真の狙いは……
時間は飛んで帰りの馬車。
うん、結局は何事もなく過ぎ去り、無事ツァールズ伯爵の邸を出ることができた。
出てから1日は経過し、今は林道を進んでいるところよ。
「何もありませんでしたね」
「う~ん……こうなると何がしたかったのかが分からないわね」
ルトと共に首を傾げる。
部屋が分かれてたから個別に襲撃されるかと思いきや、そんな事はまったくなし。
警戒しすぎ? いや、そんなことはない。わざわざ隣国の伯爵が金渡してもてなしてくるとか、どう考えてもおかしいわ。
「グレイの方はどうだったの?」
「ん? ああ、シド兄さんのことか? それなら至って普通だったな。見下すようなこともなくて、村の連中よりは全然マシさ」
村から離れたことで名誉に拘らなくなった? それならそれで良いことだけど。
「言っちゃ悪いかもだけど、あの村の名誉に対する執着心は異常だったわ。それを考えるとシドって人は逆におかしくない?」
「そうかぁ? むしろ昨日は戦闘の話で盛り上がっちまったぞ」
グレイはシドと同じ部屋で寝たのよね。
もちろん殺されちゃ困るから見張りの魔物を張り付かせてたけども、こちらも何事もなくって感じ。
「グレイには悪いけど、僕もシドって人には良い印象はないなぁ。なんだか闘いに執着してるような気がして、視線を向けられただけでも背筋が凍ったよ……」
そういえば食事中にたびたび気にしてるなぁとは思ってた。
「シド兄さんはボーガンでの狙撃が得意なんだ。よく遠くを睨むことがあったし、目付きが鋭いからってビビりすぎだぜ?」
「そうなのかなぁ。今にも射ち抜かれそうって言うか……ああ、そうだ。以前にも狙撃されたような感覚が甦るって感じかな」
狙撃といえば、死の谷で襲ってきた中に狙撃の名手がいたわね。
その時のことを思い出しちゃう感じか。
『アイリ様、至急お知らせしたいことが!』
鬼気迫る勢いで、ギンからの念話が届く。
『どうしたのギン?』
『キャリアーキープという闇ギルドを調べてたところ、トンでもないことが判明しました』
『トンでもないって――』
『奴らの首領はツァールズ本人です。つまりキャリアーキープとは、ツァールズ直属の裏組織ということに』
『なんですって!?』
クッ……鑑定はかけたのに、そこまで出て来なかったのが悔やまれる。
奴の狙いは何? 私たちを呼び出した本当の理由は……
『ツァールズが出張って来れぬよう、グラハトーヤ子爵と共に国境沿いに向かっております。これで向こうも表立って兵を動かすことはできないでしょう』
『助かるわ、ギン』
邸で襲わなかったのはキャリアーキープと関連付けられるのを避けるためで、本命の襲撃はこれから!
「あれ? ここら辺って本来のルートから逸れてねぇか?」
グレイの一言で辺りを見渡す。
行きは死の谷を迂回したのに対し、今は林道を抜けて死の谷に一直線よ。
いや、むしろ目と鼻の先に見えるわ。
「すみません御者の人。道が違うような気がするんですが……」
「いんや、合ってるぜ? 谷の吊り橋を渡ろうとして盗賊に襲われる。すべて計算通りだ」
「! ア、アンタまさか!?」
「へへっ、土産の金貨はいただくぜ!」
ギギギギィィィ――――ドシーーーン!
曲者御者が飛び降りて間もなく。制御のきかなくなった馬車が横倒しになる直前、ルトを抱えて脱出しすると、グレイも続いて飛び出した。
「出てこい野郎共! 相手はガキが3人だ、さっさと片付けてトンズラするぞ!」
曲者御者の叫びに応じ、岩陰からむさい男たちが姿を現す。
「アンタもツァールズの手先だったのね!」
「手先だぁ? んなわけあるか。俺たちゃ高速イチジクって言う盗賊団よ。テメェらが伯爵から大金を貰うって話を聞いたから御者を引き受けたのさ」
大金の話を聞いた!? どっちにしろ最初から計画されてたって事じゃない!
「グレイはルトをお願い、コイツらは私が片付けるわ!」
「ああ!? ガキのくせに生意気――」
ボグッ!
「グヘッ!」
「コ、コイツ――」
ガスッ!
「ゲボッ!?」
後ろからかかってきた曲者御者に裏拳をかまし、後に続いた男に肘打ちをお見舞いした。
「おっし、俺も負けてられねぇぜ!」
ザシュシュシュッ!
「「「ギャッ!?」」」
対抗意識を燃やしたのか、グレイの方は囲んできた3人を一気に薙ぎ払う。
これで残るは7人よ。
「な、なんだよコイツら、こんなに強ぇなんて聞いてねぇぞ?」
「お頭もやられちまった、もうおしまいだ!」
「おおお、俺は逃げるぞ! こんなのやってられっか!」
不利を悟って逃走を開始した賊共。
もちろん逃がすつもりはない。
「ファイヤーストーム!」
ゴォォォォォォ!
