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身代わり

 バタッ!


「はぁ~~~疲れたぁ……」

「「「…………」」」


 閉店後の店内で大の字に倒れる私。

 ミラクル達も各々のテーブルで突っ伏していて、軽口を叩く気力すらない有り様よ。


「お疲れ様です。コレを使ってください」

「あ~ありがと。……ふぅ~、冷たくて気持ちいい~~~」


 私たちを見かねたルトが、水で濡らしたタオルを配って回る。

 グレイもそうだけど、二人は接客することがなかったからバテてないのよ。

 何て言うか、すっごく不公平よね……。


「俺たちにも手伝えればよかったんだけどな」

「だね。でもメイド服を着るわけにはいかないし、こればっかりは……」


 元デスキャストの女性構成員は揃って拒否るし、かといってルトたちに女装させるわけにもいかない。バレたら信用ガタ落ちだものね。


「マリオーネさんの睡眠時間も長くなる一方だし、お友達のムムちゃんに助っ人してもらえないか頼んでみるね」


 ムムちゃんっていうのは、魔女の森の南側にいるダンマスだったわね。

 いっそのこと、その子にも住み込みで働いてもらいたいわ。もちろん住む場所はアイリーンよ。


「けれど1人増えたところで焼け石に水だわ。もっと多くの人材を確保しなきゃ」

「でしたらアイリ様の女性眷族を召喚されてはいかがでしょう? このままではマスター共々過労死してしまいます」

「エレインの意見に賛成ですわ。ダンジョンマスターがダンジョン外で過労死とか、末代までの恥ですわよ?」


 過労死したらそこで末代だけどね。


「末代云々はともかく、このままじゃマズイのは確かね。それなら……」


 ギンは過去に戻して休ませてるし、ここはセイレーンのセレンを召喚しよう。


「サモン――セレン!」



 シューーーゥゥゥ……


「あ、あれ? 魔法陣が消えていく?」


 まさかの失敗?


「疲れてるせいかな、もう一回!」



 シューーーゥゥゥ……


 再度トライするも結果は同じ。

 これ、本格的にマズイかもしれない。本当に過労死したらマジで笑えないわ。

 でも一応は別の眷族で試してみよう。

 バハムートのアンジェラなら体力が有り余ってるし、彼女で決まりね。


「サモン――アンジェ――」

「たのもーーーぅ!」

「ブフッ!」


 ビックリした! 入口からアンジェラが入って来たのかと思ったわ。

 見れば5人の女の子たちが入ってきてるし、まさかの閉店後にお客さん?

 ちゃんとクローズの札を掛けてたはずだけど。


「もう閉店してるわよ~」

「客じゃないわ、私たちは抗議しに来たのよ」


 代表者なのか、赤いツインテールの子が指を突き付けながら言い放ってきた。


「抗議……って、まさか商売敵?」

「そ。しかもこの店のせいで、私たち全員が生活難に陥りそうなのよ」


 聞けば踊り子にウェイトレスに雑貨屋に神官にマジックアイテム屋と、様々な職種の女の子たちに悪影響を及ぼしてるんだとか。

 幅広く客を取り込んだのは間違いないし、これはちょっと可哀想なことをしたかな?


「でもねぇ、こればっかりは競争だし、客が減るのは仕方がな――」


 ん? 待てよ?

 私たちと同じ年頃の女の子が5人。

 私ほどじゃないにしろ、容姿はソコソコ。

 この5人がメイド服を着てても違和感はなさそう。 


「…………」ジィ~~~

「な、何? 何でジト目を向けてくるの?」

「お、おい、なんかヤバそうだぜ?」

「しかもにじり寄ってくるんだけど……」

「身の危険を感じるです!」

「ななな、何ですか? いったい何が始まるんですか!?」


 ミラクルたちに視線を投げ掛けると、意図を理解してニコリと微笑む。

 全会一致――という事で!



