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閑話:グラハトーヤの苦悩

 突然だが、私の名前はグラハトーヤ。ゴールドキャニオンはフランツの街の領主だ。

 この街は魔女の森に近いためか、人が寄り付かないという欠点がある。

 そこをどうにかすれば発展の見込みがあるのだが……


「失礼します。グラハトーヤ様、コルザレス侯爵より書簡が届いております」


 はぁ……ま~たコルザレスか。

 どうせ面倒事を押し付ける気だろうが、相手は侯爵で私は子爵。残念だが無視するわけにはいかない。


「拝見しよう」

「ハッ」


 書簡を受け取り部下を下がらせると、再び書斎へと閉じこもる。

 前は盗賊狩りのために兵をよこせと言ってきたし、その前は娘の嫁ぎ先予定であるラファエロ商会を贔屓(ひいき)しろだ。今度は何をさせる気だ?


「なになに……先日騎士団への入団希望者が現れ見事合格したのだが、生憎と受け入れ体制が整っていないのだ。すまないが、そちらで受け入れてくれ……」


 クシャクシャクシャ――――ポイッ!


 んなこったろうと思ったよ。

 だいたい何だ、受け入れ体制が整ってないだ? だったら入団させんな薄らハゲが! 

 しかし身分差により正当な理由がない限りは断るわけにもいかん。

 ったく、こっちまでハゲが伝染したらどうしてくれる。


「畏まりました。入団希望者の件、謹んでお受け致します――と」


 短文だがこれでいいだろう。

 どうせわけありな連中を(かくま)えって話だろうし、目的が達成されれば文句は言われまい。

 この書簡は後で届けさせよう。



 それから1ヶ月は平和な時が続いた。

 私にとっての平和とは、コルザレス(薄らハゲ)がしゃしゃり出てこない事を言う。


「失礼します。ミリオネック連合からの緊急通達です」

「ミリオネックだと?」


 ミリオネックとは商業国家連合の中心地にある国で、諸外国から護るためにブロンズフロンティア、シルバートレンド、ゴールドキャニオン、プラチナキャリアーの4国が周囲を固めているのだ。

