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第41章:新しい武器

「明日に備えて武器を準備しないと」


 僕は手を伸ばし、小さくきしむ木製机の引き出しを開けて、そこにしまっておいた漆黒のグロック17拳銃を取り出した。


「よかった、まだちゃんとある」

 冷たいポリマーの表面を撫でながら、僕はほっと息を吐いた。

「僕がいない間に、ナターシャやカーラおばさんがうっかりこれを見つけていじったりしないか心配だったんだ」


 人差し指でマガジンキャッチを押した。カチッ。手のひらにマガジンが滑り落ちてきた。目を細め、中にある真鍮の輝きを数える。残りはたったの五発だった。


「くそっ、追加の弾薬を買わなきゃな」

 肩を落として長いため息をつきながら、僕は愚痴をこぼした。


 銃口の先端にあるサイレンサーをゆっくりと回した。キュル……キュル……筒状のパーツが外れ、すぐにサイドテーブルの上に置いた。


「明日のレイド遠征じゃ、この消音器は役に立たないな。騒々しい開けた戦場じゃ、かえって弾速を落として貫通力を下げる邪魔になるだけだ」


 柔らかなベッドの上に身を投げ出した。窓のカーテンは大きく開け放たれたままで、二つの銀の月の光が差し込み、木の床の上にこぼれていた。その輝きは、部屋の壁に固定されたランプのオレンジ色の明かりと溶け合っていた。


 このグロック17拳銃だけで、何千匹ものゴブリンの襲撃から生き残るなんて不可能だ。手の中で拳銃を弄びながら、僕は考え込んだ。


 新しい主兵装が必要だ。ちょうどいいことに、今朝ガレンが臨時収入を渡してくれたばかりだった。


 理屈の上では、これほど大規模なレイドクエストには何百人もの冒険者が参加するはずだが、他人に自分の命を預けるわけにはいかない。戦場の真っ只中では、ガレンもディナもそれぞれの持ち場で手一杯になるに決まっている。二人に守られ続けなければならない足手まといになることだけは、絶対に御免だった。


 確かに僕は今、正式に魔術師になった。だが、これまでに習得した魔術は初歩の水属性魔術にすぎない。昼間のように超高圧のウォータージェットカッターの水弾へと改変するには、かなりの集中力と圧縮のための時間が必要になる。一瞬で形成できるほどの練度にはまだ達していないのだ。


 だからこそ、明日の血みどろの遠征における僕の主戦力は、依然として近代的な銃火器でなければならなかった。今のところ、魔術は補助能力にとどめておくのが関の山だ。


 現在、システムの残高はわずか592ポイント。その他に、手元には銀貨32枚と銅貨800枚の現金があり、さらにガレンからもらった小銭入れの袋がある。


「これだけのお金があれば、新しい武器を買うには十分なはずだ」

 僕は満足げに呟いた。


 ズボンのポケットの奥深くへ手を突っ込んだ。


「ギルドがあの情報にどれほどの値をつけたのか、見てみるとするか」


 清潔な白いシーツの上に、その革袋の中身をぶちまけた。


 チャリン! チャリン!


 貴金属がぶつかり合う澄んだ金属音が部屋を満たした。銀貨が重なり合い、月明かりとランプの火が織りなす美しい輝きを反射していた。


「金貨じゃなかったのか。正直、少し期待外れだったな」

 その銀貨を仕分けながら言った。


 だが、至極もっともな話だ。冒険者ギルドのような資本主義的な組織が、ゴブリンの巣の場所程度の情報のために純金貨を何枚もポンと出すはずがない。彼らのようなCランクパーティーにとっても、金貨一枚を手に入れること自体が相当に珍しい偉業のはずなのだ。


「金貨一枚が銀貨百枚に相当するとして、計算してみるか」


 硬貨を指で動かし、十枚ずつの小さな山に積み上げ始めた。


「銀貨二十五枚か」


 つまり、ギルドがあのときガレンに支払った情報提供の総額は金貨たったの一枚で、それをガレンが僕たち四人に均等に分配したということだ。


「残っていた僕のお金と合わせると、現在の手持ちは銀貨57枚と銅貨800枚になる」


「この銀貨57枚……この街で働かずに一年以上贅沢に暮らすには十分すぎる金額だ」

 僕は沈んだ顔で長いため息をつきながら言った。


「だけど、あのぼったくりシステムは銀貨一枚をたったの5ポイントにしか換算してくれないんだよな」


「クソッタレ、本当に悪辣な資本主義者め」


「システム!」

 僕は呼びかけた。


 ピーン!


