夜の幕開け
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第一幕【混沌】
デルゲ・セントラル学園の廊下――
そこには3人の生徒と1人の教師が佇んでいた。
「ゾンビを見つけたら、躊躇なく殺す…それでいいね?」
結弦は全員に話しかける。
「えぇ、抵抗はあるけど、ヴィクトニケか天界の人達が今度なんとかしてくれるはず…」
アスガはアースから貰った《エイクルシス》を強く握っていつでもゾンビが来てもいいように備える。
「私がサポートする。無羽飛、結弦、アスガは攻撃に徹底してくれ」
零矢は周りをチラチラ見ながら言う。
――バリィ!
窓ガラスが割れ、そこから10体のゾンビが学校に雪崩れてくる。
「ぐ…ぐぅうおおお!」
1体のゾンビが手から太陽を放つ。小規模ではあるが、当たれば本当に太陽が当たったのと同じレベルの威力になるだろう。
「《ゴッド・ボイス》!太陽よ消え去れ!」
その瞬間、放たれた太陽は零矢に当たる直前で消滅した。
「今だ!無羽飛!」
無羽飛は零矢をジャンプで飛び越えてゾンビ達を上から見下ろす。
「《シャッター・ショット》!」
無羽飛が手の枠でゾンビを囲い、枠内の空間を別の空間へと移す。
「これで、もう来ることはないはずだ」
すると、前から青髪のやけに顔立ちのいいゾンビが前から歩いてきた。
「う…ぅおぉ…☆イケ…メンだ…ぞ」
空兎がゾンビ化して零矢達の前に立ち塞がった。
「なんか…ちょっと自我残ってない…?」
アスガは冷静にツッコむ。
「空兎には悪いけど、ちょっと退いてもらおう」
結弦は《カイゼル・リボルバー》を構え、銃口をゾンビ化した空兎に向ける。
「くらえ!」
閃光のような…いや、実際に亜光速以上の速度で弾が飛び出たのだ。その衝撃は、学園を突き抜けて宇宙に光の橋をかけた――
――ドォォォッゴォォォ!!
ものすごい衝撃音と共に、空兎どころか校舎とデルゲ・セントラルを一部削った。
「い…威力がヤバいと思ってなるべく上の方に打ったけど…想像以上だったな」
結弦は《カイゼル・リボルバー》を見つめて冷や汗をかく。
「うん…これは措定以上の敵が来た時だけにしよう」
そう言って結弦はポケットに《カイゼル・リボルバー》をしまう。
「でも、いいの?ゾンビは不死身なのよ。さっきみたいに体ごと残さないレベルで撃ち抜かないと再生したりするんじゃ?」
アスガは結弦のポケットを見つめる。
「地球が壊れる方がまずいからね…それに、不死身細胞を破壊する弾丸も持ってるし、大丈夫だよ」
結弦は自身のポケットを抑えて言う。
「俺の《シャッター・ショット》もあるからな」
無羽飛は自信満々に語る。
「それも…そうね! でも、一つ厄介なのは…」
アスガは半壊した廊下から夜の空を見上げる。
「野郎よね…」
瞬間、結弦達の顔は曇る。
「いや、だが…蒼い夜の影響下のゾンビは頭がいいんだろう? なら野郎の《解釈理解》はそこまで強くないはずだ。むしろ、弱体化してるまである」
無羽飛は言う。
「野郎のことだし、頭良くなっても元がなぁ…」
結弦は苦笑いしつつ野郎の顔を思い出す。
「まぁそもそも野郎と遭遇しない可能性もあるわけだしな」
零矢は周りを見つつ言う。
「まだ我の支配下に置かれていない馬鹿が居たか…」
空から低い声が響く。
「ッ…! 無羽飛!」
「《シャッター・ショッ――」
無羽飛が空を振り向うとしたその瞬間、無羽飛の頸動脈は目に見えない速さで切り裂かれる。
「あっ…ぐ…」
無羽飛はその場に倒れる。
「くひひひ…空間支配はどうしようも出来ないからここで狩れたのはデカかったな…」
