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神秘の泉

「なるほど、お二人とも商会の関係者でしたか。しかもレジェンダ商会と言えば、あの超難関と言われている再興の儀式を成功させての新装開店だとか。よもやこのような場所で遭遇するとは神の導きに違いありませんな!」

「フフ、どうでしょうね」


 軽く自己紹介を済ませて分かったのは、あの悪徳商会――ラファエロ商会が潰れた後にキャメロン商会が台頭(たいとう)してきたという事よ。

 ライバルではあるけれど、こういう真面目な人が成り上がっていくなら嬉しいわね。


「ところでテンノウジさんは会長だと仰いましたが、会長自らが出向いてるんですか?」

「重要事項ならば――ですな。部下だけに任せるのは危険だと判断すれば、自らが動くのも躊躇(ためら)いませんよ」


 その重要事項にライバルを動向させるのはどうかとも思うんだけど。よほど人がいいのね。


「白金貨100枚ッスもんね。あのキートンって爺さん、随分と気前がいいッスよ」

「「えっ!?」」


 テンノウジさんの部下による発言で、思わず声に出してしまった。

 っというか、今キートンって言った? しかも爺さんとくれば、どうあっても()()キートンさんを連想するわ。


「コラッ! 軽々しくクライアントをバラすなといつも言っているだろう!? 見ろ、アイリさんもリーゼさんも驚いてるじゃないか!」

「す、すんませんッス!」

「お二人とも、見苦しいところをお見せしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。第三者の前でクライアントの名前を出すなどもっての他。キチンと教育致しますので、ここでの事はご内密に……」


 驚いた意味は違うんだけど……まぁいいや。


「大丈夫ですよ。他言はしませんので」

「そうね。黙っててほしいなら黙っててあげるわ」

「ありがとう御座います! 商人たるもの信用を失っては立ちゆかなくなる。お優しいお二人で良かった」


 汗を拭って歩を進めるテンノウジさんから少し離れ、私とリーゼは小声で話し始める。


「あの部下の人が言ったキートンってさ……」

「ええ、私たちに接触してきたキートンさんで間違いないと思うわ」


 同時期に同姓同名の依頼人が現れるとか、それこそ天文学的な確率よ。

 あの爺さんは私たち以外にも依頼した――これは断言できるわ。


「この先にある泉の事はキートンさんに教えられたから向かってるはずよ」

「じゃあやっぱり知ってたんじゃない。何だって私たちには遠くを指定したわけ?」

「考えられるとすれば、神秘の欠片が複数必要だから――とか?」


 そう考えると特別おかしくはないのかな?

 だけどどうも何かが引っ掛かる。

 なんだろ、喉から出かかってるのに出てこないという、何か肝心な事を見落としてるような気が……



「気を付けろみんな、クラッシュベアが出たぞ!」

「5体もいやがる、1体ずつ仕留めろ!」


 ――っといけない。

 考えるのは後にして、先に邪魔者を片付けよう。


「おい、キミ! 1人で突っ込んだら――」

「大丈夫です。これでもAランクの冒険者なので――――ね!」


 ズバズバッ!


「「グオォォォ……」」


 目についた2体を素早く斬り捨てた。

 クラッシュベアはヒグマの筋肉を強化した感じの熊でEランクに指定されている。ま、この程度なら楽勝よ。


「へぇ~、やるじゃないアイリ。私も負けてられないわね!」


 パカッ――――ボグッ!


「グオッ!?」

「よし、1体倒れたぞ! 今のうちに囲め!」


 ビックリ箱のナックルパンチを受け、クラッシュベアが転倒。

 その隙に冒険者たちで袋叩きにした。


 これで3体。

 見渡せば他の1体も仕留めていて、不利を悟った最後の1体は逃走していく。


「よし、撃退成功だ。特にアイリちゃ――じゃない、アイリさん。キミの動きは素晴らしい。その実力なら少数で入山しても何も問題はなかったろうね」

「え? あ、あはははは。ま、まぁ背負ってる剣は飾りじゃないって事で……」


 危ない危ない。本来の強さを(さら)したら、ま~た化け物扱いされちゃうわ。


「いやぁお強い。そのお歳でEランクを簡単に伸してしまうとは、まさに少数精鋭ですな!」

「フン、当然よ。完全武装の私に敵う者なんていないわ」


 ――等と意味不明な供述をしているリーゼ。

 アンタがやった事は、トラップの蓋を空けただけよ。武装はキートンさんの失敗作というオマケつきでね。


「よ~しみんな、だいぶ日が落ちてきたし、今日はここらで野宿にしよう」


 テンノウジさんの掛け声により野宿が決定した。

 食料も分けてもらい――いや、断ったのよ最初は。だけど「魔物の撃退に協力してもらいながら何もしないなんてあり得ません」って言われたら――ね?

