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第14章:罪悪感


 僕は身を縮こまらせ、両膝を胸につくまで引き寄せて、自分の足をきつく抱きかかえた。


 目の前では、川が穏やかに流れていた。水は透き通り、川底の滑らかな小石がはっきりと見えた。時折、魚が跳ねてピチャリと小さな音を立てて水面を割り、波紋を作っては流れにかき消されていった。


 黒い森の上の空は、僕がここにやって来た初日と同じだった――低く垂れ込めた分厚い灰色の雲に覆われている。太陽の光はその雲の隙間を縫うように差し込み、細い光の柱を作り出していたが、それがかえって陰鬱で物悲しい空気を際立たせていた。まるで世界そのものが喪に服しているかのようだった。


「どうして……」


 僕の声はかすれ、喉につかえた。


「どうしてあのとき、あんな馬鹿な真似をしたんだ?」


 あの小屋の中の光景が、壊れたテープのように頭の中で何度も再生された。女性たちの虚ろな顔。振り下ろされるガレンの剣。そして、自分自身の叫び声。


「……いつもの僕らしくない……」


「ガレンの言っていることがもっともだってことは、わかっているんだ」

 僕は物言わぬ川の小石に向かって囁いた。


「仮にあのとき彼女たちを助け出せたとして、どうやって連れ出すつもりだったんだ? あんな大人数を引き連れて森を抜け、見つかることもなく巣から脱出するなんて……そんなの不可能だ」


 指先でざらついた生地の感触を確かめながら、カーゴパンツをぎゅっと握りしめた。


「あの虚ろな目を見れば、彼女たちが生きる気力を失っていたことくらいわかっていたのに……」


 なのに……どうして僕はあそこまで助けることに固執したのだろう?


「あのとき僕が黙ってさえいれば……」


 頭の中に後悔の仮定が渦巻き始めた。


「ガレンの言うことを聞いてさえいれば、もっと奥へ進めたかもしれない。まだ無事な別の捕虜を見つけられたかもしれない。斜面の上から見た、連行されたばかりの人たちなら……まだ助けられる希望があったかもしれないのに」


 手が震えた。


「でも、僕の叫び声のせいで……あの人たちは今頃みんな殺されたかもしれない。それとももっと酷いことに……僕たちの奇襲が失敗した腹いせに、ゴブリンたちの怒りの捌け口にされているかもしれない」


「捕虜を救えなかったどころか、僕の間抜けさのせいで仲間まで殺しかけたんだ」


「結局、僕は誰一人救えやしなかった」


 僕は顔を膝の間に深くうずめた。


「いつから僕に、こんなにわか仕込みの正義の味方気取りの根性が染みついてたんだ?」


 乾いた情けない笑いが小さく漏れた。


「地球にいた頃は何者でもなかったからか? 僕の人生にはヒーローと呼べる存在がいなかったから、他人の救世主になった自分を重ね合わせようとしていただけなのか?」


 惨めだった。


 堪えきれず、目頭に熱いものが込み上げてきた。視界が滲む。一筋の涙が零れ落ち、足元の小石の上に落ちて黒い染みを作った。


 息苦しかった。まるで大きな岩が肺を押しつぶしているかのようだ。この罪悪感は、さっきガレンに殴られた痛覚よりも遥かに痛烈だった。


「ここでも、地球でも……僕はやっぱり役立たずのゴミ屑だ」


 涙を流すままにした。川の流れる音だけが僕に寄り添い、押し殺したすすり泣きをかき消してくれた。


 パキッ。


 小枝を踏み折る音がした。


 体が強張った。反射的に脇の拳銃へと手が伸びたが、すぐにその足音の主が誰かに気づいた。重く、規則正しい。金属がかすかに擦れ合う音。


 少しだけ首を巡らせ、ジャケットの袖で素早く顔を拭った。


 ガレンだ。


 大柄な男が足を引きずりながら近づいてきた。へこんだ銀色の鎧が、森の薄暗い光を鈍く反射している。僕の隣まで来ても、彼は何も言わなかった。重いため息をつきながら――隣にある平らな岩の上に腰を下ろした。


 僕たちの間に沈黙が流れた。気まずく、重苦しかった。


 僕は靴の先を見つめ、彼の顔を見る勇気が出なかった。また怒鳴りつけに来たのだろうか? それとも、追い出すつもりだろうか?


