100 「いままでありがとうございました」
一話1000字前後の短編連作です。
毎週火曜日更新中!
一つ前に特別編21「ホワイトデー。2年目」があります。未読の方はお気を付けを。
〝復讐屋〟ヴィオと、伝説の錬金術士の師匠イスノ。両者の血生臭い戦いは夜明けまで続いた。
手袋の繊維を繰り出せば師匠が笛を吹き、スプーンを振り回せば当たる前に姿が消える。
「はぁ……ハァ……しぶてーにも、ほどがあんだろうが」
「それは……こっちのセリフですって……」
土と血で全身が汚れた二人は、眩しい陽の光を浴びながら薄く笑いあう。一進一退の攻防は体力も精神力も大きく削り取って、疲労困憊。
それでもお互いの信念を持ってあらゆる抑制をねじ伏せて、無理やりに体を動かす。
同時に一歩を踏み出した、まさに同瞬。
「あっ! 二人ともみ〜っけ!」
殺伐とした光景に似合わぬ子供じみた声が二人の鼓膜を揺さぶる。
タイミングを同じくして振り向けば、そこには不敵に笑む錬金術士が朝日を浴びて仁王立ちながらそこにいた。
「も〜、ずっと探してたんだからね〜? いぬねこちゃんは見つかった〜?」
「バカ弟子がっ! こっちにくんじゃねー!!」
「えっ……?!」
腹の底からの怒気に錬金術士はたじろいだ。
師匠の目の前に立っている男は、錬金術士の命を狙っている。それを阻止するためにこうして体を張って足止めをしていたのに、ターゲットから近付いてくるなんて自殺行為と同義。
「いまのクソ野郎は別人だ! 逃げろ!」
「べつじん……?」
錬金術士は師匠の言っていることが理解できなかった。
ボロボロの格好はそれだけ必死に探し回ってくれた証だろうし、血まみれとはいえ見た目はお手伝いさんそのもの。
いったい彼のどこか別人だというのだろう。
「別人なのは大先生の方です! 騙されないでください!」
「テメー何を!?」
彼も師匠と同じことを叫び、動揺を誘う作戦に出た。
「私をからかってるの〜?」
「そうじゃねー! とにかくここから離れろってんだ!」
「駄目です先生! 周りには罠がたくさん仕掛けてあります! 動かないでください!」
「テメーこそ動くんじゃねー! ちっとでも動いたらぶっ殺すかんな!?」
スプーンを地面に刺し、いつでも爆弾を放り投げられる態勢に入る。どうせ避けられるので意味はないだろうが、多少の牽制にはなるだろう。
「なになに〜? 私は結局どうすればいいの〜? いぬねこちゃん探すの手伝いに来たんだけど……あれ?」
いつの間にか、彼の姿が消えていた。
「残念ですがいぬねこちゃんは諦めてください」
「きゃっ!? びっくりした〜」
そして背後から聞こえてくる声に振り返る錬金術士。
「ぐっ!? くそが……っ!」
全身に蓄積されたダメージが師匠の動きを鈍らせ、反応が遅れる。
「さようなら。いままでありがとうございました」
お手伝いさんとしてお礼を述べてから、彼は、その手をさらに血で染めるための一歩を踏み出した。
次回第101話「いまのお手伝い君は……嫌いだよ」
お楽しみに!




