第二章 『召集令状』⑤
秋葉原。言わずと知れた日本で一番の電気街である。秋葉原という地名は東京都台東区なのだが、実際に電気街があるのは隣の千代田区と少しややこしい。
戦後、ラジオ部品やアマチュア無線の電子パーツなどを扱う店舗、いわゆるジャンク屋が軒を連ねたのが電気街としての秋葉原の始まりだ。その後、高度経済成長に伴って一般家電も多く販売されるようになった。そして、近年、その範囲はパソコンやゲーム、アニメへと広がり、様ざまな趣味を持つ者たちが集まる街へと変化した。
現在、秋葉原で販売されている機器は多種多様で、防犯関連用品のすぐ近くで盗撮器や盗聴器が売られているといった具合に、何となく矛盾している気もしてくるほどである。
七月七日、午後四時三十分。秋葉原の電気街に小柳豊はいた。普段、平日に訪れることはあまりないのだが、塾に行く前に少し寄ってみたのだ。
物心がついたころからパソコンやゲームに親しんできた豊は、この街が大好きだった。コスプレのお姉さんを見るのも楽しいし、パソコンの自作用パーツを探して回るのも楽しいのである。百四十三センチメートルの小さな体で伸び伸びと、彼は中央通りを散策していた。
サイバースポットの角を左に曲がり、神田明神通りに入ったところで、豊は突然声をかけられた。
「ちょっと、いいかな?」
「……え?」
恐るおそる振り返る。
そこには、黒スーツにサングラスの二人の男が立っていた。
「け、刑事?」第一印象でそう思った豊は、大いに慌てた。何しろ、彼には、警察のご厄介になることについて、思い当たる節が山ほどあるのだ。
自分でもはっきりと分かるほどに挙動不審になりながら、豊は尋ねた。
「な、な、何ですか?」
「君は、小柳豊君だね?」
豊から見て右側の男がそう確認する。
「は、はい」
ずり落ちそうになる眼鏡を上げ、彼は返事をした。
「突然だが、君に召集令状が出ている。一緒にきてもらうよ」
「……令状? それって、逮捕状のことですか?」
「いや、違う。国にとって、君はある意味重要な人材だ。逮捕や補導などはあり得ないから安心したまえ」
「そうですか、よかったぁ」
召集令状の意味はよく分からなかったが、逮捕されるわけじゃないと知り、豊は取り敢えずほっとした。
そんな彼に、興味半分といった様子で男は聞いてきた。
「ところで、君は、逮捕されるようなことを何かやったのか?」
「あ、はい。それが、昨夜、文科省にハッキングかけて、電子ファイルの中身を書き換えたんです」
「何に?」
「店の厨房にいたゴキブリの写真。だから、今、文科省にあるパソコンは、何をクリックしても出てくるのは全部“G”画像……」
「逮捕だな」
呆れ口調で男は言った。
「え? 逮捕はないって……」
言葉をつなげず口をパクパクさせる豊の両脇を二人の男は固めた。
そして、そのまま抱えるようにして車へと連れ去ってしまった。その姿は、まるで捕えられた宇宙人のようだった。
十六時三十三分。東京都千代田区秋葉原にて小柳豊確保。




