深淵に飲まれて
スキーです!今回も作品を見ていただきありがとうございます!
第一幕【宇宙人と地獄の女王】
――深淵世界にはポツリと一人の少女が立っていた。
その少女は銀髪で、どこか異質な雰囲気を感じる。
「…」
少女は何かを探すようにキョロキョロと周りを見渡し、少女は数十m先の白い髪を持つ女性を見据える。その女性も、人でも、天界人でもない異質な雰囲気を漂わせていた。
白い髪を持つ女性は見つめてくる銀髪の少女に気づき、戦闘態勢を取る。
「ごきげんよう。あなた…Aチームのフメイ・スキームさんですわね? 私は地獄の女王メフィスト…わざわざこちらを見てくるということは戦いたいということですわよね?」
銀髪の少女ことフメイは圧をかけてくるメフィストに対しても微動だにせず、その眼をメフィストに向け続ける。機械的なその目線は殺気も、追求心も感じない。
「えぇ、そうヨ。私ハ、フメイ・スキーム。あなタ。地獄の女王って言ったわネ…」
フメイは手に水色のエネルギーを纏わせる。
「少しは楽しませてネ!」
フメイはさっきまでの雰囲気とは反して殺意を解放し、目を見開いてメフィストの正面まで接近する。
「早っ――」
「キャハハハハハ!!」
フメイは拳をメフィストに突き出す。
「反重力拳!」
フメイがそう言うとメフィストの体は数十m吹き飛ぶ。
「ガハッ!!」
メフィストは障害物に衝突し、バランスを崩す。
「深淵世界に重力の概念は無いはず…よ…」
メフィストはなんとか立ち上がりながら言う。
「私の周りには常に重力を発生させ、重力を自由自在に操ることが出来るノ…だから…」
フメイは自身の体をメフィストの方に重力で引っ張り、猛スピードでメフィストに突進する。
「こういうことも出来ル!!」
フメイの拳は再びメフィストに衝突しそうになる。
「深淵能力だからこその強力さとは言え…所詮はただの物理攻撃…そんな攻撃に負けはしないですわ!」
メフィストは前に黒い魔法陣を展開する。
「《ブラック・ゾンビ》!私を守りなさい!」
メフィストの前には数十体のゾンビが現れる。
そのブラック・ゾンビ達はフメイの攻撃を受け止める。
「アラ…」
ブラック・ゾンビはフメイを確実に殺そうとする。
「終わりね…」
メフィストがそう言うも
――ブゥオオンッ!
「ぐぁぁぁぁ!」
メフィストもブラック・ゾンビ達もフメイの重力攻撃の前には手も足も出ず、その場に叩きのめされてしまう。
「あなたの負けは決定事項…諦めなさイ」
フメイは手を出そうとするが。
「まだですわ!《レッド・ケルベロス》!私もろともでもいいから吹き飛ばしなさい!」
フメイの上空には赤い魔法陣が現れ、赤いケルベロスが落ち、フメイの頭の上で大爆発をする。
「くっ!」
メフィストは吹き飛ばされつつも受け身を取り、体勢を立て直す。
「はぁはぁ…レッド・ケルベロスの爆発は規模こそ威力の割には少し小さめだけど…天界の者でも致命傷になる攻撃力…たかが宇宙人に耐えられはしないはずですわ…」
だが、爆発の煙の中から出てきたのは無傷のフメイだった。
「んなっ!?不意討ちだから避けることは出来なかったはず…! あなたの能力じゃ太刀打ちは…」
フメイはメフィストの首を掴み、持ち上げる。
『なんて力なの…!? 宇宙人という種族を完全にナメていたようですわ…』
「う…あ…」
メフィストは声も上げれずにもがき苦しむ。
「地獄の女王ともあろう者が…この有様ネ…少し期待してた私がバカだったわネ…召喚獣に頼ることしか出来ないだなんテ…」
フメイはさらに締める圧力をあげていく。
「――ッ!!」
メフィストは力を振り絞り、青い魔法陣を展開する。
『《ブルー・ユニコーン》!』
メフィストは心の中でそう言ってブルー・ユニコーンを召喚する。
召喚した瞬間、メフィストの存在は消える。
「存在を隠す能力と言った所かしラ… でも私の重力範囲内から出ることは難しいわヨ?このまま重力で押し潰してあげてもいいんだけド…?」
フメイは辺りの重力を操作出来る範囲で全てを千倍ほど重くする。
「まだ出てこなイ? 押し潰されて死ぬわヨ」
だが、メフィストの声も、体の潰れる音も、何も聞こえない。
『不思議ト…戦闘意欲が無くなって来たわネ…もうやめようかしラ…』
フメイの戦闘意欲は先程とは打って変わってどんどん無くなっていく。――不自然な程に…。
