050 「止まった時」
一話1000字程度の短編連作です。3分あれば読めるかと。
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それからしばらくの時が経った。
「うっ……ん……」
錬金術士とお手伝いさん、先に目が覚めたのはお手伝いさんの方だった。
重い瞼を開けて、それ以上に重い体を動かそうとしたとき、身体中に鈍い痛みが走る。
自分の体に鞭を打ち続けたツケが回ってきたのか、それともちゃんと横にならないまま寝てしまったから体が変に固まってしまったのか。
どちらか定かではないが、それは大した問題ではない。
「いててて……」
と言いながら何とか立ち上がる。
錬金術士は未だに目覚めぬようで、ソファーでスヤスヤと寝息を立てていた。
無事に目覚め、錬金術士の健やかな寝顔を見て改めて助かったんだと実感し、安心する。
(僕はどれくらい寝てたんだ?)
まだ目覚めていないらしい錬金術士。お手伝いさんが目覚めた時も、寝る前の体勢と同じだったため丸一日とかそこまで時間が経っているとは思えないが、外はもう真っ暗になっているので恐らく数時間は経過していると思われる。
家の中も変化らしい変化は見られなくて、来る前よりも少し物が散らばっているくらいだ。
(ていうか、入った時も思ったけどこの部屋汚すぎ……)
埃をたっぷりと被った書物に家具達。少し動いただけで埃が舞い上がって喉に絡み付くほどだ。錬金術士の師匠は毎日こんな場所で生活していると思うと、どうも生活感に欠けていると言うか清潔感に欠けていると言うか、あまり失礼な事を思いたくはないがボッサボサの髪にボッロボロの服を着ているイメージしか浮かんで来ない。
「あれ?」
よく見てみれば、錬金術士に毛布がかけられているじゃないか。
という事は、少なからずこの家には誰かが居る事になる訳で、いぬねこだと人間サイズの毛布を一匹でかけるのは困難だろうから違うとすると残るは当然、錬金術士の師匠という事になる。来た時は見当たらなかったがちゃんといるようだ。
だが、いぬねこはおろか肝心の師匠の姿すら見当たらない。
まずはいぬねこを見つけて話を聞きたいところである。無事ここに辿り着いたあと、何か変わった事は無かったかとか、可能ならばで良いが、いい加減に師匠の情報が欲しい所だし。
――ガタゴトン。
「ん?」
奥の方の部屋から物音が聞こえた。
師匠だろうがいぬねこだろうが、話をしないと事は進まないので音が聞こえた方向へ歩いてみると短い廊下に出た。
そこには別の部屋に通じている扉が三つあり、手前の扉には『倉庫』と書かれていて真ん中の扉には『イスノ』と書かれている。
――ガサゴソ。
またしても物音が聞こえた。今度は先程よりかなり近くなっている。
どうやら残りの一つ、一番奥の部屋が物音の出所のようだ。
「いぬねこちゃん?」
そしてお手伝いさんは、一つも怪しむ事なくその扉を開けた。
いぬねこが夜中に食料を漁っていた時の音とソックリだったから〝それ〟だろうと思って深く考えなかった。
疲れがまだ残っていたのか、寝起きの頭だったから考えられなかったのか。
「ァア?」
中にいるのが錬金術士の師匠という可能性に。
一目見て、体も、頭も、時でさえも、固まった。
師匠は、純白の下着を履いた姿勢のままお手伝いさんを凝視する。それからゆっくりと自分の格好に視線を向ける。
下着以外何も身に付けていない。
どうやらお風呂上がりらしく、湿った金髪は艶やかな肌に張り付いて色っぽいと言うか艶かしい雰囲気を醸し出しているし、女性特有の豊満な体型は錬金術士と比べるまでもなく、ただ凄かった。
小さい肩から始まり、溢れんばかりの双丘、そして折れてしまいそうなほど細いお腹周り、そこから再び盛り上がる腰部は女性のシルエットとしては完璧で、一言で言うならまさに「妖艶」だった。
先に我を取り戻し、状況を理解したのは錬金術士の師匠。
耳まで真っ赤に染まって、みるみるうちに眉間にシワが寄り、そして師匠は片腕で胸を隠してお手伝いさんに近付くと、残った腕を振りかぶり――。
お手伝いさんの記憶は、そこで途切れた。
次回第51話「クソ野郎」
お楽しみに!




