第35章:魔術の修練・後編
「よし、この瞬間から、あなたは正式に私の弟子よ」
ディナは優しく微笑んだ。草原の風が彼女のピンクの髪を撫で、誠実さを湛えたその顔を包み込んでいた。
「この機会を最大限に活かしてほしいわ、リアム。あなたの未来のため、この過酷な世界で自分の身を守る力のため……そして、あなたの夢を叶えるためにね」
その言葉を聞き、彼女の心からの笑みを目にして、胸の奥で何かが激しく震えた。生まれて初めて、僕は何かを心から学び、それを絶対に習得したいと思った。
地球で生きていた頃、学生時代も大学に入ってからも、僕は学問に対して一度たりとも本気で打ち込んだことなどなかった。
与えられたあらゆる機会をいつも無駄にしてきた。毎日の日課といえばダラダラと怠け、授業の内容を聞き流し、友達とおしゃべりに興じ、あてもなくスマホの画面をスクロールし、あるいは一番後ろの席でいびきをかいて眠るだけだった。
しかし、今ディナが僕に向けてくれている期待と信頼に満ちた笑顔を見つめていると……彼女を失望させたくないと強く思った。
いつの日か、僕に教えたことがただの無駄骨で、時間の浪費だったと彼女に思わせたくはなかった。
ディナが僕に与えてくれたこの貴重な機会を、絶対に無駄にはしない。
そうだ。ディナは素性も定かではない僕のような子供を弟子にするためだけに、面倒な手続きを踏み、魔術協会に正式な許可を申請する苦労を背負ってくれたに違いないのだ。その手続きには並々ならぬ労力とリスクが伴ったはずだ。
多くの人々の前で僕が自分の弟子であると高らかに宣言するとき、誇らしげに輝く彼女の顔が見たい。いつまでもただの『偶然命を救ってくれた子供』として見られたくはなかった。それ以上の存在として見てほしかった。
僕が弟子であり、友人であり……そしていつの日か、彼女が心から……と思えるような存在として、僕を誇りに思ってほしい。
「リアム? ど、どうして泣いているの?!」
ディナの慌てた声に我に返った。彼女は急いで僕の前にしゃがみ込み、いつの間にか僕の頬を濡らしていた涙を見て、その顔に焦りを浮かべていた。
「私……何かまずいことでも言っちゃった?」
震える声で尋ねながら、彼女はハンカチを探して上着のポケットを探った。
「さっきの誓約の重荷が重すぎたの? もしそうなら……」
「ううん、違うんだ」
僕は慌てて遮り、手の甲で手荒に顔を拭った。小さく鼻をすすりながら、無理に満面の笑みを作ってみせる。
「ただ……僕が本当にディナ先生の弟子になれたのが、嬉しすぎただけなんだ」
深く息を吸い込んで感情を落ち着かせ、彼女のエメラルドグリーンの瞳をまっすぐに見つめた。
「ディナ先生! 先生を決して失望させないと誓うよ! 絶対に一生懸命学んで、すごく立派な魔術師になってみせる!」
僕の高らかな宣言を聞き、ディナの顔から焦りの色は瞬時に消え去った。再び唇に温かい笑みが浮かぶ。彼女は優しい手を伸ばし、愛情を込めて僕の金髪を撫でてくれた。
「もう、心配ばかりさせるんだから」
彼女は小さくくすくす笑った。
「ええ、信じてるわ。将来、あなたは間違いなく並外れた素晴らしい魔術師になる。私なんか、遥かに追い越していくくらいにね」
「リアム、目を閉じて」
不意にディナが言った。
「え? どうして目を閉じなきゃいけないの?」
眉をひそめて尋ねた。
「いいから言う通りにして。目をぎゅっと閉じてて」
彼女は半ば強引に促した。
「わかった、わかったよ」
目を閉じ、視界を暗闇に委ねた。草原の風の唸りが優しく顔を撫でていく。
暗闇の中で、微かに衣擦れの音が聞こえた。ディナが上着のポケットの奥深くを探っている。やがて、布が引き出される擦れ音が聞こえた。
彼女は跪いた姿勢のまま、僕と目線の高さを合わせていた。周囲の空気が動く気配が肌に伝わってくる。
極めて慎重に、どこか神聖ですらある手つきで、ディナは僕の頭の上にそっと何かを乗せた。
「さあ、もう目を開けていいわよ」
彼女が優しく言った。
ゆっくりと目を開け、朝日の眩しさに目を慣らすようにしばたたいた。頭の上にちょこんと乗った見慣れないものへと、すぐに手が伸びた。