 じゃあ見張りに加わりましょうかという提案には逆に断られ、何だか申し訳ないなと思いつつ眠りについた。




 翌朝を迎え、朝食をすませた私たち(朝食も分けてくれた)は、再び泉に向かって歩き出す。

 現在地は山頂からやや下った辺りの森の中で、リーゼ曰くそろそろ泉が見えてくるはずなんだとか。


「会長、遠くに泉が見えます。恐らく神秘の泉で間違いないかと」

「よし、手分けして(ほとり)を捜索するんだ。クライアントによると、真っ白に輝く掌サイズの石だそうだ。全員見逃すなよ?」

「「「了解」」」


 テンノウジさんの方は泉の周辺から捜索に入るらしい。


「さて、ここからは早い者勝ちです。どちらが先に見つけても恨みっこなしですよ?」

「ええ、お互い頑張りましょう」


 私たちも別の畔から捜索する。

 確か掌サイズの真っ白な石って言ってたわね。


「ないないないない……」


 草の根を分けてくまなく探すも、簡単には見つからない。

 学校のグランドと同じ規模はある泉よ。これを捜索するのは骨が折れる。


「リーゼ、何か便利なアイテムはないの? こういう時こそ胡散臭いアイテム屋の出番でしょ」

「誰が胡散臭いって!?」

「何でもいいから有るなら出して」

「っとにもぅ……」


 ブツクサと文句を言いつつ取り出してきたのは、先端にレンズのようなものが付いた――


「……虫眼鏡?」

「そんなダサい名前じゃないわよ。コレはシャインサーチャーと言って、探し物が近くに有れば光って教えてくれるのよ」

「範囲はどれくらい?」

「2、3メートルくらいらしいわ」


 くまなく探すよりは楽――って事で、リーゼと二人で虫眼鏡モドキを手にして畔を歩きまわる。

 泉の周りをグルリと一周したけれど、残念ながら反応はなし。


「ないわねぇ。もしかして地中深くに埋まってたりする?」

「どうだろ? 噂では長い年月をかけて石だったものが変化するって聞いたわ。変化するには泉が関係してるらしいから、地中深くの可能性は低いと思う」

「ってことは……」


 二人揃って泉へと視線を向ける。探すなら泉の中ってことね。

 テンノウジさんの方も畔の捜索には見切りをつけ、泉の中へと入っていく。


「私たちも行こう。このままじゃ先を越されるわ」

「リーゼ、そんなに慌てるとコケて全身ずぶ濡れに――」


 私も入ろうとしたその時、視界の隅で動く物体が見えた気がした。

 視線を合わせてすぐに魔物だと気付き、慌ててリーゼを引き戻す。


「ちょ、何するのよ! 急に引っ張って――」

「今は泉に入っちゃダメ! ――テンノウジさん、ブルーウルフが出たわ!」

「なんだって!?」

 

 私の声に反応し、向こうの人たちも臨戦態勢へと移る。

 グリーンウルフと同等の強さでありながら、Eランクに指定されているのよ。


「陸地に戻れ! 水上では不利だ!」

「マズイ、もう来やがった!」

「グルルァ!」


 泉から引き上げようとする冒険者にブルーウルフが襲いかかる。

 コイツの怖いところは水上走行ができるところよ。

 文字通り水の上を走ってくるため、水に足を取られてる状態ではかなり危険よ。

 

「援護するから伏せて! ――ファイヤーボール!」


 ボムッ!


「ギャウン!」


 冒険者に噛み付こうとした1体を火の球で燃やす。

 他にも5体ほどいるわね。 


「すまない、助かったよ」

「礼はいいから早く陸地へ!」

「分かった!」


 仲間を殺られたのに気付き、全てのブルーウルフが私へと迫る。


「何やってんのアイリ、早く逃げなさいよ!」

「大丈夫だから見てなさい――ファイヤーストーム!」


 焦るリーゼをよそに、殺到したブルーウルフをまとめて灰にしてやった。

 他に魔物は…………よし、いないわね。


「ア、アンタってさ、実は物凄く強いんじゃない? なんだって商会で働いてるの?」

「まぁ……色々と事情があるのよ」

「そんなにあの商会が好きなわけ? 無詠唱で魔法を使えるんなら宮廷魔術師とかに成れそうな気もするけどね」


 う~ん、無詠唱の魔法での魔法はマズかったかもしれない。

 リーゼのみならず、テンノウジさんや冒険者までもがポカーンとして私を見てるし。


「なんというか、圧巻の一言ですな……」

「あ、あはははは……。ほ、ほら、テンノウジさん。そんな事より捜索を――」


 シューーーゥゥゥ!


 何とか誤魔化そうしたら、今度は水面が渦を巻きはじめた。

 全員が泉から離れて注視していると、金髪セミロングの可愛らしい少女が現れる。


「あたしの泉を~、汚すのは誰~?」

「「「え?」」」


 この少女、泉の精霊か何か?


「あなた達ですか~?」

「おおお、お待ちください! 我々は汚すつもりなど――」

「では~、何をしに~、来たのでしょ~?」

「そ、それは……」


 テンノウジさんが言い(よど)む。

 ここで神秘の欠片を取りに来たと言ったら、マジでヤバそうだもの。


「ほほぅ~、後ろめたい事が~、ありそうですね~♪」


 ドォッ!


「「「!?」」」


 ヤバッ! この少女、のんびりとした口調とは裏腹にとんでもない魔力を持ってる!


 名前:サイレントアフロディア

 性別:女

 年齢:永遠の17歳

 種族:魔物

 ランク:SS(ダブル)ランク

 備考:長い年を重ね、セイレーンから進化した魔物。以前とあるダンマスの眷族であったため、豊富な知識も持ち合わせている。


「さぁ~、覚悟は~、いいですか~?」


 マズイ! 何とかして落ち着かせなきゃ!


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