死闘の先に
「やっぱり罠だったのね」
「フッ、そうとも。だが安心しろ。子爵には盗賊に襲われているのを発見したが、救援間に合わずに命を落としたと伝えてやる」
このシドってヤツ、勝ち誇った顔がムカつくわね。子爵の部隊が見てなければ今すぐ斬り捨ててやるのに。
こうなると選択肢は一つ!
「ルト、グレイ、逃げるわよ!」
「は、はい!」
「…………」
ルトの手を引いて走り出すと、一瞬遅れてキャリアーキープの連中も動く。
飛んで行きたいところをグッと堪え、並の冒険者レベルの速度でひた走る。
グレイも無言でついて来たと思ったら、なぜか不意に立ち止まった。
「すまんアイリ、先に行ってくれ。シド兄さん――いや、シドは俺が倒す!」
「え?」
「シドは狙撃の名手なんだ。走るだけじゃ逃げきれねぇ。俺が相手してるうちに早く!」
「ちょ、グレイ!?」
そう一方的に言い放ったグレイが引き返していく。
あーーーもぅ、無茶なこと考えて!
私も加勢したいけどルトを護りながらじゃ厳しいし、こうなったら一時的に逃げるしかない。
「死ぬんじゃないわよ! すぐに加勢するからそれまで持ち堪えて!」
★★★★★
「俺が相手になってやる」
追手に振り向き油断なく構えたグレイ。
その様子に構成員たちは驚くものの、冷静に――そして冷酷にジリジリと間合いを詰めていく。
「フン、青二才が単身で挑むか。その無謀さを後悔しながら――」
「まてジャック。コイツは俺が相手をする。他は逃げた二人を追うんだ」
「……何?」
先ほどまでアイリとやり取りをしていたジャックという構成員が、シドをジロリと睨みつける。
まさか弟だという理由で手心を加えるのでは……そう思ったが、実際は違った。
「久々に骨のあるヤツと殺り合えるんだ、邪魔されたくはねぇ」
気付けばシドの顔は狂気に染まっていた。
その顔はまさに闘いを求め続けるバーサーカーのようである。
「ふぅ……またいつもの病気か。まぁいい、ならあの二人を追うとしよう」
ジャックが手をあげ合図すると、他の構成員も彼に続いてその場を離れていく。
残されたのは兄弟二人。グレイは真一文字に口元を結び、シドは口の端を吊りあげ舌舐りをして見せた。
「さぁ始めようか。生き残りを賭けた闘いをな」
「……シド兄、どうしても戦わなくちゃならないのか?」
「おいおい、この期に及んで怖じ気付いたってんじゃないだろうな? 久々に熱くなれそうだってのに冷めさせないでくれよ?」
――トスッ!
「クッ!」
瞬時に構えたボーガンから矢が放たれ、グレイの足元へと突き刺さる。
「今のはわざと外してやった。だが――」
ザッ!
高所へと飛び上がったシドが、グレイへと狙いを定め……
「次はねぇぜ?」
「…………」
放たれれば確実に突き刺さるだろうと直感が告げていた。
ゆえに、とれる動きは限られてくる。
「クソッ……」
「!」
シドの射線から逸れるよう蛇行して間合いを詰めていく。剣士のグレイでは近接でしか倒せないのだ。
だが一方のシドも接近を許すまいとボーガンで牽制しつつ、一定の距離を保っている。
「なぜだ、なぜ俺たちが戦わなくちゃいけない!?」
「あん? まだそんな事を言ってやがんのか」
「だってそうだろう? 俺は村の連中は嫌いだったがシド兄は嫌いじゃねぇ。もしシド兄が退くなら追いかけたりはしねぇよ」
「フッ、何を言い出すかと思えば……」
ボーガンを担ぎつつも器用に肩を竦めると、やや呆れ気味に告げてくる。
「今の俺たちゃ敵同士だ。これ以上ない理由だろう?」
「だとしても――」
「それにな、俺にとっちゃあ強敵をブッ殺すのは心踊る瞬間なのさ。つくづくキャリアーキープに入って良かったと思ってるぜ」
シュッ!
「ハァッ!」
パキン!