「これ……?」
もっとよく見ようと、それを頭から下ろした。上品にカーブを描いた円錐形のミニチュアの魔術師の帽子だった。ベースは黒色だったが、何より目を奪われたのはその意匠の細やかさだった――帽子の縁を巡る白のラインは極めて整然と精密に施され、側面に美しくあしらわれた金色の竜の刺繍紋章と見事に調和していた。
指先に触れる生地の感触は非常に柔らかく厚みがあり、縫製も色合いの組み合わせも完璧に見えた。織物の専門家でなくとも、市場で安売りされているような安物ではないことくらい一目で分かった。
「あなたの師匠からの最初の贈り物よ、リアム」
ディナは優しく見つめながら説明した。
「普通ね、伝統として、入門の儀式を終えた後に魔術師は小さな魔導杖と魔術師の帽子を弟子に贈るものなの。あなたが正式に魔術師の道を歩み始めたことを示す、神聖な証よ」
彼女の表情が少し翳り、笑みは申し訳なさそうなものへと変わった。
「でも……私にはこの帽子を買ってあげるのが精一杯だったの。杖の方はね、小さくて質の低いものであっても、まだまだ高価なのよ。今の私の懐事情じゃ、買ってあげることができなかったの」
ディナは胸の前で両手を合わせ、小さく頭を下げた。
「だから……許してね、リアム」
その申し訳なさそうな表情を見て、僕は慌てて身を乗り出し、合わせられた彼女の両手を強く握りしめた。
「先生がこんなに素敵な帽子をくれただけで、僕、飛び上がるほど嬉しいよ! だからお願いだから、そんなことで謝らないで」
彼女を安心させるように手をそっと握り、僕は真剣に言った。
僕は再びその三角帽子を頭にちょこんと被り、誇らしげにポンポンと叩いた。
「本当にありがとう、先生! 約束するよ、この帽子をずっと大切にするって!」
満面の笑みを浮かべて叫んだ。
ディナは顔を上げ、僕の真剣な表情に目を丸くした。
「そう?」
安堵に満ちた明るい笑顔が、ゆっくりと彼女の顔に戻ってきた。
「そう言ってもらえて、本当によかったわ」
彼女は僕の手からゆっくりと自分の手を引き抜き、立ち上がると、ドレスの膝についた枯れ草のくずを払った。
「よし! これで正式に私の弟子になったんだから、さっそく講義の続きを始めましょう!」
僕もシートの上で背筋を正して座り直した。頭の三角帽子に改めて触れ、ずれていないかを確かめる。
『この贈り物は一生大切にします、先生』
「耳をかっぽじって、よく聞きなさいよ、リアム」
プロの教官のような口調で彼女が命じた。
心地よいシートの上にあぐらをかいた。頭上にはどこまでも続く青空が広がり、ゆっくりと流れる白い雲の塊が浮かんでいる。晴れ渡った朝の天気と、涼しい草原の風が肌を撫でていた。
そして僕の真正面には、ディナ先生が立っていた。
ディナは背後の草の上に置かれた小さな木片を指差した。
「これを私たちは『魔導具』と呼んでいるわ」
木片の表面で青く光る複雑な図形を見つめながら、僕は小さく頷いた。
「魔法陣を通じて、私たちはこのような様々な魔導具を作り出すことができるの。一番ありふれた例が、罠の魔導具ね」
ディナは続けた。
「冒険者や狩人は、罠の魔導具や魔導スクロールをよく買い求めるわ。魔導スクロールというのは、すぐに使える魔術の呪文が封じ込められた羊皮紙の巻物のことよ」
「ちょっと待って」
僕は右手を高く挙げて口を挟んだ。
「質問があります、先生」
「どうぞ」
「どうして冒険者パーティーが、わざわざお金をかけて魔導スクロールや魔導具を買わなきゃいけないの? どのパーティーにも、編成の中に少なくとも一人は魔術師がいるんじゃないの?」
ディナは微笑み、胸の前で腕を組んだ。
「いい質問ね、リアム」
「すべての冒険者パーティーが、仲間に魔術師を迎えられるほど幸運なわけじゃないのよ。だからこそ、魔術師の代用品として魔導スクロールや魔導具を頼るの」
「それに……大半の魔術師はプライドが高いのよ。冒険者のような肉体を酷使する仕事を、下等な職業だと見下しているの」
「私は例外だけどね」
彼女はくすくす笑った。
「一日中部屋の中に閉じこもっているのが耐えられない性分なの。今まで行ったこともない新しい場所を探索できる仕事の方がずっと好きだわ」