「ゲホッゲホッ… これは…!?」
フメイの口からは紫色血が出る。
『メフィストはまだ生きてル…! これ…毒ネ…さっきのユニコーンで姿をまだ隠されてる…早く見つけないト…! でも…もう戦いたくない…』
フメイは焦りつつも、戦闘意欲が無くなり続ける。自分が毒に侵されてるのが分かっておりながらも、それを放置するようにその場に立ち止まる。
『んふふ…間に合ってよかった…私の《パープル・ヒドラ》…。 さぁ、フメイ。あなたが私を見つけるのが先か…毒であなたが先に倒れるか…勝負ですわ!』
声にならない戦いのゴングが今、二人の間で鳴り響いた――。
第二幕【重力大作戦】
『はぁ…はぁ…戦闘意欲が湧かない上、対象が能力による影響なのかが分からないかラ、私の能力で対処することも出来なイ…』
フメイはとうとう体を横にする。
「そうネ…諦めるとするワ…私じゃ勝てないもノ…」
そう言い、フメイは目を閉じ完全に意識を絶った。
『諦めたの…!? でも…それでいいわ。Aチームはヴィクトニケという新人だけ分からないけど、Aチームの強力な札であるフメイを殺せたのはデカいわ!』
メフィストは心の中で呟き、フメイの心臓の鼓動が止まるまで待機する。
『さぁ…死になさい!』
無音が深淵世界に渡るその瞬間、メフィストの居る範囲どころか、フメイの能力の認識内の深淵世界全域を重力で押し潰す。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
メフィストの透明化は解除され、ブルー・ユニコーンとパープル・ヒドラは形を失い消滅する。
「油断しタ? いや…分かってても、この力には勝てるわけ無いわネ…」
メフィストの前には銀髪のフメイではなく、水色の髪をしたフメイが立っていた。
「なん…で…ですの…あそこからどうやって……!」
水色の髪の少女はメフィストを見て笑う。
「確かニ…フメイなら負けてたワ…でも今の私ハ、"サハル・スキーム"なのヨ」
「サハル…!? フメイじゃ…ないの!?まさか…!」
メフィストは声を絞り出して言う。
「私ハ二重人格なノ…普段凶暴なフメイの理性を保たせてるのは私なのヨ… 私ニなったら能力も少し変わるわネ」
サハルは髪をいじりながらメフィストを見下す。
「しっ…深淵能力を一つの存在が二つも持つって言うの!?」
「いエ、違うワ」
メフィストは目を見開く。
「私ノ深淵能力ハ、正真正銘一つヨ。重力を操る…ただ、性質が変わっただケ」
そう言い、サハルは手を上に掲げる。
「フメイの時ハ、《万物宇宙物語》。重力を操る能力。そして、私ノ能力ハ、《グラビティ・バースト》。フメイの溜めてくれた重力や他の重力を反発させ、解放させる。どっちも本質は全く違うけど…」
メフィストは冷や汗をかく。
「重力の…解放…まさか能力の届く範囲全てを今から消し飛ばせるの!?」
「えェ、もちろン。でも、それはしたくないかラ…あなただけ消し飛ばさせてもらうわネ…」
サハルは手を自分の前に持っていき、指を弾く。
「ガッ――!?」
メフィストの腕が弾け飛び、光となる。
「今の私ハ、あなたヲ完全掌握してるワ。諦めなさい」
だが、メフィストは笑いながら立ち上がる。
「こんな戦いを待ってたのですわ… やり甲斐があるから…!」
メフィストは緑色の魔法陣を展開する。
「《グリーン・マーメイド》!」
メフィストの近くには緑の衣装を来たマーメイドが現れ、メフィストの腕を再生させている。
「へェ…面白いわネ。そろそろあなたも本気を出したら…?」
サハルは建物の陰に隠れながら言う。
「あら…分かる? そうね…そろそろ私も本気を出させていただきますわ…」
メフィストも建物の陰に隠れながら言う。
「――ッ!!」
メフィストは赤の魔法陣を四つ展開し、レッド・ケルベロスを辺りに飛ばす。レッド・ケルベロスは所構わず爆発しまくり、建物を吹き飛ばしていく。
「ハズレヨ…!」
サハルが吹き飛ばされた建物の上から飛んできて、再び指を弾いて今度はメフィストの頭を吹き飛ばす。
だが、近くにいるグリーン・マーメイドにより、それも即座に回復される。
『なるほド…従者が居なくてもあの魔法陣から展開される生物は消えないのネ…』
サハルが地面に着地し、今度はメフィストの辺り一帯を吹き飛ばす。
――ドドドドッドドォ!!
