第31章:作戦会議
「よろしい! 殿下より許可を賜った!」
エドウィンは両腕を大きく広げた。
「では、これより今回の緊急会議の本題に入る!」
広々としたギルドの作戦室は再び静寂に包まれた。何百人もの視線が、前方に立つ金髪の男にまっすぐ注がれた。
エドウィンは右手を高く掲げた。灰色の制服を着た二人のギルド職員が慌ただしく前へと進み出て、演台の後ろの壁に三メートル四方の巨大な羊皮紙の巻物を広げた。三つの魔導クリスタルが即座にその羊皮紙を照らし出した。その光は、黒い森と直接境界を接するヴェニンブルク西部の詳細な地形図を浮かび上がらせた。
「よく見てくれ」
エドウィンは長い木の棒で地図の一点を叩いた。生い茂る木々に囲まれた暗い影の谷間の地点だ。
「二日前、偶然この地域に迷い込んだベテランパーティーの一つから寄せられた正確な偵察報告を受け、ギルドは徹底的な調査を行うために斥候隊を派遣した」
ガレンは胸の前で両腕を組んだ。微かな誇らしさが胸の内で温かく湧き上がった。
「そしてその調査の結果……」
エドウィンの声が重くなり、静まり返った室内の空気に冷たい余韻を残した。
「間違いなくゴブリンの巣が存在することが確認された」
トントンッ!
エドウィンの木の棒が軽快に動き、谷を取り囲むように描かれた五つの赤い丸を指し示した。
「斥候隊が発見したのは、単なる一つの巣ではない。同規模のゴブリンの巣が五つも存在していた。そしてさらに恐ろしいことに、これら五つの巣は互いにまったく争っていなかった。塹壕や地下通路の網によって連結されており、この谷の真ん中にある本拠地を中心とした単一の指揮系統のもとで、整然と統率されていたのだ」
瞬時に動揺のざわめきが広がった。荒々しい悪態や息を呑む音が、冒険者たちの口から次々と漏れた。
「合流した五つの巣が一つの指揮系統下にあるってことか?」
ガレンの隣にいた茶髪の男が顔面を蒼白にし、こめかみから冷や汗を垂らした。
「それってつまり……奴らの数はもはや数百匹程度じゃないぞ」
「千単位に達している可能性が高い」
エドウィンは鋭い眼光で室内全体を見渡しながら言葉を継いだ。
「最低でも三千から四千匹。それもホブゴブリンやゴブリンシャーマンといった上位種を除いた数だ。そして奴らが一つの指揮系統のもとで組織的に統率されているとすれば、導き出される結論は一つしかない」
エドウィンは一息置いた。
「奴らを率いるゴブリンキングが存在する」
その言葉に下位ランクの冒険者たちの何人かが固唾を呑み、その顔には明らかな恐怖の色が浮かんだ。
何十匹ものゴブリンを相手にするだけで命懸けだというのに、今や何千匹もの群れと戦わなければならないというのか?!
「何を情けない面をしてやがる! たかがゴブリンの群れじゃねえか!!」
一人の男が高笑い混じりに嘲笑し、尊大に腕を組んだ。
「ドラゴンでもフェンリルでもねえんだ。どれだけ数がいようが、恐れるに足りん!」
男は大理石の床に唾を吐き捨てた。
「だからお前らはいつまでもCランクやDランクで燻ってんだよ。チッ」
何百もの冒険者の目が、最前列で目立っているその精鋭集団を一斉に睨みつけた。
「確かあいつら、『ブラック・フェンリル』パーティーだったよな?」
ガレンは目を細め、その一団が身につけている上質な鎧と高位の武器を見定めた。
「うん、ヴェニンブルクを拠点にするAランクパーティーの一つさ。ギルドマスターは彼らも呼んでいたんだね。ギルドが今回の遠征をここまで本気の大規模なものとして捉えているとは、まったく思いもしなかったよ」
ガレンの隣に立つオットーは顎をさすりながら、ブラック・フェンリルのメンバーの背中から目を離さなかった。
「それでも気に食わん連中だ。特にさっき大口を叩いた奴な。あの傲慢さには本当に手が疼くぜ」
ガレンは小さく鼻を鳴らした。
パン! パン!