――言いつつ再び矢を放ってくる。
危なげなく斬り落としたグレイは、再度シドに向けて構え直した。
「……どうしても戦うのか?」
「ったりめぇだ! これ以上俺を失望させんな。もはやテメェは俺と闘う以外にねぇんだよ!」
「なぜそこまでして……」
「何故だと? んなことぁ決まってらぁ、それが――」
一気に複数の矢をセットしたシドが、ボーガンの先をグレイへと向けつつ……
「俺の名誉だからだ!」
「な……」
シュシュシュシュシュシュ!
「チッ!」
連発される矢を回避しつつもグレイは困惑した。
シドだけは村の連中とは違うんだと、勝手に思い込んでただけなのだ。
「クソッタレが! やっぱりシド兄も名誉なのかよ!」
「当たり前だ。そもそも――ん? そういやテメェは捨て子だったな。だから名誉に拘りがないのか」
「す、捨て子だと!?」
「そうとも。あの村の風習は根深い。それこそ何百年も前からあると言われてるしな。だから村の連中は遺伝的に名誉で塗り潰されてるってわけだ」
思わぬカミングアウトにショックを受けるグレイ。
しかし、そんなグレイの心境などどうでもいいと言わんばかりに、ボーガンの矢は激しさを増す。
「そぉらどうした? もっと俺を熱くさせてみろ」
「クソッ――――タレがぁぁぁ!」
このまま怯んではいられず、果敢にシドへと斬りかかる。
――が!
ザッ!
あと一歩というところで飛び退かれ、グレイの斬撃は空を斬る。
「ハッ、遅い遅い。そんなんじゃ俺を斬りつけることはできねぇよ」
「クソ……だったら!」
透かさず懐から取り出したのは、魔法を封じられた魔封石。
コレを目標に投げつけると、封じられている魔法が発動するのだ。
「アイリから貰った取って置きだ。くたばれシド兄ぃ!」
シュッ――――
封じられていたのはウィンドカッターで、石から飛び出た風の刃がシドの身体を――
バシュン!
「なっ!?」
――切り刻むことはなく、障壁のようなもので弾かれてしまう。
「ああ、言い忘れてたが、俺の持つマジックアイテムは、かけられた魔法を無効化するぜ?」
「何だと!?」
「魔法も使えなくなり回復魔法も弾いちまうが、俺にとっちゃ必需品よ」
以前ホークも同じ魔法を放ったが弾かれてしまい、結局は逃げられてしまったのだ。
「そういう訳だ。今のテメェじゃ俺を倒すことは不可能。倒したいんなら、ボーガンの矢よりも速く動きな。できるものならな!」
「……クッ!」
悔しいがシドの言う通りである。
魔法が効かない以上近接で倒す以外に方法はなく、その近接も回避されては意味がない。
やむ無くグレイは、シドに背を向けることを選択した。
「おっと、そう簡単にゃ逃がさねぇぜ!」
シュシュシュシュシュシュ!
「クッソォォォォォォッ!」
ボーガンの矢からひたすら逃げるグレイ。
しかし相手は狙撃の名手。荒野から吊り橋へとついたところで――
ドスドスドスッ!
「うおっ!?」
ボーガンの矢が橋へと突き刺さり、吊り橋全体を大きく揺らす。
「へへッ、もらったぜ!」
ドスッ!
「グッ! ……く、くそがぁ!」
急所を庇い、利き腕に矢を受けてしまった。
だがその場で止まるわけにもいかず、剣を投げ捨て走り出す。
(子爵の部隊が目の前まで来ている。このままゴールドキャニオンに入れば……)
そう考えるグレイを、シドのボーガンが狙いを定め――
ドスッ!
