102 「——そして」
一話1000字前後の短編連作です。
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お手伝いさんが目を覚ました時、そこには見慣れた天井が待ち受けていた。
アトリエだ。山にある師匠のアトリエではなく、平原にある錬金術士のアトリエ。
(僕は……?)
体を動かそうとするが、全く身動きができない状態だと気付くのに、そんなに時間はかからなかった。
手足を縛られて、ベッドごとガチガチに拘束されている。
ただでさえ全身筋肉痛のような痛みと、額と両膝にも鈍器で強打されたような鈍い痛みが残っていてまともに動くことすらできないのに。
とにかく無事な首と視線を動かして、現状を確認することに努めた。確かにここは錬金術士のアトリエのようだが、肝心の姿は見当たらない。
記憶が確かなら、いぬねこを探している最中だったはずだ。
(あれ……そのあと、どうなったんだっけ)
寝ぼけているのか、頭の強打による影響で意識がまだ混濁としているのか。
時間をかけてゆっくりと記憶を反芻する。覚えている記憶から繋がっているものを手繰り寄せる。
(オオカミ……そう、オオカミだ。オオカミに襲われて……あれ、そのあとの記憶が……ない?)
スッポリとそこから今に至るまでの記憶が抜け落ちている。ふわふわとした浮遊感だけが、彼の脳内を支配していた。
——ガチャリ。
ドアの開閉音が響く。
頭の上にいぬねこを乗せた錬金術士が、紙袋を抱えてどこかから帰ってきたらしい。紙袋からは細長いパンの頭がはみ出していた。
「……、……!」
声をかけようとして、喉が固まって凍り付いてしまったかのように息が抜けるだけで音にならない。
喋ろうとして初めて、極度に喉が渇いていることを知る。
そして、錬金術士と目が合う。
「お……て、つだい…………君?」
ガサガサと紙袋が腕から滑り落ち、中身を床にばら撒いても気に留めず傍らへと駆け寄る錬金術士。
そのままの勢いで、有無を言わさず覆いかぶさるように抱きついてきた。
「……よかった〜……このまま目覚めないんじゃないかと思ったよ〜……!」
布団に顔を押し付けたまま、もごもごと言いたい文句を次々にぶちまける。
何を言っているのか分からないが、彼女の声は涙ぐんでいて、心の底から心配していたことが如実に伝わってきた。
「君はここ一ヶ月ほど意識不明の状態だったんだよ。気が付いて何よりだね」
偉そうな口ぶりは相変わらずのいぬねこが、床に散らばったリンゴのヘタを器用に咥えてベッドへ飛び乗ってくる。
「まずはこれでも食べて、喉とお腹を潤したまえ」
と言われても、手足の拘束に加えて錬金術士のホールドが追加された状態ではまともな身動きは取れない。
彼女が落ち着くまでの間は、我慢する必要がありそうだった。
次回第103話「僕にトドメを刺す気ですか……っ?!」
お楽しみに!