「ぐわぁぁぁ……ぁ……」
「アヂィィィ!」
「し、死ぬ……助け……」
逃げ出す寸前の残りを一気に焼き尽くす。
これで私が倒した2人以外は死んだはずよ。
「さて、時間が惜しいし話す気がないならそう言って。この場で首を斬り落とすから」
「はははは話す、話すから命だけは助けてくれぇぇぇ!」
お頭と思われる曲者御者に剣を突きつけ、さっそく尋問開始よ。
「この依頼は誰から聞いたの?」
「な、名前は知らねぇ」
「は? 知らない奴から依頼を受ける? ふざけてるのアンタ?」
チャキ……
「うううう嘘じゃねぇ! 名前は聞かない、詮索をしないって条件で引き受けたんだ! 全身が黒づくめの服装をした野郎だって事しか分からねぇ!」
全員黒づくめ……キャリアーキープの連中と一致するのは偶然じゃないわね。
「そいつが言うには、フランツの領主がモルネデートまでの御者を必要としてるって事で、紹介状を寄越しやがったのさ。怪しいとは思ったがすんなりと採用されて逆に拍子抜けだったぜ」
ツァールズからの紹介状ね。
そりゃ伯爵だし、グラハトーヤ子爵じゃ断れないわ。
「じゃあ金貨の話も黒づくめから聞いたわけね?」
「おぅよ。お前らが必ず金貨を持ち帰るって聞いたから引き受けたのさ。始末したら金貨は好きにしろって契約だったしな」
事実、紹介状一つで採用されたんだから疑う余地はなく、更に金貨が手に入るとくれば大喜びで襲うのも当然か。
ん? でもおかしい。
確かにコイツらは雑魚だったし名無しの盗賊なんだとは思う。
けどコイツらに金貨をくれてやるくらいなら、お抱えの闇ギルドを使えば済むことよ。
なんでわざわざ依頼を――
シュッ――――ドスッ!
「ギャッ!」
「なっ!?」
飛んできたボーガンの矢が、曲者御者の首へと突き刺さった。
反対側まで貫通してて助かりそうにない。
用無しとなった曲者御者を投げ捨てると、グレイと共にルトを庇うよう立ち上がる。
「まったく、あれほど話すなと言ったのに。所詮は雑魚の戯れか」
透かさず現れたのは、黒で統一された服装の連中。
見える範囲では15人。その中の1人が、丘の上から見下ろしつつボヤいた。
「ヒ、ヒィィィ! 助けてく――ギャッ!」
「言ったはずだ、契約違反は死が訪れると」
肘打ちで倒した盗賊が逃走を試みるも、あえなくボーガンの餌食に。
これで盗賊は全滅し、残るは闇ギルドのキャリアーキープ。
「さて……状況は理解できているな?」
「あんたらキャリアーキープに囲まれてるってことはね」
「分かっているなら話は早い。貴様らとアマノテウスとの関係を教えてもらおうか」
何を言い出すかと思えば、アイリーンを落とそうと仕向けてきたアマノテウスのことだった。
当然ながらアイリーンのことは話さないし、アマノテウス云々も教えるつもりはない。
「アマノテウスなんて知らないわ」
「……ふむ、やはりそうか。調べても出て来ぬし、コルザレスが襲われたのは偶然か」
ああ、なるほど。
プレイモアの領主だったコルザレスが逃走しようとした際、私が工作したアレのことね。
つまりコイツら、アマノテウスとのコンタクトを望んでいると。
そしてアマノテウスと関係があったらマズイから、ここまで大掛かりな襲撃を画策したってところかな。
「もういいだろジャック。コイツらとアマノテウスは無関係。ならばあとは口封じをするだけだ」
しびれを切らした構成員が、大きなボーガンを担いで現れる。
「新手――って、アンタは!」
「よう、昨日ぶりだなぁ?」
忘れる訳はない。
ツァールズの護衛として対面したのは昨日だもの、すぐに記憶から引っ張り出されたわ。
「シ、シド兄さん!」
「悪く思うなよグレイ。村の連中なんざどうでもいいが、コレも仕事なんでな。お前らにはここで消えてもらう!」
仕方ない。ルトを護りながらじゃ戦いにくいし、一度転移して――
「アイリさん、子爵だ。子爵が兵を率いて谷の向こうに!」
「子爵!?」
チラリと視線だけを動かすと、ゴールドキャニオン側にはグラハトーヤ子爵の部隊が。
本来なら援軍として喜びたいところだけど、これじゃあ迂闊に転移できない。
ここは自力で切り抜けるしかないか。