 青く透き通ったホログラム画面が目の前に現れた。色鮮やかなインターフェースには日替わりセールのバナーが並び、右上隅には地球の暦と同期したままの日時が表示されていた。


「主兵装が必要だ。連射が利いて、殺傷力のある口径で、高威力、それでいてこの子供の体でも扱える程度に大きすぎない銃器が」


 口元がつり上がった。


「となれば、当然アサルトライフルだ。問題は……どのシリーズを買うべきか、だな」


 AK-47? いや、あれは古くて命中精度が悪い。AK-12? うーん、あれも良い選択肢だな。ロシア連邦軍の制式アサルトライフルだ。ウクライナ戦争でも実戦投入され、多くのロシア歩兵部隊で使用され続けている。先代に比べて劇的な革新とまでは言えないものの、近代的な人間工学を取り入れ、光学照準器を載せるためのレールを標準装備し、従来のAKシリーズに比べて操作性も向上している。何より、カラシニコフ系の信頼性の高さは健在だ。ウクライナの戦場で長年使用された後も、前線の兵士たちの直接のフィードバックに基づいて改良が続けられている。


 それとも日本の自衛隊の20式小銃にするか? 性能は文句なしだ。軽量で近代的、過酷な環境にも強く、人間工学に基づいた優れた設計だ。だが、どういうわけか個人的にデザインがそこまで刺さらなかった。だからパスだ。


 最優先すべきは耐久性だ。泥や水たまり、過酷な天候に至るまで、あらゆる環境で確実に作動する銃器でなければならない――そして当然、価格も手頃でなければ困る。どう転んでも、この武器は長期的に僕の主力小銃になるのだから。


 耐久性とコストパフォーマンスを語るなら、カラシニコフ系が最上位に君臨するのは明白だ。だが、M4A1はどうだろう? アメリカ軍の制式小銃で、個人的に大好きなデザインだし、様々な戦場での実績も疑いようがない。それに、一番馴染みがある。かつて様々なFPSゲームで何百時間も使い込んできた銃だ。


 よし、まずは相場を見てみよう。


 人差し指で検索欄に「M4A1アサルトライフル」と入力した。瞬時に検索結果が並び、様々なメーカーのバリエーションが表示された。僕は標準的なミルスペック仕様を選んだ。


「250ポイント?!」

 信じられない思いで舌打ちした。

「何のカスタムも施されていないプレーンな小銃にしては、ずいぶん高いな」


「弾薬の値段はどうだ?」

 画面を下にスクロールし、おすすめアクセサリーの欄を見た。


「待て……一箱20ポイント?」

 目を疑わしそうに細めた。

「なんでこんなに安いんだ? まったく筋が通らないぞ。グロック17の9ミリ弾なんて一箱50ポイントもするのに、口径はずっと小さいんだぞ。それなのに50発入りの5.56ミリ小銃弾が一箱たったの20ポイントだと?」


 顎を軽くさすり、この電子的な陰謀について考えを巡らせた。


 まさか、この資本主義システムめ、銃本体の価格が遥かに高い長柄の銃器へアップグレードさせようと、拳銃弾の価格をわざと釣り上げて独占しているんじゃないだろうな? あくどいアルゴリズムだ!


「AK-12と比較してみよう」

 検索欄に再び打ち込んだ。


 結果が表示された瞬間、満足げな笑みが浮かんだ。


「M4A1よりずっと安い。本体は一丁たったの229ポイントで、5.45×39ミリ弾も一箱20ポイントだ」


「でも、どうしてカラシニコフの方がM4A1より安いんだ? ロシア製だからか?」


 両者とも近代的なプラットフォームの上に構築されている。だが開発年代で見れば、AK-12の方がより新しい設計だ。その上、ロシアの5.45×39ミリ弾は極めて競争力の高い弾道特性を持ち、NATO標準の5.56×45ミリ弾に匹敵する殺傷力を誇る。


