第34章:魔術の修練・前編
今朝の天気はとても心地よかった。一筋の雲もない澄み渡る青空の下、涼やかなそよ風が顔を撫でるように吹き抜けていた。
見渡す限り、青々とした草原が果てしなく広がっている。遠くには草食動物たちの影がのどかに草を食み、調和のとれた自然の絵画と一つに溶け込んでいた。
僕たちは、この草原の真ん中にぽつんと一本だけ佇む巨木の木陰の下に立っていた。
「なんてのどかなんだ……」
僕は思わず呟いた。
この木陰の下にシートでも敷いて寝転がり、甘いお菓子を食べながら冷たい飲み物を飲んで、一日中この美しい景色を眺めていたい気分だった。
「リアム! そこで突っ立ってぼーっと何してるの? 早くこのシートを敷くのを手伝って!」
ディナの声が僕の物思いを破った。
「あ、うん、わかった!」
僕はすぐに振り返って彼女のもとへ駆け寄った。二人で分厚い茶色の布シートの端を引っ張り、木の下の草地の上に平らに広げて座る準備をした。
ちょっと待てよ……さっきまでディナがこんな大きなシートの包みを持っていたのなんて見かけなかったぞ。どこから取り出したんだ? まさか彼女も僕と同じようなアイテムボックスを持っているのか? 僕は少し眉をひそめて首を傾げた。
「どうしたの?」
僕の視線に気づいてディナが尋ねた。
「ううん、何でもないよ」
僕は慌てて誤魔化した。
「よし。シートを敷き終えたら、そこに座ってて。魔物が近づかないように、先に防御魔術を張るから」
彼女が指示を出した。
「えっ?」
僕は目を丸くした。
「こんな綺麗な草原に魔物がいるの?」
ディナは小さく鼻を鳴らし、片眉を上げて僕を見つめた。
「当然いるわよ。野生の大自然なんだから。街の公園にでもいるつもり?」
「でも……僕たち、もうルシ王国の領内の壁の内側にいるんじゃないの?」
「いい、リアム。あの巨大な城壁はね、黒い森からの魔物の群れが王国の中心部に際限なく雪崩れ込んでくるのを防ぐために建てられたのよ。王国の領内そのものが元々生息地である魔物の存在まで防ぐためのものじゃないわ」
ディナは根気よく説明してくれた。
「それに、どれだけ高い壁だろうと地上の魔物を足止めするのにしか効果がないわ。飛び越えてくる有翼の飛行型の魔物までは防げないもの」
「まあいいから、先に結界を張るわね。油断したら危ないから」
彼女はそう締めくくった。
僕は黙ってあぐらをかいてシートの上に座り、ディナがこの大木の幹を取り囲むようにいくつかの奇妙な物体を配置し始めるのを見守った。
城壁の内側でも魔物は普通に共存して生きているのか。それなら……
「あの巨大な壁、作った意味があまりないんじゃないか?」
僕は独り言を呟いた。
もし将来この国を手中に収めたら、あんな無駄な壁なんて取り壊してしまおうか?
僕は慌てて首を振り、その過激な思いつきを打ち消した。
いやいや。あの歴史ある城壁には高い文化的価値があるはずだし、軍が国境を警備する上でも戦略的に大いに役立っているに違いない。それに……あのロマネスク調の建築様式は壊すには美しすぎる。
だいたい、僕は文化遺産を破壊して回るような狂った暴君じゃないんだから。
ぶつぶつと呟きながらシートの上に体を横たえ、葉の隙間から覗く青空を見上げた。
不意に、視界の端が閃光を捉えた。透明な六角形のパターンが浮かぶエネルギーの天蓋が、ごく淡い青色の光を帯びて広がり、まるで巨大なガラスのボウルを逆さにしたように、この木の下の空間全体を包み込んだ。
「何だこれ?!」
僕は驚いて身を起こした。
「今張った防御魔術よ。さあ、準備は完了したわ、勉強を始めましょう!」
ディナはその整った顔に誇らしげな笑みを浮かべ、こちらへと歩いてきた。
「すごいな……ディナ先生は火と風の属性専門の魔術師だと思ってたよ。こんな高位の魔術まで使えるなんて」
隠しきれない感嘆を込めて言った。
ディナは快活にくすくす笑った。
「属性魔術しか使えないなんて、私いつ言ったかしら? それに誤解してるわよ、リアム。これ、高位魔術なんかじゃ全然ないわ。ただの初歩の無属性魔術よ」
「えぇ……そうなんだ」
さっき彼女が配置した物体を指差した。
「ところで、さっき僕たちの周りに置いたあれは何?」
無意識のうちに、僕は自然と彼女を『先生』と呼ぶようになっていた。
「ああ、あれ? この防御魔術を保存して起動するための魔導具よ。昨日の夜、今日の訓練のためにわざわざ作っておいたの」
好奇心が抑えきれず、立ち上がってその物体のひとつへと近づいた。一つだけではなく、木の周囲の東西南北の四方に同じものが四つ置かれていた。
外見は煉瓦ほどの大きさのただの角材に見える。だがその平らな表面の上で、複雑な魔法陣が白青色の光を放ちながら眩しく輝いていた。
これは何だ? 魔法陣か?
