ダンジョンマスターの戦闘
「敵はこちらに向かってきてる兵達よ。なるべく殺さないように注意して」
「「「ウォン!」」」
召喚したグレーウルフが丘を下って突撃していく。
ドドドドという足音に連中が気付いたものの、時すでに遅し。
闇に紛れたウルフたちが紅い両目を不気味に光らせ、連中へと襲いかかった。
「な、なんだコイツら! どこから湧いてきやがった!?」
「クソが! 索敵してた連中め、手を抜きやがったな!?」
「バカヤロウ! 文句言ってねぇでさっさと応戦しや――ぐわぁ!」
見通せる昼間で正面からという条件なら、連中にも勝機はあったかもしれない。
けれど現実はそんなに甘くなく、次々と負傷者を出し続けていく。
私兵100人に対してグレーウルフも100体。この比率がウルフへと傾いていった。
「ワンちゃんと同じくらいの数だった私兵がどんどん倒れていくわ」
「体勢を整える前に仕掛けましたから。あの中心にいるコルザレスは、さぞ慌ててる事でしょうね」
ワンちゃんと呼ばれたグレーウルフの心境は不明ながらも、惜しみ無く力を発揮していく。
特にウルフと夜襲の組み合わせは最適で、相手が視認し難いのに対し、臭いで居場所を特定するウルフは絶対的有利と言えるのよ。
「よし、そろそろかな」
「そろそろ?」
「はい。ちょっと面白い事を思い付いたので。――サモンアンデッド!」
シューーーン!
召喚したのは1体のスカルソルジャー。
中級以上の冒険者がアンデッド化した姿で、Dランクという少々手強いスケルトンよ。
「骨なんか召喚してどうするの?」
「いやいや骨って、確かに骨だけども……コホン。コイツにはちょっとした役割を与えようと思ったんです」
続いて小型のスピーカーを召喚するとスカルソルジャーの懐に忍ばせ、ホークの背に乗せた状態でコルザレスへと接近させる。
さらにインカムも召喚してスピーカーとリンクさせれば、私の声がスカルソルジャーから発せられてるように見えるわ。
「この魔物を操っているのは貴様か!? ワシはプレイモアの領主であるぞ、この無礼者めが!」
狙いどおりスカルソルジャーを指揮官と誤認した。
後はヘリウムガスを召喚して――っと。
これを使えば私とは別人と認識されるわ。
「愚かな領主よ、貴様はアマノテウス様の怒りに触れた。覚悟はできておろうな?」
「アマノテウスだと? そんなヤツは知らんぞ!」
「知らぬと申すか。ならばその薄らハゲ頭にしかと記憶しておけ。いずれゴールドキャニオンはアマノテウス様により滅ぼされるであろう――とな」
ドスッ!
「ヒィィィィィィ!」
スカルソルジャーの放った剣がコルザレスの足元へと突き刺さり、尻餅をついて後ずさる。
「分かったらプレイモアへと戻り、公爵に伝えるがよいわ」
「おおおお、覚えてろぉ!」
逃走中なのを忘れてしまったのか、私兵と共にプレイモアへと引き返していく。
せいぜいアマノテウスという名を広めてちょうだい。私は困らないから。
「プレイモアにはお父様が向かってるし、これでコルザレスは終わりね」
「ええ。自業自得です」
できれば被害者であるルトに断罪させたかったけどね。今回は残り物で我慢してほしい。
「ところで一つ気になったのだけど、その石板のようものは何? マジックアイテム?」
「ちょっとレアなスマホというマジックアイテムです。これがあるからダンジョンの外でも召喚できるんですよ」
「あ、そっか。本来ダンマスって、ダンジョン内部でしか召喚できないものね」
マリーベルって随分と博識ね~。
過去に遡っても、ここまで魔物やダンマスに詳しい一般人はいなかったわ。
自ずと会話が弾むというか、これもスキルの影響なんだろうか? いや、むしろ加護の方かも。
どっちにしろ、余計な事まで言わないように注意しとこう。
「それじゃあコルザレスの件も終わったことだし、アイリちゃんのマイホームに行きましょ」
「やっぱり行くんですね……」
「もっちろん! お友達と泊まり掛けで遊んだりお喋りしたりしたかったんだもの、この機を逃しちゃ勿体無いわ」
――というアクティブなお嬢様のお言葉。諦めてアイリーンに連れて行こう。
★★★★★
「はい到着~」
「凄いわ、一瞬で違う場所に移動できるなんて!」
マイスキルの座標転移でアイリーンのコアルームと戻ってきた。
一度見た場所なら瞬時に移動できるのが魅力よ――って、やってる場合じゃないわ。今は改築中で見た目が雑だから、おもてなしするスペースと客室を作らなきゃ。
ガチャ!
