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深淵の支配者

スキーです!

今回も読んでいただきありがとうございます!

第一幕【裏切り】


「ん〜…中々深淵王って見つからないものだね…もっと城みたいな所に居たらいいのに!」

黄色い髪をした少女が深淵世界を見渡しながら言う。

「深淵世界の王…ね…コソコソと隠れるぐらいだから大したことねぇんじゃねぇの?」

そしてもう一人…人と呼んでいいかも分からないが、紫色の悪臭のする肥満な奴が居た。

「それよりド・ブスさんはさぁ…お風呂入ってるの?入った方がいいよ…」

黄色髪の少女は鼻をつまみながらド・ブスを見る。

「うるせー!これが俺の武器なんだよ… 大体、コハク!お前一人で探せばいいだろ?」

ド・ブスは黄色髪の少女。コハクに文句を言いつける。二人は同じCチームだ。

「一緒に探した方が効率いいでしょ?それとも、深淵世界の王になりたくないの?なりたくないなら別に帰ってもいいのよ」

コハクはド・ブスを睨みつける。

「あぁそうかよ…じゃあ俺は帰らせてもらうぜ。こんなこと最初から興味ねーんだよ」

ド・ブスはそう言い、踵を返してコハクの元を離れる。

「はぁ…一人減っちゃったけど…臭いのが居なくなって嬉しいわ。他のCチームメンバーにメンバー減ったこと伝えたほうがいいかな…」

コハクがそう言っているところに、ド・ブスが足音を殺してコハクの後ろに立っていた。

「うおらぁぁ!《ポイズン・スマッシュ》!」

「なっ――」

コハクは重い一撃を顔面に食らう。

5mほど吹き飛び、地面に蹲る。

「がはぁ…なんで…こんなこと…」

コハクが苦しんでいるところにド・ブスが嘲笑う。

「はーははは!なんで!?そりゃあ深淵王になるためよ!」

コハクは辛うじて立ち上がる。

「なんで…!深淵王には興味無かったんじゃないの…!」

コハクは魔法の杖をド・ブスに構える。

「嘘だよ!ほんとはなりてぇさ!独り占めしたかったんだよ…!そのためにお前を殺す!」

ド・ブスは毒の漂流に乗っかってコハクに猛スピードで向かう。

「そう…じゃあ私もアンタを倒すことにしたわ!」

コハクは杖から魔法を使う。

「《ボルカニック・ヴォルテックス》!」

ド・ブスの下から巨大な炎の渦が立ち昇る。

「うおあっちいいいいいい!」

ド・ブスはその場で転がり回る。

「不意討ちじゃないと無理だなんて…大したこと無いわね。深淵能力あっても下界の人間一人にも勝てやしないんじゃない?」

その言葉にド・ブスはコハクを睨みつけながら立ち上がる。

「こんなの…効かねぇんだよ…《ゲロ・ブレス》!」

ド・ブスがそう言うととてつもない量と勢いの空気を吐き出し、炎を蹴散らしながらコハクにぶつける。

「うっ…臭いが…クラクラする…」

コハクの意識が途切れかけているところにド・ブスはすかさず攻撃を叩き込もうとする。

「《ポイズン・バースト》!」

ド・ブスは毒の濁流でコハクを飲み込む。

「あ…う…」

コハクは毒ですでに動けない様子だった。

「はははー!! 馬鹿がよ!油断するから!そうなるんだってのが分からねぇか!」

ド・ブスはコハクに蹴りを入れまくり、杖もへし折った。