「確保ーーーーーーッ!」

「「「おお~~~(ですわ)!」」」

「「「ヒィィィ!?」」」


 まさか人材の方からやって来るとは夢にも思わなかったわ。

 まさに飛んで火に入る夏の虫――いや、今は季節的に残暑の虫ね。


「ちょ、コラッ、勝手に脱がすな!」

「おおおおい、手を離せ! 見える見える、パンツ見えちまう!」

「お、親にも見られたことない(多分)のに!」

「もうお嫁にいけないですです!」

「ヒィィィ! まさかのエロ同人と同じ体験を!」

「おとなしくしなさい! 私たちは身代わりが欲しいだけなのよ!」

「「「不吉だーーーっ!」」」


 悪く思わないでちょうだい。全ては安らぎを獲るために必要な措置なのよ。


「ほらほら、ルトとグレイは部屋に戻って。着替えるんだから覗いちゃダメでしょ」

「あ、うん……」

「お、おぅ、そうだな……」



 そんなこんなで数十分後。



「うんうん、凄く似合うわ!」

「そ、そう?」


 このリーゼって子、赤毛のツインテールにつり目なところがまたよく似合うわ。

 ホークが言っていたツンデレって感じの雰囲気を感じるし、これはこれで需要がありそうね。


「な、なぁ、俺のだけスカート短くね?」

「気のせいよ。アンタは背が高いからそう感じるんでしょ」


 レイっていう青髪でポニーテールの子は、やたらとスカート丈を気にしていた。

 実際にちょっとサイズを間違えたんだけど、数センチ短いだけで誰も気にしないし、誰も困らないわ(レイは除く)。


「ふ~ん? メイド服っていうんだ? 何気に着るのは初めてだなぁボク」

「膝下がスースーするです」

「この格好で踊るのは難しい――かな?」


 他の3人も似合ってるし、これなら代わりとして雇うのも問題ない。というか即採用。


「――って、待ちなさいよ! なんで私たちが働く事になってるわけ!?」

「だって、忙しすぎて休む間もなかったんだもん。ちゃんと給料は払うわよ? そうね~」


 売れないマジックアイテムを並べてるリーゼはともかく、ウェイトレスのレイと踊り子のユーリアは、1日で銀貨3枚くらいが相場だし……


「1日銀貨6枚ってとこね」

「「「6枚も!?」」」


 普通なら宿で1泊するのに銀貨1枚。

 いろいろ飲み食いしたところで銅貨30枚ってとこかな?

 高い服でも銀貨10枚くらいだし、数日働くだけでいろんな物が買えるようにはなる。


「これは大金ですぅ! そんなにいただけるなら踊り子をやるよりも――」

「ま、待てよユーリア、あのオッサンの酒場はどうすんだ? 俺やお前が抜けたら何にも残らねぇぞあの酒場」

「た、確かに……」


 いや、アンタらが抜けるだけで色褪(いろあ)せる酒場って……。


「でしたらそちらの酒場には畳んでもらい、マスターにもこちらで働いてもらいましょう」

「「え"!?」」


 ――というエレインの意見に、ユーリアとレイが目を丸くする。

 でもいい考えね。強面のグルースをカウンターに立たせるとお客が恐縮しちゃうから、是非とも代わりをやってほしいわ。

 

