そのころのアイリーン③
「ほぇ~~~、これが本物のダンジョンですか~。なんだか海に来たみたいですね」
「来たみたい――じゃなくて、海岸そのものじゃない? 少なくともダンジョンの内部には見えないよ」
ユーリアちゃんとシェーラちゃんが、それぞれ別の感想を述べた。
案内した場所は海岸エリア――つまり、あたしの管理区域だったりする。
魔女の森は内陸だから、あたし自身は本物の海を見たことは――――あ、アイリちゃんと一緒に飛んだ時に見えたっけ?
「ふ~ん? よく分かんねぇけど、こんなもんじゃねぇの?」
「それはないです。ズボラなレイには分からないかもですが、ダンジョンといえば洞窟になってるのが一般的です。ですです」
「そうだね。ガサツなレイには分からないだろうけど、ダンジョンの定番は洞窟探索って言われてるんだよ? ちゃんと月まであるし、フィールドと見分けがつかないなんて聞いた事ないよ」
テキトーに答えたっぽいレイちゃんを、シェーラちゃんとシュガーちゃんがすぐさま否定。
多分だけど、コストパフォーマンス面で洞窟にするダンマスが多いんだと思う。
無駄に装飾する必要もないし、最低限の罠と魔物を配置すれば済むからね、えっへん!
……アイリちゃんからの受け売りだけど。
「うっせーぞお前ら! 俺のどこがズボラでガサツなんだ!」
「現在進行形で晒してるです」
「ついでに服とか脱ぎ散らかしてるよね」
「でもでも、レイさんのお部屋って可愛らしい小物が多いんですよ?」
「う、うっせーぞ淫乱ピンク!」
「なんであたし!?」
改めて考えると、こうやってピクニック気分で散策できるのは貴重かも。
普通のダンジョンなら相手がどういうダンマスかによって対応が変わるから、正面からお邪魔して罠でバッサリ――なんてパターンもあり得るし。
でも今現在のダンマスって、大抵が引きこもり(←本人の無自覚な失礼発言)だし、アクティブで理性的なのはアイリちゃんくらい?
「なんつーか、夜の海岸ってのも不気味だな。昼間なら爽快な感じがするのによ」
「言われてみればそうです。魔物が出てもおかしくない雰囲気ですです」
いや、もちろん出るよ? 今は出ない設定にしてるだけで。
あ、そうだ! ちょっと驚かせてみよっと♪
『皆さん楽しんでる~?』
「「ひぃっ!」」
「うぉっ!? ミラクルの声が響いてる!」
「ななな、何ですかこれ!? どうなってるんです!?」
作戦成功! あたしは今コアルームに居るから、そこからダンジョンに声を流してたりする。
『こうやって、ダンマス自ら侵入者に話しかけたりもできるんだよ!』
「じ、じゃあダンジョンで話してたらダンマスに筒抜けなのかよ!?」
『もっちろん♪ 過去には逢い引きの会話とか、領主への不満をブチまける兵士の会話とかがあったらしいよ?』
「う、迂闊に話せないですね……」
古のダンノーラ帝国に伝わる言葉で【壁にミアリー障子にメアリー】っていうのがあって、いつどこでミアリーメアリーの姉妹が観察してるか分からないというのがあるんだって。
人物像はいまだハッキリしてないらしいけれど。
「……で、お前らはいつまで震えてんだ?」
「「え……」」
声が少ないな~って思ってたら、シュガーちゃんとシェーラちゃんが隅っこで震えてた。
「ちょ、ちょっと驚いただけです、別に怖くはないですです!」
「というかレイとユーリアは何で平気なの? 僕としてはミラクルの声だけで心臓が飛び出るかと思ったのに」
「ハッ、お前らとは鍛え方が違うんだよ」
「でもレイさん、足が震えてますよ?」
「武者震いだ!」
ふ~ん? まだ平気なんだ。
これなら魔物を見せても大丈夫かな?
「ほらミラクル、魔物でも何でも出してみろ。俺はコイツらと違って臆病じゃないからな!」
レイちゃんからのリクエストだ。
ここは護衛として同行していたアンジェラさんに一肌脱いでもらおっと。
『アンジェラさ~ん、お願いしま~す』
「うむ、よかろう」
「ん? なんだアンジェラ? いったいどうし――!?」
振り向いたレイちゃんが驚愕の表情を浮かべる。
何せ目の前でアンジェラさんが人化を解き始めたから。
そしてあっという間にバハムートの姿に。
数10倍もある大きさにあたしもビックリ! ブラッシュさんより大きいんじゃないかな?