「取り敢えずこちらにどうぞ。少々散らかってるんで、直ぐにキレイにしますから」
「そんなの気にしないわよ? わたくしの部屋だって似たような――」
「「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」」
「「!?」」
い、いったい何事? エレインやミラクルのみならず、レミットまでが猫耳とか尻尾をつけた、妙な格好してる……。
「ちょっとマリオーネ。サボってないで貴女もおやりなさい」
「レミット様の言う通りです。マリオーネ様はもっと真剣に取り組むべきでしょう」
「……お帰りご主人」
「やる気が感じられませんわ! リハーサル通りにやるのです!」
「え"~~~?」
「え"~~~じゃありません。わたくしたちの今後を左右するのですよ? スイーツが食べれなくなったらどうするのです!?」
「…………寝る?」
「「寝るな!」」
どうやら私の帰りに合わせて画策したらしい。……失敗してるっぽいけど。
「ミラクル、何かあったの?」
「う、うん。その……凄く言いにくいんだけど、気の向くままにダンジョンを拡張したら、DPが底をついちゃって……」
「…………」
「そ、それでアイリちゃんに恵んで欲しいな~~~なんて――」
ゴツン!
「痛いです……」
……ったくこの子はもぅ。
あれほどDPは節約して使うようにって言ったのに……。
「あげないなんて言わないけれど、今度からは計画的に使うのよ。共同で生活してるんだから、みんなで相談して決めるの。いい?」
「はい……」
ミラクルの眉間にギュッと指を突き付けながら言い聞かせた。
私が居るうちはいい。だけど不意に元の年代に戻ったりする可能性もあるんだから、自分たちで管理維持できるようになってもらわないと。
「ところでアイリちゃん。後ろの人は誰?」
「おや、また新たな眷族でしょうか?」
おっと、マリーベルのことを忘れてたわ。
「こちらはマリーベル様。ゴールドキャニオンの代表者であるバルドス公爵のご息女よ。コルザレスを捕らえるのに協力してもらったの」
「す、凄い、権力者の娘さんなんだ! アイリちゃんってコネとかエグい罠とか作るの上手いよね!」
また微妙な誉め方を……。
「おやおや、一般のかたでしたか。アイリ様のことですから、てっきり眷族を自慢するつもりで連れてきたのかと」
そんな悪徳令嬢みたいな思考はない!
「そんな事より皆さま、手筈通りにアレを行いますわよ!」
レミットのかけ声で4人が整列する。
いったい何を――ってまさか!?
「一番エレイン、パピヨンやります、キャンキャン♪」
他との違いが分からない!
けれど可愛く見えるのが悔しい!
「二番ミラクル、トイプードルやります、キ、キャンキャン♪」
前よりも自信に満ちた表情。それでいて噛んでしまったところがまた可愛い!
「三番レミット、マルチーズをご覧ください、キャゥ~ンキャウン♪」
微妙にオリジナリティを加えてきたところは評価する。今後に期待しよう。
「……四番マリオーネ、そのへんの犬やります、……zzz」
なんだろう。昼寝している犬だと思えば、間違ってはいない気もする。
「いかがでしたかアイリ様? マリオーネ様はまだまだ経験不足ゆえ至らぬ点も御座いましょうが、これからもスイーツを提供していただくために全力で犬になって差し上げましょう!」
「うん、これからも――」
って、ダメダメ。このままだと癖になって、変な趣味に目覚めそう。
ここはキチンと言い聞かせて――
「か、か、か……」
「ん? マリーベル様?」
振り向けば、なぜか全身を震わせてるマリーベル様が。
それに顔もふやけてるような……
「か~わいーーーーーーっ!」
ムギュ!
「え? な、なに?」
「何なのこの子たち! 何なのこの現象! こんなに可愛い子たちは見たことないわ!」
一番近くにいたミラクルがマリーベルの熱い抱擁を受けた。
どうやらエレインの作戦は、特定人物にクリティカルヒットしたらしい。
「ああ、こっちの子も可愛い! 金髪ロングなお嬢さんが進んで犬になるなんて、シチュエーションも相まって可愛さ倍増よ!」
「さすがはお目が高い。素人はその辺を理解しませんからね」
マリーベルもそうだけど、エレインもいったい何を言ってるやら……。
「こっちもいいわ! クールな銀髪セミロングの少女がプライドを隠さず、逆にそれをアピールしている点は高ポイントよ!」
「あら、分かってらっしゃいますわね。何が起ころうと、プライドだけは捨てないと決めておりますの」
――などと、髪をファサっと掻き上げつつレミットが言う。
犬になってもプライドは生きてるらしい。
「こっちのダルそうにしてる子もまた別の可愛さがあるわ! それこそ部屋に置いといて、寝るまで眺めてたいくらい!」スリスリ
「zzz」
締めは緑の髪をツインテールにしてるマリオーネ。
滅多に動かないから、置物としては最適かもしれない。
「もう決めたわ! わたくしもここに住むと宣言致しましょう!」
「そこは致しちゃダメなところですって!」
その後すったもんだの末に、一泊して帰る事で了承してもらった。
可愛いは時として凶器になると、初めて思い知らされたわ……。
ホーク「あれ? アイリはん、ワイの事を忘れてんか?」
スカルソルジャー「カカカカカ!」
ホーク「笑うなや!」