無羽飛のそばに居たのは、血色の無い肌に青メッシュの入った白髮、青の目を持つ黒いマントに身を包んだ男性――
「お前は…!」
「"エデン"――!」
第二幕【楽園を築きし者】
「ほう、我が名を知るか…人間」
エデンは不敵な笑みを浮かべて言う。
「名乗ろう!我が名は"エデン・メーデイル"! 世界を我の物へとし、楽園を築く者だ…」
エデンは羽を展開して飛び立ち、青い月をバッグに語る。
「中々ゾンビにならん奴らの気配を感じ…来てみればかなりの実力者共のようだな…人間基準の話ではあるが…」
エデンは自身の長い爪をいじりつつ喋る。
「くっ…無羽飛…」
結弦とアスガは倒れた無羽飛を見て息が止まりかける。
「校長!はやく無羽飛を…!」
「あぁ…《ゴッド・ボイス》!無羽飛の頸動脈を戻せ!」
だが、無羽飛の頸動脈は戻る気配が無い。
「んな…! そん…な…」
零矢は啞然とする。
「我の能力による影響でもうその者が復活することはない…」
エデンは淡々と語る。
「ふざけるな…《ゴッド・ボイ――」
零矢は《ゴッド・ボイス》を発動しようとするが、その言葉は途中で途切れる。
「だ…が…ぁぁ…」
零矢はその場に座り込む。
「ちょ…校長!?大丈夫なの!」
アスガが零矢の口の中を見ると舌が腐り、壊死しているようだった。
「そんな…」
アスガの顔は青くなる。
「アスガ、まだ絶望するには早いよ…!」
結弦は自身のリボルバーの弾をエデンに向けて放つ。
「つまらんことをするな…人間は」
その瞬間、地中からゾンビ化した野郎がエデンの前に飛び出てその弾はエデンではなく、野郎に命中した。
「そんなっ…」
結弦は後悔したが遅く、野郎はその場に蹲る。
結弦の弾は不死身も殺す弾。野郎は起き上がることなく、そのままだ。
「フハハハ!詰みだ!!」
エデンは加速して結弦に突っ込む。
――ドガァア!!
「ぐうぉ!?」
瞬間、エデンの体が吹き飛ぶ。
「な…んだ…?」
エデンの体のパーツが所々に散らばる。
「《エンド・クラッシュ》…あなたの飛行速度で生まれたエネルギーを倍にして爆発させたわ」
アスガが結弦の前に立ちエデンを見下す。
「ぐぅ……ふふふ…だから…なんだ?」
エデンは首だけになりつつも喋る。
その瞬間、エデンの撒き散らされた血から血の槍が飛び出て、アスガの体を滅多刺しにしようとする。
「させない…!」
結弦は神速の速さで銃を抜き、複数の血の槍がアスガの体に到達する前に全て砕く。
「それも意味が――」
その瞬間、ドォオッッ!!という激しい爆発がエデンの体から巻き起こる。
「うぐぅおおおあああおおお」
血も蒸発し、エデンの体のパーツも吹き飛ぶ。
エデンの体のパーツも残りは首だけになった。
「な…ぜ…」
エデンはアスガ達を見上げる。
「ありがとう結弦。あなたの弾丸エネルギーのお陰よ」
アスガは結弦に目配せをしつつ言う。
「間に合ってよかったよ…人生で一番早く銃を抜いたかもね」
結弦は銃をエデンの前に構える。
「さぁ…終わりだ!」
結弦の銃はエデンに放たれる。
「頭だけでも残したのが間違いだったな…!」
――ドズォッ!!
「う…あ…」
結弦の心臓から槍状の血が飛び出る。
「結弦…?」
アスガは倒れる結弦を啞然と眺める。
「貴様もだ!!」
アスガの体中の血が穴という穴から噴き出る。
「カ…ハッ…!」
アスガもその場に倒れる。
アスガから出た血をエデンは被り、エデンの体は一瞬で回復する。
「面倒くさい相手だったが…所詮は地上…か」
エデンは喋れない零矢を見据える。
「そうそう、お前も殺しておかなければな…本当はゾンビにしてやってもいいのだが…お前ほどの能力者はなにをしでかすか分からん…殺す!」
――ガシュッ!
