第6章:黒い森
盾を持った男はしばらくの間僕を見つめ、疲れ切った目で僕のニット帽の先から泥だらけのトレッキングシューズまでを見渡した。たった今起こった出来事を、彼はまだ頭の中で整理しようとしているようだった。見慣れない子供が一人きりで黒い森の端に現れ、三匹ものCランクの魔物を倒したのだ。それも……あれは何だ? 魔導具か?
「俺の名はガレン・スミスだ」
やがて彼は、重くかすれた声で答えた。地面に座り込んだままの女を指差す。
「あっちがディナ・オクタヴィア、俺たちの魔術師だ。そして、怪我をしているのは……」
裂けた足を押さえながら苦痛に呻いている若い男を指差した。
「……トム・マルティネスだ」
僕は短く頷いた。
「手当てが必要だね」
僕はトムに近づいた。傷はひどかった。狼に噛まれた痕は深く、激しく流れる血の合間に向こうずねの骨が白く見えるほど肉が引き裂かれていた。彼の顔は真っ青で、額には冷や汗が滲んでいた。
処置をしなければ、失血死するか感染症で命を落とすだろう。
何とかしなければならない。
「システム」
誰にも聞こえないように、僕は小さく呟いた。
ホログラム画面が現れた。僕はすぐに救急セットを検索した。
【軍用野戦応急救護キット】
内容:圧迫包帯、消毒液、縫合針、医療用ハサミ、鎮痛剤(低用量モルヒネ)、抗生物質。
価格:25ポイント
「購入」
何もない空間から、濃い緑色のプラスチック製の箱が手の中に現れた。
ガレンとディナが息を呑んで驚いた。
「加護なの?!」
ディナが信じられないといった様子で目を見張り、叫んだ。
「加護を持っているの?!」
僕は答えず、彼らの推測に任せることにした。「加護」はこの世界では希少で貴重なものらしい。都合がいい。そう思わせておけば、彼らも僕に対して敬意を払うようになるだろう。
箱を開けると、医療用アルコールのツンとした匂いが漂った。僕は消毒液のボトルとガーゼを取り出した。
「彼を押さえて」
僕はガレンに指示した。
ガレンはあれこれ尋ねることなく従い、トムの肩を押さえつけた。
ぽっかりと開いた傷口に消毒液を流し込んだ。トムが悲鳴を上げ、体を痙攣させたが、ガレンが力強く押さえつけた。
「ごめん、痛むよ」
僕は呟いた。
手早く、しかし丁寧に傷口を清掃し、残っていた汚れや狼の毛を取り除いた。新鮮な血が滲み出続けていたが、少なくとも傷口は清潔になった。
以前、大学の医学部が主催した応急手当講習イベントに参加したことがあって助かった。まさか今になって役に立つとは。
その基礎知識がなければ、汚れた傷口を適当に包帯で巻いて、感染症で腐らせていたかもしれない。だが今は、おぼろげながらも確かな記憶に従って手が動いた――止血のためにここを圧迫し、中央から外側に向けて拭き取る。
圧迫包帯を取り出し、止血のために足を強くきれいに巻き上げた。最後に、小さな白い錠剤――鎮痛剤を取り出した。
「これを飲み込んで」
トムの口元に錠剤を差し出しながら言った。
「痛みが和らぐから」
トムは唾を飲み込み、それから口を開いた。水なしでその錠剤を飲み込んだ。数分後、彼の呼吸は落ち着き始め、呻き声も治まっていった。
僕は立ち上がり、血まみれになった手をカーゴパンツで拭った。救急キットをバックパックにしまう。
「ありがとう」
震える声でディナが言った。立ち上がった彼女は、今やガレンの隣に立っていた。
「あの子の命を救ってくれた。私たち全員の命を」
「僕に借りができたね」
僕は淡々と答えた。この世界では、無償の親切は怪しまれる。ビジネスとしての取引の方が納得がいくだろう。
ガレンは真剣に頷いた。
「もちろんだ。俺たちはヴェニンブルクの街のDランク冒険者だ。この恩は必ず返す」
冒険者。ランク。街。
貴重な情報が流れ込んできた。
「ヴェニンブルク」
僕は繰り返した。
「ここから遠いの?」
「この森の外にある小道を東へ歩いて二日の距離だ」
隠しきれない好奇心のこもった目で、ガレンは僕を見つめた。
「お前……迷子だと言っていたな? こんな子供がどうしてこの黒い森まで来られたんだ? それに、その服も……」