凄まじい爆発音と共に、メフィストは吹き飛ばされるが、ブルー・ユニコーンにより、存在を隠し、反発する力から逃れる。
「あら、さっきまでの威勢の良さはどうしたのかしら!!」
姿の無いメフィストの声が響き、サハルの前には黒い魔法陣が展開され、ブラック・ゾンビが召喚される。
「数の暴力…でも関係ないワ…!」
サハルはブラック・ゾンビの周りの重力を反発させ、吹き飛ばす。
「無駄よ、ブラック・ゾンビの耐久力をナメないでくれるかしら!」
ブラック・ゾンビは斧や剣を用いてサハルに飛びかかる。
サハルの腕は少し切れ、血が出る。
「ん…能力の精度が悪くなった気がするワ…もしかして無能力化の力が入ってるノ?」
「どうかしらね!」
サハルはメフィストが嘲笑いながら答えていることだけ分かった。
「そう、もういいワ…《面白い能力ネ》」
サハルがそう言った瞬間、ブラック・ゾンビやメフィストの近くに居たブルー・ユニコーンは姿を消す。
「んなっ!?なんで…」
メフィストは困惑する。
「あなたの能力の本質を理解し、消させてもらったワ…。 そして私もこの能力を使えるようになっタ…」
そう言い、サハルは赤い魔法陣を展開する。
「《レッド・ケルベロス》。前の醜い地獄の女王を殺して?」
そう言い、サハルから召喚されたレッド・ケルベロスはメフィストに突進する。
「なん…そんな…嫌…!嫌ぁぁぁぁぁ」
――ドォォォンッ!!
メフィストの元で爆発したレッド・ケルベロスは姿を消し、土煙が立つ、そこにメフィストの影は無く、光の粒子だけが残っていた。
「ミッション達成。次の参加者を排除すル。フメイ。戻っていいわヨ」
そう言い、サハルの髪色は銀髪に戻り、フメイの目つきが再び強者を探すように深淵を覗き始めた――。
第三幕【深淵の謎】
――ヴィクトニケはシードの所へ戻り、深淵世界についての話を聞くところだった。
「なぁ、シード。お前のさっきの話に引っかかる所があってな…」
シードは俺の方を振り向く。
「ルールのお話ですか?」
「いや、深淵世界の話だ。お前は何かを隠しているようでならないんだ。 お前は深淵王ですら、深淵世界の本質に近付くことは出来てないと言ったな…だが、なぜお前は深淵世界の性質について詳しく知っていて、本質すらも知っている?」
シードは真顔になり、俺を向く。
「深淵王に教えてもらったまでですよ…その私が語った性質と本質は正確にはそれすら本質ではなくなってるんですよ」
「なんだと…?深淵世界の本質は真実が偽りになるというものではなかったのか?」
「はい、そうです。ですが、既にそう語り、そうある時点でそれすらも偽りになるんですよ」
シードは淡々と語る。
「なんだと…?どういうことだ」
「深淵世界は、真実を偽りにする…それは観測出来なかったり存在しなかったりするものにすら作用します。終わりの後にでさえ…。 ですが、その本質を理解した瞬間にその本質は本質でなくなってしまう…。ですので、本質は本質でも、偽りでしかないんですよ」
「まるで矛盾だな…」
「矛盾ともまた違いますがね…」
シードは息をつきその場に座る。
「ヴィクトニケさん。ゲームに参加しなくていいんですか?」
「少し、戦いたくない奴が四人ほど居てな…」
シードは目を鋭くし答える。
「七央さん、アベルさん、エルダさん、クリスさん、ですね?」
「…そういえば、このゲームは深淵王になるためなら多人数戦も問わないのか?」
俺は話をすり替え、シードに聞く。
「そうですね。ですが、多人数戦をした後、誰の手に深淵王の力を渡すかは決めておかないと結局、戦うことになりますよ」