「自由が好きっていう理由の他にも……事情はあるわ。もし魔術協会の勤めを受け入れたり、王国の魔術局に入ったりすれば、王都へ転勤させられるか、もっと僻地へ飛ばされる可能性が高いの。そうなれば当然、お母さんやナターシャと離れて暮らさなきゃならなくなる。私にはとてもそんなこと耐えられないわ」
「昔……お父さんが生きていた頃なら、考えられたかもしれないけれど。でも今は、状況がまるで違うもの」
「どうしてヴェニンブルク支部の魔術協会に配属を希望しなかったの? この街にも支部があるじゃない。それとも……カーラおばさんとナターシャを連れて、一緒に王都へ引っ越すことはできなかったの?」
次々と疑問が思わず口をついて出てしまった。
「あ、ご、ごめんなさい! 無作法に聞こえたなら聞き流して」
「いいえ、構わないわよ、リアム」
「リアム、お役所の仕組みを理解しなきゃね。配属に関しては、私たちがどこに配置されたいかなんて選ぶ権限は一切ないの。上層部が決めることよ。ルシ王国の王都に置かれるかもしれないし、このヴェニンブルクかもしれない……もっと最悪な場合は、アタナシア大陸の遠く離れたどこかへ送られるかもしれないのよ」
「言っておくけれど、私、以前に一度応募したことがあるのよ。で、魔術協会が私をどこに配属しようとしたか当ててみる?」
僕は静かに首を横に振った。
「ミリス王国よ! ここから何千キロも離れた、アタナシア大陸の沿岸部にある国よ! そんな遠くへお母さんとナターシャの二人だけをこの街に残して行けるわけがないでしょう?」
「それに、二人を連れて引っ越すっていうあなたの提案だけど」
ディナは足元の青草を見つめながら続けた。
「お母さんは絶対にヴェニンブルクを離れたがらないわ。私たちの家族の根はここにあるの。お父さんのお墓も、おじいちゃんやおばあちゃんのお墓も、全部この街にあるんだもの。だから……最終的に魔術協会からの誘いは断ることにしたのよ」
それが、二重属性の才能を持つ魔術師であるディナ先生が、ヴェニンブルクで一介の冒険者として生きる道を選んだ本当の理由だったのだ。
「僕から見れば、冒険者になることなんて少しも下等な仕事じゃないよ、先生」
それを聞いてディナの目がわずかに見開かれ、やがてその唇に柔らかな微笑みが広がった。
「本当にありがとう、リアム」
不意に、彼女は両手で自分の両頬をパンッと叩いた。
「あれ? どうして話がこんなに脱線しちゃったのかしら?!」
恥ずかしそうに顔を少し赤らめて彼女は声を上げた。
「魔法陣の話に集中を戻しましょ」
僕はくすくすと笑った。
「了解です、先生!」
「魔法陣の応用範囲はとても広いのよ、リアム。理論上はほぼあらゆる物理的な媒体に適用できるし、当然ながら商業的な市場価値も極めて高いわ。四つの条件さえ満たせば、製作の工程も比較的簡単よ」
「第一に、魔法陣を描くための『媒体』。第二に、『魔導インク』。第三に、『術式構成』。そして第四に、『術式』よ」
「この四つの条件を完璧に組み合わせなければ、魔法陣は機能しない無意味な落書きに終わってしまうわ」
彼女は断言した。
「へえ……四つの必須条件か」
その情報を頭に刻み込みながら、僕は頷いた。
「そうよ。それに魔法陣を作る技術は、魔術師にとってすごく助かる臨時収入にもなるの」
「臨時収入?」
片眉を上げた。
「ええ。魔術師が全員大金持ちだなんて思わないことね」
「普段、懐が寂しくなったとき、私たち魔術師はお手製の魔導具を作って市場に売り捌いてお金を稼ぐのよ」
「じゃあ……ディナ先生もその『副業』をよくやるの?」
好奇心を露わにして尋ねた。
「たまにね」
「普段はパーティーに手頃なクエストがないときや、ギルドの依頼板が閑散としているときにしかやらないわ」
「でもクエストの依頼がたくさんあるときは、滅多に手を出さないわね。冒険者のクエストをこなす報酬だけで、家族を養うには十分すぎるほど稼げるもの」
ちょっと待てよ。もしこの魔法陣の製作技術を身につけられたら……自作の製品で大金を稼ぐことができるんじゃないか?