「話せば長くなるよ」
僕は遮った。自分の素性を語るつもりは毛頭なかった。
ガレンはそれ以上詮索してこなかった。冒険者の流儀を弁えているのだ。他人の過去、特に命を救ってくれたばかりの相手のことをあれこれ詮索しない、という流儀を。
「俺たちは毛皮を獲るためにダイアウルフの討伐依頼を受けていたんだ」
狼たちの死体を指差しながら、ガレンが説明した。
「だが、これほどの大群に出くわすとは思わなかった。ギルドの情報が間違っていたんだ」
さっき仕留めた狼の死体に目を向けた。
「毛皮は高いの?」
僕は尋ねた。
「とてもね」
ディナが答えた。
「傷のない丸ごとの毛皮なら、一枚で銀貨五枚の価値があるわ。一ヶ月は暮らせる金額よ」
僕の目が輝いた。銀貨五枚。システムのポイントとの換算レートはわからないが、悪くないはずだ。
「なら、山分けにしよう」
僕は提案した。
「僕が三匹仕留めた。逃げた残りは追いかけるなら君たちのものにしていいけど、この三匹は僕のだ」
ヒビが入っているかもしれない肋骨を押さえて顔をしかめながら、ガレンは小さく笑った。
「もっともだな。お前がいなきゃ、俺たちが奴らの餌になっていたところだ。皮を剥ぐのを手伝うよ。今の俺たちにできる精一杯の礼だ」
その後の小一時間を、狼たちの皮剥ぎに費やした。ガレンは実に手慣れていた。小さなナイフを使い、まるで外科手術のような正確さで肉から皮を切り離していった。見ているだけでも大いに勉強になった。
厚みがあり銀色の毛に覆われたダイアウルフの毛皮を三枚手に入れた。少しカビ臭いような獣臭はしたが、暖かく高級感があった。
『システム、価格を確認』
こっそりと毛皮の山に触れた。
【新鮮なダイアウルフの毛皮(品質:中)】
説明:軽鎧の素材となるクラフト素材。耐寒性あり。
売却価格:1枚あたり50ポイント
『百五十ポイント!』
心の中で快哉を叫んだ。あのゴブリンのナマクラ刀より遥かにいい。弾薬と薬品に使った元手は回収できたし、それどころか黒字だ。
今は売却しなかった。これほど大きな物を彼らの目の前で消し去るのは目立ちすぎる。毛皮を折りたたみ、バックパックの上にしっかりと括りつけた。重かったが、我慢できる範囲だった。
太陽はすでに傾き始めていた。森は再び暗さを増していく。
「今夜中に街へ戻るのは無理だな」
トムに肩を貸しながら、ガレンが言った。
「トムの足じゃ長距離の移動は無理だ。ここで野営するしかない」
僕は一瞬ためらった。異世界で見知らぬ連中と野営する? 危険だ。だが奴らは負傷し、疲弊しており、僕に命を救われた身だ。それに、ヴェニンブルクへの案内役も必要だった。
「わかった」
僕は同意した。
「でも、ここからは移動しよう。この血の匂いが他の魔物を呼び寄せてしまう」
僕たちは戦いの場所から離れ、川の近くの岩壁の陰にある小さな洞窟を見つけた。そこは乾燥しており、風雨や外敵を遮るのに手頃な場所だった。
その夜、洞窟の入り口に小さな焚き火を起こした。
ディナが自分たちの携帯食料を取り出した――硬いパンと筋張った干し肉だ。僕は少し見せびらかすように(それに本当に腹が減っていたので)、ゴブリンの鍋を取り出して水を張り、最後のカップ麺を調理した。
香ばしく食欲をそそる即席麺の香りが小さな洞窟を満たし、ディナとガレンは喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「それ、何?」
僕の鍋に目を釘付けにしながら、ディナが尋ねた。
「すごく……いい匂いね」
「僕の故郷の食べ物だよ」
短く答えた。彼らの木製の椀に、少しだけ麺を分けてやった。ほんの味見程度だ。
二人はがつがつと平らげ、驚きに目を見張った。
「これ……めちゃくちゃうまいぞ!」
ガレンが声を上げた。
「塩気と旨みが……何の香辛料だ?」
「さあね、通りすがりの商人から買ったんだ」
僕は答えた。
その言葉を聞いたとき、二人の表情が奇妙なものに変わった。
何かまずいことでも言っただろうか?