「な…に…?」
エデンの心臓部分には鎌が突き刺さっていた。
「まさか…お前ほどの力を持つ者の気配に気付かないとでも?」
その鎌を突き刺した人物はハデスだった。
「エデン…ようやっと会えたな」
ハデスは倒れ込んだエデンを見下ろしながら喋る。
「はぁ…はぁ…く…そ…デルゲ・セントラル全体は我の支配下なんだぞ……なんで入ってこれる…」
「イムホテプが解除する魔法を作ってくれたからな。少し…時間がかかったが」
エデンが辺りを見回すと徐々に蒼い夜は晴れ、本来来るはずだった朝の光がエデンを照らす。
「やめ…ろ…!やめろおおおおおおお!!!」
周りのゾンビは太陽の放射線により元の人間へと戻っていく。
「じゃあな」
ハデスは死者の魂を操る能力を使い、元々死者であるエデンの体と魂ごと斬り裂く。
「わ…れの……楽園…」
エデンの着ていた黒いマントだけがその場に残され、エデンは黒い光となり消滅した――
第三幕【残された楽園】
「はーあ…結弦達治さねぇとな… トート!出番だぜ」
ハデスは自身の後ろに居たトートに声をかける。
「別にわざわざあなたが来る必要なんて無かったですよ。私だけで十分でしたわ…」
トートは喋りながら無羽飛、結弦、野郎、アスガ、零矢の傷。そして学園を、世界を書き換えることにより怪我や破壊された学園の事実を無かったことにしていく。
「ヴィクトニケ様の友を見捨てるわけには行かねぇ。これは誰が行くか行かないかじゃなく、責任の問題なんだ」
ハデスはトートの書き換えを見ながら言う。
「あなたらしくない台詞ですね…頭でも打ったんですか?」
トートは薄笑いしつつ横目にハデスを見る。
「ヴィクトニケ様の教えのお陰だよ。俺達やヴィクトニケ様にとっての"楽園"はデルゲ・セントラルと天界が平和になることだろう?」
「それもそうですわね」
零矢は立ち上がりトートとハデスに駆け寄る。
「す…すまない。またつまらないことで呼ばせてしまったな…俺も居ながら…」
零矢は頭を深々と下げる。
「バーカ。勝てるわけもねぇんだから戦うなよ。エデンは俺が相性良かったから倒せただけで天界でも名を馳せるほどの実力者なんだぜ? 本当は数百年の時点で殺すべきだった…天界の法は甘いんだよ…」
「はっ…!エデンは…どうなったの…? あれ…?ハデスさん達…?」
アスガ、結弦、野郎、無羽飛は目を覚める。
「どうやら…ハデスさん達がなんとかしてくれたみたいだね…」
結弦は朝の光を見つつ言う。
「無理はすんなよ全く…今回はエデンの気配にすぐ気付けたから良かったけど…気付いてなかったらどうするつもりだったんだ?」
ハデスは少し呆れつつも心配する。
「あれ?肝試しはどうなったんだ?なんかすげぇ肌の色のおっさんに噛まれたところから記憶ねぇんだけどよ」
野郎は朝の景色に目をパチパチさせる。
「んー…あー…野郎、僕達はそもそも学校でお泊り会だったよ。夢でも見てたんじゃないのかな?」
結弦は咄嗟の機転で野郎に説明する。
「夢…まぁ記憶も曖昧だし多分夢なんだな!」
野郎は笑いながら言う。
「相変わらずね…」
アスガはじーっと野郎を見つめる。
「まぁ、野郎だからな…」
無羽飛も野郎を見つめる。
「まぁまた困ったことがありゃ言えよ。そもそも天界からの客がもう来ねぇことを祈るしかねぇが…」
ハデスは頭を掻きながら言う。
「ヴィクトニケ様が居なくとも、私達だけでなんとか出来ますわ」
イムホテプは天界へのゲートを開きつつ喋る。
「じゃあなー」
ハデスとイムホテプはゲートに入り、天界へと帰っていった。
「ヴィクトニケが居なくても…ね…」
結弦は遠い目をして言う。
「ヴィクトニケにいつも頼ってばっかりだったものね…いつか私達だけで天界の猛者を倒せる様にしていきましょ」
その場に残っていた全員が明るい空を見上げた――
第四幕【黄金の時間龍と遅刻魔】
