第19章:異世界の街での最初の夜
温かいミルク、煮込んだ肉、そして草に似た何かが混ざり合った奇妙な料理の匂いが、ディナの母親から目の前に差し出された木製の椀から漂ってきた。
「さあ、ご飯ですよ、ナターシャ、リアムちゃん」
「あ、お手数をおかけしてすみません、おばさん」
僕は少し頭を下げながら言った。
その女性は温かく微笑み、目尻の皺を深めた。
「いいえ、とんでもない。お礼を言うのはこちらのほうよ。ディナから聞いたわ、ゴブリンロードを倒してくれたんですってね。あなたくらいの歳の子にしては、とんでもない大手柄だわ」
彼女は使い古したエプロンで手を拭いた。
「それに、あの子たちをダイアウルフからも救ってくれたんでしょう。二度も命を救ってくれたお礼だと思ってね。さあ、温かいうちに召し上がれ」
手の中で軽くてざらざらとした感触の木製スプーンを手に取るほか、僕に選択肢はなかった。椀の中のスープは透き通った乳白色をしていた。茶色い肉の塊と、ふやけた白パンが表面に浮いている。
テーブルの向かい側では、ナターシャがふっくらとした頬を可愛らしく動かしながら、がつがつと食べていた。彼女はその食事を心から楽しんでいるようだった。
静かに息を吸い、勇気を振り絞ってスープを少しすくい、口に含んでみた。
一瞬で僕の目が細まった。
「どうかしら? 美味しいでしょう?」
ディナの母親が期待に目を輝かせて尋ねた。
「え、ええ……美味しいです」
僕は無理に笑みを作りながら、ぎこちなく答えた。
最悪だ。ちっとも美味しくない。味は砂糖の入っていない温かいミルクそのもので、長く煮込みすぎて味の抜けた肉にはかすかな生臭さがあり、ふやけたパンの食感は濡れたスポンジのようだった。唯一際立っている味といえば、完全に溶けきっていない粗塩の苦みを帯びた塩辛さだけだった。
今になって理解できた。ソト味のインスタント麺が、なぜガレンやトムやディナにあれほど生涯最高の絶品を味わったかのような顔をさせたのか、ようやく腑に落ちた。
「それならよかったわ。ちょっと失礼するわね。ディナがお風呂から上がったら、あなたの番よ」
ディナの母親は満足そうに微笑み、台所へと戻っていった。
「何よ?」
ナターシャの声にハッとした。
「どうして便秘の人みたいな顔をしてるの?」
僕は慌てて首を横に振った。
「何でもないよ。ところでナターシャ、お母さんはいつもこれを作っているの?」
「ううん。どうして?」
彼女は首を傾げて尋ねた。
「ただ聞いてみただけだよ。聞いちゃダメなの?」
少し身構えながら言い返した。
「毎日このスープを食べてるわけじゃないわ」
肉の塊を口に運びながら、彼女は説明した。
「この雨季みたいに寒いときだけよ。スープが美味しくて温まるんだから」
『どこが美味しいんだよ?』
「普段はパンを食べてるわ」
彼女は続けた。
「お姉ちゃんが依頼を達成して帰ってきてたくさんお金を稼いだときは、市場で焼き豚や茹でた鶏肉を買うの」
『豚肉と鶏肉か。あの動物もこの世界にいるのか?』
「この街の人はみんな、こんな料理を食べているの?」
僕はさらに尋ねた。
ナターシャはまるで僕が世界で一番の愚か者であるかのように見つめた。
「当たり前でしょ、バカ! お肉やお母さんの作った美味しいスープを食べるのには、たくさんのお金がかかるのよ。うちはお姉ちゃんが冒険者だから恵まれている方なの。冒険者の稼ぎはこういうご飯を食べられるくらいには大きいのよ」
彼女は一度言葉を切り、それから見下すような調子で続けた。
「貧乏な人たちは普段、硬い黒パンを食べてるわ。あたしは嫌いだけどね。石を噛んでいるみたいで、歯が折れそうになるもの。隣の友達なんて毎日それを食べてて、あたしにいつも愚痴をこぼしてくるわ」
ナターシャは木のスプーンで僕を指差した。
「あんた、本当はどこから来たの? どうしてこんな基本的なことも知らないわけ?」
「君に話すつもりはないよ」
僕は淡々と答えた。
空腹の胃袋に他の選択肢など与えられていなかったため、なんとかその味のないスープを飲み干すと、僕は立ち上がって窓の方へ歩いた。少し波打った窓ガラスを雨粒がつたい落ち始め、外の街の灯りを滲ませていた。
ガラスだ。彼らはすでにガラス製造の技術を一般的に普及させている。これにさっき見た下水道システムを加えると、彼らの文明レベルに関する僕の仮説はますます補強された。
「あんたって本当に嫌な奴」
背後からナターシャが不機嫌そうに呟いた。
「お姉ちゃんがどうしてあんたみたいな人をここに連れてきたのか、さっぱりわからないわ。ふんっ」
それを聞いて、僕は小さく微笑んだ。
「リアム、お風呂の順番よ。その後で一緒に冒険者ギルドへ行きましょう」