「なぁ、シード。最後にもう一つ聞きたいのだが…」
俺はシードの居る向きとは逆を向く。
「深淵能力は深淵世界の恐怖から一部力を借りている…そう言った。そして、深淵王になれば、全ての能力を深淵能力化が出来ると…そう言ったな…」
「えぇ、そうですね」
シードは淡々と答える。
「まさか…深淵王の正体は…深淵世界そのも――」
その瞬間、俺の背後からシードが鎌を振り上げ、俺に攻撃を仕掛ける。
俺は光以上の速度で動き、その攻撃を危機一髪で避ける。
「気付いてしまいましたか…まぁ、あなた程の頭脳を持つ人なら気付きますか…私が少々、ヒントを上げすぎてしまったような気もしますがね…」
シードは薄ら笑いし、俺を見る。
「そしてシード…お前は深淵世界から生まれた恐怖の一部…つまり、お前自体がシードという名前を持つ深淵能力でしか無いということだな」
俺はシードを見ながら言う。
「えぇ、そうですよ。シードなんていう姿は性質でしかありません。そして、深淵能力を使っている人は皆、私の一部でもあるというわけです」
「深淵世界を支配、または破壊をすることが深淵王を倒す…ということになるのだな。そして、そうすれば恐怖…つまり深淵能力の源を掌握出来る…」
俺は拳を構え、シードを見据える。
「気付かなくてもいいことをすぐに気付く…あぁ…ほんと…」
シードの目つきが変わる。
「殺したくなるじゃないですか」
シードは一瞬で俺の背後に回り、鎌を振るう。
「ふんっ!!」
俺は右手でシードの鎌の動きを止める。
「んなっ!?なぜ…手だけで…?深淵能力ですか…!」
シードは困惑しつつも後へ下がる。
「いいや? 俺は能力を使わずとも…特技として…体自体がそうあるものとして…人間で言うところの考える力が備わってるようなものとして俺自身がその特技を披露したまでだ」
「要するに能力を使わない能力ですか…」
シードは構わず俺に突撃する。それと同時に、深淵世界の背景がぐにゃりと曲がり、槍となり俺に向かってくる。
「久しぶりに…本気を出すか…」
俺は掌握の右目で深淵世界全体の動きを止める。
「なっ!?なぜ…深淵王!止められた事実を偽りになるはずでは無かったのですか!!」
シードは焦りながら俺を見る。
「深淵王は…俺とお前との戦いをちゃんと見たいようだぞ?」
俺は薄ら笑いしながら深淵世界を見渡す。
「ハハハ…そうですか…。 ならば全力で殺しにかかってあげましょう!!!」
シードは深淵能力で俺の存在起源ごと抹消する。
「ほう…なるほど…な…」
俺は有無を言わさず存在が消滅する。
「ハハハ!どうでしょうか!存在起源…つまり恐怖が無ければヴィクトニケ・アレクレルという存在は二度と!復活することは出来ません!」
シードが高らかに笑うところに俺はシードの肩にポンと手を置く。
「よぉ、随分と嬉しそうだな」
俺は終焉の左目を使い、シードという恐怖そのものを終わらせようとする。
「ガァァァァァァッ!?なぜぇぇぇぇえ!!」
シードはその場で深淵世界の恐怖を取り込みつつ耐えながら悶え苦しむ。
「なぜ…か。そうだな。俺自体が何にも依存してないという本質を持っているからな…。 まぁ確かに、俺は恐怖か生まれてるかもしれない…それは真実だ。 だが!俺自体が恐怖に屈することは二度と!決してない!」
俺は右手に付いてる支配の指輪《邪印》から自身の城であるゴッド・シグナルを展開する。
「ゴッド・シグナルのある世界は、俺の支配下となる。お前や深淵世界…深淵王が俺に逆らうことは出来なくなったぞ。既に俺の敷地内だ」
シードは目を見開いてゴッド・シグナルを見る。