「気になってるみたいね?」
振り返り、熱心に頷いた。
「見た目はただの木片だけど、その上で魔法陣が光っているのを見るに……この木箱は一種の魔導具に改造されたものなんじゃないかな」
僕の分析を口にした。
「百点満点よ、リアム」
ディナは褒めてくれた。
「でも少しだけ惜しいわね。それ、本当にただの普通の木片よ。霊木でも特殊な素材でも何でもないの。純粋にその表面に魔法陣を描いただけよ」
「えっ? どうやって?」
「仕組みはこうよ。描かれた魔法陣の術式構成の中に、防御魔術を発動するための特定の術式を書き込んであるの。そしてその陣の構造の中に、私の魔力を注ぎ込んで蓄えておいたのよ」
ディナは分かりやすく説明してくれた。
「だから現地では、最初から呪文を詠唱し直す必要がないの。この『起動紋』に少しだけ魔力を流して刺激するだけでいいのよ」
ディナはしゃがみ込み、魔法陣の端にある小さな点をしなやかな人差し指で指し示した。
「この紋様を刺激すれば、封じ込められていた防御魔術が一瞬で起動して具現化するわ。もちろん、木の中に蓄えられた魔力が尽きれば、この結界の天蓋も徐々に薄れて消えてしまうけれどね」
彼女は立ち上がり、手をパンと叩いた。
「結界が消えたら、また私の魔力をこの魔法陣に補充してあげるだけで、再び使えるようになるわ。すごくシンプルでしょう? こうすれば、何度も呪文を詠唱する時間を無駄にすることもないし、一度に過剰な魔力を消費して消耗することもないのよ」
実に効率的で実用的な仕組みだ。
「普通の人――つまり魔術師じゃない人でも、この道具を使えるの?」
目を輝かせて尋ねた。
もし一般人でも簡単にこれを使えるなら、この魔導具の量産化による経済的価値と市場独占の可能性は計り知れない! この技術の特許で金貨の山が築ける未来まで想像してしまった!
「理論上は、可能よ」
ディナの答えが、僕の妄想を少し打ち砕いた。
「でも、一般人がこれを起動するには専用の補助魔導具が必要ね。普通の人間や魔術回路を持たない人間は、体内の魔力を操作して外へ流す能力がないもの。だから、引き金となる外部の触媒が必要になるわ」
そういうことか。つまりこれを起動するには、やはりスイッチとして魔力の入力が必要なわけだ。
「さて、今日の最初の講義として、魔術の最も初歩的な基礎から始めるわよ。すなわち――魔力操作ね」
指導者らしい口調になってディナが言った。
「魔力操作?」
「そうよ」
ディナは頷いた。
「でも実践に入る前に、まず最も根本的なことを一つ確認しなければならないわ。あなたのその体に、本当に魔術回路が備わっているかどうかを確かめなきゃいけないの」
「どうやって確かめるの?」
尋ねた。
「後で見せてあげるわ。でもその前に、この魔法陣についての説明を終わらせておきたいの。これについての理解も、魔術における極めて重要な基礎だからね」
ディナは地面の木片へと視線を戻した。何の前触れもなく、彼女は目の前の何もない空間へと背をもたせかけた。
待て。空中に寄りかかってる?! あり得ない光景に目を見張り、僕は間抜け面を晒した。
口をあんぐり開けた僕の顔を見て、ディナは小さく笑った。
「何が起きているか気になったら、目の前の空気に触れてみなさい」
ディナは僕の手首を掴んでゆっくりと引き寄せ、僕の真正面の空間に手のひらを当てさせた。
手のひらが目の前の空気に触れた瞬間、信じられない思いで目を見開いた。
ひどく硬く、平坦だった。一秒前までは完全な空間で、何の手応えもなく歩き回れていたはずなのに。
だが今はどうだ? 通り抜けるどころか、力いっぱい押してみても腕が押し留められた。巨大水族館や動物園の仕切りガラスのような、極めて分厚い透明ガラスの壁に手のひらを押し当てている感覚そのものだった。
この目に見えない壁を破れないなんて、本当に信じられなかった。
強度を試すため、地面から拳ほどの大きさの石を拾い上げ、助走をつけて透明な壁に向かって全力で投げつけた。
バチィンッ!