何が何でもこの技術を習得しなければ!
「そして魔法陣のもう一つの極めて重要な機能よ」
僕の妄想を遮ってディナが続けた。
「それは、魔術師が自らの生まれ持った基本属性以外の属性魔術を使えるようになることよ」
「えっ?!」
僕は驚いて当惑の表情を浮かべた。
「待ってよ、先生! さっき魔術師は自分の魔術回路にない他の属性の魔術は一生使えないって説明したじゃないか?!」
「まあまあ、落ち着いて私の話を最後まで聞きなさい」
空中で手を振りながらディナが遮った。
「は、はい」
僕は素直に口を閉じ、あぐらの姿勢を正した。
「さっきの私の説明は少しも間違っていないわ。基本属性が火だけの魔術師が他の属性の魔術を使えないのは、紛れもない事実よ」
「けれど魔法陣を使うのは別の方法なの。魔力を魔術現象へと変換するために、体内の魔術回路を使わないのよ」
ディナは背後の木片を指差した。
「外部の媒体を中継器として使うの。外部の媒体に魔導インクで描かれた術式構成と術式こそが、魔術回路の役割を肩代わりするのよ。体内の魔術回路と同じように機能して、あなたが注ぎ込んだ魔力の流れを特定の魔術現象へと変換してくれるの」
頭の中で情報のピースが結びつき、僕の目が輝いた。
「通常の呪文詠唱は魔術回路を使って魔力を魔術現象に変換するけれど、魔導スクロールや魔導具を使う場合は魔法陣を通じて魔力を魔術現象に変換する。そういうことだよね?」
推測してみた。
「一度聞いただけでこんな複雑な説明を理解できるなんて驚きね」
「リアム、以前に魔術を学んだことがあるの?」
「ううん、魔術を学ぶのはこれが生まれて初めてだよ」
「ふーん」
まずい、不自然な勘の良さを見せすぎただろうか?!
「まあいいわ、魔術師になるのに十分な知性があることの証明ね」
ディナは嬉しそうに頷いた。
「でもね、魔法陣を使うのにも弱点はあるわ。自分で直接魔術を使うときほど柔軟には動けないの。攻撃目標が限定されやすかったり、戦闘の最中にスクロールを使い果たしたり、起動に手間取ったりと、色々ね」
「それに、こんな魔導具を作るためにはね」
ディナは背後の木片を指差した。
「自分の生まれ持った属性以外の魔術の詠唱や術式構成の構造を、すべて暗記しなきゃいけないの。つまり……学習に何倍もの時間がかかるってことよ」
同情的な笑みを浮かべて彼女は付け加えた。
筋の通った説明だった。
だが、彼女はこの魔法陣の利用価値を他の分野に見出していないのだろうか? 対人戦闘以外の用途には?
これが世代間や文明間の発想のギャップというやつなのだろうか?
個人の戦闘における主兵装として頼るには魔法陣は確かに不向きかもしれないが……技術的な応用という観点で見れば、その可能性は無限大だ。
ましてや、僕が地球から持ち込んだ科学知識とこの魔法陣のシステムを結びつけることができたなら。
……くそっ、この中世世界の魔術師たちが夢にも思い描いたことのないような装置だって、絶対に創り出せるはずだ!