パチパチと爆ぜる焚き火の明かりの下で、僕は口火を切ってこの世界について尋ね始めた。
「それで、ヴェニンブルクについて教えてくれないか」
温かいスープをすすりながら尋ねた。
「それと、この場所についても」
ガレンは椀を置き、湿った洞窟の壁に背をもたせかけた。
「ヴェニンブルクはルシ王国の国境の街だ。冒険者や商人、それに……まあ、黒い森で一攫千金を狙うあらゆる連中が集まる場所さ」
「ルシ王国……」
どんな些細な情報も聞き漏らすまいと、心の中でその名を繰り返した。
「そして私たちが今いるのは、アヴァロン島っていう島よ」
焚き火の光を目に反射させながら、ディナが補足した。
アヴァロン島? 奇妙なほど聞き覚えのある名前だ。地球のアーサー王伝説を思い出させた。
「そう。アタナシア大陸にある最大級の島の一つね」
彼女は続けた。
アヴァロン島とアタナシア大陸。新しい名前、新しい世界だ。
「聞かせてくれないか……特に、この島にはどんな国があるのかを」
僕は慎重に尋ねた。
ガレンは眉をひそめて僕を見た。その表情には驚きと疑念が入り混じっていた。それでも小さな小枝を拾い上げ、説明のために洞窟の地面に大雑把な地図を描き始めた。
「このアヴァロン島は五大国家によって治められている」
長い曲線を引きながら説明する。
「まず、ルシ王国だ。領土はアヴァロン島の西端からここまで、黒い森の境目まで広がっている」
彼はルシ王国の境界線の隣にある空白地帯を小枝でトントンと叩いた。
「そしてこの空白の地域が『黒い森』だ……この一帯はどの王国の領土でもない。知っておくべき基本的なことだぞ」
「どうして?」
僕は尋ねた。
「黒い森はどこの国の領土でもないの? 中立地帯なのか、それとも無人地帯?」
「黒い森は魔物の巣窟だからだ」
ガレンは声を潜めて答えた。
「この森がアヴァロン島の西部と東部を分断しているのさ」
「魔物だらけの森なら、ルシ王国はどうして討伐して支配下に置かないの?」
僕は筋道を立てて尋ねた。
「つまり、領土って資源じゃないのか?」
ガレンは鼻で笑った。
「リアム、お前は本当にこの森について何も知らないんだな」
「この黒い森には黒竜が棲みついているからよ」
その怪物の名を口にするとき、ディナの声はわずかに震えていた。
「何百年も前、ルシ王国と東のフェルマン王国がその竜を討伐しようとしたことがあるの。大規模な遠征軍だったわ。両国から何百人もの魔術師、剣士、それに一流の冒険者たちが……全員参加した」
まるでその過去の惨劇を追体験しているかのように、彼女は焚き火を見つめた。
「結果はどうだったと思う? その軍勢は森に入ってわずか三日で全滅したわ。皆殺しにされたのよ」
僕は固唾を呑んだ。
暗い洞窟の入り口をちらりと見た。ここまで来る道中で危険な魔物に出くわさなかったのは本当に幸運だった。昨日目覚めた場所からここまで歩いた時間は――五時間にも満たない。つまり僕はまだ森の外縁部にいて、あの黒竜の縄張りの中心部からは遠く離れているということだ。
だが、あの疑問が再び頭をもたげた。
この体の元の持ち主は、なぜこんな危険な森に一人きりで入ったのだろう?
そして黒竜……本当にこの世界には竜が存在するのだ。魔術師もいれば、冒険者もいる。彼らの容姿――白い肌、青や緑や茶色の瞳、茶色や金色からピンク色までの髪色――に加え、中世西欧に似た鎧の様式、さらには剣や弓矢の使用からも、この世界が明らかに西洋風の魔法ファンタジー世界であることが窺える。
「竜ってそんなに強いの、ディナ?」
動揺を隠しながら、僕は尋ねた。
しまった、反射的にファーストネームで呼んでしまった。怒るだろうか?
