099 「君は……あの時の——」
一話1000字前後の短編連作です。
毎週火曜日更新中!
一つ前に特別編20「ひな祭り。2年目」があります。未読の方はお気を付けを。
二人が戦い、錬金術士が移動中の時、一方のいぬねこは今まさにその命尽きようとしていた。影から音もなく忍び寄る足音に気付いていないのだ。
近くでオオカミの遠吠えのような声で眠りから覚め、隠れ続けるか移動するかの葛藤の末、移動を選び、そして失敗した。
「向こうから聞こえた気がしたから反対方向へ……アトリエに戻るより生き残る方を優先しなければ」
残念ながらいぬねこが聞いた遠吠えば岩山に反射したもの。つまりはいぬねこの予想は見当違いだった。
結果としてあっけなく見つかり、オオカミは確実に仕留められる瞬間を待って息を潜めている。
妙な突風のせいで風の向きも予測しづらく、風上にいぬねこ、風下にオオカミという配置となり、オオカミの匂いもいぬねこに届かない。
(ううぅ……さっきから妙な寒気が拭えないね。温床で過ごしすぎたのだろうか)
これが低気温による寒気ではなく、背後で目をギラギラと輝かせているオオカミの殺気だということをいぬねこは知らない。完全なる経験不足である。
(飲まず食わずでもしばらくは生きていける自信はあるのだけど、その前に見つかって果てそうだね)
いぬねこ大正解。
幾度かの突風が吹き荒れ、
「おっとと……」
非力な体が流されて傾いた時、満を持して影のオオカミが飛びかかる。その数は三匹。
まさにオオカミの牙がいぬねこに突き刺さろうとしたその刹那。
「おおっ……!?」
目の前を巨大な影が猛烈なスピードで横切って、オオカミを一匹弾き飛ばした。
キャウン、と情けない鳴き声を響かせて気絶。残りの二匹も負けじといぬねこに飛びかかるが、その直前でやはり大きな影に突き飛ばされて爪も牙もその身には至らない。
「……!? いったい何が起きているというんだい!?」
訳が分からず、ただ自分は命の危機に瀕しているということだけが全身を逆立つ毛が教えてくれる。
かろうじて意識を失わずにいた二匹は敵わないと判断したのか、気絶した一匹の首根っこを咥えて引き摺るように逃げ帰っていく。
何が起きたのかいまだに理解できないままのいぬねこの前に、巨大な影が降り立つ。
「君は……あの時の怪鳥じゃないか!」
山に登る前にお手伝いさんといぬねこを掻っ攫っていったあの巨大な怪鳥が、危うく餌になりかけていたいぬねこの命を助けてくれたのだった。
何か言いたげな瞳を受けて、いぬねこは真正面から見つめ返す。
「そうだったのか……助かったよ、ありがとう」
話を聞いてみれば怪鳥は、エサを提供してくれたおかげでお腹を空かせた子供が助かった。だからそのお礼をしに来た、ということらしい。
そして姿を探して上空を旋回していたらまさに襲われんとしているところだった。
『そうだ、いきなりで申し訳ないのだけれど、ひとつ頼みごとを聞き入れてはくれないかな?』
アイコンタクトのように黙って伝えると、視線から了承の意が返ってくる。はたから見ればやはりただ見つめ合っているだけにしか見えないが、彼らの間ではやりとりが成立しているのだ。
頼みごとを受け入れた怪鳥は、いぬねこをその足にわし摑んで、上空へと飛び立つ。
瞬く間にその影は上空の彼方へと消えた。
次回第100話「いままでありがとうございました」
お楽しみに!(まだまだ続きます)