石は見えない表面に激突し、ヒビ一つ残すことなく跳ね返されて草の上にドサリと落ちた。
ディナは僕の試みを見守り、薄く微笑んだ。
「物理的な力で壊そうとしても無駄よ、リアム。この防御魔術は、そんな小石を投げつけたくらいじゃビクともしないわ。それどころか、この結界は高位魔術の連続攻撃ですら数回は耐えられるんだから」
彼女は胸の前で腕を組んだ。
「この防御魔術はね、魔族の致命的な即死魔術の脅威に対抗するために、人類が過去千年にわたって改良と洗練を重ねて開発してきた最強の防御魔術の結晶なのよ」
この魔術の生い立ちの歴史を聞き、息を呑んだ。感嘆した。
「つまり……過去一千年間の人類の英知の結晶ってこと?」
「そうよ」
「この大陸のすべての魔術師がこれを使えるの?」
尋ねた。
「理論上はね。術式自体は基礎魔術として体系化されているもの。ただ、決定的な弱点もあるわ。この防御魔術を展開している間は、結界の内側から攻撃魔術を放つことができないの。外からの攻撃を防ぐと同時に、内側から外へ放つ魔術攻撃まで遮断してしまうからよ」
「最強とは言ったけれど、もちろん欠点がないわけじゃないわ。そもそもこの呪文は魔族の即死魔術を相殺するために特化して設計されたものだから、他の系統の魔術なら理論上は突破する隙があるの。それでも、大半の魔術師にとっては他の防御魔術を使う必要がないほど十分すぎる耐久力があるわ。一般的な魔術攻撃なら、ほぼあらゆる種類を受け止めることができるんだから」
彼女はそう付け加え、この世に完璧な防御など存在しないことを示唆した。
ディナは僕の方へと顔を近づけた。
「さあ、どう? ますます魔術を学びたくなってきたでしょう?」
「もちろんだよ! 好奇心で頭が破裂しそうだよ、先生! 魔術の神秘をもっと教えてくれ!」
目を輝かせて叫んだ。
「素晴らしいわ! 模範的な弟子の熱意ね!」
ディナは快活に笑いながら褒め、僕の頭を愛おしそうに撫でてくれた。
しかし、その笑みはすぐに消え去った。
「けれど、これ以上先へ進む前に……あなたに伝えておかなければならない条件が一つあるわ、リアム」
ディナの周囲の空気が一転して極めて真剣なものへと変わった。周囲の気圧すら重くなったように感じられた。
僕は眉をひそめて不思議そうに彼女を見つめた。
「条件って?」
「魔術の力を決して悪のために使わないと、誓ってほしいの」
ディナの視線が僕の瞳をまっすぐに貫いた。鋭く、一切の妥協を許さなかった。
「そして、これから私が教える魔術の知識の欠片一つとして、いかなる理由があろうと他人に教えたり広めたりすることは固く禁じられているわ。魔術協会からの正式な許可と資格を得ない限りはね」
「そして最後に、真剣に修行に励むこと」
「この三つの条件に誓いを立てられるなら、あなたを正式に弟子として迎え、魔術を教えてあげるわ」
魔術協会の承認なしに、外部の人間へ魔術の知識を広めてはならない?
どうしてそれほど規制が厳しいんだ? それに、そんな厳格な禁令があるなら、どうしてディナは素性も定かではない僕なんかに魔術の秘密を教えるという大きな危険を冒そうとしてくれるんだ?