僕は振り返った。ディナが風呂場の出入り口に立っていた。体に白いタオルを一枚巻きつけただけの姿だった。濡れたピンクの髪が、すらりとした首筋に張りついている。灯りの下で、その肌は白く滑らかに見えた。その体つきは……均整が取れていた。胸もかなり大きい。
僕は慌てて頭を下げ、頬がわずかに熱くなるのを感じた。
「ありがとう、ディナ。それじゃあ先に入ってくるよ。あ、ギルドの件だけど……明日行くことにできないかな?」
「どうして?」
「その……長い距離を歩いてきただろ。すごく疲れてて、早く寝たいんだ」
僕は説明した。
ディナは理解したように微笑んだ。
「わかったわ。後でガレンに伝えておくね」
僕は風呂場へと歩き、背後の木製の扉を閉めた。部屋は狭かったが、機能的だった。トイレは跨ぎ型で、綺麗に磨かれた赤レンガで造られていた。その隣には冷水で満たされた大きな木製の浴槽があり、木の手桶と、竹で作られた排水管まで備え付けられていた。以前読んだことのある中世ヨーロッパの住宅の不潔な便所と比べれば、遥かに清潔で進んでいた。おそらく、この湿気の多い熱帯気候のせいで、疫病を防ぐために衛生環境を発達させざるを得なかったのだろう。
服を一着ずつ脱ぎ、壁の木の釘に掛けた。最後に、ニット帽を脱いだ。
「この長い耳……すごく痒いな」
少し硬く感じる尖った耳をかきながら、僕は呟いた。
浴槽の冷水を体に浴びせた。
「うぅっ……冷たっ!」
体は震えたが、すっきりした。昨日の戦いでの汗も汚れも血生臭さも、瞬く間に洗い流された。しかし、一つだけ気になることがあった。肌のベタつきだ。彼らは石鹸やシャンプーというものを知らないようだった。
「システム」
僕は囁いた。
【パウチ入り液体石鹸(ミルクの香り)】――1ポイント
【パウチ入りシャンプー(ミルクの香り)】――1ポイント
それぞれ一袋ずつ購入した。何気なく手の中に現れる。優しく懐かしい香りがすぐに鼻腔をくすぐった。
体をきれいに洗い流してベタつきがなくなると、備え付けの粗末なタオルで体を拭いた。
服を着直しながら、頭の中で思考が巡り始めた。
あの味のない料理……ビジネスチャンスになるかもしれない。
だがどうやって? まずは通貨の価値を調整しなければならない。ガレンは銀貨五枚で一ヶ月暮らせると言っていた。もしシステムで銀貨一枚が一ポイントにしか換算されないとしたら、大赤字になってしまう。システムの最安値の商品ですら一ポイントなのだ。
「リアム、お風呂上がった?」
湯気の残る風呂場から足を踏み出した。髪はまだ少し湿っていた。ディナはすでにダイニングテーブルに戻っており、今度は淡い青色のシンプルな木綿の寝巻きを着ていた。パンをかじりながら、僕の姿を認めると手を振った。
「うん」
僕は答えた。
「どう? さっぱりした?」
「すごく」
僕は認めた。
「水が冷たくて震えたけど、汚れも疲れも全部流れ落ちた気がするよ」
「ふふ、それならよかったわ」
彼女は咀嚼しながら呟いた。
彼女の隣の席に腰を下ろした。テーブルの向かい側では、ナターシャがまだわざとらしい不満げな目を向けていたが、その瞳にはかすかな好奇心の色も見え隠れしていた。
「それでね」
パンを飲み込んでから、ディナが口を開いた。
「これからどうするつもりなの、リアム?」
「何が?」
「街に着いたわけでしょう。何か計画はあるの? 私たちみたいに冒険者になりたい?」
テーブルの木目を見つめながら、僕はしばし黙り込んだ。その問いは重く感じられた。
「さあね。まだ決めてないんだ」
顔を上げ、彼女の澄んだ瞳を見つめた。
「まずはこの街を見て回りたい。冒険者ギルドの仕組みも理解したいし。その上で……決めるよ」
ディナは少し残念そうに、小さく頷いた。
「そうよね。私たちのパーティーに勧誘できたらいいな、なんて期待してたんだけど。でもそれがあなたの選んだ道なら、仕方がないわね」
「ごめんね」
僕は気まずそうに答えた。誘いを断るのは気が引けたが、まだよく分かっていないものに約束をするわけにはいかなかった。
「いいのよ」
彼女は心から微笑んで言った。
「あなたがどんな道を選んでも応援するわ。出会ってまだ一日の相手に言うのも変かもしれないけれど……リアム、この街で困ったことがあったら、遠慮なく私やガレンに相談してね。力になれるよう全力を尽くすから」
彼女は手の甲で口元を覆い、小さく笑った。
「まあ、私たちただのDランク冒険者なんだけどね。あはは」
彼女の温かい言葉に、僕の中で冷たく張り詰めていた警戒心が少しだけ溶けていくのを感じた。
「ところでね、リアム」
真剣な口調になって彼女が尋ねた。
「文字は読める?」
「文字?」
その質問が石のように重く胸に突き刺さった。僕は言葉を失った。今まで考えたこともなかったのだ。彼らと普通に会話ができ、彼らの口にする言葉をすべて理解できていた。僕の口から出る言葉も、まるで生まれてからずっと使ってきたかのように自然だった。
だが……これは一体何語なんだ?
