新装開店!
ついにやって来たオープン当日。
場所はフランツに構えた拠点のすぐ隣――というか、併設して内部で繋がってたりする。
その店内にて表情を引き締めた私は、後ろで整列しているみんなへと振り返った。
「いよいよね。みんな、準備はいい?」
「うん、あたしは大丈夫だよ」
意外にも緊張した様子を見せてないのはミラクルで、寧ろワクワクしているようにすら見える。
「だ、大丈夫かしら? 髪型とか服装とか、乱れてる場所は……」
「……ふぁぁ、眠……」
几帳面なレミットは自前の手鏡でしつこいくらいにチェックを行い、マリオーネは緊張感よりも眠気との戦いが激しそう。
少女エルフたちも同じ格好で緊張した面持ちを見せていた。
そう、私を含め、全員が同じ格好をしているのよ。
何故かというと、オープンするのは……
「ふむ。表に並んでいるのはザッと30人。初日にしては上出来では御座らんか?」
「せやろせやろ? ワイが考案したメイド喫茶は絶対に流行るで!」
ホークの言った通りメイド喫茶だからね!
「あの~、一応は商会……なんですよね? これだと飲食して終わりのような……」
「チッチッチッ、甘いでルトはん。商談する際にこのメイド喫茶をつこうたらええんや。ただで茶を飲ますなんてもっての他やで?」
「そ、そうなんですね……」
「それにな、客にもちゃ~んとメリットがあるんや。見てみぃ」
ホークに吊られてグルリと見渡す。
真っ白な壁をピンクのリボン等で装飾したファンシーな内装は、萌えを十二分に発揮しているらしい(ホーク談)。
そんな店内の手前側に客席を設けると、窓際と壁際にはダンジョンで召喚した品々をズラリと並べ、何かしら気になるアイテムが目につくようになっている。
窓際にも陳列しているのは敢えて外から見えなくし、中の客に視線を向かないようにとの配慮よ。
まぁ外装もアレだし、この配慮は正解だと思うわ。
そして奥のカウンター席。
お一人様がバーに来る感覚でも楽しめるようになっていて、更に奥には個室まで用意されている。
あ、言っとくけど個室で性的なサービスをするわけじゃないからね? ここは周囲に聴かれたくない人の商談の場として使うのよ。
こうしてみると――あっ! 今気付いた。天井に私を着せ替えたポスターが貼ってあるじゃない! あとで引っ剥がしてやる!
「訪れた客には飲み食いしながら商品を物色してもらうんや。ポーションの類いも有るし作戦会議にも使えるやろ? それに大口の客が来たときなんかもな、何つぅかこう――うま~く接待してやな、値引きはせぇへんが美少女スマイルありまっせ~みたいな感じにするんや」
その接待とやらを私たちにさせるとか……。
まぁホークのアイデアに乗っかった時点でこうなるのは予想してたけども。
「そんなんで効果あるか? いや、ホークさんを疑うわけじゃないんだけど、いまいちイメージできないっていうかさ、金にうるさい商人ならシビアなんじゃないかって」
「もっともな意見やでグレイはん。せやけどな、よほどのイ◯ポ野郎でもない限りキュートな美少女には弱いもんや。――ホレ皆はん、グレイはんに向かって例のポーズや」
よし、練習ついでにやってみよう。
「みんないくわよ? いっせいの~で――」
「「「ご主人様~、おねが~い♪」」」
「!?」
全員そろって片足を曲げてウインクをし、両手ではハートマークを作って見せる。
思わずって感じに顔を真っ赤にするグレイ。
大勢でやればちょっとしたアイドルグループに見えるし、接待されて嬉しくないわけないわ。
トテトテトテ……
「……グレイはエミリアが接待する。だから安心して」
「え? い、いや、その……」
少女エルフの1人がグレイに急接近。確かこの子、グレイとトレーニングして怪我しちゃった子よ。
というかアンタら、イチャつくなら営業外にしときなさい。
「ほいほい、ほな開けるでぇ。レジェンダ喫茶の始まりや!」
シャランシャラン♪
可愛らしい鈴の音と共に扉をオープン。
並んでいた客が興味深げに足を踏み入れてきた。
よし、ホークが手で合図してきたし、さっそく一発目を――
「「「お帰りなさいませ、ご主人様~♪」」」
「「「おお~!」」」
うん、反応は上々。みんなして鼻の下を伸ばしまくってるわ。
「いらっしゃいませ。お一人様ですね? あちらのカウンター席へどうぞ!」
「……う、うん、ありがとう」
「4名様ですわね? こちらのテーブル席でお寛ぎくださいな」
「「「お、おぅ」」」
「2名様ですね? こちらに――」
「ようよう可愛い姉ちゃん。名前教えてくれや名前」
「エレインと申します」
「じゃあスリーサイズも頼むわ」
「まずはご注文をお願いします」
「おぅガードが固いのぅ……」
「……なんで幻王がいるの?」
「う……い、いやぁ、少し偵察を……」
「……お仕置き決定。こっちの小部屋に来る」
「ちょ、ちょっと待つんだマリオーネ、早まるんじゃない!」
うんうん、いい感じね。席に着いた客は談笑したり、一度離れて商品を物色したりとそれぞれの動きをし、適度な賑わいを見せていた。
もっと混むようなら人数制限も必要になるかな?
