンやゾンビウルフまでいたぞ! 他にも――」
駆け込んできた商人が言うには、まるでスタンピードでも発生したような現象らしい。
せっかく解放した都市を、アンデッドに占拠されてはかなわない。
ここは鼓舞して防衛するように仕向けよう。
「きっと公爵を殺した奴が差し向けたのよ。アレクシス家には私が伝えるから、援軍が来るまで死守しま――」
「おーい、クリストファー公爵に伝えてくれーーーっ! 兵舎から大量のゾンビが湧いてきたんだーーーっ!」
「「「ええっ!?」」」
今度は冒険者ギルドの職員がやって来て、前の台詞を吐き出した。
兵舎まで完全に落ちてたって事? やってくれるじゃない。ちょっと目立っちゃうかもだけど、全部蹴散らしてやる!