ディナは額に手を当てた。
「もう、本当に何も知らないのね、リアム? よくこの黒い森で生き延びてこられたものだわ」
「あはは、ごめん」
ニット帽の上から頭を掻きながら、気まずそうに答えた。
怒られなくてよかった。この世界では下の名前で呼ぶのが普通らしい。ディナが日本人でなくて助かった。日本人相手にいきなり下の名前で呼んだりしたら、馴れ馴れしくて気持ち悪い奴だと軽蔑されていただろう。
安堵のため息をついた。
「まあいいわ。聞いて、リアム」
ディナは座り直すと、『先生』モードに入った。
「真竜はこの世界で最強の生物よ。食物連鎖の頂点に君臨しているの。寿命は非常に長く、不老不死とさえ言われているわ。魔術を扱う才能も桁外れで、まるで息をするのと同化しているかのように魔術を操るの」
彼女は手を挙げ、小さく円を描いた。
「現在の人類が使う魔術の詠唱? そのほとんどは竜族の古代魔術の詠唱から着想を得たものよ。エルフや亜人といった他の種族の魔術も同じ……すべて竜の力に由来しているの」
彼女は『魔術』という言葉を使ったのか? 『魔法』ではなく?
そういうことか……。
事情を知らない素人には些細な言葉の違いに思えるかもしれないが、その持つ意味は途方もなく大きい。この世界の魔術は、選ばれた一部の者にしか使えない説明のつかない神秘的な奇跡などではなく、体系化された学問として学べるものだということだ。
「でもね」
少しトーンを和らげて彼女は続けた。
「竜にも弱点がないわけじゃないの。他の種族と比べて繁殖能力が極端に低いこと。それに……財宝に目がなくて、他種族の男女に対してもひどく好色なのよ」
ディナは小さく鼻を鳴らした。
「だからこそ、今のこの世界には竜族の血を引く者がたくさんいるの。ハーフドラゴンやドラゴノイド……なんかがね」
僕は眉をひそめた。
「待ってくれ。さっき竜は繁殖力が低いと言ったのに、他種族との子孫はたくさんいると言ったよね。矛盾してないか?」
「それは純血の真竜同士の場合だけの話だ」
ガレンが口を挟んで説明を引き取った。
「真竜同士がつがいになった場合、子孫を残すのが極めて難しい。歴史書によれば、真竜の番が卵を産むだけでも四百年かかるそうだ! それを孵化させるまでの時間は別としてもな」
ガレンは顔を上げ、洞窟の天井を見上げた。
「真竜がそれほど強力だからだ。神は公正だな。真竜のような強大な生物を創り出しながらも、繁殖という弱点を与えた。もし奴らが人間やゴブリンのような繁殖力を持っていたらと思うと、ぞっとするぜ。とっくにこの世界は奴らのものになっていたはずだ」
彼は両手を合わせ、短く祈りの仕草をとった。
神?
その情報を頭の中に書き留めた。どうやらこの世界では宗教の影響力もかなり強いようだ。
「じゃあ、この黒い森の黒竜は……真竜なのか、それとも混血なのか?」
僕は確認のために尋ねた。
「真竜よ」
ディナがきっぱりと答えた。
「それに、世界で最も古い竜の一頭だと言われているわ。ルシ王国の歴史書によると、ルシ王国が建国される遥か昔から、その竜はこの島に存在していたらしいの」
なるほど。僕は納得して頷いた。誰もこの森の領有を主張しようとしないわけだ。わずか三日で軍隊を壊滅させるような地主を、誰が追い出せるというのか。
「そんなに危険な森なのに」
僕は不思議に思って尋ねた。
「どうして君たちはここに入ったんだ?」
「それは、私たちに必要なものが……」
「リアム……」
弱々しい声が僕たちの会話を遮った。振り向くと、今まで静かに横たわっていたトムが、苦しそうに体を起こそうとしていた。顔色はまだ悪かったが、目つきはずっとしっかりしていた。
「トム! 休んでなきゃ駄目だ!」
僕は慌てて立ち上がり、彼を再び横たわらせようと駆け寄った。
「ありがとう、リアム。もうだいぶ楽になったよ。あんたがくれた薬は……まるで魔法のようだ」
トムは弱々しく微笑んだ。
「それに、あんたはこの地域の情報を知りたがっていたよな? 俺は昔、王立図書館の司書補をやっていたことがあるんだ。この世界の基礎的なことなら、俺から話してやれる」
僕は少し言葉を詰まらせ、それからディナとガレンをちらりと見た。二人は止める様子もなく、むしろ彼に任せようという表情だった。
「わかった」
僕は元の位置に腰を下ろし直して言った。
「聞かせてくれ」