「して…」

コハクが何か喋る。

「あ?聞こえねぇよ」

「深淵王は…いいから…許して…」

コハクは涙を零しながら言う。

「んー…嫌だね!俺は苦しんでる奴の顔がだーいすきなんだ!特に死に顔が苦しんでる奴が大好きだ!」

そう言い、ド・ブスはわざとコハクが苦しむよう、能力も使わず、自身の怪力でコハクを殴り続ける。

バキッゴキッとコハクの骨が砕ける音が響く。

「う…あ…」

――ぐしゃっ

「あぁぁぁ…」

コハクの右足が完全に潰れる。

「うっひょー!最高だぜ…俺はこうやって骨を潰しながら相手が悲鳴を上げるところを見るのが最高に好きなのさぁ…」

ド・ブスはコハクの腹に蹴りを入れる。

「うえ…ごぶふっ…」

コハクは吐きながら意識を失う。

「あ?もっしもーし!まだ終わっちゃねぇんだよぉ…たく…もういいや。顔潰しちゃおー」

その様子を見ていた七央は思わず立つ。

「こんなの見てられないよ…あのド・ブスとかいうのは私が倒す!」

「待て。コハクの能力は続いている。ド・ブスはここから負ける」

俺は七央に言う。

「ここから!?どうして…?」

「見てみたところ…コイツの能力は《パーフェクト・ストーリー》という能力を持っているようでな…野郎と同じで無自覚型発動能力なのだが…それが相手はコハクに必ず負ける結末になるという能力があるらしい。つまり因果から大きく外れる事態がない限り、ここからコハクが逆転、または誰かが助けに来るはずだ」

俺は視線をコハクに戻す。

「おらぁ死ねぇ!!」

ド・ブスはコハクの顔に目掛けて重い蹴りを放とうとする。

――ザッ!!

その時、殆ど音も無くド・ブスの足は何者かに超スピードで斬られる。

「うっ…うおおお俺の足…が…!」

ド・ブスは足を抑えながら身体を引きずってその場から立ち去ろうとする。

「全くつまらんことをする奴が居たな…ガッカリだ…」

現れた何者かは手をコハクとコハクの杖に魔法陣を描き、再生させる。いや、再生というよりも巻き戻しのような…時間を遡らさるようにコハクと杖を治す。

「あ…う…あなたは…」

目が覚めたコハクは何者かを見据える。

「Dチームのミール・クルトさん!」

ミールという男は白とレモン色の髪をなびかせながらド・ブスを見る。

「なんで…あなたが私を助けるの…」

コハクはミールに聞く。

「んー…困ってる人を見捨てることが嫌いだからだな…気まぐれだよ」

ミールは赤と金の剣をド・ブスに向けて振るう。その瞬間、ド・ブスの空間が消し飛ぶようにそこだけが吹き飛んだ。

「よし、じゃあコハクちゃん?ヴィクトニケの所へ行こうか…」

ミールはなぜか俺の名前を呼ぶ。

「ふむ…もうバレたか」

「ヴィクトニケが深淵王になったことなんて誰も言ってない…なんで?」

クリスが俺に向けて言う。

「ルールの穴を…見つけてしまったようだな…」


第二幕【最深部】


「ルールの…穴?何かあったかな…?」

七央が考える。

「もしかして、チーム同士がぶつかり合ったら即死…っていうルールのやつじゃないか?開催者のシードが居なくなって…ゲームが終了していればこの即死のルールも消える…仲間同士が争っていて即死しないことに…あのミールとかいう奴も気付いたんじゃないか…?もしかしたら…他の奴も…」

