表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
109/210

092 「お手伝いのヴィオ」

一話1000字前後の短編連作です。


毎週火曜日更新中!

 お手伝いさんは、何もかもが消失した真っ暗な世界でひとり、ただ漂っていた。上も下も分からず、自分の姿かたちすら認識できない。

 あるのは純粋なる闇と、僅かな意識のみ。


(僕は……ここは……なに?)


 何かがあったような。大切で重要な、何か。こんなところで、ただジッとしている暇などなかったはず。


 その、はず。


 しかしその先から何も分からない。


(何かのために、何かをしようとしてた……気がする)


 まるで粘度の高い水中で何かに手を伸ばそうとしているような、手の中にあるのに、指の隙間からこぼれ落ちていく、そんなもどかしさ。

 手も足もハッキリとしないのに、彼は必死にもがこうとする。


(違う……誰かのために、何かをしようとしてたんだ)


 僅かに残った意識で徐々に記憶を手繰り寄せていく。少しずつ鮮明になっていく自分の姿。

 想いの強さは、人を形作る。


 彼はすでに、仮初めの人格から「お手伝いさん」という個人を確立させていた。


(大切な人のために、何かをしようとしてた……?)


 何も見えなかった情景に、仄かな光が宿る。ボヤけて全体像が上手く把握できないが、どうしてか懐かしさと愛おしさが彼の心を埋め尽くす。


 ふわふわしているものが好きで、可愛いものが大好きで、甘いものが超好きで。

 自分に甘くて、わがままで、自分勝手で、面倒くさがりで。

 苦いものが嫌いで、仕事が嫌いで、運動が嫌いで、どうしようもない。


 その全てをひっくるめて、彼女のことが好きだった。好きになっていた。


 好きという感情が、彼の全体を形作った。


 一緒に過ごした時間。決して長い時間とは言えないけれど、だからと言って短いわけでもない。あれからずっと一緒に、隣で過ごしてきたのだから。


(先生……そうだ、分かってきた。思い出してきた)


 自分がやるべきこと。やりたいこと。


 彼女のために動き、彼女の隣に居続ける。ずっと孤独と戦ってきた彼女の隣に居なくては。

 こんなところで、油を売っている暇などない。さっさと用事を済ませて、錬金術士の元へ帰らないと。


(錬金術士……先生……ソーラ……)


 ぼんやりと仄かに映っていた情景が鮮明になる。


 満開の笑顔で笑う錬金術士が、そこにいた。


 暗い世界を明るく照らし、彼に道を指し示す。虚無の世界に、彩りを与えていく。


(もう少しですから、あとちょっと、待っていてください……)


 お手伝いさんは、見えない地面に足をつけて歩き出す。


 今なら分かる。自分が何者で、どんな時間を過ごしてきたのか。あの暖かい日常へ戻るためなら、例え手足が引きちぎれようが、地面に喰らい付いてでも行ってやる。苦渋だろうが、土の味だろうが、いくらでも味わってやる。


 帰るんだ。あの場所へ。


 錬金術士が指し示してくれた道無き道をひたすら歩く。その先に、望む姿を求めて。

次回第93話「不穏分子」


お楽しみに!


【宣伝】

1/31(日)コミティア115にオリジナル小説ひっさげて参加します。サークル名は「アーク☆ラビット」で、場所は「Y-25a」です。他にも漫画や缶バッジがありますので、お待ちしておりまーす!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