第30章:冒険者ギルドの会議
「ガレン、遅いぞ」
重々しい声が窘めるように響き、室内のざわめきを切り裂いた。
「ああ、悪い悪い」
ガレンは気まずそうに後頭部を掻きながら答えた。
彼が巨大なオーク材の扉を押し開けると、一斉にこちらを振り返った何十人もの視線が出迎えた。
室内の空気は一瞬にして重苦しいものへと変わった。何人かの冒険者が皮肉めいた細めた目を向け、無関心そうに顔を背ける者もいれば、これほど重要な作戦会議に遅刻してきたCランク冒険者の登場に、あからさまに舌打ちして見下す者もいた。
それらの突き刺さるような視線を意に介さず、ガレンはまだ空いていた部屋の隅へと気楽な足取りで向かった。広い肩を石壁にもたせかけ、自分と同じランクの冒険者たち数人に合流した。
ギルドの作戦室はかなり広く設計されており、頑丈な石柱が立ち並び、何十人もの人間を一度に収容しても窮屈さを感じさせなかった。
部屋の前方、木製の演台に向かって、小綺麗に撫でつけた金髪の男が立っていた。典型的なヨーロッパ貴族風の正装を身に纏い――長袖の純白のシャツの上に濃紺のジャカード織りのベストを重ね、首元にはレースのあしらわれたクラバットタイをきっちりと結んでいた。引き締まった体躯と顔立ちの落ち着きからして、その男は三十代前半のように見えた。
「よし、参加者は全員揃ったようですね」
金髪の男が口を開いた。彼はゆっくりと頷き、その威厳のある顔に満足げな笑みを浮かべた。
「ですが、作戦説明を始める前に」
男は部屋の隅々にまで響き渡るよう少し声を張り上げて続けた。
「本日のレイド作戦の協議に加わっていただく、極めて重要なお方がおられます」
男は正面入り口の方を向き、深く敬意を払った恭しい態度で一歩下がった。
「お入りください、殿下」
「殿下?」
困惑のざわめきが波のように瞬時に冒険者たちの間に広がった。
「おい、まさか……」
一人のソードマンが恐怖に目を見張りながら囁いた。
ギィィ……
巨大な両開きの扉が大きく押し開けられた。
静寂。部屋中のすべての喧騒が一瞬にして途絶え、足を踏み入れてきた人物から放たれる威圧感のオーラに息を呑んだ。
一人の若い少女が敷居を跨いで入ってきた。胸元に金色の竜の紋章があしらわれ、金色の縁取りが施された黒い貴族風の軍服を身に纏っている。ズボンの裾は膝丈の軍用ブーツの中にきちっと収められ、軍律の権威を漂わせる一定のリズムで歩いていた。
燃え盛る炎のような鮮烈な赤の長い直毛が、透き通った青い瞳と見事に調和していた。透き通るような白い肌は、身に纏う全身黒一色の服装と鮮やかな対比を描いている。左腰には、金色の装飾が施された鍔を持つ黒鞘の剣が下げられていた。
その整った美貌は氷のように冷徹で、年齢はおそらく二十代前半にすぎないにもかかわらず、歴戦の老将のように感情を交えない真剣な表情で固まっていた。
赤髪の少女のすぐ後ろに、同じように独特な気配を放つ一人の護衛が従っていた。ボタンを外した黒いフォーマルスーツを羽織り、内側のきちんとした白いシャツを見せている。その顔立ちは非常に愛らしく中性的で――女性のような柔らかな面立ちを持ちながらも、顎の輪郭や男装の身なりによって、誰もがその本来の性別を見分けかねるほどだった。
キャラメルブラウンのショートヘアには、頭の上にピンと立った一対の毛深い猫耳が備わっていた。歩くたびに、長い茶色の猫の尾が左右へとゆっくり揺れる。縦長の瞳孔を持つ黄金色の瞳が、捕食者の静かな警戒心をもって室内を見渡していた。その亜人の護衛は、王女のすぐ後ろに直立不動の姿勢を取った。
