第20章:友達
温かい朝日の光がまぶたをくすぐり、深い眠りから僕の意識を引き戻した。
目を覚ますと、見知らぬ木造の天井が目に入った。濡れた木の葉の天蓋でも暗い洞窟の岩肌でもなく、古びて頑丈な梁の木目が視界を迎えた。燃え尽きた蝋燭と古い木の匂いが鼻腔を満たす。
この世界に来てから四日目の朝だった。
右腕を上げ、デジタル腕時計の側面にある小さなボタンを押した。モノクロの画面が淡い緑色に光った。
朝の06:08。
深く息を吐くと、口から薄い息が白く漏れた。昨夜の雨の名残で、部屋の中の朝の空気はまだ肌寒かった。
ざらざらとしているが温かい分厚い毛布を跳ね除け、窓辺へと歩いた。少し力を入れて、ガラス窓を押し開けた。
ギィ。
途端に、人々の営みの喧騒が一気に押し寄せてきた。黄金色の朝日の光が部屋に溢れ、森の暗闇に慣れていた僕の目を射るように眩しかった。
石畳を走る馬車の車輪の音、品物を並べ始めた商人たちの威勢のいい声、遠くから微かに聞こえる鍛冶屋の金槌の音。焼き立てのパンの香りが、かすかな馬糞の臭いや煙の匂いと混ざり合い、風に乗って漂ってきた。
「すごく活気があるな……」
窓枠に肘をもたせかけながら、僕は呟いた。
こっそりと息を吸い込み、それから大声で叫んだ。
「世界よ、おはよう!」
周囲の人々が一斉に声のした方へと顔を向けた。
叫んだ直後、僕は慌ててしゃがみ込み、窓の下に身を隠した。
「ずっと言ってみたかったんだよな、これ……すっきりしたけど、めちゃくちゃ恥ずかしい」
恥ずかしさを鎮めるために深呼吸をした。
「あはは」
「僕、何やってるんだろ」
自分がしでかした間抜けな行動を思い出して、小さく吹き出した。
「でも……」
立ち上がり、再び窓の外の景色を見つめた。冷たい朝風が顔を通り抜けていく。
「ずいぶん気分が晴れたな」
「よし、異世界の街での初日を迎えるとしますか」
階下へ降りるため、僕はすぐに扉へ向かった。
「リアム、入ってもいい?」
扉をトントンと軽く叩く音とともに、ディナの柔らかな声が僕の思考を引き戻した。
「待って、今開けるよ」
部屋の扉を開けた。
「誰とお話ししていたの?」
「誰とも話してないよ。さっき窓の外に向かって叫んで、気分をすっきりさせようとしてただけなんだ」
「この街を気に入ってくれたならよかったわ」
「それじゃあ、早く下に降りてきてね。お母さんが朝ご飯を用意してくれたから。ご飯を食べたら、あのダイアウルフの依頼の達成報告をしに冒険者ギルドへ行きましょう」
「わかった」
「それじゃ、先に降りてるわね」
まだ少し湿り気の残るジャケットを羽織ると、指先に触れたファスナーが冷たかった。最後に、白いニット帽をかぶる。尖った耳が完全に隠れるまで深く引き下げた。今のところ、この世界の人々がエルフに対して抱く偏見を正確に把握するまでは、素性を隠し通さなければならない。安全だと確認できたら、このチクチクして鬱陶しいニット帽なんて絶対に投げ捨ててやると心に誓った。
最後に、机の上に置かれていたグロック17に手を伸ばした。手に馴染んだその重みが安心感を与えてくれる。薬室をちらりと確認し――装填されている――ジャケットの内ポケットに収めた。
準備完了だ。
木造の階段を下りた。薄味の麦スープの匂いが次第に強くなってくる。
簡素な食堂では、ディナが白い上着に濃紺の長いスカート、茶色の靴をきちんと身につけて座っていた。ピンクの髪は後ろで一つにまとめられている。その隣では、ナターシャが頬を膨らませてパンを咀嚼しており、僕を一瞥してから再び自分の食事に集中した。母親の姿は見当たらなかった。
「ここへ座って、まずは朝ご飯を食べなさい」
ディナは隣の空いた木製の椅子をポンポンと叩いた。
椅子を引いて腰を下ろし、感謝を込めて軽く会釈した。目の前には、一杯の白いミルクと、分厚く切られた薄茶色のパンが用意されていた。
「ごめんねリアム、こんなご飯しか出せなくて」
少しきまり悪そうに微笑みながら、ディナが言った。
「あなたのご飯ほど美味しくないのは分かってるんだけど」
僕は静かに首を横に振った。
「そんなこと言わないでよ。申し訳ないのは僕の方だ。寝床まで用意してもらって、その上朝ご飯まで……これだけでも十分すぎるくらいだよ」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいわ、リアム」
ディナは微笑んだ。今度はより屈託のない笑みだった。
窓からの朝日の光が彼女の横顔を照らし、淡いピンクの髪を輝かせ、緑の瞳を澄み切った美しさで際立たせていた。
いつからこんなに綺麗だっただろうか? それとも、僕が今になって気づいただけなのか?