「はぁ…はぁ…はぁ…! 能力を使わずにここまでの力が出せるだなんて…!おかしいです!嘘だぁぁぁ!深淵世界は絶対的で…象徴的なはずなんです…!!」
シードは今にも消えそうになりながらもまだ耐えている。
「シード。俺はさっきお前に言ったはずだぞ。深淵王がこの戦いを許し、見てくれている。俺は許されている側なのだ。まともにやれば俺なんかは到底、深淵王に勝てやしない。たとえ能力ありでもな」
シードは青ざめた顔をしながら足が崩れていく。
「ハハハ…消滅したところでどうせまた恐怖へと還元されますよ…」
「還元させてもらえるかも、深淵世界そのものである深淵王の決断に依存するがな…」
俺はシードの不安を煽りながら喋る。
「ヴィクトニケさん。あなたは深淵王になるに相応しい…そう深淵王が言っています。他の皆さんが来る前に、早く深淵王になることを勧めますよ」
シードの体はとうとう半分消えている状態となった。
「そうだな…だが、俺はもう少しこの混沌を眺めさせてもらうぞ。ある四人を除いてな」
俺はシードに笑いかける。
「はぁ…好きにしてください…深淵王に命令するほどの権力は私には無いです… それでは、また会えたら会えましょう…深淵王ヴィクトニケ・アレクレル」
そう言い、シードは完全に消滅した。いや、消滅したということすら、終焉を迎えた。
「と、言うわけなのだが…深淵王。お前はどう思う?俺が深淵世界になる権利はあると思うか?」
俺は辺りを見ながら深淵王に語りかける。
すると、黒いローブを纏った者が俺の前に現れ、急に語り出す。
「シードの認めた者というのは少なくてな…見た目に反し、頑固で…認めない性格だった…お主なら…深淵王になる資格があるだろう…」
黒いローブの者…いや、深淵王が俺にそう言う。
「だが、一つだけ言いたいことがある…」
深淵王は俺に近付き言う。
「深淵世界の真実を…全貌を見ようとするのは無謀なことだ…ワシですら…深淵世界の全てを手に入れ、最強になったとしても…それは深淵世界自体がそうなったら面白そうだなと思って許されてるだけだ…。 深淵世界に否定された時のことを…考えても尚、深淵世界に…深淵王になりたいか? 大切な仲間と出会えなくなる覚悟はあるか?」
「それは無理だな」
俺は深淵王にそう言う。深淵王はポカンとした様子のようだ。
「事実的な深淵王ではなく…偽りの形としての深淵王になっておこう。 深淵王は深淵王だが、それ自体が性質でも本質でも無いように…」
深淵王は目を見開いて俺を見る。
「まさか…!深淵世界そのものを取り込んだというのか!」
「あぁ、そうだ。だが、深淵世界になってみて分かる。俺自身が俺を把握出来てないようだ」
俺は自身の底知れぬ深淵に少し驚いた。
「そうだ…」
俺はクリス、エルダ、七央、アルダを俺の前に召喚する。
「えっ?なに?あれ!ヴィクトニケじゃん!どうしたの?」
俺はシードとのことや深淵王とのことを話す。
「そうか…ヴィクトニケが深淵王に…か…」
エルダは言う。
「ねぇ、ヴィクトニケは深淵王になったけど…これからはどうするの?深淵王になっての目的はあるの?」
クリスが言う。
「確かに…ヴィクトニケは深淵王に別に興味無いんでしょ?もうデルゲ・セントラルに戻っていいと思うんだけど…」
七央は困惑しつつ俺を見る。
「俺は深淵世界の深淵を覗く旅に出る…お前達も着いてきてくれ。もしかしたら深淵王の覗けない深淵には俺より強いやつが居るかもしれん」
「俺は別にいいけど。下界の皆には心配かけるんじゃねぇの?」
アベルが俺に言う。