「さっきの平手打ちのことだが……」


 静寂を破ってガレンの声が響いた。川石が擦れ合うような、低く重い声だった。


「悪かったな、リアム」


 僕は小さく息を呑み、彼の方を向いた。


 ガレンは僕を見ていなかった。川の流れを見つめていたが、傷だらけの顔に浮かんだかすかな微笑みは温かかった。そこには怒りなど微塵もなく、ただ深い疲労だけがあった。


「いいんだ」

 声はまだ少し掠れていたが、僕は慌てて答えた。

「僕……殴られて当然のことをしたんだ。ガレン、もっと強く殴ったってよかったくらいだ。作戦を台無しにして、僕の一時のわがままでみんなの命を危険に晒したんだから」


 ガレンは平らな小石を一つ拾い上げ、大きくてごつごつした手の中で転がした。


「なあ、リアム……」


 彼は小石を投げた。ポチャン、ポチャン、ポチャン。小石は水面を三度跳ねてから沈んでいった。


「あのときお前が叫んで、俺に武器を向けたとき……まるで昔の自分を見ているようだったよ」


 僕は当惑して彼を見つめた。

「昔の自分?」


「ああ。昔の俺だ。何年か前のな」

 ガレンは苦笑いを浮かべた。

「世界は白か黒かだと思い込んでいた、青臭い若造だった頃の俺さ。正義の味方なら、誰も犠牲にすることなく全員を救えるはずだと信じていた頃のな」


 彼は身を乗り出し、膝の上に肘をついた。


「だがこの世界は……いつもそう都合よくはいかない。大抵は残酷だ」


「さっき俺があの女たちの首を刎ねたとき……」

 ガレンは少し言葉を切り、その瞳に翳りを落とした。

「楽しんでやったとでも思うか? いい気になっていたとでも? 違う。毒を飲み下すような気分だったさ。罪悪感はあるし、眠りにつくたび、いつまでも俺を苦しめ続けるだろうよ」


 彼は僕の方を向いた。その眼差しは鋭く、しかし深い理解に満ちていた。


「あんな真似をしたのは、今回が初めてじゃない。ゴブリンにさらわれた被害者の救出依頼なんて……冒険者ギルドの依頼板じゃ珍しくもないからな」


 ガレンは深く息を吐き、口から白い息が漏れた。


「時にはな、明確に指定された依頼もある。『どうか我が子を殺してください。苦しみから解放してやってほしい』とな。昔は、そんな依頼を書く親は狂っていると思っていた。どうして実の親が、自分の子供を殺してくれなどと頼めるんだ、とな」


「だが、そのうち……」

 ガレンは拳を握りしめた。

「生きて救出された者たちのその後を見てしまった。世間の目を目の当たりにしたんだ。徐々に正気を失い、鉄の檻に閉じ込められ、石を投げつけられたり、通りを引き回されたりする姿をな」


「のけ者にされ、忌み嫌われ、汚物のように見下される……まるで自分という存在そのものが、生きる価値もない害虫であるかのように」


「確かに、教会が引き取って保護することもある。だがそれでも、世間の偏見までは消せやしない」


「それどころか、暗い噂を耳にしたことさえある……司祭たちが陰で彼女たちを秘密裏に殺しているという噂だ。理由は? その胎内に穢らわしい種を宿しているからだとか、魔物に身体を汚されたからだとかいう理由でな。狂信的な一部の連中がやっているだけかもしれないが、そうした事実が存在すること自体が……やはり……世界が彼女たちの存在を拒絶している証拠なんだ」