広がりかけた緊張感を断ち切るように、エドウィンの拍手が再び響き渡った。
「静粛に、皆さん静粛に! 冒険者ライアンが言った通り、所詮はゴブリンにすぎません。仮にゴブリンキングがいようとも、Bランクの魔物にとどまります――恐れる理由などありません。それに今回の遠征は冒険者だけに頼るものではなく、都市の正規軍も本作戦に参加します」
エドウィンは王女の方へとゆっくり振り返り、深々と頭を下げた。
「そうですね、王女殿下?」
「私、ジュリア・フォン・フランチェスカ自らが、この遠征の陣頭指揮を執る!」
王女の声が威厳に満ちて轟いた。彼女は一歩前へ踏み出し、室内のすべての注目を自らの元へと引き寄せるかのように両手を広げた。
「あの忌まわしい害虫どもをこのまま繁殖させ、あと一、二ヶ月も力を蓄えさせれば、群れは黒い森から溢れ出すだろう! 高潮の如くヴェニンブルクの城壁へと押し寄せてくるはずだ!」
ジュリアは鋭い眼光で室内を見渡し、その紅玉の瞳からは濃密な殺気が放たれていた。
「ゆえに……明日、奴らを根絶やしにする! こちらの察知に奴らが気づく前に、その巣穴ごと叩き潰すのだ!」
白い手袋に包まれた彼女の左手が、微かに震えるほど固く握りしめられた。
「では、作戦はどう展開されるのですか、殿下?!」
人混みの中から長身の冒険者が木製の弓を握りしめ、切迫した声で叫んだ。
「大軍で黒い森へと突入するなど自殺行為です! 森にはゴブリンだけでなく、他の魔物も無数に潜んでいます。鬱蒼とした木々や天然の罠によって、部隊の陣形は確実に瓦解してしまいます!」
「良い質問だ」
ジュリアの口元が上がり、薄い笑みを浮かべた。
「詳細はギルドマスターのエドウィンに説明させよう」
「無論、単一の大部隊で無謀に突入するような愚行は侵さない」
エドウィンが説明を引き継ぎ、棒の先で地図を指した。
「伝統的な『槌と金床』戦術を実行する」
木の棒が素早く動き、谷の最外縁部に半円の弧を描いた。
「第一段階、完全包囲だ。全軍を六つの戦闘大隊に分割する。Dランク冒険者で構成される第六大隊……」
エドウィンはオットーや室内の数人の商人たちへと視線をちらりと向けた。
「……お前たちには、谷の最外縁部に沿って防衛線を構築し、輜重隊が魔物に襲撃されるのを防ぐ任務を与える。前線部隊への補給線を維持するのだ。よく肝に銘じておけ! お前たちの本分は攻撃ではなく、あらゆる退路を塞ぐ盾の壁となることだ。この巨大な網から、一匹のゴブリンたりとも逃がしてはならない!」
自分たちの役割が名指しされたのを聞き、ガレンの真横に立っていたオットーはすぐに胸を張った。
王女殿下の御前で自らの存在が認められたことに、その顔は誇らしげに輝いていた。
「第二段階、監視拠点の無力化および進路上の魔物掃討」
エドウィンは鋭く言い放った。棒は地図の中央の要所要所を叩いた。
「Cランク以上の冒険者で構成される第一から第五大隊には、斥候隊が割り出した五箇所の死角から隠密に侵入することを命じる。お前たちが『槌』だ。最前線の見張り拠点を一斉に撃破し、同時にゴブリンの巣への進路を阻む魔物を一掃するのが主任務となる。任務達成後は、本隊が到着するまでその場を死守し、進入路を確保しなければならない」
「そして第三段階……」
エドウィンは一瞬手を止めた。
「総攻撃だ。都市正規軍とベテラン冒険者部隊の混成による本隊が、侵入大隊によって切り開かれた進路を通って進撃する。この本隊は再び五つの突撃連隊に分割され、各連隊がそれぞれのゴブリンの巣を殲滅する全責任を負う。そして本隊の中核陣形は、ジュリア王女殿下自らが率いられる!」
ガレンは人混みの中で右手を高く挙げた。
「ギルドマスター! 質問を願いたい!」
何百もの視線が一斉に鋭く彼へと向けられた。
「発言を許可する、『カノル』パーティーのガレン」
エドウィンが頷いた。
ガレンは深く息を吸い込んだ。
「捕虜はどう扱われるのですか? ゴブリンの生態は周知の通りです。奴らは繁殖の道具とするために他種族の女を頻繁にさらいます。あれほどの規模の巣穴であれば、何百人もの女性が捕らわれ、監禁されているのは明白です」
ガレンは背中の大剣を強く握りしめた。数夜前の悪夢のような光景が脳裏に蘇る。