「そして何より、デザインが格好いい。近代的でありながら、目を引く存在感がある」

 画面上で回転する武器の3Dモデルに感嘆しながら褒めた。


「よし。これに決めた」


 夜間に光を反射しないよう、マットブラック仕上げの仕様を選んだ。何より、黒色はいつだって威圧感があって格好いい。忘れずに、十箱の弾薬――合計五百発の弾丸――を買い物かごに追加した。


 情報パネルに記載された技術仕様を注意深く確認した。


【AK-12(アサルトライフル――カラシニコフ・コンツェルン製)】

説明:ロシアのカラシニコフ・コンツェルンが製造する、カラシニコフ系の最新世代アサルトライフル。ラトニク歩兵近代化計画の一環として、2018年にロシア連邦軍の制式小銃として正式採用。5.45×39ミリ口径弾を使用。

従来のAK世代と比較して、AK-12は人間工学的な操作性が大幅に向上。近代的な光学照準器やアクセサリーを取り付けるためのピカティニー・レールを標準装備し、調整・折りたたみが可能な伸縮式ストック、人間工学に基づいたピストルグリップ、扱いやすい操作系を備える。内部構造は、泥、水、埃、極低温といった過酷な環境下でも高い信頼性を誇るカラシニコフ系の伝統を完全に維持。発射速度は毎分約700発。

【本体価格:229ポイント】

【5.45×39ミリ口径弾薬箱10箱(500発):200ポイント】


 合計金額が画面下部に明るく灯った。


 429ポイント。


「一度の決済でこんなにポイントを吹き飛ばすなんて、どうかしてるな」

 小さく毒づいた。


「まあいい。身の安全のための長期投資だ。自分の命がかかっているときにケチケチしても始まらない」


 迷うことなく【購入】ボタンを強くタップした。


 フワッ。


 画面隅の残高が自動的に減算された。それと同時に、淡く青い光の粒子がベッドの空きスペースの上に現れた。光はゆっくりと凝縮し、分厚い透明テープで厳重に封印された細長い茶色の段ボール箱を形作った。


 その表面には英字で『Inter-Dimensional Online Shopping System』と黒く印字され、すぐ下には四角いスタンプが押されていた。


【CONTENT: 1 UNIT AK-12 ASSAULT RIFLE & AMMUNITIONS】


 時間を惜しむように、クリスマスプレゼントを受け取った子供のように興奮しながら、段ボールのテープを引き裂いた。


 封を開けた瞬間、新品特有の匂いが一気に立ち込めた。防錆潤滑油、合成ポリマー、そして工場特有の無菌的な気配が部屋の空気を満たした。


「新品のこの匂いだけは、いつ嗅いでも飽きないな」

 満足げに微笑みながら深呼吸し、僕は呟いた。


 発泡スチロールと気泡緩衝材を取り除いた。箱の底には、完全な状態の漆黒のアサルトライフルが横たわっていた。触れるとひんやりと冷たく、傷一つなく清潔で、部屋の明かりの下で鈍い輝きを放っていた。


「で、弾薬はどこだ?」

 注文した十箱の弾薬を探そうと、残りの梱包材をかき分けながら首を傾げた。


 まずは両手を使って箱から銃本体を持ち上げることにした。


「うっ、結構ずっしりくるな」

 腕の筋肉にかかる重力を感じながら漏らした。


 マガジン抜きの乾燥重量で約3.3キログラム。僕のような十二歳の子供の体にとって、この鉄の塊を抱えて戦闘の最中を走り回るのは骨が折れるに違いない。


 だが、僕の唇には再び自信ありげな笑みが浮かんだ。


 それは以前の基準での話だ。幸いにも、今日僕は先生から魔力操作の基礎を叩き込まれた。腕や肩の筋肉に魔力を流し込めば、この銃の重さなど遥かに楽に支えられるはずだ。射撃時の反動制御だって、想像以上に容易になるだろう。