アベルが言った瞬間、俺達の背後に能力者の気配を感じる。

「ふむ…気付いたか」

そこにはフメイ、犬次郎、レア、面白郎、コハク、緋理、ミールが集まっていた。

「最初からお前らだけ五人で集まってて…怪しいとは思ってたが…ゲーム終了させたとは…なんのつもりだ?」

レアという男が俺に向けて言う。

「なに、深淵王は俺になった。それだけの話だ…別に、なんの違反もしていた訳ではあるまい」

俺は向けられている殺気に構わず答える。

「そんなら、なんでシードはんのゲーム終了の合図が無いんや?そんな無言で終わること無いと思うんやけど…」

面白郎が俺に向けて言う。

「誰に向けて口を利いている…深淵王の前だぞ…」

俺は自身の殺気をミール達に向ける。

「ちょ…ヴィクトニケ?なにしてるの…!」

七央が俺を止めようとする。

「安心しろ…本当に殺すことはせん」

だが、ミール達には本気で受け止められてしまったらしく。

「《オーク・ランド》…!」

「重力支配…」

「《コミカル・ワールド》!」

犬次郎、フメイ、面白郎の盤面支配能力が俺達に向けて襲いかかる。

フメイの重力に敷かれながら俺の戦意は犬次郎の《オーク・ランド》で削がれていく。おまけに面白郎の《コミカル・ワールド》のせいでまともな反撃は出来ないだろう。

「全く…話の聞けない奴らだ…」

――ビリリジィッッ!

「なんやて!?」

俺は何もせずとも、少し力を解放するだけで面白郎達の能力を消し飛ばす。

「俺は深淵王だ…全てを深淵能力として扱い…全てを深淵世界のものとする…」

俺は少し笑いミール達に向け一瞥する。

「深淵王だからと構うなよ…一斉攻撃だ!」

ミール達は俺達に向け深淵能力を使い反撃しようとする。――だが。

「発動しない…!?」

深淵能力は一向に発動する気配が無く、ただ静寂の時が流れる。

「言われたはずだ…深淵世界の理が深淵世界そのものに通用はしない。深淵能力は深淵世界から生まれた恐怖の一部に過ぎん」

俺は神限能力を深淵能力化して使い、ミール達を浮かす。

「なんのつもリ…ヴィクトニケ・アレクレル…!」

「なに、お前たちはもうここに居る資格はない…また会おうじゃないか。今度は…デルゲ・セントラルで」

「デルゲ・セントラル…?」

フメイが困惑の表情を浮かべると共に、俺は神限の速度で深淵世界から強制追放する。

「これでよかったのか?ヴィクトニケ。深淵世界の最深部は…そう簡単に見ることが出来ないと思うぞ。手駒として利用くらいは出来たんじゃないか?」

エルダが俺に向けて言う。

「深淵王でも見ることの出来ない深淵…楽しみじゃないか。ましてや俺が居るんだ。そう怖がることでも無いだろう」

俺は皆を見て言う。

「ヴィクトニケが居るなら…大丈夫だよね!」

七央は微笑んで言う。

「それもそうだな…だが、深淵世界の最深部に行く方法が分からないぞ…どうするんだ?」

「もう見えているぞ…いや…見られている…と言ったほうが正しいか」

クリス、エルダ、アベル、七央が俺を見る。

「ふはは…面白いじゃないか深淵世界…!」

俺は深淵世界の空を見て笑った――。


第三幕【鏡淵】


「見られているってどういうこと?」

クリスは俺を見て言う。

「深淵世界…そしてそれに依存する全ては…見られていることで成立している…つまり、そうあるもの、観測されているもの、真実、偽り、これらを全て内包し、映している…映すためには…鏡が必要だな…」

俺は深淵世界の何も無い所を掴み、反転させ引っ張る。

その時、引っ張られた場所は景色が消えた。

「どういうことだ…?」

アベルが元々あった景色の所へ触れるが、何も起きない。

「ここは、深淵世界だけでなく、深淵世界を写す鏡。鏡淵世界があると見た」

「観測されない世界にも…観測されるからこそあるものがある…鏡淵世界が深淵世界を写し、深淵世界が鏡淵世界を内包し、見ている。お互いが見合うことで…全てが成立する…ってこと?」

クリスが考察する。

「そんなところだな…クリスも無限多元宇宙を創造する時、観測をされているからこそ、自分の想像を写し、存在させられている。クリスが能力を見ているのではなく…クリスという存在が…能力が使っている所を見られて使用させられている…と言ったところか…」