「先日あの地に潜入した際、俺は連行される女性の列をこの目で目撃しました。そして小屋の一つに忍び込んだとき、中には身重の女性たちが溢れ返っていた」
彼は答えを求めるようにエドウィンをまっすぐに見据えた。
「巣を焼き払い、退路を完全に封鎖するという作戦を取れば……あの地獄の中で、自らの同胞を殺害することになるのではないですか」
『無駄なことかもしれないのは分かっている。生きる気力すら失ったようなあの人たちを助けることなど……無意味なのかもしれない』
『だが、せめて足掻いてみたいんだ』
『リアムは俺に、何を成すべきかを示してくれた。そうだ、あいつを失望させるわけにはいかない』
ガレンは以前よりも遥かに毅然とした眼差しで、目の前の群衆を見つめ返した。
室内は不意に沈黙に沈んだ。歴戦の古参冒険者たちの何人かが深く頭を垂れた。ガレンが口にした暗くおぞましい現実を、痛いほど理解していたからだ。
エドウィン・フィルは静かに息を吐いた。その顔に驚きの色はなかった。この問いが出ることは最初から想定していたのだ。
規則正しく響く軍用ブーツの鋭い足音が、その重苦しい空気を切り裂いた。
ジュリア・フォン・フランチェスカ王女が優雅に前へと進み出て、エドウィンの真横に立った。背筋を真っ直ぐに伸ばし、貴族の矜持を漂わせて顎をわずかに上げている。紅玉の双眸が、ガレンへと真っ直ぐに向けられた。
「冒険者ガレン、と言ったな……?」
王女の声は穏やかで静かだった。
「軍の一部を割き、捕虜救出のための別働隊を編成しよう……」
「これで満足か?」
「え……?」
ガレンは聞き間違いかと思った。だが王女の真剣な表情を見るに、聞き間違いではないようだった。
「進言を聞き入れてくださり、感謝いたします、殿下」
「構わぬ。いずれにせよ、彼らもまた私の民だ」
ジュリアは心からの笑みを返し、それから真剣な表情に戻って目の前の群衆を見据えた。
「よく胸に刻め。何人たりとも陣形を乱し、独断専行することは許さぬ!」
「戦場で英雄気取りになるな。家に残した家族を思え。生きて帰れ」
「私からは以上だ。感謝する」
「ただいまのお言葉は、殿下の直々の命である。異議のある者はいるか?」
エドウィンが一歩前へ出た。
この室内で手を挙げる勇気のある者は誰一人としていなかった。
「よろしい」
エドウィンは満面に笑みを浮かべた。
「では、皆が最も待ち望んでいた話題へと移ろう――報酬だ」
『報酬』という魔法の言葉が、先ほどまで静まり返っていた部屋に一気に生気と熱狂を吹き込んだ。冒険者たちは即座に背筋を伸ばし、血の匂いを嗅ぎつけた狼のように耳をそばだてた。
「総督殿下の直々の勅令により、本遠征の全軍事費は王女殿下が全額負担される!」
「参加するすべての登録冒険者には、生死を問わず基本給として銀貨五十枚が保証される! 戦死した場合は、その報酬全額が遺族へと渡される。さらに、下級ゴブリンの耳一つにつき銅貨二十枚。ホブゴブリンおよびゴブリンシャーマンの耳には銀貨一枚。そして最高峰として……ゴブリンキングの首を持ち帰ることに成功したパーティーには、ギルドが金貨一枚の報奨金を保証する!」
歓喜の雄叫びが一斉に爆発し、部屋の石造りの天井を揺るがした。甲高い指笛や熱狂的な口笛が耳をつんざくように鳴り響く。基本給の銀貨五十枚だけでも、平民の半年分の生活費に匹敵する大金だった。そこに歩合の報奨金まで加わるのだ。
誰もが狂喜乱舞したのも無理はない。AランクやBランクの冒険者たちですら例外ではなかった。
「この遠征こそが、富と栄光への切符だ! 武器を整え、剣を研ぎ、物資を満載にしておけ! 鐘の音とともに西の広場へ集結せよ!」
「ジュリア・フォン・フランチェスカ王女殿下万歳!」
一人の冒険者が喧騒を突き破って武器を天に突き上げ、高らかに叫んだ。
その叫びが木霊する。
次の瞬間、何百もの口が同じ賛辞を一斉に唱和した。
公式会議は閉会した。群衆が出口へと押し寄せ始め、周囲の空気は下品な笑い声やパーティー間での戦術談義の熱気に満ちていた。
「ガレン! 明日の遠征はとんでもないことになるぞ!」
オットーが興奮して声を上げた。
「後方で武器の供給と薬品の在庫をできる限り確保しに、早く動かないと。ところで、『カノル』パーティーはどの大隊に配属されたんだ?」
「まだ正確には決まっていない」
ガレンは逞しい肩を気楽にすくめて答えた。