「大丈夫だろう。言わなければいいだけだ」
俺は深淵世界を見る。
「そうだな…少し面白いものが見たい…残りの参加者達の戦いを少し見ないか?」
「えっ?それって殺し合いを見て楽しむみたいなもんじゃ…」
七央は焦りながら言う。
「まだ分からないことがある…シードがなんで他の参加者達は呼んだのか…なぜ宇宙人や人間などがここに来られているのか…それを見たい」
俺は深淵世界を見ながらそう言った――
第四幕【お笑いと運命】
深淵世界の地――そこにはスーツ姿の男が1人居た。
「うわ!ピーマン開いたら芋虫かと思ったらすでに中で蛾になってたわー!! ……う〜んなんか違うな…」
スーツ姿の男は一人で何かをしている様子だった。
「こんなところで騒いでたら…自殺行為のようなものですよ?Bチームの漫才面白郎さん…」
面白郎の前には赤と青の髪色をした男が来ていた。
「おっそういうアンタは小坊の頃一緒にセミ取りしてたよっちゃんやな!いや誰やねーん!!」
深淵世界でも、その場の空気が凍るような雰囲気が流れた。
「意味の分からないことを言わないでください?私はEチームのハイド・シークです。覚えてください」
ハイドは面白郎の前に来て一言呟く。
「《デスティニー・ルリアン》。勝利の因果を確定させた。あんたはもう勝てない」
ハイドはそう言い、面白郎に剣を振るう。
その剣は面白郎を後へ確かに吹き飛ばした。
「まぁ…俺の勝ちは必然的だな…」
だが、面白郎は瓦礫の中から無傷の状態で出てくる。
「おいおい!いきなりなにすんだよ!《俺がボケてる途中だろーが!》」
「!?!?」
ハイドは目を見開いて無傷の面白郎を見ながら後退りする。
『なんのカラクリだ…?いや…能力しかないか…にてもだろう!どんな能力を…』
「おーい!《俺とお前は今からコンビだ!》」
「んな!まさか…!言葉を発することで発動するタイプの能力か!!」
その瞬間、ハイドの首には白い紐が巻かれ、面白郎の首には黒の紐が巻かれる。そして、深淵世界はお笑いの会場のような場所になっていた。なぜか観客も居るようだ。
「《お前ボケ役な!》 なぁなぁハイドはん!昨日な、鍋をしたんやけど、具材が…豆腐、お肉、キノコ…あと一つはなんやったと思う?」
面白郎が聞くとハイドは強制的に口を開いてしまう。
「白菜とかじゃないの?」
『な…僕は何を言っているんだ…!』
「白菜やったんやけど…俺、"歯臭い"けん"白菜"食べられへんかったねん!!」
「ぐぅほっ!? いやダジャレじゃねーか!」
観客席からは笑い声が上がる。
『なんでだ…!コイツのネタに乗ったら…僕の体にダメージが…!ていうか、面白くない!しかもコイツの能力発動中は僕の能力が使えない…!』
ハイドは焦っている気持ちを出せないまま面白郎との漫才が続く。
「ハイドはんってスマホ使っとる?」
面白郎がハイドに立て続けに質問する。
「使ってるよ。面白郎も使ってるでしょ?」
「おう!使っとるで!でもな…ワイのスマホなんかふにゃふにゃしとって…画面も点かへんねん!」
「えー!ちょ見せて見せて…」
「ほら…これ!おっかしいねんなぁ…」
そう言い面白郎がポケットから取り出したのは、はんぺんだった。
「それ、スマホじゃないわ!四角だけども!」
ハイドが面白郎にツッコむ。観客席からはまた笑いが漏れる。
『くそ…まだ苦しいな…というか今のは普通に面白かったな…』
「今度はワイがツッコミやるからハイドはんボケてな!」
面白郎がハイドの背中を叩く。有無を言わさず、ハイドは頷いてしまう。
「じゃあ…金が好きなヒーローのモノマネします!」