「あ、あの方……ジュリア王女殿下じゃないか?」
誰かが震える声で囁いた。
「どうして総督がこんなところにいるんだ?」
別の冒険者が呟き、こめかみに冷や汗が垂れ始めた。
「総督?」
ガレンは眉をひそめて一人呟いた。
「待てよ。ヴェニンブルクの総督って、第七王子のユリアン・フォン・フランチェスカ殿下じゃなかったか?」
「はぁ? 何を寝言言ってるんだ、ガレン?」
隣にいたくすんだ茶髪の中年男が咎めた。その冒険者は怪訝そうに片眉を上げてガレンを見つめた。
「最初からヴェニンブルク総督の座は、第七王女のジュリア・フォン・フランチェスカ殿下が一貫して務めておられるだろうが。だいたいユリアンとかいう男はどこの誰なんだ?」
「え?」
ガレンは間抜けそうに目をしばたたかせた。
「まさか……酒場の噂話を聞きかじっただけで、ずっと名前も性別も勘違いしてたってのか?!」
「シッ! 二人とも声を落とせ! 殿下が同じ部屋にいらっしゃるんだぞ!」
横から飛んできた小声が、ガレンの内なる動揺を遮った。
声の主は、一見するとまだ十四歳ほどの少年に見える小柄な若者だった。若き商人の服らしく、仕立ての良い漆黒の正装スーツを着こなしている。耳を覆うショートボブの灰色の髪はセンターで分けられ、自然に顔を縁取るように垂れ下がっていた。
「オットー・エヴェレット?」
その人物を認めてガレンの目が見開かれた。
「お前のような商人が、どうして冒険者ギルドの作戦室にいるんだ?」
「この計画会議に参加するためさ、友よ」
オットーが答えた。細い胸を張り、唇に誇らしげな笑みを浮かべる。
「ギルドマスターが、明日の遠征のための大規模な補給物資を調達するために数名の商人ギルドの代表を呼び寄せたのさ。そして当然、僕はその魅力的な契約を勝ち取った幸運な商人の一人というわけさ」
「なるほどな」
ガレンは納得して頷いた。
彼の視線は、今やギルドマスターの隣に凛と立つジュリアの優美な姿へとゆっくり向けられた。
「だが、まだ腑に落ちん」
ガレンはオットーの方へ身を寄せながら、再び囁いた。
「王位継承候補者の一人でもあるような重要人物が、どうしてわざわざこんな前線の作戦会議にまで首を突っ込んでくるんだ? 王女自ら遠征を指揮する気なのか?」
「理由なんて明白だろうが」
さっきの茶髪の冒険者が割り込み、同じく耳打ちしてきた。
「政治的な思惑さ。自分の名声を高めて、辺境領民の支持を固めるために直接乗り込んできたのさ」
「その通りだよ。僕も王都から到着したばかりの商隊から同じ噂を聞いた」
オットーは秘密めかした仕草で目を細めて付け加えた。
「噂によると、国王陛下は今月中に、ルシ王国の次期国王候補者たちを正式に発表する予定らしい」
「その情報は信用できるのか、オットー?」
ガレンは疑わしげな低い声で尋ねた。
「厳密に言えば、まだ噂の域を出ないけれどね」
オットーは肩をすくめた。
「でも、信憑性は極めて高いよ。王都の特権階級の間では今一番ホットな話題なんだ。どうやら昨年の皇太子殿下の薨去以来、国王陛下は貴族派閥から激しい突き上げを食らっているらしい。正統な王位継承者の指名を、これ以上先延ばしにできなくなったのさ」
「そうか。王都の政局は荒れているようだな」
ガレンはその情報を噛み締めながら、小さく頷いた。
「なら、王女がここにいる理由も説明がつく」
「それで、ジュリア王女の専属騎士はどうなんだ? あいつもこの遠征に参加するのか? ええと、名前は何だったか……忘れたが」
茶髪の冒険者が無精髭を掻きながら尋ねた。