「うぅ……分かりました! 迷ったけど働くことにします!」

「よし、俺も決めた! 善は急げだ、さっそくマスターに話してくる。ついて来い、淫乱ピンク!」

「なっ、誰が淫乱ピンクですか! さてはさっき言ったのもレイさんですね!?」

「ちょ、ちょっと2人とも!」


 リーゼの制止を振り切り、ユーリアとレイが店を出ていく。

 あとは3人ね。


「高い給料は魅力だけれどボクの実家は雑貨屋だし、ライバル店で働くのは……」

「でしたらノープロブレムですわ。雑貨屋ごと買い取って差し上げましょう。――ですわねアイリ?」


 一見強引にも見えるレミットの意見。

 けれど解決するならそれも可よ。


「いいわよ。むしろ親御さんは引退させて楽させてあげなさい」

「ありがとう! ボクも両親に話してくる!」

「ちょ、シェーラまで!」


 これであと2人か。


「う~ん、シュガーちゃんとしても働きたいのは山々ですですが……」

「ああ、シュガーは教会に所属してるのね。なら裏手にある空家を教会にしちゃえばいいのよ」

「……です?」

「シュガーは裏の教会とこっちのメイドを兼任する。屋内で繋げちゃえば移動も楽だし、これなら問題ないでしょ?」


 場所を移すのは問題ないはず。

 あとは神父さんがイェスと言ってくれるだけよ。


「分かったです、神父さんを説得してくるです!」

「シュガーも!」


 そしてリーゼだけが残された。

 彼女を説得すれば丸く収まるわ。


「わ、私は納得してないわ。だいたいお金で釣るなんて――」

「でもリーゼこそメイドとして働いた方がいいんじゃないの?」

「……どういう意味?」

「だって、怪しげなマジックアイテムなんてそうそう売れないでしょ?」

「うぐ……」


 売れればデカイかもだけど、正体不明なアイテムにお金を注ぎ込むなんて金持ちの道楽でしかない。

 庶民は殆ど手を出さないだろうし、リーゼの収入は殆どないはずよ。


「で、でも面白いアイテムばかりなのよ? 例えばほら、この人形――名前はヒトシイ君て言うんだけど、話しかけたらちゃんと返事してくれるんだから」


 そういってテーブルに置かれたのは、白い帽子を被った冒険者風の人形だった。


「ふ~ん、どれどれ……こんにちは」

「はい、ボッシュートです」


 ……は?


「あ、それ、ハズレの時の台詞」

「いやいや、普通の会話にアタリもハズレもないでしょ」


 こんなん売れるはずないわ。


「じゃあコレならどう? スーパーヒトシイ君って言って――」

「帽子が赤くなっただけじゃないの!」


 これ、レジェンダ商会とは関係なしに路頭に迷うパターンだわ。


「我が儘なヤツね。ならコレを見て驚きなさい――フゥゥゥゥゥゥ……」


 鞄から取り出した何かに息を吹き込んで膨らませ始めた。

 どんどん大きくなっていくそれは、まるで風船のよう――


「――って、ただの風船じゃない」

「風船? よく分からないけど、コレを何個も何個も膨らませれば、いずれは空を飛べるように――」

「ならないならない」


 どっからこんな物を入手してきたんだか。


「もう仕方ないわね。それなら大本命を見せてやろうじゃない――――よっと、コレよ!」


 大本命らしいソレは、一見するとただの箱にしか見えない。


「何これ? ケーキでも入ってるの?」

「フッフ~ン♪ 気になるんなら開けてみれば?」

「…………」


 こっそり鑑定スキルをかけてみよう。


 名前:ビックリ箱

 備考:蓋を明けるとナックルパンチが飛び出す。何度でも使用可


 くっだらない。

 わざわざ掛かってやる義理もないし、蓋を他人のいない方に向けてっと……


「ちょ、アンタ、何やって――」

「フフン、別にどうやって開けようと私の勝手でしょ?」


 残念でしたっと。

 そう簡単には引っ掛からな――


 パカッ!



「あの~、レジェンダ商会というのはここでよろしいのでし――」


 ――ボグッ!


「グボァッ!?」

「「「あ……」」」


 ヤッバ! 無関係な人に当たっちゃった!


「だ、大丈夫ですか!?」

「落ち着いてくださいアイリ様。お客人を医務室へ運びましょう」

「そ、そうね。ミラクルたちはベッドを、リーゼはそっちを持ってちょうだい」

「う~なんだって私が……」


 こんなくだらない事で商会の信用を失いたくないわ、キチンと手当てしなきゃ!


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