ハイドがそう言うと観客席は少しクスクスしながらも静かになる。
「うわー!強盗や!ヒーロー助けてぇ!」
面白郎は銀行員の格好になり、目の前には強盗の幻影が現れる。
「金を出せー!」
強盗はナイフを持って面白郎に突きつける。
「そこまでだ!」
ハイドはヒーローのマントを付けた状態で現れる。
「おらぁ!」
ハイドは強盗を殴って倒し、面白郎の前に来る。
「助けたぜ!金ちょうだい!」
ハイドは面白郎の前に手を出す。
「いや、こんなヒーロー嫌なんやけどぉ! まぁ…ええですよ…いくらですか?」
面白郎はハイドに聞く。
「六百億円!!」
ハイドが言う。
「高すぎるわ!」
面白郎はそれにツッコむ。
「人の命なんかよりは安いだろ…?常に金のあんぜ…人の安全を守ってんだから!」
「今とんでもないこと言おうとしたなぁ!?」
ハイドと面白郎はコントを続ける。
観客席はギャハハと笑い声が響く。
「えー…チームBEでしたー!」
そう言い、お笑い会場は消え、ハイドはその場に倒れる。
「くそ…!こんなふざけた能力にー!!」
ハイドはそう言い残し、爆散した。
「あら?ハイドはんは?まぁええか!おもろかったー!」
そう言い、面白郎はまた深淵世界でネタを考えながら彷徨い始めた――。
第五幕【平和を目指す者、恐怖を目指す者】
犬次郎が深淵世界を歩き回っていた。
「はぁ…氏走さんが死んでしまった…だから戦いは嫌いなんだけどなぁ…」
犬次郎が肩をすくめながら歩いていると前から骸骨の姿をした者が現れた。
「Aチームの夢幻犬次郎だな…お前を殺させてもらう」
「あっあなたはCチームのガクレオンですよね…あなたも戦うんですか…?」
犬次郎は恐る恐るガクレオンに聞く。
「あぁ…当たり前だ…深淵王になるのを邪魔するってんなら…ここで殺させてもらう!」
ガクレオンは大剣を取り出し、犬次郎に振りかぶる。
だが、ガクレオンの剣は突如出てきた木の根に阻まれる。
「あぁ?なんだこれ…」
ガクレオンが辺りを見回すと森が広がっており、鳥の囀り(さえずり)も響くような幻想的な森だった。
「ここで争うのはよくないよ…」
犬次郎は森の真ん中にある木のテーブルに座り、紅茶を飲みながらガクレオンに話しかける。
「いやいやいや、そんなこと言われたって知らねーよ」
ガクレオンが笑いながら再び大剣を犬次郎に向ける。
「君は…悩みとか無いのかい?じっくり話そうよ」
犬次郎はもう一つの椅子を指差し、ガクレオンに座るよう誘導する。
「しょうがねぇな…」
『あれっ…なんか…コイツの言う事聞かなきゃいけねぇ気がする…』
ガクレオンはただその椅子に座る。
「悩み…とかはねぇけど。目標ならあるぜ!俺は深淵王になって!全ての世界や次元…時間軸をも俺のもんにするんだ!」
ガクレオンは犬次郎に話す。
「へー!全てを手に入れた君は何をしたいの?」
犬次郎はガクレオンに聞く。
「俺が自由な世界にする!そうすれば飯も食べ放題なんだぜ!お前も気にならねぇか!?」
ガクレオンは身を乗り出して犬次郎に聞く。
「ご飯食べ放題の世界…!夢があるねー!流石に全てを支配してまでは大丈夫だけど…僕はお寿司でも食べたいなぁ」
犬次郎は笑顔になりガクレオンと話す。
「寿司か!いいなぁ!俺はマグロ好きだぜぇ?」
ガクレオンも笑顔になって話す。
「ちなみに、君の力なら地球くらいならすぐに支配してお寿司なんていくらでも食べられそうだけど…なんでわざわざ支配するの?」
「それはだな…食べ物の数は有限だろ?なら、全ての次元や世界や時間軸を俺のもんにすれば無限に食えるだろ!」