 それに、ゴブリンのような忌々しい生き物を自動小銃で薙ぎ払うなんて……昔からの僕の妄想のど真ん中じゃないか。


 弾薬箱は、銃が収められていた段ボールの間仕切りのすぐ下、底のスペースに整然と並んでいた。一つずつ取り出し、シーツの上に十箱の長方形の箱を積み上げた。


 そのうちの一箱を手に取り、側面の製造ラベルを確認した。


「5.45×39ミリ口径。ロシア・バルナウル弾薬工場製造。製造日……2025年9月23日」


 小箱の端を破り、弾丸を一発取り出した。銅被覆の施された弾頭が、部屋の明かりを浴びて鈍く光る。


「ボトルネック型の薬莢デザインが実に洗練されているな」

 弾丸を宙に軽く放り投げて器用にキャッチしながら呟いた。


「弾道性能の面から見ても、この弾薬は9ミリ拳銃弾とは次元が違う。一昨日あのゴブリンロードを倒すのに手榴弾に頼らざるを得なかったけれど、今なら話は別だ。この小銃があれば、遥かに安全な間合いから仕留められる」


 弾丸を箱に戻し、興奮で少し汗ばんだ両手でAK-12を構え直した。


「なんてこった、最高に格好いいぞ」

 手の中の小銃を見つめ、両目が感嘆の輝きで見開かれた。


「まさに歴史的瞬間だ。生まれて初めて、本物の軍用アサルトライフルを握っている。机の上のグロック17も格好いいが、アサルトライフルを生で構えたときのこの昂ぶりには到底敵わない……」


 伸縮式ストックを右肩に当て、チークピースに頬を密着させてから、人差し指の先で引き金を引いた。


 カチッ! カチッ!


 乾いた空撃ちの音が夜の静寂を破った。発射音はなく、薬室が空であることを告げる内部機構の作動音だけが響く。


 ハンドガードとピストルグリップの滑り止め加工が施されたポリマーの感触が、手のひらに吸い付くように馴染んだ。握り心地は滑らず、いかに劣悪な環境であっても快適に扱えるよう設計されているのがよくわかる。


 左手を銃の下部へと伸ばし、トリガーガードの近くにあるマガジンリリースレバーを押した。手首のスナップを利かせ、カラシニコフ特有の湾曲したポリマー製マガジンを引き抜く。


 黒いマガジンは軽量でありながら頑丈だった。側面には細長い透明窓が備わっており、マガジンを抜くことなく残弾数を目視確認できるようになっている。シンプルだが、戦闘状況においては極めて有用な機能だ。


 再びマガジンを装填した。


 ガチャリ!


 中二病全開のアドレナリンに呑まれ、僕は座っていた体勢から飛び起き、ベッドの上にすっくと仁王立ちした。


 小銃を構え、敵の拠点を強襲する特殊部隊員になった自分を妄想する。


 戦闘姿勢をとり、銃を胸元に固く引きつけ、銃口を部屋の左から右へとゆっくり振った。部屋の暗い隅に潜む見えない敵を狙い定めるように、頭をわずかに傾ける。


 レシーバーの上に整然と伸びるピカティニー・レールが実に魅惑的だった。頭の中では、ポイントが再び貯まったらそこにホログラフィックサイトを載せる光景が早くも浮かんでいた。


 自らの妄想で息を切らしながら、ベッドの端へと倒れ込んだ。満面の笑みを浮かべ続けていたせいで顔の筋肉が強張り、過剰な興奮による冷や汗が金髪の生え際から滲み出ていた。


「はぁ……」

 銃の表面にぼんやりと映る自分の顔を見つめ、僕は長いため息をついた。


「昔、大学に通っていた頃にこんなものを持っていればな。この美しい銃をリュックに忍ばせて大学の廊下を歩き……賑わう中庭の真ん中で取り出して……」


「そして、いつも僕より恵まれていて傲慢な顔で歩いていたあの学生たちに、忘れられないちょっとした『サプライズ』をお見舞いしてやるんだ」

 声のトーンが急激に重くなった。人差し指が引き金をゆっくりとなぞる。


 目は鋭く細まり、憎悪に染まっていた。


「成績優秀、充実した人間関係、可愛い彼女、頭も良くて明るい未来」

 僕は唸り声を上げた。ピストルグリップを握る手に一層力がこもる。


「あの頃の僕は、自分を陰で見下し、蔑みの目で見てくる連中に囲まれていた気がする……どいつもこいつもクソ野郎どもめ」


 ゆっくりとアサルトライフルを持ち上げ、黒い銃口を部屋の真ん中の空間へとまっすぐ向け、躊躇なく引き金を引いた。


 カチッ!