顔が少し赤くなっているのを隠すように慌ててうつむき、目の前のパンに手を伸ばした。
『馬鹿なことを考えるな、リアム。彼女はただ親切にしてくれているだけだ』
パンをかじった。硬い。一週間天日干ししたスポンジをかじっているかのように、密度が高くパサついていた。柔らかくするためにミルクに浸した。そのミルクも生乳そのままの味わいで――濃厚で少し脂肪分があるが、砂糖が入っていないので素っ気ない味だった。地球で普段飲んでいた甘いパック牛乳とは程遠い。
だが文句も言わずに噛み締めた。確かに美味しくはないが、食べ物は食べ物だし、何よりタダなのだ。
美味しいものを食べるためだけに、システムのポイントを延々と無駄遣いし続けるわけにもいかない。
そんな贅沢は、成功を収めてからでいい。今はまず苦労を重ねる時期だ。
皿を空にすると、僕たちは出発の準備を整えた。
「お母さん! ナターシャ! 行ってきます!」
ディナが台所に向かって声を張り上げた。
中年の女性がエプロンで手を拭きながら姿を現した。顔には疲れが滲んでいたが、その瞳には心からの温もりが宿っていた。
「気をつけてね、ディナ。無事に帰ってくるのよ」
「お母さんったら、何を言ってるの?」
手袋をはめながらディナはくすくすと笑った。
「今日は依頼を受けないわよ。トムがまだ怪我をしているのを忘れたの? ギルドへ報酬を受け取りに行って、それから教会へトムのお見舞いに行くだけよ」
「ごめんね、うっかり忘れていたわ」
母親の表情が和らいだ。
「あ、これも持って行きなさい」
「ちょっと待っててね!」
彼女は台所へと戻り、焼き立てのパンが入った小さな籠を持って現れた。さっき僕が食べたものよりずっと香ばしい匂いが漂っていた。
「これをトムに渡して頂戴。手ぶらでお見舞いに行くのも失礼でしょう?」
「ありがとう、お母さん。本当に気が利くわね」
女性は微笑み、それから僕へと視線を向けた。歩み寄り、僕の右手を握りしめる。
「それとリアムちゃん……これはあなたに」
冷たくて硬いものが手のひらに押しつけられる感触があった。
手を開いた。そこには二枚の銀貨が朝日の光を反射して輝いていた。
僕は目を見張った。
「おばさん……これ……」
「いいのよ、受け取って。ディナを助けてくれたお礼よ。あなたがいなかったら、私は娘を失っていたかもしれないんだから」
「でも、多すぎます!」
僕は銀貨を押し戻そうとした。
「ご飯も寝床も用意してもらったのに……その上これなんて……受け取れません」
彼女は僕の手を押し留め、指を包み込んで銀貨をぎゅっと握らせ直した。その手のひらはごつごつと温かく、銀貨の冷たさと対照的だった。
「いいかい、リアムちゃん」
その声は優しく、しかし確固たる響きを持っていた。
「お金や財産なんて、いくらでも稼ぎ直せるわ。けれど命は……誰にとっても一つしかないのよ。一度失ってしまえば、どれほどの財産があっても何の意味も持たない。だから、受け取って頂戴」
彼女は僕の目をまっすぐに見つめた。
「あのときあなたが森にいなかったら……ディナをあの狼たちから……そしてあのゴブリンたちから救ってくれなかったら、私は今日娘を失っていたかもしれない。母親にとって、我が子の命がどれほどの価値を持つと思う? 銀貨二枚なんて、それと比べたら何でもないものよ」
喉がつかえた。彼女の瞳には微塵の偽りもない誠意が宿っていた。
「だから……受け取ってくれるわね? 一人の母親からの感謝の印として」
僕は静かに頷いた。手のひらから全身へと温かいものが広がっていく。銀貨をポケットにしまった。隣では、ディナが微笑んで僕を見つめていた。その眼差しに少し気恥ずかしさを覚えた。
「本当にありがとうございます、おばさん」
「いい子ね」
彼女は僕の額を優しく撫でた。
僕たちは外へ踏み出した。朝の冷気配はまだ残っていたが、赤レンガの通りはすでに賑わっていた。足早に行き交う人々の口からは白い息が立ち上っているのが見えた。白い布のエプロンをつけた筋骨隆々の男たちが工房へ向かうのか急ぎ足で歩き、女性たちは洗濯物や買い出しの籠を抱えていた。だが、その人混みの中で最も異彩を放っていたのは冒険者たちだった。使い古された鎧がきしみ、肩の鉄板が朝日の光を弾き、背中からは剣の柄や槍、弓矢が突き出ていた。そうした人々の一方で、労働者や零細商人の大半は素朴なチュニックを着ており、この世界で最初に目を覚ましたときに僕が身につけていた服を強く思い出させた。
僕たちは並んで歩いた。ディナが小さく鼻歌を口ずさんでいる。
「リアム」
「ん?」
僕は振り返った。
ディナは少しためらうように言葉を詰まらせた。
「……ううん、何でもない」
なんなんだ?
