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091 「〝復讐屋〟ヴィオ」

一話1000字前後の短編連作です。


毎週火曜日更新中!

〝復讐屋〟ヴィオ。


 それが、師匠が思い出した彼の過去の姿。

 やっていることは殺し屋と同じことだが、その対象は〝恨みがある〟者に限られるため、いつしか付いた二つ名だ。


 恨みに自分の意思は関係なく、誰かの恨みを晴らすようなことばかりやっていた。


(世の関わりを絶ったこのアタシでさえ噂に聞いた名前だ……なんで、こんなとこに)


 確かなる狂気をその身に纏い、ゆったりと振り返るヴィオ。

 お手伝いさんらしい優しさなど皆無で、あるのは憎しみや殺意の、負の感情のみ。


「クソ野郎が……! とんでもねーもん隠してやがったな」

「これはこれは、大先生。素晴らしいですね、コレ」


 宙に浮かび周囲を照らす光の球に手をかざして、うっとりと笑う。赤黒く染まる全身が、彼の心をそのまま映し出しているようで、師匠は腹の奥底を逆撫でられたような不快感に襲われる。


「誰だよテメー。アタシの作品を穢すのは許さねーぞ」

「それを貴方が言いますか? その作品とやらの上に乗って崖を滑り降りた貴方が?」

「アタシはいーんだ。それよか質問に答えろ。誰だテメー」


 師匠は語意を強め、睨めつけるように言う。普段のお手伝いさんであれば、師匠の威圧に簡単に押し負けていたであろう。ヘビに睨まれたカエルのように。


 しかし今、彼女の目の前にいる男はお手伝いさんなんかではない。

 同じ皮を被った、完全なる別人だ。


「やだなー、今の今まで一緒にいたじゃないですか、ド忘れするほど歳とってないでしょう?」

「おあいにくさま。世間一般的にド忘れするレベルを軽く超越してるくらい長生きしてるんでね。テメーみてーな野郎は知らねーよ」

「ひどいなぁ。オレはヴィオですよ、ちゃんと名乗りませんでしたか?」


 確かに初めて会った時はそのように名乗っていたが、彼女の知るお手伝いさんは「オレ」などと言わない。言葉遣いも、口調こそ変わらないがその奥には黒い感情が隠れている。


 間違っても、ニヤけながら殺しができるほど腹の座った男ではなかった。


(ちっ……ミスったなー……)


 どうしてもお手伝いさんの過去の記憶のことが気になって、それとなくショック療法を試し続けていたが、まさかこんな化け物が表出するとは思ってもみなかった。完全に別人に成り果ててしまった彼を、どうするか。


 行方不明になってしまったいぬねこを見つける前に、厄介なことになってしまう。

 念のために身構えながらも、師匠の思考は高速で冴え渡る。


(仮に二重人格ってやつだったとして……)


 今までの「お手伝いさん」の人格はどこへ行ってしまったのか。この場を穏便に収めるためには、元のお手伝いさんに入れ替わってもらうのが安全で手っ取り早いだろう。

 しかしそれは記憶を失ってからの姿。記憶を取り戻したらしい今、その人格は上書きされて消えてしまったのでは。


(そもそも何で今、急に戻った?)


 オオカミに襲われる前までは、確かにお手伝いさんだった。噛み付かれて、一切の身動きが取れなくなった途端に、変化があったと見るべきだろう。


 あまりもの痛みに気が狂ったとか。


(いや無いな。……そういや、どっかの国が「記憶を操作する技術を隠してる」って話もあったな。それに近しい何かが痛みや死の淵に追いやられたことで変化したとかか? ……わからん)


 長生きしていれば、当然蓄積される知識も並大抵のものではない。錬金術士という貴重な立場を利用すれば欲しい情報くらい好きに入手することもできる。


(とにかくまずは、クソ野郎をなんとかしねーと)


 デタラメにドス黒い感情をばらまく彼を前にして、落ち着いて思考などできやしない。

 師匠は、意を決して地に刺したスプーンを手に取った。


「歯ァ食いしばって覚悟決めな。今のテメーを、あの子に会わせるわけにはいかねーからな!」


 気合い一声の咆哮は、虚しく彼の胸を通り過ぎるだけだった。

次回第92話「お手伝いのヴィオ」


お楽しみに!


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1月31日(日)にて開催されるコミティア115に参加します。

Y25aで待ってます!

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