 乾いた金属の作動音が、瞬時に僕の妄想を吹き飛ばした。


「……」


「僕は何を考えてるんだ?」

 僕は小銃をベッドの上へと戻した。


 再び膝を折って、柔らかなベッドの端に座り直した。


「よし、今夜の武器の開封の儀はここでおしまいだ」

 強張り始めた首を回しながら言った。


「もう夜も遅い。明日の夜明けには、皆と合流するために朝一番で街の広場へ向かわなきゃならないんだ。遅れるわけにはいかない。体調を万全に整えて、眠気に邪魔されず頭を百パーセント働かせられるようにしておかなきゃ」


「インベントリ」

 僕は唱えた。


 目の前の空間に、小さな空間の裂け目が口を開けた。時間を無駄にすることなく、梱包の段ボール箱、新しいアサルトライフル、十箱の弾薬、そしてグロック17拳銃を中へと放り込んだ。すべてが無事に収まったのを確認し、機能を停止させる。底知れぬ暗闇の次元の裂け目は、ゆっくりと収縮して跡形もなく消え去った。


 すべてを安全にしまい終えると、ベッドに体を横たえ、毛布を胸元まで引き上げた。


 深く息を吐き出す。


 そして両目を閉じ、一日中溜まった疲労に意識を暗闇へと沈ませるままにした。


 ……


 翌朝。


 身なりを整えた。いつものように白灰色のソフトシェルジャケットと黒のジーンズを身につけ、白いニット帽を深くかぶるのを忘れなかった。ゆっくりとした手つきでエルフの耳を上へ折りたたみ、ニット帽の下へと押し込んだ。エルフの耳の先端が綺麗に折りたたまれ、完璧に隠れているのを確認する。


 確かに少々窮屈ではあった。だが、我が身の安全のためだ。


 人間として十分に通用する見た目になったことを確認し、ベッドへと向かった。


 ベッドの上に置いてあったマットブラックのグロック17に手を伸ばした。親指でマガジンキャッチを押し、手のひらへとマガジンを滑り出させる。満弾に込められた9ミリ弾の真鍮の輝きが、朝日の光を反射した。


「主兵装に何かあったときの予備として、予備の弾薬を一箱買っておいたんだ」

 小さく呟きながらマガジンを押し戻すと、カチッ!と小気味よい音が響いた。


 しかし、その値段を思い出すと再び苛立ちが募った。


「クソぼったくりシステムめ! なんで拳銃の弾がこんなに高いんだよ? グロックの弾薬一箱で50ポイントだと? アサルトライフルの弾薬の方がずっと安いじゃないか!」

 不快そうに舌打ちした。


「この資本主義システムめ、完全に僕から巻き上げにかかってやがる!」


 左手で素早くスライドを引いて戻し――ガシャッ――薬室に一発送り込んでから、ジャケットの内ポケットへと安全に収めた。


 次は、主兵装の番だ。


 ベッドから漆黒のAK-12アサルトライフルを持ち上げた。3キロを超える重みが腕の筋肉にずっしりとのしかかる。幸いにもこの軍用銃には標準でタクティカルスリングが装備されていたため、背中に斜め掛けして快適に背負うことができた。


 最後に、ハーフフィンガーのタクティカルグローブを締め直し、左ポケットの炭素鋼ハンティングナイフがしっかり収まっているのを確認し、サロモンのトレッキングシューズの紐を固く結んだ。


 出発の時間だ。


 木造の階段を下りて一階へと向かった。居間には、カーラ、ナターシャ、アリス、そしてディナが集まっていた。ディナは右手首に魔導杖を携え、白とピンクの魔術師のドレス姿でひときわ目を引いた。足りないものがあるとすれば、どういうわけか被っていない魔術師の帽子くらいだった。


「リアムちゃん、ディナ……気をつけるんだよ。二人とも、必ず無事に帰ってくるんだよ」

 中年の顔に明らかな不安の色を浮かべ、カーラは胸の前で両手を握りしめて言った。


「心配しないで、お母さん。必ず帰ってくるわ」

 母親の腕を優しく撫でながら、ディナは安心させるような笑みを返した。

「それにね、ジュリア王女自らがこの遠征の陣頭指揮を執るそうよ。私たちの軍はとても強力だわ」


 カーラは静かに首を振り、前に進み出て娘の服の襟元を整えた。

「母さんの言うことをよくお聞き、ディナ。戦場じゃ、状況が悪化したら貴族様なんてあんたたちの命のことなんて気にも留めないんだよ。絶対に油断しちゃいけない。手柄を焦って軽率な真似をしたりせず、隊長の指示に従うんだよ」