 そんな国から緊急通達とは、ミリオネックで何かあったか……。


「下がってよいぞ」

「ハッ」


 書簡を受け取ると、一字一句見逃さないよう目を通していく。

 緊急というくらいだ、比較的平和が保たれている現状が変化する可能性もある。


「何々……ボルディール王国に不審な動きあり。各国領主は注意されたし」


 ボルディール王国といえば、魔女の森の西側にある国で、ここフランツからは離れている。

 だがゴールドキャニオンと隣接しているのも事実であり、無視はできない。

 それに……


「同国の貴族が慌ただしく動いている。軍事行動は時間の問題と思われる――か」


 ひょっとしたら後方支援の必要が出てくるやもしれん。そのための準備はしておこう。

 それにコルザレスから無茶を言われても、ボルディール王国の件を持ち出せば上手く避けられるかもしれん。

 これに関してはボルディール王国グッジョブと言っておこうか。


 だが次の日。

 騒がしいボルディール王国をよそに、我が街の騎士数名がダンジョンから戻らないというのだ。

 遠征先のダンジョンは魔女の森にあり、特に害はないため放置してあったものだ。


「戻らないのは何名だ?」

「ハッ、入団して間がない、元冒険者の3人です」

「さっそく問題を起こしたか……」


 私の溢した愚痴に、報告に訪れた部下も苦笑いをする。

 あの薄らハゲの推薦で団長という座まで与えてやったというのにこれか……。

 その3人だけが戻らないのは自ら姿を消したからだろうし、ダンジョンが危険なものならとっくに話題になってるはずだ。

 だから受け入れたくなかったのいうに……。


「捜すのも手間だ。ダンジョンにて行方不明とだけ処理しておけ」

「ハッ」


 だがそれだけでは終わらなかった。

 同時期に入団した元冒険者の4人までもが忽然(こつぜん)と姿を消したというのだ。


「ったく、揃いも揃って問題児だったとはな」

「ハッ、騎士の風上にも置けぬ輩ですな」


 だが居なくなったのなら好都合だ。素行不良で失踪した事にでもしておこう。


 しかし、邪魔者が居なくなった途端、代わりが現れるのはいかがなものか。

 何が言いたいかというと、ラファエロ商会の商人が揉み手をしながらやって来たのだ。


「ヒッヒッヒッ! 実はですな、取って置きの品があるんですよ」


 そう言って取り出したのは一枚の紙切れ。

 それには空を飛ぶ少女が妙にリアルに写っていた。


「念写スキルを使用して作られたものにございます」

「ふむ……見たものを忠実に写すのが念写スキルだったか。確かに画家が描くより見映えはいいが、それだけか?」

「いえいえ。実はこの少女は実在しておりまして、なんと、あのボルディール王国から飛び立つところを写したのですよ」

「何!?」


 よく見れば、確かにボルディール王国の国旗が掲げられてるのが分かる。


「噂では1日で王族を皆殺しにしたらしく、それが原因で貴族による内乱が発生したと言われてますな」

「…………」


 それが本当なら恐ろしい限りだが、コルザレスが贔屓(ひいき)にしてる商会なだけあって今一信用ならない。

 だが貴重な情報である事には変わりないし、一応は買い取っておこう。


「金貨5枚だ。それ以上は出せん」

「それでよろしゅう御座います」


 商人が帰ったのを確認し、もう一度紙を手にしてよく見てみる。

 茶髪でポニーテールの少女が、金髪でショートカットの少女の手を引いて飛んでるのが分かる。

 後者はともかく前者は信じがたい。

 なぜなら飛行できる魔法士なんて、極々僅かと言われているのだ。

 そのような存在は熟練の大魔道士以外にあり得んと思うのだが……。



 そんな事を思いながらも数日。

 プレイモアのコルザレスが違法奴隷の取り引きをしていた事が明るみになり、バルドス公爵により捕らえられた。

 街の急成長を怪しんではいたが、まさか違法奴隷とは……。

 しかもラファエロ商会とグルになっていたらしく、肝心の商会幹部共は忽然(こつぜん)と姿を消したらしい。


「はぁ~~~、すっげぇ幸せな気分♪」


 なぁんて思わず口に出してしまうほどの朗報だ。

 あの老害薄らハゲから解放されたんだ。これほど嬉しい事はそうそうないぞ。

 今夜はちょっと豪華な食事にしてみようじゃないか。



 ――などと言っていた昨日の私を殴ってやりたい。

 何故なら新たな不安材料が目の前にいるのだ。

 私は心臓が飛び出るのを辛うじて押さえつけるよう気丈に振る舞い、面会を求めてきた者達と対面した。


「待たせてすまない。私がフランツを任されている領主のグラハトーヤだ」


 ふぅ……何とか言えた。

 いや、なんでこんなに緊張してるのかと言うと、今目の前に()()()()()()()()()()がいるんだよ! 思わず二度見するところだったが間違いない。