明らかに僕の母国語ではない。こめかみをトントンと叩き、答えを探ろうとした。
このエルフの体のせいだろうか? だが、この体に関する記憶なんて何一つ持っていない。奇妙だ。あまりにも奇妙すぎる。
「リアム? リアム?」
「あ、ごめん」
我に返って言った。
「それについてだけど……先に文字を見せてもらってもいいかな? 確かめてみたくて」
「ナターシャ」
ディナが呼んだ。
「部屋からお姉ちゃんの冒険者カードを持ってきてくれない?」
「えぇー、どうしてあたしが?」
ナターシャは不満を漏らしたが、それでも席を立った。もう一度僕を苛立たしそうに睨みつけてから、廊下の奥へと姿を消した。
しばらくして、彼女は手のひらサイズの長方形のカードを持って戻り、それをディナに手渡した。
「これは冒険者カードっていうのよ」
ディナはそれを僕に差し出しながら説明した。カードはプラスチックでできているように見え、文字も絵も印刷機から出てきたかのように精巧だった。
「冒険者ならみんな持っているわ。このカードがあれば、手数料なしで街を自由に出入りできるし、他国に行くときに入国料を払う必要さえないのよ」
僕はそのカードを受け取った。冷たくて重みがあった。表面には見慣れない文字が刻まれている。
「それで、どう? 読めそう?」
刻まれた文字を凝視した。くそっ。一言も理解できない。だが、救いとなる点が一つあった。ラテン文字のアルファベットが使われていることだ。A、B、C……その字形には見覚えがあった。ただ、それらの組み合わせがまったく見知らぬ言語の単語を形作っているだけだ。英語でもドイツ語でも、僕の知るいかなる言語でもなかった。
少なくとも、学ぶための基礎はある。
「読めないよ」
恥ずかしさが頬を染める中、僕は小さく答えた。
「いいのよ」
僕の気持ちを察したかのように、ディナは素早く言った。
「後で教えてあげる。冒険者になるにしても商人をやるにしても、文字は読めた方がいいものね?」
「手間をかけさせてごめんね、ディナ」
「全然構わないわよ」
彼女は微笑んで返した。
「私たちを救ってくれたお礼だと思って」
ディナは扉の方に目をやった。
「ガレンは来そうにないわね。もう一時間近く経つし」
彼女は大きくあくびをした。
「家で寝落ちしたか、忘れてるのかも。さあ、部屋へ案内するわね」
短い廊下を進む彼女の後をついていった。彼女は木製の扉の前で立ち止まった。
「ここがあなたの部屋よ」
彼女が扉を開けた。部屋の中は清潔で整頓されていた。清潔な白いシーツが敷かれたベッド、小さな木製のタンス、窓際の簡素な書き物机、そして空っぽの本棚が一つあった。
「すごく綺麗だね」
僕は感想を口にした。
「ええ。お母さんが毎日掃除しているの」
彼女は答えたが、その声は少しトーンを落としていた。
「昔は父の部屋だったのよ。父が亡くなってから、ずっと空き部屋だったの」
「えっ?」
僕は慌てた。
「それなら、僕がここで寝ても本当にいいの?」
ディナは僕の反応を見てくすくす笑った。僕の背中を軽く押して部屋の中へと促す。
「大丈夫よ。さっきお母さんと話したの。お母さんがあなたにこの部屋を使いなさいって言ったんだから。ゆっくり休んでね。明日の朝早くに冒険者ギルドへ行きましょう」
彼女は扉を閉め、僕を静寂の中に一人残した。
僕はしばらくの間、部屋の真ん中で所在なさげに佇んでいた。バックパックを床に下ろし、ブーツとジャケットを脱ぎ、最後にベッド脇の机の上にグロック17を置いた。
窓辺へ歩み寄り、少しだけ窓を開けた。途端に激しい雨音が響き渡り、冷たく湿った夜の空気を運んできた。雨に打たれる民家の屋根並みや、濡れた石畳の通りをじっと見つめた。
「僕は本当に……異世界の街にいるんだな」
その囁きが口から零れ落ちた。現実であると同時に、どこか非現実のようでもあった。信じがたい思いだった。




