表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
21/59

第三章 『全員集合』⑦

 廊下に出た黒崎を澪が待っていた。

「お疲れさまでした。黒崎先生」

「ん? 何や、待っとってくれとったとや?」

 白々しく黒崎は言った。彼は知っていたのである。自分の行動は、逐一、澪に監視されているのだということを。

「それで、竹田さんとはどのようなお話を?」

 そう澪が問う。

 「わざわざ聞くっちことは、部屋の盗聴はやっとらんか……」そんなことを考えながら、黒崎は答えた。

「別に大した話はしとらん。ただ、ちょっと若者に、生きる希望を与えよっただけたい」

「生きる希望、ですか?」

「そうたい。去年の全国大会で優勝してから、恭也は、ずっと死んだごたる目ばしとったからなぁ。剣の道を生きる上で自分より強か男の存在。それが、今のあいつにとっての生きる希望たい」

 黒崎は、自信たっぷりに腕を組んで見せた。

「そうですか。私にはよく理解できませんが。何にせよ、現在の黒崎先生は指揮官というお立場です。勝手な行動は、たとえ受け持ちの生徒さんであっても慎んでいただきたく……」

「分かった、分かった。次からは気をつける」

 まるで、「明日から勉強頑張る」と言い訳する子供のように、黒崎は適当な返事をした。

「それでは、私は準備がありますので、失礼いたします。黒崎先生は、指揮官室にてお寛ぎください」

「えー? また、あそこね」

 黒崎は、あからさまに嫌な顔をした。

「指揮官室の環境に、何かご不満でも?」

「不満だらけばい。テレビは見られんし、ラジオすら聞けん」

「申し訳ありません」

「あんたのその言葉は、もう聞き飽きたばい」

「申し訳……」

 再び謝ろうとする澪を、黒崎は遮った。

「もうよか。準備があるとやろ? 早く行け」

「はい。失礼します」

 深々と頭を下げると、澪は、黒崎に背を向けて廊下を歩き出した。

 そこに、急に何かを思い出したように黒崎は呟いた。

「あ、そうたい」

 それに反応し、澪が振り返った。

「何でしょう?」

「いや、……ありがとうな」

「え? 何が?」

「貴方は何者なんですか? そうレオから聞かれた時、咄嗟に誤魔化してくれたことたい」

「あぁ、あれですか」

「そう、それたい。いやぁ、助かったばい」

 黒崎がありがたがって見せる。

 その前で澪は、彼女にしては珍しく、少し戸惑いがちに答えた。

「いえ、別に。……仕事ですから」

「仕事? あれは仕事じゃなかろう。仕事ば優先させるとやったら、あの場合、俺に過去を喋らせたほうが、話は円滑に進んだはずばい」

「仕事です」

 それでも澪は、頑なにそう返事をした。

「仕事、か。まぁ、それやったらそれでも構わん。俺が感謝しとることに違いはなかとやけん。それに、俺には、あんたが悪か奴とはどうしても思えん。何の因果で『MC』に殺人術を教えることになって、今ここにおるとかは知らん。ばってん、そのうちに教えてくれんね? 仕事じゃなくて、本当のあんたの心の中を。今回の件について、あんたが何を考え、何を思っているのかを」

 黒崎が澪に微笑みかける。

「……」

 澪は、黙って黒崎を見つめ返した。その表情は、何かを語りたそうな様子でもある。

 だが、彼女は、

「……失礼します」

 と会釈をするだけで、急ぎ足でその場を去ってしまった。

 澪の姿が消えた廊下に立ち、黒崎はそっと小さく呟いた。

「一遍凍ってしまった人の心ば溶かすとは、難しかねぇ」

 そして、また彼も、指揮官室へと向かって歩き出すのだった。


 数十秒後。誰もいなくなった廊下に、会議室から千鶴の声が聞こえてきた。

「ちょっと、いきなり目の前でズボン脱がんといてよ、豊! 男は廊下で着替えてや。……あ、レオ君はえぇねんで、どんどん脱いで。何やったら、ウチ、着替え手伝うわ」

 まるで体育の授業前のような会話だが、これから行われるのは、バスケットボールやサッカーではない。自らの生命を懸けた交渉に出るための訓練である。

 しかし、六人が、“本当の意味”でそれを理解するのは、もう少しあとのことだった。

 この日から彼らは、地下射撃場に設置された人形の標的に向かい、ひたすら引き金を引き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