 彼の声は低くなり、ほとんど囁きのようだった。


「時にはな、リアム……死こそが、俺たちに残された唯一の慈悲ってこともあるのさ」


 その言葉が僕の胸に重く突き刺さった。この世界は、僕の知っているアニメやライトノベルの異世界物語などよりも、遥かに残酷だった。


「あの小屋で女たちを見たとき、俺が感じていたのは……」

 ガレンは再び川を見つめた。

「お前への怒りじゃない。自分自身への怒りだ」


「もし俺がもっと強ければ……もし俺がAランクやSランクの冒険者だったなら……もしもっと早く辿り着けていたなら……こんな悲劇を防げたかもしれない。彼女たちの処刑人にならずに済んだかもしれない、とな」


 彼は僕の肩を軽く叩いた。重く、しかし温かい手だった。


「だが、世界は『たられば』では動かない。俺たちは目の前にある現実と生きていくしかないんだ」


 そのすべてを聞いて、僕は言葉を失い、どう返すべきかわからなかった。だが不思議なことに、胸の締めつけられるような苦しさは少しずつ和らいでいった。この罪悪感を抱えていたのは僕一人ではなかったのだ。ガレンも同じ重荷を背負っており、おそらく僕よりも遥かに重いものを抱えていた。


「ガレン! 早く移動するぞ! 日が昇ってきた!」


 休憩場所の方から響いたトムの叫び声が、その静寂を破った。


「ああ、わかってる!」

 ガレンは力強さを取り戻した声で返事をした。


 立ち上がると、膝の関節が小さく音を立てた。彼はもう一度僕を見下ろし、その影が僕を包み込んだ。


「リアム、もうすぐ出発するぞ。顔を洗っておけ」


 そう言い残すと、彼は背を向けて休憩場所へと戻っていった。


 遠ざかる彼の広い背中を見送った。


「そうだったのか……」

 僕は呟いた。


 僕はもうしばらくじっと座り、頬に残った涙の跡を風に乾かせるままにした。


 身体の脇に手を伸ばし、グロック17の冷たい金属に触れた。銃を持ち上げる。


 マガジンキャッチを押した。


 カチッ。


 手のひらにマガジンが落ちてきた。空だ。薬室に残った一発だけだった。


 ジャケットの内ポケットに手を入れ、最後の弾薬箱を取り出した。残りはわずかだった。


「一……二……三……」


「……十六」


「薬室の一発を合わせて、合計十七発。ちょうどマガジン一本分満タンだな」

 僕は呟いた。


「さっき手榴弾を投げたときに落としたフラッシュバンが一つ。それに十一ポイント相当の空マガジンも一つ失った。そして今は……」


 頭の中でシステムの画面を呼び出した。


【残高:617ポイント】


 僕は深くため息をついた。


「無駄遣いしすぎたな。さっきの戦いでポイントを消費しすぎた」


 不安そうにその数字の並びを見つめた。


「幸い、今のところシステム内の商品の価格はまだ安い方だ。これが『新規転移者』向けのセール価格なのか定価なのかはわからない。もし後で僕の経済状況が安定したときに、インフレやレベル調整とやらでシステムが急に値上げしてきたら……今みたいに気前よく買い物をすることなんてできなくなる……」


「これからはもっと計算高くいかなきゃならない。弾丸一発一発が金なんだ。買う物すべてが、この世界で生き延びるために役立つものでなきゃダメだ」


「リアム! もう出発するわよ!」

 今度はディナの声が聞こえてきた。優しく、しかし切迫していた。


「うん! すぐ行くよ!」

 僕は大声で返事をした。


 最後の弾丸たちをマガジンに込め、グリップへと押し込むと、小気味よいカチリという音が鳴った。


 川岸に膝をつき、両手で冷たい水をすくって顔を洗った。冷水が心地よく、顔に残っていた涙の跡と汚れを洗い流してくれた。


 立ち上がり、手の水気を払うと、踵を返して川を後にした。

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