名誉の獣人
※胸糞展開です。ご注意下さい。
「い、今……何と?」
「ですから、この少年にはスキルはありませんし、ステータスも並以下だと申し上げたのです。残念ですが、武人としての価値はありませんな」
唖然とする父さんに、俺を鑑定した神父がため息まじりに答える。
この獣人村で生まれた者は戦闘職に就く事が定められていて、15歳を迎えると例外なく鑑定をかけられる。
そして戦闘スタイルを決めるという儀式が行われるんだけれど、俺には特別なスキルもなければ際立つステータスでもないらしい。
決して鍛練をサボってたわけじゃないのに……。
「何かの間違いではないのですか? まさかうちの子に限って……」
母さんが再度聞き返すも、神父は黙って頭を振るのみ。
「間違いでも冗談でもありません。このままでは貴方たちの名誉に傷が付きますぞ?」
「そ、それは困る! 長男シドは貴族の専属護衛、次男ベルクはプラチナキャリアーの国軍入り。そこへきてこのボンクラのせいで我が家の名誉が危ぶまれるとは!」
「ボ、ボンクラって……」
何なんだよいったい。息子より名誉の方が大事だっていうのか?
「なんてことなの! このような劣化獣人が同じ熊獣人とは不名誉です。今すぐグレイは捨てるべきです!」
「ちょ、母さんまで!」
父さんに続いて母さんまでもが、まるで汚物を見るような視線を向けてくる。
昨日までの2人とはまるで別人だ。
「よく聞けグレイよ。お前の存在は我が家には相応しくない。たった今から我が家の敷地を跨ぐことは許さん! もちろん村に住み着くこともな!」
「そんな!」
こ、これは夢じゃないのか?
俺だって一人前の武人になるために努力はしてきた。なのに才能がないから捨てられるなんておかしいじゃないか!
「行きましょう貴方。グレイを捨てれば我が家の名誉は護られ、シドとベルクはこのまま村の英雄よ」
「うむ、そうだな。グレイは我々にとっての不幸の元だ。後は彼らの子孫に期待しよう」
俺の事などどうでもよくなったらしく、両親は雑談を交わしながら教会を去っていく。
残された俺は、ただその光景を呆然と眺めてる事しかできなかった。
ポン!
「さてグレイくん。我が教会としても迷える子羊を救いたいところだが、私としても名誉を護らなければならない。すまないが、今後我が教会への立ち入りはご遠慮願いたい。当然村への立ち入りもね」
「…………」
肩に置かれた神父の手が、そのまま俺を外へと押しやる。
すでに気力が抜けきった俺はなすがままに追い出された。
「あ、そうそう。もしキミが野垂れ死んでも、村の墓地は使えないので悪しからず」
そう言って神父は中へと引っ込み、俺は力なくその場へへたり込む。
「野垂れ死ぬのが前提かよ……」
この村では戦える者こそが正義という風習がある。それを知ってたからこそ日々の自己鍛練は欠かす事はなかった。
俺もいつかは兄さん達みたいになりたいと思って頑張ってきたのに……。
「ママ~、あの人――」
「ダメよフレア。アレは出来損ないなのだから、関わっちゃいけません」
何気ない親子のやり取りが俺の胸にグサリと突き刺さる。
この分だとすでに村中に俺の事が伝わってるんだろうな……。
「よう、出来損ないのグレイ。親に捨てられた気分はどうだ?」
俺と同い年の獅子獣人――ライオネルが嫌味ったらしい笑みで近付いてきた。
背後には取り巻きのオランとプギンもいる。
「……なんだよライオネル。何かよ用――」
ドゴッ!
「グフッ!」
コイツ、いきなり顔を蹴ってきやがった!
「おいおい、口の聞き方には気を付けろよ? 俺は将来を有望視されたライオネル様だ。ゴミ同然のお前とは身分が違うんだからな」
「そうだべ。オラたちとお前とじゃ身分が違うべ」
「ゴミはゴミらしく、地べたを這いずり回ってるのがお似合いプギ」
昨日まで普通に接してきてたのに、コイツらまで両親と同じかよ!
ガスッ!
「グッ!」
「おい、何とか言ったらどうなんだ? 所詮出来損ないはその程度かよ?」
ドスッ!
「ガッ! や、やめろ……」
「口の聞き方がなってないべ。せめてやめて下さいと言うべきだべな」
「わ、分かった、やめてくださ――」
ゲシッ!
「ゲホッ……」
「へへ~ん、やめないプギィ」
ちきしょう、俺がいったい何したっていうんだ! ステータスが低いのがそんなに悪いのかよ!
「あ、そうだ! せっかく丁度いいモルモットがいるんだし、会得したスキルを試してみっか」
そう言ってライオネルは自身の手に鉄の爪を装着する。
コイツ、俺を殺す気か!?
「よ、よせ! やめろ!」
「へへ、心配すんな。お前が死んだところで誰も気にしねぇよ」
オランとプギンによって無理やり立たされると、的になれと言わんばかりに両腕を押さえられた。
他の人たちも遠巻きに見てはいるが、誰も助けようとはしない。それどころかさっさとやってしまえと言ってるヤツまで居やがる。
「運が良ければ助かると思うぜ? じゃあ運命のジャッジといこうか。いくぜ――トルネードクロー!」
高速回転したライオネルが爪を突きだし迫ってくる。
だが俺は押さえつけられて回避すらままならない!
