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あの鐘を鳴らせ!

「あ"ーーーもぅ! 何で起こさなかったのよーーーっ!」


 崖をよじ登りながら今の時間を確認する。

 長針は9を指し、短針は6に近付きつつある状況よ。

 はい、只今の時刻は5時45分となっておりま~す――――って言ってる場合じゃない!


「ザード、あんた早起きしたんなら起こしなさいよ!」

「これはあいすまん。いつものように飛行するのかと思ったので御座る」


 遠く離れてるとはいえ、子爵やその関係者に目撃されたら面倒な事になるし、そんなリスクはおかせない。


「……まぁ私も寝坊したし強くは言えないけれど、こんな事で失敗なんて大恥よ。そもそもルトとグレイは何してたの?」

「ご、ごめんよアイリさん。朝から頬をぶたれたような痛みがあって、どうにも調子が悪いんだ。寝違えたかな……」

「俺もさ、なぜか顔面を踏まれたような痛みがあるんだよ。慣れない場所で寝るもんじゃねぇな」


 あ~~うん、原因は分かるわ。

 教えないけどお大事に。


「……で、ホークは何やってたわけ?」

「ワイか? そりゃ勿論アイリはんの身の安全を考えてや、夜遅くまでキチンと見張ってたっちゅ~こっちゃ。お陰で眠くてかなわ――」

「はいはい、要するに夜更かしね」


 結界石っていう半日くらい結界を張り続ける便利なアイテムを使ったんだし、わざわざ見張りを立てる必要はないのよ。


「ホークは論外ね。それはそれとして失敗は許されないし、とにかく全力で登って!」


 整備なんかされてはいない崖に足を掛け、ひたすら上を目指してよじ登る。

 特訓したルトとグレイでなんとか登れるくらいなのに、こんなの普通の商人には到底無理ね。例え魔物がいなくても成功させれる人は限られてくるわ。



 シュッ――――トスッ!


「グッ!?」

「「ルト!」」


 どこからか飛んできたボーガンの矢がルトの腕に突き刺さる。

 まさかこんなところで襲撃!?


「上や! 上から狙ってきてる連中が居るで!」

 

 見上げれば、弓やらボーガンやらを構えた連中が岩影から狙ってるのが見えた。

 まさか魔物じゃなくて賊が出てくるとか。しかも迷彩柄のローブで統一されてるとか、ただの盗賊じゃないのかもしれない。


「ザードとホークは敵の排除! 私はルトとグレイを援護しながら登るわ!」

「了解や! ウィンドカッターで切り刻んだるわぃ!」

「我が斬撃をご覧あれ!」


 敵を2人に任せると、取り出したポーションをルトに振りかける。


「大丈夫?」

「ありがとうアイリさん。助かったよ」

「油断しないで。まだ敵は残ってるから、素早く登って。止まったら的に――」


 シュッ――――スパッ!


「ヒィッ!?」

「大丈夫。私がいる限り死なせないから」


 再び飛んできたボーガンの矢を、突き刺さる直前で斬り落とす。

 キッチリとルトの頭を狙ってるって事は、相当な手慣れよ。


「もう少しで地上に着くわ。それまで耐えるのよ!」

「うん、僕だって特訓したんだ。簡単には殺られないよ」

「俺だってそうだ。故郷の連中に吠え面かかせるまでは絶対に死なねぇ!」

「その意気やで。ここは任せて先に行けっちゅうヤツや!」

「うむ。某の太刀で切り払ってくれよう」


 ルトとグレイを庇いつつ地上を目指し、その間にも1人――また1人と襲撃者が谷底へダイブする。

 不利な状況とはいえ、ザードとホークの前には手も足も出ないって感じね。

 だけど……


 シュッ――――スパッ!


「……しつこいわね」


 さっきからルトの頭を狙い撃ちされているのは少々マズイ。

 しかもかなり遠くに居るらしく、矢を追っても射出地点が分からなかった。


「注意してホーク、敵の中に強者の狙撃手がいるわ!」

「分かってるで。ワイの鷹の目(ホークアイ)はお見通しや――ウィンドカッター!」


 手慣れの狙撃手に風の刃を撃ち込んだ。

 これで楽に――


「ええぃクソガッ! 当たる直前で障壁に阻まれよったで!」


 まさか魔法防御まで!?

 やっぱりただの賊じゃないわね!