仮に僕一人で成し遂げられなかったとしても、理解のある魔術師たちを雇って手伝わせればいい。それこそが、国家という仕組みの真の機能ではないか?
「どうしたの、リアム?」
「何でそんなに嬉しそうな顔をしてるの?」
「えっ……ちょっと考え事をしてただけだよ。講義を続けてください、先生」
「そうなの……?」
「それじゃあ次は、魔導インク、術式、そして術式構成について説明するわね」
「よく聞きなさいよ、リアム」
教室の教授のように、ディナは僕の前を行ったり来たりとゆっくり歩き始めた。
僕は真剣な表情を作った。
『くそっ、ここに机とノートがあれば、絶対にメモを取るのに……』
「まずは魔導インクからよ。名前の通り、魔法陣を描くために作られた特殊なインク液のことね。一般的には、特殊な精製工程を経て真っ黒な液体になったカバラの木から抽出されるか、魔力を宿した他の天然資源から採取されるわ」
「そうそう、原料の魔力濃度が高ければ高いほど、インクの質も良くなるのよ。だから後で魔導インクを買うときは、まず原料を確かめる癖をつけなさいね」
「黒色が濃ければ濃いほど、上質な魔導インクよ。それと店主に魔導インクか普通のインクかも忘れずに確認しなさい。いくら真っ黒でも普通のインクだったら意味がないんだから」
「使えないわよ」
「先生、引っかかったことがあるの?」
「あるわよ、だから教えてるんじゃない」
「じゃあディナ先生のおすすめは?」
僕は手を挙げた。
「カバラの木を原料にした魔導インクを買いなさい。それが最高品質よ。他の魔導インクよりずっと値が張るけれど、仕上がりに失望させないことは保証するわ」
「しっかり覚えておくよ、ありがとう先生」
ディナは頷き、再び解説に戻った。
「このインクの役割は、描かれた線の経路に沿って淀みなく魔力を流し、最終的に魔術現象を引き起こす伝導性にあるのよ」
「魔法陣を描くときは、絶対にこの特殊なインクを使わなきゃいけないの、先生?」
「絶対にね」
ディナは断言した。
「普通のインクで描いたら、ただの無意味な落書きにしかならないわ」
「魔力を蓄える能力もなければ、まして魔力を流すことなんてできやしないもの」
「それじゃあ次は、術式構成の話に移りましょう」
ディナは歩みを止め、僕を見据えた。
「この世のあらゆる系統の魔術は、互いにまったく異なる幾何学的な基本図形の骨組みを持っているの。この図形こそが、具現化させたい魔術効果の設計図として機能するのよ。例えば火属性、風属性、重力、時空間――それぞれが固有のパターンを持っているわ。この模様の曲線の形状が、魔力がどこへ流れ、特定の現象へと変換されるかを決定づけ、誘導するのよ」
異世界に来てまで、数学という概念から逃げられないのか!
「そして最後が、術式――一般には詠唱句として知られているものよ」
「幾何学的な図形を描くだけでなく、魔法陣の中にはその魔術の具体的な命令文を示す詠唱の文字を書き込まなければならないの。この文字が、図形内の魔力の流れを導いて望む魔術現象を生み出すための命令系統として機能するわ」
ディナは右の人差し指を天に向けて立て、理論講義の締めくくりに入った。
「呪文のない図形は無秩序な魔力の流れを生むだけに終わり、図形のない呪文は具現化するための骨組みを持たない。そして魔導インクがなければ、両者は魔力と一切結びつかないわ」
「つまり結論として、魔法陣は魔術師を補佐するために創られたものであって、魔術師の能力そのものに取って代わるためのものじゃないのよ」
「さて、この魔法陣に関する講義は理解できたかしら?」
「理解できたよ、先生」
「よし、後でテストを出そうかしら?」
ディナは首を傾げた。
「あ、忘れてたわ。あなたに魔術回路があるかどうかすらまだ確かめてないし、魔力操作の初歩すら教えてなかったじゃない」
「どうして私、いきなり魔法陣みたいな発展理論を教えちゃったのかしら、おバカねえ」
先生のお茶目な仕草を見て、僕は小さく微笑んだ。
こんな日々が、いつまでも続いてくれたらいいのに。