俺は両手で深淵世界を掴む。

「ヴィクトニケ?何をしているんだ?」

エルダが俺に聞く。

「今から深淵世界を全てひっくり返す」

全員が俺を見る。

「えっ!そういうのって危険じゃないかどうかをまず見てからの方がいいんじゃ…?」

七央が俺を心配そうに見る。

「なに、別に大丈夫だ。だが…一つ気を付けないといけないことがある…」

俺は続けて語る。

「それは鏡淵世界に乗り移るのに失敗すれば、俺達を写すものがなくなり、永久的に消えてしまう可能性がある」

「中々にリスキーだなオイ…それに乗り移るって言ってもどうやるんだって話だろ?」

アベルは額に手を当てる。

「乗り移ると言うんだからジャンプすればいいだろう。俺が1.2.3と言う…3と言った瞬間に飛ぶんだ」

「ヴィクトニケは無茶しか言わない…」

クリスは少し困った表情を浮かべるが俺を信じてかまっすぐ俺を見る。

「いくぞ? 1…」

「2…」

皆の足を踏み込む音が響く。

「3ッ!!」

ザッ!!という音と共に深淵世界は裏返り、鏡で反射している世界、鏡淵世界が現れた。

「ここ…が…鏡淵世界?」

なにもかもが写っていてその景色は今、過去、未来、他の世界や次元、因果の流れまでもが見えていた。

「ヴィクトニケ。鏡淵世界に来たわけだが…ここに他の者は居るのだろうか?」

エルダは辺りを見回している。

「分からん…そもそも観測者側の視点に到達している者が少ないだろう。だが…一人心当たりがあるのが…」

「零矢の親だ」

俺は鏡淵世界を見渡す。

「え?おじいちゃんが深淵世界どころか鏡淵世界に居るの?流石にそれは無いんじゃない?」

七央が苦い表情をする。

「だが、天界にも、深淵世界にも居なかった…となれば可能性があるのは鏡淵世界くらいしか無いだろう…既に存在が無くなっていない限り」

俺は零矢のことを思い浮かべると同時にゲームに参加していた面白郎達のことを思い出す。

「大体、シードが招待してた可能性もあるんだ…さっきのあいつらも、シードから招待させられて来たと言っていた…なら、招待されて来ていてもおかしくはない」

「そういえば、七央の親は天界人と地球人のハーフだって言ってたけど、お父さんは婿入りなのか?天界人なら名前がおかしい…地球人で使われる名前だ。おじいさんの可能性もあるが…」

アベルが七央に聞く。

「ん〜…お父さんが昔言ってたんだけど記憶が無くなって施設に入った時、自分の名前を確認した時にはもう『夢星零矢』って名前が与えられてたみたいなんだよね。おじいちゃんが婿入りして夢星の姓を手に入れたのかも…そもそも、私のお母さんの旧姓は夢星じゃないしね。私が幼い頃に死んじゃったみたいだけど…」

