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加護持ちの令嬢

「お待たせアイリちゃん! さ、早く行きましょ」


 なんという行動力か、部屋を飛び出したと思ったら数分で戻ってきたわ。

 しかも妙に急かしてくるし、外に出られるのがよっぽど嬉しいのね。


「行くのはいいんですが、居なくなったって騒がれません?」

「それなら大丈夫。お父様ならもうすぐプレイモアへと向かうから。違法奴隷の件で激怒していたし、数日は帰ってこないでしょう」

「メイドが気付いて大騒ぎになったり――」

「それも大丈夫。メイドには1日外泊してくるから騒がないように言ってあるわ」


 その行動力が羨ましいです、はい。


「では準備万端って事で――」


 シュタ!


 マリーベルの手を取って窓から夜空へと舞い上がり、そのまま首都の外へと飛び出した。


「ちょっと我慢しててくださいね。人目のつかない場所で便()()()()()()を召喚しますので」

「ん? わたくしはこのままでも平気よ?」


 いやいや、地上から百メートル離れた上空でぶら下がってるのに怖くないとか、ひょっとして普通の人間じゃなかったりする?

 でも手が滑ってしまうかもしれないし、一応は召喚しとこう。


「ホーク!」


 シューーーン!


「呼ばれて飛び出て――っと。お客さん、どちらまで?」

「人化解いてアイリーンまで運んでちょうだい」

「ほいほい了解やで!」


 召喚したのはワイルドホークのホーク。

 マリーベルと一緒にホークの背に乗り、アイリーンに向けて出発した。


「凄~い! ワイルドホークってBランクの魔物でしょ? それを使役するなんて、やっぱり本物のダンジョンマスターね!」


 怖がるどころか益々興奮するマリーベル。

 物怖じしないというか肝が据わってるというか、失礼な言い方だと人間離れしている気がする。

 ちょっと気になるし鑑定してみよう。



 名前:マリーベル 種族:人間

 年齢:18歳   性別:女 

 スキル:促進話術(プロンプトーク)、火魔法Lv1、短剣Lv1、

 ギフト:ビスカーの加護


 ちょっ、まさかの加護持ち!?

 確かビスカーって獣人の女神様だったはずよ。

 よほど気に入られる何かがないと加護をくれるなんてあり得ない。

 いや、そもそも状態異常を受けない私が異常を起こした時点で気付くべきだったかも。

 いったいこのお嬢様に何があったのやら。


「あの~、つかぬことを伺いますが、マリーベル様は神を信じますか?」

「クスッ♪ なぁにそれ、宗教の勧誘?」

「いや、そうじゃなくてですね……」


 回りくどい言い回しより、女神の加護がついてるって話した方がいいかもしれない。


「……コホン。え~と、マリーベル様にはビスカーという女神の加護がついてるんです。何かお心当たりは御座いませんか?」

「まぁ、わたくしに女神の加護が? でも女神と言えるような御方とお会いした事は――あ、そういえば幼少の頃に……」



~~~~~


「マリーベル様、こちらが巷で有名なチョコレートというお菓子で御座います」

「チョコレート?」

「はい。まろやかな甘さに世の女性は夢中だそうで、しかも異世界のお菓子とくれば、皆が挙って飛び付くというものです。ささ、どうぞお召し上がりください!」


 パクッ


「美味し~~~い♪ この上品な甘さは癖になりそう!」

「お気に召していただけて何よりです。しかしながら数量限定の品で御座いまして、入手できたのはこの一つだけに御座います」

「そう……」


 その時の執事の言葉にガッカリしたのを今でも覚えてるわ。

 気付けば半分を食してしまい、名残惜しくも残りに手をつけようとしたその時、窓の外から視線を感じて……


「ん? 何か視線が――ヒッ!?」

「お、美味しそうだゆ……あ、あたしにも一口欲しいゆ……」ダラダラ


 獣人の女の子が(よだれ)を垂らしてへばり付いてたの。

 窓から入り込んだその子は、尻尾を振りながらわたくしに――いえ、チョコレートに近付いてきたわ。


「む? マリーベル様のお菓子を狙う曲者め、この(じぃ)が成敗してくれる!」

「!」ビクッ!

「いざ、尋常に!」

「ちょ、ちょっと待つゆ、あたしはお菓子が欲しいだけゆ!」

「それが許せぬと言うのだぁ!」


 そして二人の追いかけっこが始まり、しばし眺めてるうちに段々おかしくなってきて……



「プッフフフフ!」

「「!?」」

「アハハハハハ! 爺、もう許してあげて。悪気はないみたいだから」

「し、しかし……」

「いいじゃない。わたくしはお菓子くらいで目くじらを立てたりしないもの。だから残りはあげてもいいわ」


 本当は一人で食べたかったけどね。

 けれど当時のわたくしは強がって、その子に全部あげちゃったの。そうしたら……


「ありがとうだゆ! 下界のお菓子にしては珍しからついつい欲しくなったんだゆ!」

「下界?」

「とにかく、貰った以上はお礼をするゆ。人様の物を貰ったら礼をするもんだって、昔とあるダンマスにメッチャ怒られたゆ」


 不思議な子だと思ったわ。ダンマスに説教されるなんて、中々レアだもの。


「それじゃいくゆ。う~~~ん――ゆ!」


 フワッ


「……え? な、何?」


 白い光りがわたくしを包み込んだと思ったらすぐに消えたわ。


「貴様、マリーベル様に何を――」

「ちょっとしたステータスアップだゆ。だから安心するゆ」


 言われてみれば、身体が軽くなった感覚を得たわね。


「じゃあそういう事で。礼には及ばないゆ」

「誰がするか! さっさと帰るがよい!」


