そのころのメイド喫茶
「いらっしゃいませ~! レジェンダ喫茶へようこそ!」
「お1人様、カウンター席へごあんな~い!」
「ありがとう御座いました! またのお越しをお待ちしておりま~す!」
「おいお前、今俺のスカートを捲ろうとしただろ!?」
「ちょ、レイさん落ち着いて!」
奥にある管理室から店内を覗くと、相変わらずな光景が広がっていた。
もうちょっと休憩しようと思ったけれど、早めに戻った方が良さげかな?
「あれ、もう戻るの? ミラクルの休憩時間は僕より遅かったと思うけど」
顔を傾けて不思議がるのは、元雑貨屋の看板娘シェーラちゃん。
2日経った今はすっかり打ち解けて、シュガーちゃんレイちゃんユーリアちゃんの3人を含めて仲良くしてもらってる。
「ううん。だいぶ慣れてきたし、休憩は少しで大丈夫だよ」
「わ~お、まっじめ~。そんな真面目なミラクルのために、僕が代わりに戻ってしんぜよ~う」
「はは~、ありがとう御座いますシェーラ様~」
「ハハッ、ノリがいいね! じゃあ僕は戻るから、例の話よろしくね~」
バタン
例の話? 何か約束したっけ? あとで確認してみよっと。
「あ、シェーラさん、いいところに! レイさんがお客さんに暴力を!」
「ええっ!? 早くレイを止めなきゃ!」
「違うんです。お客さんのリクエストで、罵りながら踏んづけてほしいって!」
「……何それ?」
あらら。シェーラちゃん、面倒なことに巻き込まれてる。たま~に普通じゃないお客さんが来るから困るよね。
昨日なんか「貴女の黄金水を飲ませてほしい」って言い出した人がいて、マリオーネさんが叩き出してたっけ。
……でも黄金水ってどういう意味だろ? 後でエレインに聞いてみよっと。
ギィィ
「きゅ~うけい、きゅ~うけい♪ あ、ミラクルだ。休憩入るね~」
「お疲れ様、ムムちゃん」
シェーラちゃんと入れ替わりに入ってきたのは、魔女の森の南側でダンジョンを構えているムムちゃん。
あたしと同じく金髪をショートカットにした元気ハツラツなエルフの女の子なんだ。
「どう? ここの生活には慣れてきた?」
「うん、おっかげ様でね~。でも最初に聞いた時はビックリしたよ~? 共同でダンジョンを運営できるなんてね~」
「教えてくれたのはアイリちゃんだよ」
アイリちゃんが神秘の欠片を探しに行った当日、ムムちゃんにもアイリーンへの移住をすすめたんだ。結果はご覧の通りで、メイド服も気に入ってくれたみたいで張り切って働いてくれてるよ。
「そのアイリちゃんがあの恐怖のダンジョンマスターって言われてたんだよね? 早く会ってみたいな~」
「往復で4、5日って話だから、すぐに戻ると思うよ」
「そっか~。なんかね、ムムのご先祖様とアイリちゃんは、すっごく親しい関係にあったんだって。ご先祖様曰く、どうしてもアイリちゃんが婿にほしくてダンジョンマスターになる方法を探し回ったらしいよ」
「ダンジョンマスターに?」
そんな事ができるなんて聞いたことないなぁ。
いや、それ以前に婿って聴こえた気がするんだけど気のせいかな?
「何とかしてダンマスには成れたけど」
「成れたんだ!?」
「うん。現にムムがダンマスでしょ? 何年も前から受け継がれてるんだよ~」
ご先祖様による執念だね。
「しかもね、書物では勇者の末裔ってなってるから、本当かどうかアイリちゃんに聞いてみたいんだ~」
「ふ~ん? じゃあもしムムちゃんが勇者の末裔だったら、様付けで言わなきゃダメ?」
「あ、いいね~ソレ! 今度からムムを呼ぶときは様付けでお願いね」
「分かったよムムちゃん様」
「うんうん、何か違う気がするけれど、とりあえずソレでいいや」
夕飯の時にでもみんなに伝えておこっと。
「ム~ム~は強い~な大き~いな~♪ あ、大事なこと思い出した。レイたちがね、あとでダンジョンを見せてほしいって」
「へ~ぇ。たちって事は、シェーラちゃんシュガーちゃんユーリアちゃんも――」
んん? ダンジョンを見る?