「お母さんは心配しすぎよ。こういう遠征に参加するのは初めてじゃないもの。自分の力量の限界くらい分かってるわ」

 ディナは小さく笑い、母親を温かく抱きしめた。

「でも、忠告ありがとう、お母さん」


 カーラはゆっくりと抱擁を解き、僕の方へと視線を向けた。

「リアムちゃん……あんた、本当にそんな危険な遠征に行くのかい?」

 心配そうな声で尋ねてきた。


「はい、おばさん。僕にはやらなきゃいけないことがあるんです」

 僕は背筋を伸ばし、その女性の目をまっすぐに見つめて答えた。僕の眼差しには、揺るぎない決意が宿っていた。


 カーラは無言で僕を見つめ返した。どれほど説得してもその瞳の光が揺らぐことはないと悟り、彼女は少し諦めたように肩を落とした。

「わかったよ、それが固い決心なら」


「ディナ、リアムちゃんをしっかり頼んだよ」

 カーラは長女の方を振り返って頼んだ。

「あんたは強い魔術師なんだから。年上として、向こうであの子をちゃんと守っておやり」


「任せておいて、お母さん!」

 ディナは胸をポンと叩き、自信満々の笑顔を浮かべた。

「それにね、今のリアムは見た目ほど弱くなんかないんだから」


 ディナの言葉に小さく微笑んだ。


 それから、僕はアリスの元へと歩み寄った。ハーフエルフの少女はナターシャの隣に立ち、僕とディナを、喪失の恐怖に満ちた潤んだ赤い瞳で見つめていた。その小さな顔の奥に押し隠そうとしている不安が、僕にはよく見えた。


 僕は彼女の両手を握りしめた。手の中の手のひらは温かかった。


「心配いらないよ、アリス。僕たちは絶対に生きて帰ってくるから」

 できる限り優しい声で言った。

「この遠征が終わったら、君の両親の無事を確かめるために、一緒に君の故郷の村へ行こう。約束するよ」


 アリスは涙をこらえるように下唇を噛み、静かに頷いた。その小さな顔に、ようやく心からの微かな笑みがこぼれた。


「無事に帰ってきてね、リアム……ディナお姉ちゃんも」


 それからアリスの隣に立つ二つ結びの少女へと視線を向けた。


「ふんっ! さっさと行きなさいよ、生意気なエルフ!」

 ナターシャは不機嫌そうに頬を膨らませてそっぽを向いた。

「向こうでディナお姉ちゃんの手を焼かせたら承知しないんだから! それと……お姉ちゃんから教わった魔術で、ちゃんとお姉ちゃんの背中を守りなさいよ!」


「でも……道中、気をつけてね」

 急激に小さくなった声で呟き、耳の先まで赤みを走らせていた。


 彼女のお約束のツンデレな態度に、僕は満面の笑みを返した。

「ありがとう、ナターシャ」


「ナターシャ、私がいない間、いい子にしてるのよ。お母さんの家事を手伝うのを忘れないでね」

 ディナは妹の頭を優しく撫でながら言い聞かせた。


「うん、お姉ちゃん」

 ナターシャは素直に頷いた。


「それとアリス、もう少しだけ我慢してね。必ず家族を見つけ出しましょう」

 ディナは金髪の少女の頭にも愛情を込めて触れ、そう言葉を添えた。


 僕たちは振り返り、木製の扉を大きく押し開けた。ギィ……夜明けの朝日の光が一気に僕たちの顔を照らした。敷居の奥から、カーラ、ナターシャ、そしてアリスの温かい眼差しが、ヴェニンブルクの朝霧を抜けて歩み出す僕たちの背中を見送り続けていた。


 ……


 街の西の広場へと続く大通りは、すでに同じ方角へと向かう人の波で埋め尽くされていた。


 勇者レオンとその仲間たちの青銅のモニュメントが立つ場所だ。西の広場に到着すると、目の前に広がる光景は予想を遥かに超えていた。その開けた広場は、まさに人の海で埋め尽くされていたのだ。革の鎧から光り輝く鋼鉄のプレートアーマーに至るまで、様々なランクのあらゆる冒険者たちが集まり、剣、弓、槍、さらには見るからに凶悪な戦斧を手にしていた。