「来てよかったなぁ。どこを向いても美少女だらけだ」
「ああ。依頼を片付けたらまた来ようぜ」
「「「さんせーーーい!」」」
早くも再来店が確定したもよう。ありがとう御座います――っと。
「親方、この辺りってスラムだって聞いたんスけど……」
「そうだったかのぅ? じゃがスラムには見えんわぃ」
ここが元スラムだと言っても誰も信じないわね。
治安も改善されてるし、新築の住宅には元デスキャストの構成員以外にも一般人が住み着いてるし、子爵が知ったら驚くかな? 落ち着いたら一度説明しに行こう。
「やや? このアイテムは何かな?」
魔法士のオジサンがライターを手にして不思議そうに眺めている。
イグリーシアじゃ生産されてないだろうし、ここは私がレクチャーしよう。
「お客様、それはライターというアイテムで、簡単に火が起こせるんですよ――ほら」
シュボ!
「ほーーーぅ、これは素晴らしい! 焚き火を起こすのに一々魔力を消費してられんし、これは重宝しそうだ」
「銀貨3枚です」
「そうか、銀貨3枚――――なんと!?」
あれ、高かったかな? 5000年前は適正価格だったけど。
「そ、そんなに安いのかね!? 銀貨10枚くらいは想定したが」
「……え? え、ええ、まぁ……」
「ならば3個――いや、10個買おう!」
「あ、ありがとう御座います!」
予想より安かったらしい。
でもDPにして100ポイントだから、私に言わせればボロ儲けなのよねぇ。
ネックなのは私にしか召喚できないってところか。近いうちに改善できる方法を探そう。
「凄いよアイリちゃん! ポーションも売れてるし、軽食も追加で注文されてるよ!」
「カウンターにいるのがグルースだから怖がられるかな~と思ったら、案外なんともないのね」
「うん! みんなあたし達に集中してるから、グルースさんは視界に入ってないのかも」
ああ、確かにデレッデレな視線を感じるわね。これも数日経ったら落ち着くだろうけども。
それまでに他のお店も対抗手段に出るかな?
★★★★★
そんなアイリの予想通り、客を奪われた者達が、夜の酒場の一角にて打開策を練っていた。
「……ふぅ、参りましたね~。レジェンダ商会ができてから、お客さんはサッパリですよぅ」
グラスの中身を飲み干した、ピンク髪のセミロング少女がぼやく。
彼女はユーリアという名で夜の酒場で――というか今いる酒場で踊り子をしているのだが、現在進行形で暇をもて甘しているのだ。
「仕方ないよ。偵察してみたけど凄い繁盛してるもん。正直ぼくも、あの人気に肖りたいと思ったね」
やむ無しといった感じに羨むのは、緑の髪をショートカットにした少女――シェーラ。
彼女は雑貨屋の一人娘で、レジェンダ商会が近所にできた影響で客足が途絶えたのだ。
「同感ですです。今まで通いづめだった人たちが急にソッポを向きやがったです。中には「シュガーちゃんが居ないと生きていけない!」とか言った奴まであの商会に入るのを見たです。今度会ったらら只じゃおかないですですです!」
そう殺気を振りまく金髪の三つ編み少女は、シュガーという名の神官である。
彼女の勤める教会では回復魔法の治癒と対アンデッド用の聖水を販売しているのだが、そのどちらもレジェンダ商会で対応可能なために来場者が激減していた。
「でもよぉ、現実問題どうすりゃいいんだ? このままじゃ俺らの商売上がったりだぜ?」
青髪をポニーテールにした少女が、だらしなくテーブルに突っ伏した状態でぼやく。
彼女は同酒場でウェイトレスをしているレイという少女で、閑散とした店内を見て分かる通りにユーリアと同じ状態である。
「ハイハーーイ! そこで私に、ちゅ・う・も・く♪」
手を叩いて皆を振り向かせたのは、赤い髪をツインテールにしたリーゼという名の少女。
奇しくもレジェンダ商会とは比較的近い場所で露店を展開していたため、客層が被ってしまったのである。
ちなみにだが、売っているのは本人でも使い方が分からない怪しげなマジックアイテムを多数だ。
「あの商会ができてから一週間。噂が噂を呼んで、ドンドンあの店に客が集中している。このままじゃ私たちは路頭に迷うことになるわ」
「つってもリーゼよぉ。んなこたぁみんな分かってんだよ。問題はどうするかだろ?」
「だ~か~ら、その方法を話そうとしてるんじゃないの、この単細胞!」
「……んだとテメェ、やるってのか? あ?」
「ちょ、ちょっとやめなよ二人とも」
「ですです。争ってる場合じゃないです」
「その通り。ここはあたし――ユーリアに免じて、喧嘩はやめましょう」
「「「…………」」」
ピンク髪のユーリアが言うと、全員の動きがピタリと止まる。
そして一同は首を傾げつつ……
「免じるほどの存在じゃないわよね?」
「うん、ボクもそう思う」
「ですです」
「でしゃばんな淫乱ピンク」
「な!?」
喧嘩を止めてまとめようとしたが、別の意味でまとまったようである。
「誰ですか淫乱ピンクって言ったの!? 事実無根ですので訂正してください!」
「はいはい。そんな事はどうでもいいから、私の話を聞きなさい」
「ど、どうでもいい!?」
気を取り直してといった感じにリーゼがまとめに入る。
「これからレジェンダ商会に突撃して抗議するの。新参者がデカイ面するな――ってね」
「それは賛成。ボクらも生活がかかってるんだし当然だよね」
「ですです当然です」
「おぅカチコミか、腕が鳴るぜ!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ皆さ~ん!」
5人の少女たちが抗議に訪れようとしているレジェンダ商会。
その先に待つのは……
(あいつら、金払わずに行きやがって……)
どうやら酒場のマスターに謝るのが先になりそうだ。