――深淵世界、ヴィクトニケ達ことAチームは固まって歩いていた。
「なぁ、フメイ…と言ったか?深淵世界にはいつ頃来たんだ?」
俺はフメイという銀髪の少女に声をかける。どうやら宇宙人のようだ。クリスを知っているとすごく規模の小さい種族に聞こえるが…
「私ハ…シードから『深淵世界に来ないか』って招待されテ、現実時間だと3週間前くらいに来たノ。全員そうだと思うのだけド…あなたは違うノ?」
「ん…?招待? 普通はそうやって深淵世界に来るのか?」
俺はフメイに問い直す。
「あなたは特別な方法で来たのネ。私はシードに招待される以外の方法を知らないワ」
フメイは無表情で答える。
「そうか…ならいい…」
すると俺の横でその場で走っている男性が居た。
「うおお、早く深淵世界の王ってのになりてーぜ!辿り着くのに遅刻したらなれねぇからな!」
「そんなに急がなくても大丈夫だろう。もしかしたら見つけるのにだって数百年はかかるかも知れんぞ」
男性は驚いた表情で俺を見る。
「えーっ!それはやばい!先にじっちゃんになって死んじまうぞ!」
男性は焦りながらさらにその場走りのスピードを上げる。
「落ち着いて…氏走さん…どうやらシードさんが僕達の寿命を無限にしてくれてるみたいだよ」
犬次郎が氏走という男に言う。
「そうなのか!気付かなかった…ありがとう少年!」
氏走は犬次郎にグッドサインを出す。
「いえいえ、それと僕の名前は犬次郎です…よろしく」
「おう!よろしくー!ヴィクトニケくんとフメイちゃんって子もよろしく!」
氏走は軽いノリで話す。
「あぁ」
俺は軽く返事をする。
「…」
フメイは目も合わせないようだ。
「そろそろ俺達で別行動をしないか?固まって行動すると効率が悪い」
俺は七央達と戦いたくない所を見られたくないっていう理由もあるのだが。
「手っ取り早く見つけるならそっちの方がいいだろうな! じゃあ、早速行きま――』
その時、ドォォォンという音を鳴らして俺達の前に黄色い髪に黄金の鎧、赤いマントを羽織った男が現れる。
「すまないが、倒させてもらう」
男は剣を振るう。だが間一髪で俺達はその攻撃を避ける。
「止まるかよ!俺の勇姿を見届けてくれ!」
氏走が男に突進する。
「実力も見たかったところだ…拝見させてもらうぞ」
俺と犬次郎とフメイは氏走の戦闘を後ろで見る。
「あの男は確か未来ライトだったか?」
俺は神眼でライトの能力を見抜く。
「なるほど…"時間系能力"を深淵能力化させたのか」
俺は呟く。
「見えるの?」
犬次郎が俺に聞く。
「まぁな。そういう体だ」
氏走はライトが攻撃を仕掛けるより先にライトに突進する。
「うおおお!!走らないと…!」
その瞬間、氏走はソニックブームを起こしながらライトへと突進する。
「《ワールド・ストップ》」
ライトがそう言うとこの場の時の流れが止まる。
「深淵世界が時という存在があることを認め…その時を止めることを許してくれている…俺達は深淵世界に試されている側なんだ…!」
ライトはそう言って剣を止まった氏走に向けて振るう。
「ゴールド・スラッシ――」
「遅刻だから関係ねぇよ!!」
すると止まった時の中、氏走はライトに向かって再び突撃する。その衝撃でライトは後ろへふっ飛ばされる。
「ぐは…なんで…」
ライトは咳き込みながら立ち上がる。
「氏走はあらゆる概念を乗り越える力…か?」
俺は氏走の能力を神眼で見抜く。
「あの走力は自分自身の力らしいよ」
犬次郎が俺の耳元で言う。
「はは…走力だけでソニックブームを起こすだなんて面白い奴だな」
まぁ光を越えた速度で走る俺が言えたことでもないし、野郎が神速を出せる時点で今更驚くことでもないが。
「くらえええ!ダァァァッシュ!」
氏走は瞬きをする間にライトに一瞬で到達して突っ込む。
「《タイム・スキップ》!」