「よう、ディナ! リアム! やっと来たな」


 聞き覚えのある声が僕の物思いを遮った。ガレンが建物の壁に寄りかかって立っていた。いつもの銀色のフルプレートアーマーを纏い、背中にはひどく重そうな大剣が禍々しく備え付けられていた。


「ガレン」

 ディナは挨拶を返し、朝の風を防ぐようにコートの前を合わせた。

「軍勢はいつ頃動き出すのかしら?」


「街の鐘が鳴ったらだから、あと十数分ってところだ。落ち着けよ」

 胸の前で腕を組みながら、ガレンが答えた。

「ところで、二人ともここへ来る前に腹ごしらえは済ませてきたか?」


「ええ、家で朝ご飯を食べてきたところよ」

 ディナが頷いた。


「ならいい」

 ガレンは満足そうに頷いた。

「この遠征はかなりの長丁場になりそうだからな。野営地を張って、黒い森の中で二日、あるいはそれ以上過ごす可能性が高い。それもすべてが何事もなく順調に進んだ場合の話だ」


 二日以上?!


 心臓が少し速く脈打った。


「そうそう、リアム……」

 ガレンの注意が不意に僕へと向けられ、その目は僕の背中をじっと見据えて細められた。

「背中に背負っているその妙な代物は何だ?」

 好奇心いっぱいの表情で尋ねてきた。


 彼は一歩踏み出し、僕の背中に掛けられたAK-12の銃身に触れそうになった。反射的に肩を少し後ろへ引き、小銃を彼の手の届かない位置へと遠ざけた。


「あ、これ?」

 よく見えるように体を少し回した。

「前まで使っていた武器の強化版だよ」


「あの弓に似た小さな無音の武器の強化版だと?」

 ガレンの眉が大きくつり上がった。

「ずいぶん長いし、奇妙な形をしているな」


「その通りだよ」

 僕はさらりと頷いた。

「簡単に言えば、こいつから撃ち出される『矢』はずっと大きくて、ずっと速いんだ。一昨日のゴブリンロードとの戦いで、以前の武器の弾丸じゃ奴みたいなCランクの魔物の分厚い皮膚や鎧を撃ち抜くには威力が足りないって気づいたんだ。だから、その解決策としてこの新しい武器を用意したのさ」


 ガレンの目が即座に輝いた。以前僕が見せた銃器の破壊力の記憶が、まだ鮮明に残っているようだった。


「リアム、お前がその加護でその代物を具現化できるってんなら、俺の分にも一丁作ってくれないか?」

 期待を込めて尋ねてきた。

「お前にとっちゃ簡単なことだろう?」


 ジャケットの襟の陰で苦笑いした。


『簡単のわけあるか、ボケ! この小銃一丁と弾薬だけで429ポイントも吹き飛んだんだぞ! 銀貨九十枚近くに相当する大金だ。あんたの分まで買ってたら一瞬で破産するわ!』


