DPの仕組み
「美味しい! 邸の料理よりも全然美味しいわ!」
パスタを口にしたマリーベルが、顔を綻ばせて目を瞑る。
更には頬を両手で押さえる様は、まるでリアクション芸人の料理レポートみたい。
「味付けがしっかりしてるって言えばいいのかしら? 単に塩や胡椒を振っただけではここまでの味は引き出せないわ。しかもこれが召喚した料理だと言うのだから、邸の料理人が知ったら枕を涙で濡らすでしょうね」
まさに大絶賛なマリーベル様。5000年経っても料理のレベルは変わらずらしい。
いっその事、首都に飲食店でも出してみようか? マリーベルにお願いすれば場所くらいなら提供してくれそうだし。
うん、あとで考えてみよう。
「ホントに美味しいよね! 公爵さんのお家でも食べられないレベルなら納得だよ」
「まったくですわ。あのマリオーネですら、この有り様ですもの」
「…………」ハグハグモグモグ
レミットが指摘するように、彼女の隣では両手にフォークのマリオーネが一心不乱にパスタへと食いついていた。
食前睡眠とやらを忘れるくらい美味しいらしい。
「さて皆さま。本日のメインスイーツの時間がやって参りました」
「やったぁ!」
「お待ちしてましたわ!」
「…………」ジィーーー
パスタを平らげた4人の視線が私へと注がれる。
そこへマリーベルの視線も加わり……
「なぁにそのメインスイーツというのは?」
「彼女たちにとってはスイーツが食事のメインだからです。マリーベル様の口に合うかは別ですけどね」
ドサッ!
半分呆れつつもスイーツを召喚した。
好みが分かんないから、ケーキやらプリンやらアイスやらをテキトーに。
「はぅ!? こ、これは!」
ショコラムースを口にしたマリーベルがまたしても身を震わす。
「ななな、なんと口溶けまろやかなのでしょう! この溶けて無くなる感覚は何とも言えない心地好さを演出し、それでいて味をしっかりと残している。これは絶対に流行ると断言するわ!」
う~ん、5000年前も流行ったはずなんだけどねぇ。結局はこの世界の人たちには作れなかったって事かな?
まぁこの辺は気にしても仕方ないか。
「ふむふむ……この焼きプリンとやらも中々侮れません。結構なお手前です」
「あたしはやっぱり抹茶アイスかな~」
エレインはいろんなスイーツにチャレンジし、ミラクルは抹茶アイスに固定された模様。
特にミラクルは冬でも同じチョイスなのか、見てみたい気もする。
「わたくしはコレですわ。このレアチーズケーキこそ、究極にして究極のスイーツであると言わせていただき――」
ヒョイ!
「――って、マリオーネ! 他人のスイーツを取るんじゃありません!」
「だって究極のスイーツなんでしょ~? そこまで絶賛されたら食べたくなるっしょ~」
「ムキィィィ! この世のレアチーズは全てわたくしのものですわ!」
「こらこら、喧嘩しないの」
レミットはレアチーズケーキに夢中になりだしたわ。
こうなると、エレインとマリオーネの好みが固定化されるのも時間の問題かも。
「はふぅ~~~。お風呂は気持ちいいし食事も美味しいし、ここはまるで天国……」
ポテン!
「ちょ、マリーベル様!?」
幸せそうな顔をしたままマリーベルが横向きに倒れた。何事かと鑑定したら、精神疲労による昏睡らしい。
驚きの連続で疲れちゃったのね。
「マリーベル様を客室に寝かせました。あの様子だと朝までグッスリかと」
残念ながら、マリーベル希望のパジャマパーティーはできなかった。
……これってもう一泊したいとか言い出すパターン?
それはさすがに遠慮してもらおう。こっちの身が持たないから。
何よりアイリーンのこれからについて話し合わなきゃならないしね。
パンパン!
「はいはい、スイーツタイムは終了よ。手を止めて話を聞いてちょうだい」
両手を叩いてみんなを振り向かせ、さっそく本題へと入る。
――って、こらこらエレイン。一気に口の中に突っ込まないの。
「……コホン。率直に聞くけど、各自のDPってどのくらい残ってる?」
「ングング――ふぅ……。DPですか? こちらは6ポイントのみとなっております」
「わたくしの方は2853ポイントですわ」
「ウチは1565ポイント」
だいたい予想通りかな。
1日平均50ポイントで生活できるから、レミットやマリオーネならしばらくは大丈夫そうね。
一方でミラクルの場合は1日すら持たない有り様よ。
「実はね、DPを貯める方法は侵入者を利用するだけじゃないのよ」
「「「え!?」」」
「ダンジョンコアに魔力を送り込むの。そうすれば魔力がDPに変換されるわ」
この方法で5000年前のアイリーンは急成長を遂げたのよ。
1日で何万ものDPを荒稼ぎしてたから、今では兆を超えるほど貯まってたりする。
「そ、そうなんだ……。エレインは知ってた?」
「いえ、まったく……」
「わたくしも存じませんでしたわ」
「……zzz」
やっぱり知らないか。
ミラクルの眷族たちが何もしてないのを見て気付いたのよ。多分知らないんだろうなってね。
「じゃあさっそく試してみるね――ブラッシュさ~ん!」
別室で食事中だったブラッシュの名を叫ぶと、バァンと扉が開き――
「ィイヤッホーーーゥ! ミラクルたんに呼ばれ――」
「……うるさい」
ゲシッ!