ライトは時間を飛ばし、氏走の後ろへと回り込む。
「《ゴールド・シャワーカッター》!」
ライトは後ろから雨のように黄金の光の斬撃を氏走に浴びせる。
「遅刻だから関係ねぇよ!!」
氏走は一瞬で後ろを振り向き、ライトの剣捌きを押しのけて再びライトを数十m吹き飛ばす。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
ライトはふらふらしつつも再び起き上がる。
「そろそろ…勝負が見えてきたな」
俺はライトを見ながら呟く。
「これは氏走さんが勝ちそうだね…」
犬次郎がそう言う。
「いや、逆だ。ライトが勝つだろう」
俺はそう答える。
「え?なんで?」
犬次郎は驚いた表情で言う。
「ライトはまだ切り札を隠し持っている…それだけじゃない。氏走はライトの持つ時間支配に自分の未来を乗り越えることが出来ない」
すると、ライトは自身の剣を金の鞘へと納められる。
「攻撃しないのか?お前の動き、遅刻しまくりだもんな。もう俺との実力差に遅刻してるんじゃないの〜?」
だが、ライトの金の鞘はみるみる巨大化していってそれは大剣へと変化した。さらには眩しいくらいの黄金のオーラを纏っている。
「まっ眩しい…」
氏走は目を瞑る。
「正直、ここまで苦戦するとは思ってなかったよ。氏走。俺はお前をナメていたようだ…。本気をぶつけさせてもらうぞ…!」
ライトは大剣を構え、氏走へと距離を一気に詰める。
「くらええ!」
ライトは剣を氏走へと振るう。
「うおおお!!感だぁぁぁ!」
「《ゴールデン・ドラゴン・ブレスブレイカー》!」
ライトの大剣には数千mはある巨大な黄金龍が姿を顕現し宿り、金のブレスを吐きながら黄金龍と大剣が同時に氏走に向けて光速で放たれる。
「止まってたまるかぁぁぁ!《エンドレス・ダッシュ》!!!」
光の柱となり氏走は黄金龍と正面衝突する。
その衝撃は俺達を吹き飛ばす程に強力だった。
「犬次郎。俺に捕まってろ」
吹き飛ばされそうな犬次郎を俺が抱える。
爆発が収まった後、二人の影が煙の中から浮かんでくる。
「原型は残ってるようだな…」
そして完全に煙が晴れた頃、そこに立っていたのは――
「はぁ…はぁ…氏走。楽しかったよ…確かに、俺は置いていかれていた…遅刻していた側だったかもしれんな…」
ライトは立ったまま胸に剣が突き刺さった氏走に喋りかける。
「ごはっ…はは…やるなぁ…やっぱり…時間が止められちゃ…遅刻もくそも無いってか…」
氏走は俺達に顔を向けて喋る。
「ヴィクトニケくん…犬次郎くん…フメイちゃん…深淵王の実力に…遅刻せん…よう…にな…応援してる…ぜ…」
そう言い、氏走はその場で倒れる。
だが、俺はすぐに異変に気付いた。
ライトのマントに隠れていて分かりにくかったが、ライトの右半身はほぼ完全に欠損していたのだ。
「…!」
よく見ればライトの目には既に光が宿っておらず、薄ら笑いしている表情をしているまま既に命を落としていた。
「犬次郎、フメイ。アイツの期待に応えるためにも…別行動でさっさと深淵王を殺すぞ」
犬次郎とフメイは特に何を言うわけでもなく、その場から立ち去る。
「氏走…ライト…久しぶりに楽しく、気持ちいい戦いを見せてもらったぞ。感謝する」
俺は二人の死体に敬礼し、その場から離れた――
第五幕【エンジェルとデビルと闇の支配】
深淵世界の地、二人がその場で静かに睨み合っていた。
「んー…君…Dチームの黒崎緋理だね。僕はEチームのナラティブ。こんにちは。そしてさようなら…!」
ナラティブが緋理に攻撃を仕掛ける。
「《デビル・インパクト》!君の概念を消させてもらうよ!」
悪魔の手が幻影となりナラティブの手に宿り、緋理を叩き潰す。
「ふふふ――がっ!?」
ナラティブの横からは消えたはずの緋理が横から蹴りを繰り出し、ナラティブの顔へとヒットさせた。