ギュルルルルル!
「ギャァァァァァァ!」
上手く狙いが定まらなかったのか、軽く脇腹を抉っただけで済んだ。
だが俺にとっては大ダメージで、脇腹を押さえて踞る。
「ちぇ。まだコントロールが甘いか」
「なら慣れるまで練習だべな」
「それがいいプギ」
「だな! じゃあもう一度――」
「やめなさい!」
今度こそダメかと思ったところで、幼馴染みのニアが止めに入った。
ニアだけは俺の味方をしてくれる――そう思ったが……
「なんだよ、この出来損ないを庇うのか?」
「そんなんじゃないわよ。私はね、このゴミの血で村を汚されたくないの。分かる?」
「……そ、そう言われちゃ仕方ないべ」
「さ、賛成プギ。グレイはもう放置するべきだプギ」
ニアにまでゴミ呼ばわりされた。
昨日までは一緒に鍛練をしてた仲だっていうのに……。
「ライオネル、アンタがやったんだから、ちゃんとキレイにしときなさいよ?」
「…………あ~そういや俺、急用を思い出したわ。んじゃな!」
「あ、コラ、待ちなさい!」
「後はよろしくだべ」
「バイバイプギ~」
ライオネル達はそそくさと逃げていった。
もしかして、こうなるように仕向けた? そう思ったが、直後にその幻想は打ち砕かれることに。
「ったくアイツら……。仕方ない、私が始末するしかないわね」
「ニ、ニア?」
「覚えたてだけど、充分燃やせるわ――ファイヤーボール!」
ボフッ!
「あぶねぇ!」
こんな状態でファイヤーボールなんて食らったら、確実に死んじまう!
咄嗟に身体を回転させたからよかったものの、あのままだったら……
「ちょっと、何でゴミのくせに避けてんのよ!」
「避けるに決まってるだろ!? 俺はまだ死にたくねぇ!」
ガッ!
「いたっ!?」
ニアの足を踏みつけ、怯んだ隙に村の外へと走り出す。
もし捕まれば絶対に助からない!
「待ちなさーーい! せっかくアンタの両親から頼まれたんだから、おとなしく私の実験台になりなさいよーーーっ!」
「ヤバい!」
懲りずにファイヤーボールを放ってきた! このままじゃやられる!
ドン!
「ウワァァァァァァ!」
ガバッ!
「ハァハァ……ハァハァ……ゆ、夢か……」
久々に嫌な夢を見ちまった。
特に最後のファイヤーボールは本当に食らったみたいな痛みが――
グリグリ……
「す~~す~~zzz」
「ったく、ルトの足かよ。コイツ真面目なくせに寝相は悪いんだよなぁ……」
背中に押し付けられたルトの足をどかし、洗面所で顔を洗う。
まだ夜中だが、完全に目が覚めちまった。
仕方ねぇし素振りでも――
「どうした、嫌な夢でも見たか?」
「グルースさん」
ダンジョンのトレーニングルームにやって来ると、先客のグルースさんに声をかけられた。
頬に切り傷のある強面のこの人は、Bランクのデザートイーグルが人化した姿らしい。
見るからに強そうだし、今まで命の危機を感じたことはないんだろうな……。
「嫌な夢を見ました。自分より強いヤツに殺されそうになる夢を。でもこれは正夢で、過去に起こった事なんです」
あのあと命からがら逃げた先で盗賊らしき連中に捕まったんだっけ。
ぶっちゃけ盗賊の方が優しい感じすらした。おとなしくしてれば危害は加えられなかったし。
売られた先の奴隷商も、生きてるだけマシだと思ったもんだ。
「そうか。だが最初から強いヤツなどほんの一握りだ。あのアイリ殿ですら病弱で苦しい毎日を過ごしてたというぞ?」
「あ、あのアイリが?」
聞けばアイリは転生者なのだという。
生まれつき不運に見舞われ、異世界から召喚された直後にこの世界で死んだらしい。
そして生まれ変わったアイリは以前の病弱とは無縁となり、眷族との特訓のすえ今の強さを身につけたのだと。
「アイリ殿は長年不治の病に悩まされ続けた。それでも生きる事を諦めなかったからこそ今があるのだろう。ま、結局は転生したがな」
知らなかった。あんな化け物染みた強さは最初からじゃなかったんだ。
それに何年も苦しんだ? 俺なんかたったの1日じゃないか。だったら俺だって!
ガバッ!
「お願いします、グルースさん。俺、もっと強くなりたいんです。手が空いてる時で構わないんで、俺を鍛えてください!」
気付けば咄嗟に土下座していた。
そんな俺を見かねたのか、グルースさんは俺を立たせると正面から顔を覗き込み……
「俺のやり方はワグマより厳しいぞ?」
「構いません! お願いします!」
「フッ……分かった」
こうして俺は、ルトの専属護衛をするかたわらで、グルースさんとの特訓を行うのだった。