「あいつがいれば、このゴブリンの巣の遠征もずっと楽になるはずだがな」
「ミネルヴァ・ラ・アストラ卿のことかい?」
オットーが素早く答えた。首を横に振る。
「不参加に賭けてもいいよ。昨日王女の行列が街に到着して以来、ミネルヴァ卿がそのお側にいる姿を一度も見かけていないんだ」
「ミネルヴァ騎士がどこへ行ったのか、俺には心当たりがあるかもしれん」
ガレンが真剣な低い声で口を挟み、二人の注意を引いた。
「数日前、俺とパーティーが黒い森に入る前、ある酒場でひどく不穏な噂を耳にしたんだ」
ガレンは言葉を切り、周囲に聞き耳を立てている者がいないことを確かめた。
「ラインヒルから戻ったばかりの冒険者の口から直接聞いた話だ。ラインヒルへ向かう商隊護衛の中で、唯一生き残った男だとよ。奴は神に誓って自分の目で直接見たと証言した……二〇年もの間姿を消していた災厄級の魔物――白きシャチが、再び姿を現したとな」
オットーと茶髪の冒険者の顔が一瞬にして強張った。
「その話の真偽は保証できんがな」
ガレンは重いため息をついて続けた。
「だが、その噂が王家の耳に届いたのだとすれば……ミネルヴァ卿が今、その伝説の魔物の痕跡を追い、存在を確認するための極秘任務に就いているとしても辻褄が合う。だからここに王女のお供をしていないのさ」
ガレンは拳を握りしめた。
「知っての通りだろう? あの魔物は五世紀近くもの間、ルシ王国の地を脅かし続けてきたんだ。王家もいい加減うんざりして、奴を永久に抹殺したいはずだ。問題は、白きシャチの出現は常に謎に包まれていて、まるで予測がつかないことだがな」
オットーと茶髪の冒険者は揃って頷き、極めて論理的なガレンの仮説に同意した。
「だが……ミネルヴァ卿は一人であのホワイトオルカに立ち向かう気なのか?」
茶髪の冒険者が、その想定に戦慄を覚えながら声を震わせて尋ねた。
「奴の悪名は誰もが知っているはずだ。歴史の記録じゃ、白きシャチはかつて一度の戦いで一人の大魔術師と数名のSランク冒険者を屠ったことがあるんだぞ!」
「さあな」
ガレンもオットーも同じように肩をすくめ、その表情は暗かった。
しかし、三人の脳裏には同じ一つの結論が浮かんでいた。――あり得ない。伝説の魔剣の所持者であるミネルヴァ騎士といえども、単独であのホワイトオルカを討伐することなど到底不可能なのだ。
パン! パン! パン!
三度響いた鋭い拍手の音が、室内のすべてのざわめきを一刀両断した。
部屋中の注目が、否応なしに再び正面へと集められた。
先ほどの貴族風の服を着た金髪の男――他でもないヴェニンブルクのギルドマスター、エドウィン・フィル――は、室内の秩序を取り戻したことに満足げな微笑みを浮かべていた。
彼はジュリアに向かって、非の打ち所がないほど恭しい仕草でもう一度頭を下げた。
「王女殿下」
エドウィンは深々とした敬意を込めた口調で声をかけた。
「開始に先立ち、皆に一言お言葉を賜れますでしょうか?」
「ない」
ジュリア・フォン・フランチェスカが答えた。その声は澄み渡り、骨を削る北風のように冷ややかに響き、感情の抑揚など微塵もなかった。空のように青い瞳が、冒険者の群れを見据えてまっすぐ前方を貫いていた。
「当初の計画通り、任務を進めよ、エドウィン・フィル」
エドウィンは従順に頷いた。再び背筋を伸ばし、クラバットタイの襟元を整えると、室内の歴戦の冒険者たち全員を見渡した。
「よろしい! 殿下より許可を賜った!」
エドウィンが声を張り上げると、その声は指導者としてのカリスマ性を帯びて轟いた。
「では、これより今回の緊急会議の本題に入る!」