4人にダンジョンのことは話してなかったはずだけど。
「ムムちゃんムムちゃん、アイリーンのこと話しちゃったの?」
「あれ? もう様付けは終わり? まぁいいや。アイリーンのことは話してないよ。ムムたちがダンマスだって教えただけ」
アイリーンのことは伏せられててもダンマスだってバレちゃったら結局は明るみになっちゃうような……
「ね、ねぇムムちゃん。それって冗談で言ってみたって事にはできない?」
「あ~無理無理。4人ともすっかりその気になっちゃって、ダンジョンに入るの楽しみにしてるよ~」
一般人が触れる機会はないだろうし、そりゃそういう反応になるよね。
シェーラちゃんが言ってた例の話もこの事だったんだ。
もう後には引けそうにないし、後でみんなと相談しなきゃ。
★★★★★
手早く晩御飯を済ませたると、透かさずお茶の間は作戦会議の会議室となった。
楽しみにしてる4人には準備中だと言って閉店後の店内で待機してもらい、あたし達ダンマスにルト君とグレイ君を含めたメンバーで、どうしようかと話し合い。
そして開口一番、レミットさんから雷が落ちる。
「このおバカ! どうして貴女は口が軽いの! あれほどアイリーンの事は伏せておきなさいと言っておきながら……」
「え~、ダメだった?」
「ダメに決まってるでしょう! 貴女だけならいざ知らず、わたくし達まで巻き込でくるなんて!」
アイリちゃんからは下手に広めない方がいいって言われてたからね。
もしもダンジョンだと知られたら、攻略狙いの冒険者や金策に困っている貴族に目をつけられちゃう。
「レミット様、言ってしまったのは仕方ありません。重要なのは今後どうするかです」
「どうするもこうするも、事情を話してこちら側に引き込むしかありませんわ」
「それが良いと思います。僕とグレイも協力しますから」
「だな。案外なんとかなるんじゃね?」
レミットさんに続いて、ルト君とグレイ君も素直に打ち明けるのを推奨してきた。
どうせなら後ろめたさ無しに仲良くしたいな。
「ではあの4名は取り込むという事で。アイリ様に同行している1名も、戻り次第同様に取り込みを行いましょう」
4人への説明はエレインから行われる事に決まった。
同時にアイリちゃんへの説明は――
「ならば主には妾から伝えておこう」
「はい。宜しくお願いし致します、アンジェラ殿」
挙手したのはアイリちゃんの眷族で、バハムートのアンジェラさん。
臨時のメイドさんとして、アイリちゃんが出かける前に召喚したんだよ。
見た目は20代のお姉さんって感じで、かなりの巨乳――――うん、ここは見なかった事にしよう。
「取り込むのはいいが、ダンジョンはどうするんだい? 彼女たちに見学させるのだろう?」
「「あ……」」
幻王さんの台詞にその場のみんながハッとなる。
待たせてる4人はダンジョンの見学を楽しみにしてるんだっけ? でも……
「そのまま見学させるのは少々危険ですね。稀にフィールドから侵入してくる魔物もいますし、間が悪く冒険者や傭兵団がやって来ないとも限りません」
「エレインの言う通りですわ。見学させるなら安全を確保した状態でなければ」
仕掛けたトラップは解除できても、外的要因はどうしようもないもんね。
「なんじゃ、そんな事で迷うておるのか? そんなもの、妾が付き添えば問題なかろう。伊達にSSSランクに指定されてはおらぬぞ?」
「「「ええっ!?」」」
そこまでは聞いてなかった。
でもこれなら問題ない――のかな?
「で、ではアンジェラ殿にお任せするという事で……」
「うむ、任せるがよい。神が襲って来ない限りは問題ないわぃ」
さ、さすがに神様が相手なら諦めがつくかな~。