七央が遠い目をして語る。

「別に生き返らせれるが?」

俺が七央に聞くが七央は首を振る。

「うんん…大丈夫。今、お母さんを復活させても、困惑されるだけだし、何より人の命を軽いものにしたくないから」

俺は七央の言葉に少し驚く。人間の価値観はどれだけ読んでも分からないものだ…。

「そうか…俺は親というものがなにかよく分からん…」

「そっか…ヴィクトニケは知らないんだ…。私はヴィクトニケの親と話したことあるよ」

クリスが周知の事実かのように真顔で言う。

「おい、クリス…。初耳だが…?」

俺はクリスに聞く。

「ヴィクトニケって親のこと知りたいのかな…ってずっと思ってたから、言おうか言わまいか迷ってた…」

「知りたいなら、教える」


第四幕【最強の誕生】


――ヴィクトニケの産まれる1年前。

『クリスちゃ〜ん!』

元気のよい声がクリスの居る宮殿に響く。

『あっ…ミスカさん』

クリスがミスカという女性に顔を向ける。

『この度はご結婚おめでとうございます…。私からなにか祝う事は出来ませんが…』

『えー!全然!そんなのいいのよ〜。それよりね私から大発表があるの!』

ミスカは茶色の髪を揺らしてクリスの前に座る。

『大発表…もしかして?』

クリスは瞳を揺らす。

『ふっふっふ〜…そう!私…妊娠したのー!』

ミスカは満面の笑みでクリスに伝える。

『やっぱり…おめでとうございます。お名前は決めてるんですか?』

クリスも笑顔でミスカに聞く。

『それを…クリスちゃんに決めてほしいの』

クリスは少し驚いて固まる。

『えっ…私が?そんなそんな…いくら私とミスカさんの仲とは言えそれは…どうしても自分で決められないなら夫さんに決めてもらえばどうでしょうか…』

『うーん…あの人はバベル様の所のお手伝いで忙しくて会えないの…だから、クリスちゃんに決めてほしいなぁ〜って…なにかアイデアだけでもいいから!』

ミスカはクリスに期待の表情を向ける。

『どんな子に育ってほしい…とかありますか?』

『元気で!夫みたいな、最強って感じの子がいいわー!』

ミスカは手を合わせて妄想を膨らませてるようだ。

『最強…それなら、最強を目指すための…勝利の象徴である。ヴィクトリア、ニケさんの名前を取って…ヴィクトニケ…なんてどうでしょう…!』

『はぁ〜!いい名前!ヴィクトニケ…すごくいい響き…。クリスちゃんの付けてくれた名前…絶対大切にする!』

ミスカは跳び上がって喜ぶ。

『それはよかった。ヴィクトニケは…性別が決まってる?』

クリスはミスカのお腹を見る。

『うん!女の子なのよ〜。クリスちゃんくらい最強になっちゃうかもね!』

『いえいえ…別に最強になりたくてなったわけでもないですし…』

クリスは苦笑いして返す。

『あっ!そろそろ病院に行かなくちゃだから帰るわね!』

ミスカは思い出したようにその場から立ち去る。

『気を付けて…』

クリスは笑顔で見送った。これが、ミスカの最後の笑顔だった――。

――半年後。

『ミスカさん…最近見ないなぁ…そろそろ産まれる頃かな…』

クリスはボーッと自分の宇宙を眺めながら呟く。

すると、慌ただしい雰囲気でクリスの宮殿へと繋がる階段から足音が響く。

『クリス!』

黒い髪をした男がクリスの前に立つ。

『ヴァンさん!どうしたの…?』

クリスはヴァンという男に声をかける。

『ミスカが…ヴィクトニケが…危険なんだ!助けてやってくれ!』

ヴァンは目に涙を溜めてクリスに訴えかける。

クリスは何を聞くわけでも無く、ミスカの居る病院へとヴァンと一緒にワープする。

『これは…?』

クリスがベッドに横たわっているミスカを見ると、ミスカの体からは赤い光が漏れており、ミスカの体は薄くなっていた。

『もしかして…存在が破滅しそうに…?』

『あぁ、そうなんだ…。クリスならなんとかしてくれるかと思ってだな…』

クリスは自身の能力、《想像顕現(クリエーション・エクリプス)》により、ミスカとお腹の中のヴィクトニケの存在を保たせようとする。だが、クリスはある異変に気がつく。

「能力対象が…定められない…いや、拒絶されてる…!?もしかして…ヴィクトニケに…』

クリスの能力は発動する瞬間に、破滅してしまう。

『大体…どうしてこんなことに…?』

ヴァンは答える。

『お医者さんがな…ヴィクトニケのせい…だと。あまりにも強すぎる力に…産まれる前から…つまり起源から発生している破滅の力が原因でミスカも、ヴィクトニケも自身も苦しめている…とのことなんだ…このままだとヴィクトニケも産まれなければ…ミスカまで…』