「ほぅ……。商人風情が中々やるじゃないか」

「誰ッ!?」


 もう少しで地上に出るってところで、新手が姿を現した。


「フッ、二度と会う事はないだろうが冥土の土産に教えてやろう。我々はキャリアーキープという闇ギルドだ」

「闇ギルドですって? まさかコルザレスの関係者が残ってたっていうの!?」

「正確にはコルザレスとつるんでいたプラチナキャリアーの貴族だがな」


 堂々とクライアントをバラすとか、よほど自信過剰のバカか常識知らずのバカか、いずれにしてもバカであることには変わりないわ。


「悪いけど、アンタに構ってる暇はないのよ。おとなしく退きなさい」

「おとなしくだと? それはこちらの――」

「ファイヤーボール!」


 ボムッ!


「グボァ!」


 火の球を直撃させると、崩れるようにその場に倒れた。

 ただでさえ狙撃されてるってのに、テンプレに付き合ってやる義理はないもの。


「主よ、付近の敵は排除したで御座る。あとは厄介な狙撃手のみ!」

「うん、ありがと。そっちはホークに任せるわ」

「了解やで!」


 一足先に地上に出たホークは、ボーガンが飛んでくる方向へと駆け出す。

 魔法がダメなら直接叩くのみよ。


『スマン、アイリはん! やっこさん、転移石をつこうたらしく、上手く逃げられてもうたわ』


 チッ、逃がしたか……。

 今度会ったらキッチリと仕返ししてやる。


「ふぅ……。何とか助かりましたね」

「ああ、何とか――って、ヤベェよ! もう残り3分しかねぇ!」

「嘘っ!?」


 グレイの叫びで慌てて確認すると、残り三分を切ってるところだった。


「あーーもぅ! コイツらさえ襲ってこなければ……」


 地上に出たところで、倒れていた闇ギルドの男が口を開く。


「フッ、残念だったな。これで我々の目的は達成された」


 どうやら再興を邪魔するのが目的だったらしい。してやられたわね……。


「クッ、これで再興は失敗に――」

「諦めちゃダメ!」

「ア、アイリさん?」


 悲痛な顔を作るルトにげきを飛ばす。


「まだ6時を迎えてないもの、鐘を鳴らせば失敗じゃないわ!」

「でもどうすんだ? 今から崖を登ってちゃ絶対に間に合わねぇぜ?」


 6時に鐘を鳴らせと子爵は言っていた。けれど崖を登って鳴らせとは言われてない。

 つまり、()()()()()使()()()()()、鐘さえ鳴らせば成功なのよ。


「方法なら有るわ――」


 グイッ!


「な、何しやが――うわぁぁぁぁぁ!」


 火の球をくらい動けなくなっていた闇ギルドの男。

 ソイツの襟を掴んでおもいっきり上空へと放り投げた。


『ホーク、目標はあの鐘よ!』

『任せときや!』


 私の意図を理解したようで、崖の向こう側にいたホークが力強く頷く。


「距離よし、方向よし、んじゃあいってらっしゃい――ウィンドスマッシュや!」


 バズンッ!


「グボッ!」


 宙を舞った闇ギルドの男に強風をブチ当て、鐘に向かってブッ飛ばす。

 時間はギリギリ、


 3


 2


 1


「ろ、6時です、アイリさん!」

「大丈夫。間に合ったわ」


 私たちの代わりに鐘を鳴らしてくれるヤツがね。


「――――わぁぁぁぁぁぁ――ブッ!」



 ゴーーーーーーン!


「な、鳴った? 間に合ったんだ!」

「やったぜルト! 目標達成だな!」


 呆然と立ち尽くすルトの背中をバシッとグレイが叩く。


「そ、そうか……再興……できるんだ」

「そうよルト。これで正式にレジェンダ商会の会長よ」


 徐々に実感が湧いてきたルトの目が、キラキラと輝きだす。

 まだまだ先だけど、これから忙しくなるわよ。


「主よ。子爵の天幕から使者がやってきたぞ。儀式は成功とみなし、再興を認めるとの事で御座る」


 鐘を気にしてて気付かなかった。

 いつの間にか現れた使者にはザードとホークが対応してくれたみたい。

 そして鐘も鳴ったし、問題はないと。


「それと詫び状も持っとったで」

「詫び状?」

「襲撃者の件や。奴らが潜んでたことに気付かず申し訳ないって書かれとるで」


 わざわざ詫び状なんて用意しなくてもいいのにね。

 それともフランツの街を発展させるのに期待されてるとか? そう考えれば雑な対応はできないか。


「一度子爵のところへ戻りましょ」


 商会の立ち上げには成功した。

 ただし、コルザレス関連の遺恨が残ってるらしく、それを取り除くにはプラチナキャリアーを探る必要があるわ。

 それにこちらを敵視しているアマノテウスも気にしなきゃならないし、やることはまだまだ多そうね。


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