第三章 『全員集合』⑤
俯き、亜依が目に涙を浮かべる。
その姿を横目で見た恭也が、努めて軽い口調で澪に向かって口を開いた。
「ねぇ、その四人、『MC』て呼ばれよるんよね? それっち、何かの略語ね?」
亜依の心を和ませようと、彼なりに気を遣ったのである。
「はい。『MC』は、モータル・チルドレンの頭文字を取ったものです」
変わらぬ無表情で、澪が彼の問いに答える。
「モータル・チルドレン? チルドレンは分かるばってん、モータルって、何?」
さっぱりといった様子で、恭也は両の手の平を宙に上げて首を傾げた。今度は亜依のためにおどけて見せたのではない。本当に意味が分からなかったのだ。
見かねたレオが彼に教えた。
「モータルの意味は色いろあるけれど、この場合は多分、“死に行く運命の”かな」
「なるほど。つまり、モータル・チルドレンは、『死に行く運命の子供たち』か」
自信たっぷりに腕を組み、まるで自分の手柄であるかのように恭也が和訳する。
そこに、
「そのとおりです。自らの生命を顧みず、テロリストから国を守るという彼らの目的に基づき、そう名づけられました」
と、澪が補足した。
「ねぇ、澪さん。話聞いてて思てんけど、チルドレンってことは、その四人、子供なん?」
マイナス一億円のショックから漸く立ち直った千鶴が、そう彼女に尋ねた。
「はい。全員が十四歳です」
「ちゅうことは、中二、三?」
「いいえ。彼らは、学校には通っていません」
「何で? 中学までは、義務教育やろ?」
「彼らは特別なのです。皆さんが学校で鉛筆を握っている間、彼らは銃を握っていました。学校教育ではなく、殺人教育を受けてきたのです」
「そんなアホな。澪さんの話が本当やとすると、ウチらは、殺人のプロ四人を警察に代わってここに連れてくるっていうことになるんやで。しかも、そのプロは、ウチらと同じ歳ぐらいの子供ってことに……」
千鶴が目を丸くする。
「信じていただけないのは分かりますが、皆さんには、もう時間がありません。『MC』との交渉の場に出ていただくまでに、あとひと月余りしか猶予がないのです」
「ひと月余り」その言葉に、二人の会話を聞いていた恭也が割って入った。
「ひと月とか、そげんに時間はいらんやろうもん。会ってから、一緒にこいっち言えばいいだけなんやから。何やったら今から行ってくるけん、ちょっと場所ば教えれ」
「残念ですが、それはできません」
「はぁ? 連れてこいっち言っときながら場所は教えんとか、変やろうもん」
恭也は澪の返答の矛盾点を突いたが、それについても彼女は冷静に返した。
「場所を教えないのではなく、教えることができないのです」
「何でや?」
「実は、現在、『MC』の潜伏先について国が把握しているのは、“国内にいる”ということだけなのです」
「え? じゃあ、何ね、これからひと月ちょっとかけてその四人ば探せて言うとね? そげんことできるわけがなか。無理ばい。そもそも俺らは中学生なんやから、学校っちいうもんが……」
呆れ口調で、恭也がそう訴える。
その言葉を遮り、突然、室内に大きな笑い声が響いた。
声の主は、黒崎だった。
「……」
口を閉じ、恭也がそちらを睨む。
すると、黒崎は、「すまん、すまん」と言うように片手を自分の顔の前に出した。
しかし、その頬は緩んだまま。肩は小刻みに揺れている。笑っているのだ。
それが気に入らず、恭也は怒鳴った。
「何や? 何が面白かとや?」
「いや、普段はサボってばっかりのくせに、そんなお前が、俺らには学校っちいうもんが、とか偉そうに説教しだすもんやから、おかしくて、おかしくて」
とうとう堪え切れなくなったか、黒崎は再び声をあげて笑い始めた。
事実なだけに何も言い返せない恭也は、
「よ、余計なお世話たい!」
と不貞腐れた態度でそっぽを向いた。
それからも黒崎はひと頻り笑っていたが、やがて、急に真顔になって口を開いた。
「恭也、お前が、……いや、お前だけじゃなくて他の五人もやけど、お前らが、『MC』を探す必要はなか。それは国がやってくれる。お前らがやることは、別にある」
「俺らがやることって?」
「これです」
恭也の問いに答えたのは、澪だった。彼女は、腰の後ろに手をやると、そこから何かを取り出した。