~~~~~



「――という事があったわ」


 思った通りのビスカー様だった。

 アイリーンの街で似たような事をやらかして、説教した覚えがある。


「残念なことに、それがビスカー様です。ええ、大変残念な行動だと思います」

「あ、あれが女神様……。世の中には不思議な神様がいらっしゃるのね……」


 同意するわ。

 入浴中に現れたミルド様も不思議な思考回路をしてるし。

 しかしまぁ、私と知り合えたのもその加護のお陰って考えれば――


『アイリ様、至急お知らせしたい事が』


 ギンからの念話により、一時的に思考を中断した。


『何かマズイ事でもあった?』

『はい。プレイモアの領主が慌ただしく動いており、恐らく街から逃走するのではないかと』


 バルドス公爵の動きに気付いたのかもね。

 このままだと公爵は間に合わないし、私が動くしかないか。


『ギンたちはそのまま待機してて。人化して襲ったところを目撃されるとマズイし、人化を解いて襲っても危険視されて討伐隊を出されかねないわ』

『しかしそれでは……』

『大丈夫。ここは私に任せなさい』

『承知しました』


 さてと、せっかくだからマリーベルも連れてって、コルザレスを捕えるところを見せてあげよう。


「マリーベル様、どうやらコルザレスが逃走を図ろうとしてるようです」

「え!? そ、それでは逃げられて――」

「いえいえ。逃がしたりはしませんし、目の前で捕まえますからご安心を。――ホーク、予定変更。プレイモアに向かって」

「アイアイマムやで!」


 魔女の森に入りかけたところでグルリと回転、プレイモアへと向かう。

 そしてフランツを越えてプレイモアが見えてくると、東門からゾロゾロと兵が出てきたところだった。


「あれはコルザレスの私兵よ。さてはあの男、プラチナキャリアーに亡命する気ね!」


 ゴールドキャニオンの東側には、同じ商業連合国のプラチナキャリアーがある。

 恐らくはそっちの国にも繋がってるヤツがいるんだわ。


「ホーク、先回りして丘の上に着地よ」

「了解や!」


 コルザレスの進行方向に回り込むと、広範囲に渡って見下ろせる丘へと降り立った。

 今夜は曇りで月も出てないし、連中からは視認できないはずよ。


「ここで待ち伏せを?」

「い~え。雑魚相手に待ち伏せなんて、むしろ時間がもったいない。待つくらいなら――」


 シュシュシュシューーーン!


 グレーウルフの大群を召喚し、もう一度連中を見下ろす。


「こっちから仕掛けてやるわ!」


 さぁ、Eランクの大群にどこまで太刀打ちできるかな?


補足です。

アイリはミルドの加護により、状態異常(毒とかマヒとか)を受けません。

但し、同じく神から加護を貰った者からは、状態異常を受ける可能性があります。

今回のマリーベルも同様で、スキルによる状態異常を起こしましたが、極めて異例です。


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