「グォッ!?」
とうとう足に命中してしまい、グレイの速度は大幅に落ちる。
(チッ、マズイな……、これじゃあ上手く走れねぇ……)
★★★★★
そんな二人を谷の向こう側――ゴールドキャニオンでも注視されていた。
グラハトーヤ子爵と、ギンと共に駆けつけたミラクルである。
「ルト会長とアイリ殿は無事渡りきったか?」
「ハッ。アイリ殿の協力により追手の連中も全て捕縛しました」
「ご苦労。引き続き警戒するように」
「ハハッ」
兵士が下がったのを見計らい、ミラクルが子爵に駆け寄った。
「子爵さん、グレイ君がまだ残ってます! 何とかならないんですか!?」
アイリとルトは脱出したがグレイだけは残されたままで、今もなお狙撃を回避しつつ脱出しようとしているのだ。
「加勢したいのは山々だが、国同士の不戦協定がある以上こちらから手出しはできん。もちろん他国で起こっている戦闘に首を突っ込むのもご法度だ」
「でもプラチナキャリアーに軍隊はいませんよ? こっそり加勢するくらいなら……」
「残念だがそうもいかん。見たまえ」
グラハトーヤ子爵が谷の向こうを指す。
よく見れば、甲冑を着込んだ部隊が林道から出てきたところだ。
「あの旗の家紋はツァールズ伯爵のだ。ここで手を出せば言い逃れはできない。間違いなく不戦協定を破ったと言ってくるだろう」
「そんな!」
こちらの動きを知ってか知らずか、ツァールズ伯爵も動いていたのだ。
「だがこちらの領土に入りさえすれば、即座に援護を開始できる。チマチマと狙撃しているヤツを射ぬいてやろう。――おい、あの少年はまだ領内に入らないのか?」
「まだです。少年はいまだプラチナキャリアー領。こちらからは手出しできません」
近くの私兵に確認するもグレイはまだ向こう側であった。
谷の中央には地上へと突出した山場があり、そこを中継地点として東西で分かれている。
ゆえに、そこへたどり着かなければ手出しができないのだ。
「グレイ君……」
ミラクルにできることは、ひたすら祈ることだけであった。
★★★★★
緊迫しているのはミラクルたちだけではない。
吊り橋の向こう側に現れたツァールズ伯爵もまた、グレイを逃がすまいとシドに対して激をとばす。
「何をしているシドよ、さっさとあのガキを仕留めんか!」
「大丈夫ですぜツァールズ様。ヤツの足は射ぬきやしたし、そろそろ終いでさぁ」
「ならばさっさと終わらせろ! このまま逃がせば計画がパーな上に、キャリアーキープとの関係が広められてしまう!」
もはや邸で見せていた余裕はない。
闇ギルドとの関係が明るみになるかもしれず、伯爵本人は気が気じゃないのだ。
「まぁ見ててくださいや、次で脳天を射ぬいてやりまさぁ」
あと数歩でゴールドキャニオンに届くため、実質ラストチャンスと言っていい。
だがシドは自信満々で頭部へと狙いを定めた。
「早くするんだ、早く!」
「任せてくだせぇ(あと3メートルか。フッ、楽勝だぜ)」
またゴールドキャニオン側でも同様に弓を構えた兵たちがシドへと狙いを定めており、焦り顔の子爵がせっつく。
「おい、まだか!?」
「もう少しです。あと2メートル――」
両者の中間にいるグレイも、足を引きずりながらも中継地点を目指し……
「あと1メートル――」
そしてついにゴールドキャニオンへと足を踏み入れたと同時に、子爵と伯爵が声を張り上げた!
「「射てぇぇぇぇぇぇ!」」
「(これで終わりだ。あばよ――グレイ!)」
ターーーーーーン!
「ご……あ……な、何……が……」
突如としてシドの手は動かなくなった。
代わりに訪れたのは……
「何をしているシド! 早く――早くヤツを始末し――――」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ヒィィィッ!?」
額から血を滴らせてのたうち回るシド。
ボーガンの矢よりも速い何かが彼の額にめり込んだのだ、これによりかつてない激痛を味わう羽目になった。
訳も分からずもがくシドに、さすがのツァールズも腰を抜かす。
そんな二人とは別の場所では、ミラクルの眷属グルースが手にした拳銃を眺めボソリと呟く。
「デザートイーグルか……いい銃だ」
この拳銃を渡したのはアイリであり、当然スマホを使っての召喚だ。
「協力感謝するわ」
「構わない。俺としても愛弟子を死なせたくはなかったしな」
彼らの視線の先では、夕日に照されたグレイが運ばれていくところであった。
これにて第2章は終了です。