「どうじゃレイよ、これでも怖くないと申すか? んん?」
「…………」
「お~い? 黙ってないで何か言うてみぃ」
「レイさんレイさん、アンジェラさんがドラゴンになりましたよ! 何か感想を言ってあげましょうよ。ねぇ、レイさんって――あ、立ったまま気絶してる……」
立ったまま気絶!? そんなことができるレイさんって、ひょっとしたら凄い人かも!
「シュガーさんシェーラさん、そんな隅っこにいないでこっちに来てくださいよ。ドラゴンですよドラゴン、本物のドラゴンに触れられるんですよ!」
「ほぅ……ユーリアは怖くないのか? 普通ならあの2人のように怯えるものじゃがな」
「だって、襲ってこないなら怖がる必要ないじゃないですか」
分かってても怖がるのが普通だけどね。
現にシュガーちゃんとシェーラちゃんは顔面蒼白で抱き合ってるし。
「なんじゃ、それはそれでつまらんのぅ。もっとド派手な反応を期待したのじゃが」
「正直言うと、アンジェラさんよりもチンピラの方がよっぽど恐いですよ? いつどこで遭遇するかも分かりませんし」
「そうかの? チンピラなんぞ一度返り討ちにすれば二度と近寄って来んし、大した面白味もないがの」
チンピラを面白いかどうかの基準で語るのはどうなんだろ……。
「それよりほれ――シュガーにシェーラよ。せっかく人化を解いたのじゃから近くでよぅ見ておくがよい」
「……ホントに大丈夫です? 噛みついたりしないですです?」
「急に大口開けたりするのは無しだよ?」
「心配性じゃのう……。妾をその辺の魔物と一緒にするでない。これでも理性的で――ゴホッゴホッ!」
ボオォォォゥ……
「「ヒィッ!?」」
「おっと、すまぬすまぬ。むせてブレスが出てしもうたわぃ。ほれ、もう大丈夫じゃ」
「い、いいですいいです結構です、これ以上は近付かないです!」
「み、右に同じ!」
意図せずのブレスはさすがに恐いかな……。
「アンジェラさんアンジェラさん、せっかくなんで背中に乗せてもらってもいいですか?」
「構わんぞ。ほれ、そこの2人も乗るがよい」
「「いえいえ!」」ブンブンブン!
シュガーちゃんとシェーラちゃんは遠慮して、ユーリアちゃんだけが背中に――。
「せっかくだし、レイさんも連れていきましょう」グイグイ
「うむ。ではしっかりと掴まっておくのだぞ」
絶賛気絶中のレイちゃんを強引に乗せ、アンジェラさんが舞い上がる。
「わぁ~~~凄~い。本当に空を飛んでるんですね~。もう下の2人が見えなくなりましたよ」
『2人なら――はい、ここだよ』
ダンジョン機能を使用して、月明かりを調整してみた。
その結果、抱き合ってる2人がピンポイントで照らされる。
「あ! あの点々がシュガーさんとシェーラさんですか? なんだか小さすぎてゴミのようですね!」
いや、さすがにゴミとまでは……。
「んん……ここは……」
「あ、レイさんが目を覚ましたみたいです」
「……ユーリア? お前、空を飛んで――」
「見てくださいレイさん! あたしたち、空を飛んでるんですよ!?」
「んあ? 空を飛んで――――」
「あ、また気絶しちゃいました」
そりゃそうなるよね。
空を飛べる人なんてほんの一握りだし。
『マスター、ちょっといいか?』
『どうしたのグルースさん?』
『裏手の寮に賊が侵入してるんだがどうする? そのまま殺すか?』
『賊!?』
ユーリアちゃんを含む5人が生活している寮に強盗が入ったらしい。
あたしの仲間に手を出したわけだし、ここはキッチリと知らしめる必要がある。
『グルースさん、全員を殺処分し――』
『お待ちくださいマスター。アイリ様のマニュアルによりますと、この場合は生捕りして背後関係を調べるのが得策とあります』
『――なるほど!』
さっすがアイリちゃん!
元を断たなきゃ何度もやって来る可能性があるもんね。
『グルースさん、殺処分はやめて生捕りでお願い』
『分かった。のちほどダンジョンに連行する』
これでよし。
『ユーリアちゃん、ちょっといい?』
「どうしました、ミラクルさん?」
『ユーリアちゃんたちの寮に強盗が入ったんだって』
「強盗!?」
『うん、それでね、賊を捕まえて――』
「――――」
あ、ユーリアちゃんも気絶しちゃった。
しょうがない、あとで報告しよっと。