前方の雑踏を見つめ、それから彼女に視線を戻した。
「ここではまずいな」
僕は呟いた。
彼女の腕を引き、通行人の流れから外れて、温かいパン屋とエール酒の匂いが漂う酒場の間の路地へと連れ出した。
ディナは小さく息を呑み、通りの端へ引っぱられたことに驚いて目を見開いた。
「リアム? どうしたの?」
バルコニーの陰の下で立ち止まり、二人だけの空間を作った。
「いきなり引っ張ってごめん」
声を落として言った。
「ただ……居心地が悪くてさ」
「何が居心地悪いの?」
驚きから心配へと表情を変え、彼女は優しく尋ねた。
僕は彼女の目を見つめた。
「お母さんからもらったお金のことだよ。あの銀貨二枚」
「ディナ、お母さんからあんな大金を受け取っても本当にいいのかい?」
胸につかえていた本題を切り出した。
「感謝の気持ちだとは分かってるけど、多すぎないか? ガレンは銀貨五枚で一ヶ月暮らせると言っていた。二枚といったら、二、三週間分の生活費に相当するじゃないか。それに街に入るときだって、君は僕のために銀貨一枚を払ってくれた」
父親のいない彼女たちの家庭にとって、決して小さな金額ではない。
「君たちの家の家計を圧迫してしまうんじゃないかと思って」
ディナは足を止め、僕をまっすぐに見つめた。
「リアム、あなたって本当に優しい子ね」
「え? 急にどうしたの?」
「そんなに細かいことまで気を回してくれる人、今まで会ったことがなかったから」
彼女は微笑んだ。
「平気よ。受け取っておいて。銀貨二枚くらい、別の依頼を受ければすぐに稼ぎ直せるわ。それに、ダイアウルフの討伐依頼を達成した分の報酬だって、ギルドから入るんだしね」
彼女は再び歩き出し、僕もその隣に並んだ。
「それにね」
街の喧騒へとまっすぐ視線を向けながら、彼女は続けた。
「私の命に比べたら、銀貨三枚なんて何でもないわ。もしあのときあなたが来てくれなかったら……冒険者なら仕方のないリスクだとは分かっているけれど、まだ幼いナターシャと年老いたお母さんが突然大黒柱を失うことになったら……二人が生き延びるためだけに、私の嫌いな仕事をしなきゃいけなくなるかもしれないと考えたら……耐えられないもの」
彼女は真剣な眼差しで僕を振り返った。
「そういうこと全部と比べたら、命と比べたら、銀貨三枚なんてちっぽけなものよ」
彼女は足を止め、再び微笑んだ。
「それに何より……あなたは私の友達よ。困っている友達を助けるのなんて、当たり前のことじゃない?」
「友達」という言葉が僕の頭の中に反響した。彼女の顔をしばし見つめてから、賑やかな通りへと視線を逸らした。
「友達、か……」
彼女を見つめ返し、唇に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「それなら、ありがたくもらっておくよ。後で後悔しても返さないからね!」
銀貨を握りしめた拳を突き出して見せた。
ディナは風鈴のように澄んだ声で、からからと笑った。
「後悔なんてしないわよ」