 ポジティブに考えて瓜二つの別人という可能性も考えられるが…………いや、やっぱ間違いない。

 こうして堂々と現れるという事は、逆に存在感をアピールしているのだろう。


「こちらこそ朝早くに押し掛けてしまい申し訳ございません。レジェンダ商会の再興を希望しているルトでございます」

「同じくレジェンダ商会の再興を望むアイリと申します。両脇の2人は護衛です」


 少女の名前はアイリというらしい。

 隣の少年も名乗ったが、正直頭に入らん。

 何せ我がゴールドキャニオンの代表であるバルドス公爵の娘――マリーベル様とのコネを持っているのだ、この少女はいったい何者なのかと考えるのはごく自然だろう。

 事前の話ではプレイモアに構えていたレジェンダ商会を再興させたいとの事らしいが、一応は確認してみるか。


「すでに話は聞いているよ。しかし何故フランツなんだい? 元はプレイモアの商会だったはずだが」

「あ、そ、その……」

「それは私から説明します」


 しどろもどろになった少年の代わりに答えたのは、予想通りアイリであった。

 やはり主導権はアイリにあると考えてよいだろう。


「すでに存じていると思いますが、プレイモアのラファエロ商会とコルザレス侯爵により、我がレジェンダ商会は潰されてしまったのです。やはり同じ街で再興するのは心理的に受け付けません」


 はい、テンプレな回答いただきました。

 このアイリさんは隙を見せず、大変お利口さんです。


「ふむ、そういう事なら拒む理由はないな。フランツでの再興を歓迎しよう」

「「ありがとう御座います!」」

「だが知っての通り、再興するには儀式を成功さねばならない」


 後で難癖付けられても困るし、儀式について説明しておかなきゃな。

 でもって()気無(げな)く視線を外してみる。

 何故かって、アイリからの心中を探るような視線がすんげぇ鋭いの! なんつーか歴戦の勇者みたいで、コイツとの心理戦とかぜってぇ無理だって!


「知ってるかい? なぜ死の谷なんて場所から地上に這い上がる必要があるのか」

「……いいえ」

「その昔、黒い噂の絶えない商人が――」


 あ~喋ってる内容が自分でも分からんくなってきた。

 多分間違った事は言ってないはずだが、アイリの視線が気になって集中できん。


「――なぜだと思う?」


 一通り話終えたんで、再び視線を戻す。

 いや、できれば戻したくなかったよ? だけど窓の外向いたままだと不自然だし、戻さなきゃいけないだろ!


「貴族たちが()()()()()()んですね」

「その通り。()()()()()()んだ。つまり儀式とは再興させるのではなく、出る杭を打つためのものなんだ」


 鋭い……どこまで鋭いんだコイツは……。

 だがこんな縁起の悪い儀式だ。これを知っても尚やると言い出したりは――


「我々は構いません。魔物だろうが賊だろうが、邪魔者は排除するのみですので」

「大した自信だが、本当にいいんだね?」

「ええ、二言はありません」


 わ~ぉ、やるって言っちゃったよ。

 でもちゃんと言ったからな? 後で文句言っても知らんぞ。


「……分かった。監視責任があるため、儀式には私が立ち会おう。準備ができしだい知らせるが、どこに使者を向かわせればいい?」

「それなら、北スラムのあった場所にお願いします」


 ……は? 北スラムって言ったか?


「あ、ご安心下さい。北スラムと言っても()ですので、そこにいた闇ギルドは排除しましたので」


 はぁ? 闇ギルドを排除だぁ!?


「あとついでに報告しておきますけれど、西スラムの闇ギルドも消しときましたので」


 しかも二つの闇ギルドをか!?

 いやこれ、普通ならアホぬかせと言うところだぞ。


 ……でだ。アイリが帰った直後に調べさせたよ。


「情報通り、北スラムと西スラムには闇ギルドの存在が確認できませんでした」


 はい、嘘じゃなかった。

 もうアイツぜってぇ堅気じゃねぇって! そら王族を1日で皆殺しにできるはずだわ。


「しかも北スラムには新築の家屋が建ち並んでおります」

「新築だと?」

「はい。それはもう新市街と言ってもいいくらいの風景で、治安も劇的に改善されております」

「…………」


 闇ギルドを消滅させた上、勝手にスラムを改良されてるとか……いや、ありがたいんだけど、見返りに何を要求されるやら……。


 あ、一応だが儀式は無事に成功したぞ?

 何やら闇ギルドからの横やりがあったが、それでも成功しやがった。

 ぶっちゃけ闇ギルドより恐ろしいわ……。


次から第2章になります。

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