第三章 『全員集合』④
会議室は、人が八人いるとは思えないほどの静寂に包まれた。
その空気を破ったのは、レオだった。
彼は口を開いた。
「黒崎さん、でしたよね? 少し質問してもいいですか?」
「ん? 構わんばい」
「先ほどの会話の内容から、貴方が昨日まで学校の先生をされていたのは分かりました。でも、それを辞めて今ここにいらっしゃる理由が分かりません。僕たちは、国の機密作戦を実行するために召集されたのだと聞きました。そんな場所に貴方がいる。つまり、貴方もそれに関係のある人物だということになります。黒崎さん、いったい、貴方は何者なんですか?」
「それは……」
黒崎は、返答に窮した。自分がここにいる理由を話すことは、即ち、十五年前の出来事にまで触れることになるからだ。
今ここで話すべきか、やめておくか。悩む彼の気持ちを察したかのように、突然、隣から澪の声が聞こえてきた。
「確かに、黒崎先生は中学校の先生でした。しかしながら、教師である彼は、あくまでも仮の姿。先生は、国家レベルの任務を遂行する際の指揮官として、国から秘密裏に雇われた人物だったのです」
まったく予想していなかった方角からの助け船に、黒崎は感謝した。
だが、同時に、それはあまりにも強引で、非現実的だとも思った。「いくら相手が中学生でも、納得はせんやろう」と。
……ところが、
「へぇ。よく分からんばってん、何となく恰好よかねぇ」
至極感心している様子で恭也が声をあげた。その目には、尊敬の念すらこめられている。どうやら、彼はあっさりと信じたらしい。
「う、うん。まぁ、そういうことたい」
六人の中で一番単純だったのが自分の教え子であるのには閉口したが、「兎に角、何とか誤魔化せたばい」と、黒崎は胸を撫で下ろした。
質問者であるレオも、これ以上追及したところで真実は聞けないと判断したのか、
「まぁ、いいでしょう」
と答えた。
話の区切りがついたのを見計らい、今度は、おずおずと亜依が尋ねた。
「あの、黒崎先生。国の機密作戦って、私たち、何をさせられるんでしょうか?」
彼女は、黒崎がどんな人物なのかよりも、自らが置かれている状況のほうが気になっていたのだ。
「それについては、私が回答しましょう」
そう澪が返事をした。
六人の視線が、一斉に集まる。
その中で、彼女は口を開いた。
「皆さんに与えられた最初の任務。それは、『とある研究施設から失踪した四人の人間を説得し、この場に連れてくること』です」
「何ね、人ば連れてくるだけね? それやったら簡単ばい」
楽天的な考えを口にする恭也の後ろで、再びレオが口を開いた。
「ですが、そういうことなら警察のほうが確実でしょう?」
「はい、おっしゃるとおりです。警察が動けば、彼らをここに連れてくることなど、造作もないでしょうから。ですが、それはできません」
「何故です?」
「彼らの存在を、一般の国民が知ることになってはならないからです」
「どんな人たちなんですか? その四人は?」
レオは眉をひそめた。
「テロリスト対策のために、特殊訓練を施した殺人専門部隊です。通称『MC』と呼ばれています」
「……殺人、……専門部隊」
声を震わせ、亜依が澪の言葉を繰り返す。
だが、それを気にする様子なく、レオは質問を続けた。
「その『MC』四人というのは、全員男性ですか?」
「いいえ。ひとり女性がいます」
「それで、これまでに四人が、テロ対策において実際に人を殺めたという事実は?」
「実戦投入された事案はありませんが、殺人は行っています」
「それについて、具体的に話していただくことはできますか?」
「いいでしょう。元もと『MC』は五人いたのですが、研究施設から失踪する際、五人で研究員十三名を殺害しています」
「元もとは五人? どうして、ひとり減っているんですか?」
「失踪後、単独で別件の殺人を行い、そこで自殺したからです」
「そうですか……」
ここで彼は、何かを考えるように黙った。
「綾乃瀬さん、ご質問は以上ですか?」
何も話さなくなったレオを見て、そう澪が尋ねる。
「いえ。あとひとつだけ、いいですか?」
彼は、人差し指を立てて見せた。
「どうぞ」
「そもそも、何故、『MC』は失踪したんですか? そこにいる人たちを殺めてまで、彼らが研究施設を出なければならなかった理由を教えてください」
「それは……。すみません、今はお話できません。ですが、綾乃瀬さんが『MC』と接触なされば、自ずと、理由は詳らかになるかと思います」
「会って直接聞け、ということですね」
「はい。ご理解が早くて助かります」
澪はそう返事をした。
テロ、自殺、殺人。そんな言葉を日常用語のように使って淡々と会話している二人。その様子を、亜依が恐怖の眼差しで見つめていた。色白な彼女の頬からは、今では、僅かに残っていた赤みまでもが、完全に消え去っていた。