「確かに!それだけ食べれたら満足だねー!」
犬次郎は笑って答える。
「じゃあ犬次郎は深淵王になって何をしたいんだ?このゲームに参加したってことは深淵王になってやりたいことがあるんだろ?」
ガクレオンは犬次郎に聞く。
「僕は…全てを平和にしたい。それだけかな」
ガクレオンはポカンとする。
「平和に…か」
「そう、例えば君みたいな危険な思想を持つ人が居なくなったら…なぁなんて」
その言葉にガクレオンは再び戦闘意欲を取り戻す。
「だあっ! な…喋りすぎた…コイツ…なんなんだ…」
ガクレオンは再び大剣を構え、犬次郎に向ける。
「無駄かな。僕のこの世界に入った時点で…君は負けてるんだから」
犬次郎がそう言うとガクレオンの持つ剣はガクレオンの心臓へと向けられる。
「な…?なにが…!おい!やめろ!」
ガクレオンの持つ剣はそのままガクレオンの体をバラバラに斬り刻む。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
ガクレオンの体を保たせる骨がバラバラになり、ガクレオンの魂の反応はここで途絶えた。
「はぁ…だから…深淵王になりたいんだ…氏走さんのためにも…僕が…」
犬次郎は拳を握り、いつもの穏やかな雰囲気は重い空気になっていた。
戦いの様子を遠隔で見ていた俺は思わず笑ってしまう。
「ふはは…どいつも面白い能力を持つな」
「面白郎さん、初めて会った時はびっくりしたけど…強いしほんとに面白いんだね…」
七央は苦笑いしつつ言う。
「面白郎さんはデルゲ・セントラルの人かな…なんか…野郎くんの親戚みたいな名前だけど…」
クリスが言う。
「ふははっ!確かにそうかもな! さて…後、俺が見たいのは…黒崎緋理と…フメイ・スキーム…。奴らの戦いを観てみたいものだな…」
俺は誰かが再び戦うのを待ちながら底の見えない深淵世界を見渡した――。
久しぶりのヴィクトニケ能力解説ー!
《深淵支配》
本質/性質=真実/偽り
本質、性質、名詞、概念、存在、ある、ない、は恐怖の産物である。
全ての本質が偽りであり、真実である。全ての性質が本質を語るための真実の偽りである。
ヴィクトニケに依存しない、依存しているものはありとあらゆる表現が出来ない。表現出来ないものこそがヴィクトニケの性質であり、真実である。真実がそうある以上、変えることも出来ないし、そうでなかったこともない。それだけが真実としてあるだけ。真実か偽りかも無く、それだけが正解であり、不正解である。誰がなにを語ろうとも、そうなり得ることのない話。この性質すらも、ヴィクトニケにとっては性質ともいえるものですら無いのだ。
本質はありとあらゆる全ての名詞の無限の深淵であり、恐怖である。だが、この本質は本質として語られるものでない。
無限の深淵とは、ありとあらゆる全てが、見えず、届かない。そうあったこと…そうなり得たことすら、深淵には届かない。無限を終わらせることも出来ない。終わらせれる場合があるとして、全ての本質である以上、深淵が終われば全ても終わる。深淵の中の恐怖は、そうなるための道である。正解も不正解も、そうあるための道でしかない。恐怖は、全てを産み、全てを吐き出し、写し、ただの恐怖でしかないようになる。恐怖というのも、深淵の深き本質と呼べるようなものでしかないため、本来は恐怖でもないのかもしれない。全ての本質は恐怖であり、恐怖でないかもしれない。ただ、語れないから恐怖という表現にしかなり得ないものである。
深淵の開示がされない限り、ヴィクトニケは偽りと真実を自由自在に扱う。
次回の投稿は2月22日