『起源の本質が掴めない以上は私でもなんとかすることは…』

クリスは下を向いて答える。

『く…そ…』

その時、ミスカが叫び声を上げたかと思えば、ミスカの存在起源すらも破滅し、薄くなっていく。

『ヴァンさん…あなたの能力と私の能力を合わせればなんとかなるかもしれません…』

ヴァンは涙を拭いてクリスを向く。

『それは…本当か!』

『うん…ですが…この方法はあなたも、ミスカさんも消えてしまうでしょう…』

『そんな…俺はいいが…じゃあ…ヴィクトニケは…!誰が育て…』

『大丈夫…よ。あなた…』

横からミスカが声をかける。

『ミスカ!!』

ヴァンはミスカの手を取る。

『最期の言葉になるはずよ…クリスちゃんも聞いて…』

ヴァンとクリスは息を呑む。

『あなた…ヴィクトニケは…最強なのよ…?ほら…今もこんなにも元気…。だから…大丈夫…きっとあの子なら…どんな困難も乗り越えられるわ…』

ミスカはクリスの方を向く。

『そして、クリスちゃん…ヴィクトニケを…たまには見てあげてほしい…無責任なことは分かってる…でも、頼らせて…』

ミスカの体はどんどん薄くなっていき、足は既に見えていない状態だ。

『いくらでも頼ってください…。お二人とも…覚悟はいいんですね…』

クリスはミスカとヴァンに顔を向ける。

『えぇ…大丈夫よ』

『ミスカと一緒に死ねるなら…本望だ…』

『それでは、ヴィクトニケ救出作戦を開始します。まず、ヴァンさんの能力は…あらゆる起源の掌握。それを私の能力で、ヴィクトニケの起源としてヴィクトニケの起源の一部にします。そして、ヴァンさん自身が自身の起源を掌握して、その起源の形を保たせてください。その後、ミスカさんの残ってる存在の外殻を、ヴィクトニケもとい、ヴァンさんの起源の一部にします。これで、母胎が無くても存在と起源で体を構築して産まれることが出来ます』