「隠れた…?《Mr.エンジェル》!カモン!」
するとナラティブの横から天使のぬいぐるみが現れ、ナラティブに話をする。
「アイツの能力は闇を操る能力だよ…!影を使ったりもしてくるから気を付けて!」
Mr.エンジェルはナラティブにアドバイスをする。
「なるほど…そういう能力…ね…」
緋理はナラティブを見据えつつゆっくりと歩む。
「君、喋らなさ過ぎじゃない…?戦闘を楽しむって気はないの〜?」
ナラティブが緋理に話しかけるが、依然として緋理は無口だ。
「あっそ…面倒くさい人と能力、だーい嫌い…」
ナラティブは右手に光の弓矢を生成する。
「《エンジェル・ショット》!」
ナラティブの背後にも同様の光の弓矢が十本出現し、緋理に放たれる。
「…!」
緋理は矢を全てを弾き、一本も当たらずに回避する。
「くそっ…ならこれはどうだ!」
ナラティブはデカい闇の鎌を取り出し、それを緋理に振るう。
「………」
緋理は振られる鎌を全て避け、ナラティブの間合いに入る。
「《地獄百裂拳》」
淡々とした声で緋理が声を発したと思えば、ナラティブには10億発のパンチが全身に浴びせられる。
「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ナラティブは地面にめり込み、既に左手を失う状態となっていた。
「はぁ…はぁ…ふざけ――」
ナラティブが文句を言う間も無く、緋理はナラティブの影を伝ってナラティブの後ろへ移動し、闇の剣を振るう。
「ぐはぁあっ…」
ナラティブは青く燃え盛る闇の剣で背中に致命傷を負う。
「もう…許さない…!!」
ナラティブは右手に全力を込め、緋理に攻撃を放つ。
「《HEAVEN HELL END》!」
この場の全ての時間が逆行し、全てを廃れさせようとする。
「はっはははー!こうなれば僕の勝ち――」
ナラティブは言い切る前に緋理に体を真っ二つにされ、上半身が地面にボトッと音を立てて崩れる。
「………」
緋理はナラティブの死体をゴミを見るような目で見てその場から立ち去る。
だが、その姿を影から見ていた男が緋理の前に顔を出す。
「よぉ。このゲームに参加した理由はなんだ?俺は別に深淵王になりたいわけじゃ無いんだが…目的くらいは聞かせてくれないか」
その男はエルダ――。
エルダは緋理にそう聞いた。
すると、緋理は口を開く。
「目的など…要らない。俺は全てを闇で飲み込み、恐怖を象徴させる者だ…」
「そう…か。俺は親友を深淵王に仕立て、なにもかもが逆らえない…世界を平和にする力を手に入れさせるためだな…」
緋理は片方の口角を少しあげる。
「ふん…くだらん。興味が無くなった。失せろ」
緋理は影の中に隠れ、姿を消した。
「まぁいい…さっさと他の参加者を殺さなくてはな…」
エルダは深淵世界の奥へと姿を消して行った――
エデン能力
《蒼い夜》
永遠と夜にし、放射線を断つ。ゾンビの身体能力上昇、頭脳向上が可能。更には蒼い夜内ではゾンビ全員に命令を下すことが出来る。
ありとあらゆる概念や存在を腐らせる。
自身の血を入れられた者はゾンビとなる。ゾンビは不死身で太陽の放射線に当たった場合はゾンビ化が解除される。
亜音速で飛行。
血を操作する。
ゾンビになった者、腐ったものは回復、蘇生、転生を使うことが不可能。同時に自分で付けた攻撃も同じ効果を付与できる。
不老不死。
血から無限分身が可能。他人の血を飲むことで体を再生することも出来る。
深淵世界とは、深淵世界はありとあらゆる意味や世界、次元、時間軸、概念、存在、設定を内包し、全貌を理解出来ないレベルで大きくなる世界。全ては恐怖という深淵世界の一部でしか無くなる。そして、深淵世界に内包されている全てはありとあらゆる真実が偽りとなり、そうあり、語ることも、残すことも出来なくなる。