「ほげっ!」
おっといけない。変態が迫ってきたから、反射的に裏拳を当てちゃったわ。
竜形態ならまだしも、人化した状態だとただの変態にしか見えない。
「ブラッシュさん、そんなとこで寝てないで、ダンジョンコアに魔力を注いでみて。上手く行けばDPが貯まるから!」
「ハハァ――お任せを!」
Sランクのブラストドラゴンであるブラッシュは、今のアイリーンで一番の魔力持ちよ。彼がいれば、日々のDP収支が大きく上昇するわ。
じゃあなんでもっと早くに言わなかったのかといえば――
うん、ぶっちゃけ忘れてた。
なので今日からはブラッシュをコキ使うって事で――
「あ、あれ? DPの変換が終わっちゃった。もう限界なの?」
「何を申されますかミラクルたん。僕がエクスタシーに達するのはまだまだ先――」
ゲシッ!
「はうっ!?」
「卑猥な発言は禁止します。また同じ事を言ったら強制的に送還しますからね?」
エレインに蹴られて嬉しそうにのたうち回る変態ドラゴン。
顔がニヤケてるから、もしかしなくても喜んでるわね。
――って、そんな事より……
「なんで終わったんだろ? ブラッシュが手を抜いてるようには見えな――ん?」
腕組みをして首を傾げてると、モニターにメッセージが表示された。
「なになに…………魔力変換は1日につき100ポイントが上限です。それ以上は無駄になるので、ご遠慮ください――」
――って、何なのこれは!? 5000年前にはこんな規制はなかったはずよ!
「どうやら以前とは違うようですね。恐らくは上限を超えるほどの眷族が中々いないのと、効率の悪さから実行する者がいなくなったのではないでしょうか?」
多分エレインの言う通りなんでしょうね。
これなら侵入者をダンジョンに足止めした方が遥かに効率がいいわ。
規制した理由はレグリアス様に聞かなきゃ分かんないし、落ち着いたら聞いてみよう。
ピコーン!
「あ、また別のメッセージが出たよ?」
「……今度は何?」
「え~とね…………ああ、午前0時を回ったから、捕虜によるDPが手に入ったみたい。入手ポイントは――凄っ! 一気に1000ポイント近くも入ってる!」
モニターを覗き込んだミラクルが、目を輝かせてハイタッチしてきた。
侵入者が強いほど入手するDPは多いから、あの冒険者たちはそこそこ強かったらしい。
「あ~~~ウチにも400近く入ってた。ウマウマ」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい。わたくしには1ポイントも入ってませんわ。いったいどういう事ですの!?」
マリオーネも入手してて、レミットは無しと。
これは恐らく……
「侵入者がいるフロアがミラクルのテリトリーだからよ。そして保護した奴隷エルフたちはマリオーネの作ったフロアにいる。これが原因だと思うわ」
「ですが眷族の部屋はわたくしが作りましたのよ? そこにミラクルとマリオーネの――いえ、マリオーネに眷族はいませんでしたわね……コホン。とにかく、ミラクルの眷族がわたくしのテリトリーにいるなら、わたくしも入手しないのはおかしいですわ!」
「はいはい、どうどう。今原因を考えてるから落ち着いて」
「わたくしは馬じゃありません!」
レミットの言う通りではある。
ミラクルの眷属はいずれも高ランクの魔物だし、DPが0なわけない。
「なるほど、分かりました」
「エレイン?」
再び腕組みをして思考していると、モニターを覗いていたエレインが何かに気付いた。
「マニュアルによりますと、同じダンジョンにコアを設置すると同族と見なされる――とあります。つまり、マスターの眷属は侵入者とは見なされてないようです」
マニュアルがあるんだ……。
「ならば侵入者をわたくしのフロアにも置いてくださいまし。さすればDPの問題は解決しますわ」
「うん、それでいいよ」
レミットとミラクルが了承し、DPの件は片付いた。
後は三日後にルトと再会するだけね。
ホーク「入浴シーンがないやんけ!」
アイリ「かなり際どいとの判断で削除されたわ。御愁傷様」