『なるほど…分かった…ミスカも…いいな?』

ミスカはうんと頷く。

『よし、頼んだぞ。クリス…』

ヴァンは能力を発動させて自身の起源を掌握する。

『では…ヴァンさんの存在自体をヴィクトニケの起源とします…!』

ヴァンの体は光の粒子となって消滅し、ミスカの体の中に入る。

『それでは…ミスカさん…あなたの存在の力を貰います…』

『この子のために使えるなら…いいわ…』

ミスカは涙を流しつつも笑っていた。

ミスカの体は光に包まれ、球体となり、作り出したヴィクトニケの存在起源を包む。

光は収まり、その中に居た小さいヴィクトニケをクリスは抱える。

その時、クリスはヴィクトニケを見て違和感を見つける。

『あれ…?男の子…?』

クリスはヴィクトニケの裸体を見て驚く。

『もしかして…ヴァンさんを起源の一部にしたから因果が変わった…のかな』

すると、腕の中に居たヴィクトニケが声を出す。

『寒い。なにか着せてくれないかクリス』

『えっ…!?』

クリスは思わずベッドにヴィクトニケを置く。

『やはり自分で生成するからいい…それにしても…いい世界だな』

ヴィクトニケは自分よりもデカいサイズの服を自分に着せたかと思えばそのままヴィクトニケの体は大きくなる。

『状況が理解出来てない…と言った雰囲気だな。クリス』

『なんで私の名前を…?』

クリスはヴィクトニケを呆然として見る。

『今、お前の情報を全て確認した。それでクリスという名前を持つことが分かったからな。言語もお前から真似させてもらった。それと、俺の名前はなんだ?』

『名前…あなたの名前は、ヴィクトニケ・アレクレル。天界で、間違いなく最強』

ヴィクトニケは笑う。

『ふははっ!天界で…?いや、存在する全ての中で…だ』


第五幕【今の自分】


「それが…俺の産まれた理由…か」

「うん。今のヴィクトニケがあるのは…ミスカさんとヴァンさんのお陰」

クリスは俺を見る。

「なんか…いい話…クリスさんっていつからミスカさんとヴァンさんの知り合いだったの?」

七央がクリスに聞く。

「んー…私から知り合ったというか…」

「俺が紹介したんだ」

エルダがクリスの横に来る。

「エルダが?一体、どこで知り合ったんだ?」

「ミスカと俺は一応…仕事で知り合った仲だったんだ。最初は俺とミスカもバベルの雑用係みたいな関係だったんだが、話が合ってきてな。クリスにも紹介したという訳だ…」

「エルダさんって雑用係だったんですね。こんなに強いのに…」

七央は驚いた表情を浮かべる。

「はは…ヴィクトニケが産まれる前だから百万年以上前の話だぞ?流石に戦えるほどの力はあるにはあったが…当時の俺ならオーディンにも負けただろうな」

エルダは当時のことを振り返るように語る。

「昔は…ってことは昔は能力がそこまで強くなかったってことですか?」

七央がエルダに聞く。

「あぁ、鍛錬して限界まで能力を強化したんだ」

「能力の拡張とか出来たんですね。デルゲ・セントラルでは、お父さんみたいな能力じゃないと与えられた力以上のことは出来ないものだと…」

「能力の拡張ってよりは、解釈の拡張みたいなもんだよ。俺の神限能力も、無限を広げたらどうなるのか、その広げた先の無限がどうなるのか…そういうのを積み重ねると、自ずと能力も強くなる。例えば、パンチが強くなる能力があったとして…それだけかと思うかも知れないが、パンチの強くなる先を目指せば、ヴィクトニケみたいにパンチすりゃ全ての概念を破壊出来るくらいにはなる」

アベルが説明する。

「え…!そうなんですか…。じゃあ私のJOKERの能力も、もしかしたら進化するかも…?」

「JOKERは無いかもだな。あらゆる全てを断絶する能力っていう時点で、そこが終着点な気がするが…」

JOKERの能力はあらゆる全てを断絶し尽くす。もしかしたら、限界という壁を越えて俺を越えてくるかもしれぬ。

「ん〜まぁ今でも強いし大丈夫かな!」

七央は笑顔で言う。

「ん〜でも、JOKERの能力ってそんな頻繁に使って大丈夫なもんなの?七央は2分しかJOKERの能力を使えないとは言っても…JOKERの力を使い続ければ七央に起源にJOKERが復活する可能性も無くはないだろ?」

アベルは七央の腰に下げている《ラグナロク・ビヨンド》を見ながら言う。

「それは…ちょっと怖い…」

七央は自身の胸を抑える。

「俺が二度と復活しないように魂と起源ごと消したから大丈夫だとは思うが…」

「まぁ、いざとなれば俺とヴィクトニケが居るし、大丈夫だ」

エルダは薄く笑う。

そうして、話し合いながら鏡淵世界を歩いていると、目の前に誰かの影が、様々な世界線の並んでいる陰の中に隠れた。

「ん…誰か居るな。お前は誰だ?姿を見せてみろ」

俺がそう言って物陰に隠れた人物を見てみると…

「お前は…?まさか…」

俺の前には白髮の男性が、俺達五人を睨むように立ち止まっていた――。

ヴィクトニケのヤバいところまとめ!(まとめたかっただけ)

森羅万象、全知全能内包

全ての世界の意味、設定、概念、存在、時間軸、能力、次元、区別、認識、物語、階層、非可算無限、形を知り、大体全部でなんでも出来る。

枠を越える性質で階層や物語、終わり。そして全てに記述される事実の枠を越え、内包する。枠というのも比喩表現で、形などに縛られない。

全ては自分に依存しており、自分に依存する全てはヴィクトニケの支配下。

全ての真実を偽りとする。(自分だけ本当の真実)

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