「ご、ごめん、ガレン。これを渡すのはどうしても無理なんだ」

 ぎこちなく笑いながら銃のスリングを握りしめ、僕は断った。

「僕の加護にはエネルギーの限界や特定の制約があるんだ。これほど複雑なものを作り出すだけでも、僕の能力の限界を使い果たしてしまうんだよ」


「惜しいな」

 ガレンは残念そうに顎を撫でながら息を吐いた。

「まあ、仕方がないか。加護の限界だっていうんならな」


 ガレンは鎧の腰の小袋に手を突っ込み、ある物を取り出して僕へと放り投げてきた。


 片手で受け止めた。ひんやりと冷たい。軍用のドッグタグほどの大きさの長方形の鉄板で、僕には読めない文字が刻み込まれていた。


「これ、何?」

 鉄板を裏返しながら尋ねた。


「今回の作戦の民間義勇兵として登録された証明の認識票だ」

 ガレンが説明した。

「失くすなよ。遠征が終わった後、報酬を受け取るためにギルドの窓口へその鉄板を提出しなきゃならないんだからな」


「なるほどね。ありがとう、ガレン」

 その鉄のタグを、ジャケットの最も安全なファスナー付きポケットへとしまい込んだ。


「あ、そうそう、もう一つ、ガレン」

 ディナが以前触れていた陣形の計画を思い出しながら言った。

「作戦が始まったら、ガレンと先生はどの大隊に配属されるの?」


「ほう?」

 ガレンの眉が大きく跳ね上がり、ディナを横目で見ながら口元に意地悪そうな笑みを浮かべた。

「へえ、先生だと? 良かったな、ついにお前の弟子になってくれる奴が現れて、ディナ」

 ガレンは隣の少女の腕を小突いてからかった。


「うぅ……黙りなさい、ガレン!」

 ディナは居心地悪そうに呟き、ガレンのからかいの視線を避けるように顔を背けた。


 まったく……可愛い反応をする人だな。


 ガレンは低く笑い、それから真剣な表情に戻った。


「俺とディナは、他のCランク冒険者たちと一緒に侵入大隊に編入されている。見張り拠点を撃破し、本隊のための進入路を切り開くのが役目だ」

 ガレンは説明した。

「でお前は……身分がただの民間義勇兵だから、ギルドはお前をDランク冒険者や輜重隊と一緒に後方に配置した。お前の任務は、ゴブリンを一匹も逃がさないように防衛線を維持することだけだ。詳しい陣形については、現地の部隊長が説明してくれるはずだ」


「え、ええっ?!」

 その事実に目を見張り、僕は抗議の声を上げた。

「それって、戦場で別行動になるってこと?!」


「ガレン、冗談じゃないわ!」

 ディナが慌てて割って入り、大男を鋭く睨みつけた。

「後方であの子の身に何かあったらどうするのよ?!」

「それに、どうして私たちと違う部隊に登録したのよ?!」


「落ち着け、ディナ」

 ガレンは手を挙げた。

「忘れたのか? リアムは同年代の子供のように弱くなんかない。あいつの武器がどれほど殺傷力があるか、お前自身よく知ってるだろうが」

「それに、配置を決めたのは俺じゃない。参加者の配置はギルドの運営が決めたことだ。俺にそんな決定権なんてあるわけがない」


「だいたいな」

 ガレンは人混みの後方を指差した。

「義勇兵の配置場所は最も安全な区域だ。主任務は補給線の確保と、包囲網から漏れ出た残党のゴブリンの掃討、防衛線の死守だけだ。俺たちの持ち場に比べれば、危険はずっと小さい」


「そうかもしれないけれど、それでも目の届かないところに一人で置いておくなんて……」

 ディナは抗議した。その瞳には明らかな心配の色が浮かんでいた。


 僕は一歩前に進み出て、ディナの服の袖にそっと触れた。


「心配してくれてありがとう、先生。でも大丈夫、平気だから」

 僕は素早く口を挟み、できる限り安心させるような笑顔を作った。


 背中のアサルトライフルをポンポンと軽く叩く。

「この新しい武器と、昨日先生に教えてもらった魔力操作の基礎があれば……生き残るための道具としては十分すぎるくらいだよ」


 ディナは数秒間、僕を見つめた。僕の顔から迷いを探ろうとしたようだったが、そこに見出せたのはただ静かな落ち着きだけだった。やがて、彼女は小さくため息をついた。


「わかったわ……無茶な真似は絶対にしないって、約束して」


「約束するよ」

 僕は答えた。


 作戦司令官からの号令を待つ間、僕たちは人混みを避けて一息つける場所を探して歩いた。やがて涼しげな場所を見つけ、勇者レオンの青銅像の影の下にある白大理石の階段に腰を下ろすことにした。周囲では、他の何十人もの冒険者たちも同じように休んでいた。


 小銃の埃を払いながら、広場を埋め尽くす人の海へと視線を巡らせた。


 不意に、僕の視線が凍りついた。


 遠く、輜重馬車の列からそう遠くない場所に、再び彼らの姿を捉えたのだ。


 数人の少年少女からなる小さなパーティーで、全員が真っ黒な髪をしていた。群衆の中で異様なほど目立っている、ひどく見覚えのある東アジア人の顔立ち。


 先日、街の通りですれ違ったあの一団だ。


 地球の人間……。


 目を細め、彼らをじっと観察し続けた。


 あいつらも、この遠征に参加しているのか。

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