僕の顔に浮かんだ数々の疑問と困惑を見て、ディナは静かに息を吐いた。
「ずいぶん混乱しているようね?」
「構わないわ、この世界の魔術の基本規則を教えてあげる」
ディナは姿勢を正して説明を始めた。
「すべての魔術師に対し、一般人へ魔術の書式や知識を教え広めることを禁じる絶対的な法があるの。社会の秩序が混乱に陥るのを防ぐためよ。考えてもみて、もし誰もが指先一つで魔術を使えるようになったら、犯罪も戦争も歯止めが利かなくなるでしょう?」
「この規制は、魔術を悪用する魔術師の出現を未然に抑え込むための予防措置でもあるのよ」
「そして、私があなたに魔術を教える権限を持っている理由だけど……」
ディナは上着のポケットを探った。
「……ヴェニンブルク支部の魔術協会に申請を出して、直弟子の育成許可を正式に取得したからよ」
「言い換えれば、もし将来あなたが魔術を悪用して何らかの事件を起こした場合、あなたの師匠である私が全責任を負わなければならないの」
「これがその許可証よ」
ディナは一枚の羊皮紙を僕の前に広げて見せた。この世界の文字がまだ読めない僕でも、それが正式な公的文書であることくらいは分かった。下部には、魔術協会の公式の紋章と思われる太い印章――三角帽子のシルエット――が押されていた。
「じゃあ……もし僕が将来その誓いを破ったら、具体的にどんな結末が待っているの?」
魔術協会という巨大な組織による罰の重さを探ろうと、少し震える声で尋ねた。
僕は慌てて弁解を付け加えた。
「あ、べ、別に約束を破るつもりがあるわけじゃないよ! ただ……純粋に罰則の重さを知っておきたかっただけで。あはは」
うなじを掻きながらぎこちなく笑った。
ディナの表情が険しくなり、その眼差しは氷のように冷たくなった。
「もしあなたが重罪を犯したと証明されたら……世界の果てまで追い詰めて、この手であなたを殺すわ。その上で、あなたの遺体と私自身の身柄を魔術協会の法廷へ差し出す。弟子の教育に完全に失敗した罪を背負って、死刑を受け入れる覚悟でね」
「けれど、もし軽罪と判断されたなら……あなたを捕らえて、二人で生きて協会の法廷へ出頭し、一緒に罰を受けるわ」
ゴクリ。
僕は生唾を飲み込んだ。瞬時に肝が冷えた。
「どうして……どうしてそこまで僕を信用してくれるの?」
僕は信じられない思いで尋ねた。
ディナが口にした代償は、想像していたような生ぬるい冗談などでは断じてなかった。僕たち二人の命が賭けられているのだ。
この世界の魔術がいかに特別で、いかに危険な知識であるかを今になって思い知らされた。あの夜の洞窟でディナが初めて魔術の基礎概念を語ってくれたときから、その価値の重さに感づくべきだったのだ。
「あなたが私の命の恩人だからよ、リアム」
ディナは微塵の迷いもなく答え、その整った顔には僕への揺るぎない確信が満ちていた。
「あなたが約束を破って私を裏切るような人間じゃないって、心の底から信じているもの」
この誓約の重みを推し量り、頭をフル回転させた。
重罪と軽罪の境界線……その基準は何なんだ? 人間の道徳心で測られるのか、それともルシ王国の法典に基づくのか?
今ここで詳しく尋ねるべきか? いや、そんなことをしたら怪しまれるだけだ。もし僕のとんでもない野望を明かして、ディナが魔術を教えるのをやめると言い出したらどうする?
密かに蜂起を企て、自らの国家を樹立する計画なんて、魔術協会にとっては間違いなく重罪に分類されるんじゃないだろうか?
「よく聞いて、リアム」
僕の内なる葛藤を破るように、ディナが再び語りかけた。
「魔術は他人を傷つけたり虐げたりするために創られたものじゃないわ。魔術が私たちに授けられたのは、愛する人を守り、自らを危険から守り、侵略者の脅威から故郷を守り、世界の発展のために魔術を進歩させる力を得るためよ」
「魔術師の真の究極の目的はね、その力を使って弱者を守りながら、この世界の真理へと至る道を歩み続けることなの」
「だから、リアム・アシュフォード……」
ディナは僕をまっすぐに見つめた。
「……そのすべての誓約の重みを受け入れ、背負う覚悟はある?」
ディナは僕に向かって右手を差し出した。
その誓約を口にする彼女の眼差しは、極めて真剣で神聖だった。
もはや迷うことなく、僕はその差し出された手のひらを固く握りしめた。
「僕、リアム・アシュフォードは、あなたに誓います。師匠から授かった魔術の知識、そして独学で得た魔術の知識を、魔術協会の正式な承認なく他人に漏らしたり広めたりすることは決してありません」
「また、魔術を悪事や抑圧のために乱用しないことも誓います。この力を純粋に世界の進歩のために捧げ、故郷の盾となり、愛する人々の命を守り、弱く虐げられた人々を救い、この世界の真理へと至る道として歩むことを誓います」
その神聖な誓いの言葉が僕の口から零れ落ちたまさにその瞬間、それが単なる目の錯覚だったのか、あるいは魔導の神秘現象だったのか、頭上の梢を光り輝く白い鳩が旋回して羽ばたくのが見えたような気がした。折しも朝日の黄金色の光が木々の茂みを突き抜け、僕とディナの立つ場所をスポットライトのように照らし出していた。




